第388話 王都店開店

 遂にスター商会王都店の開店日を迎えた。


 私は朝早くに起きると、セオとクルトと共に準備を済ませ、すぐに王都のスター商会へと向かった。


 店に着くと、朝早い時間だというのに従業員達は持ち場の準備に既に入って居た。


 皆開店の時はオープン時間が前倒しになるだろうと予想をして居るので、かなり早くから準備をしてくれていたようだ。

 私たちは先ずは一番早く開店を迎えるスターベアー・ベーカリーに向かった。

 店では店長のボビーを中心に、ルネとブルージェ領側の店を任されるウィルとサム、そしてミリーやタッド、ゼンまでパン作りを始めていた。

 店内には既にパンのいい香りと、棚には沢山のパンが並べられていた。一体何時から働いていたのかと心配になったが、皆の生き生きとしている姿を見たら何も言えなくなってしまった。彼等もこのオープンが待ちきれなかったのだろう。気持ちはとても良く分かった。


 皆に朝の挨拶をして私もルネのお菓子作りに参加した。セオとクルトも戦力になるので、皆で黙々と作業をした。沢山のパンやお菓子を作り上げ、作りたてのまま魔法袋へとしまっていく、開店して暫くは大混雑が予想されるので、いくら作っても余ることは無いだろう。買い物客の中には魔法袋持参で沢山買って行く者も多くいる、そう考えれば作れるときに沢山作っておきたいのだ。


 開店前に少し休憩を挟んでもらおうかと思ったところで、スター商会側に繋がる入口から、リアム達がやって来た。どうやら昨日から宿泊して居る招待客たちを案内してきたようだ。

 その中には昨日酷く緊張していたピエールの兄であるヘンリー・ドルダン男爵も居たが、今日は落ち着いて居る様だった。ローガンやヒューゴ、オーギュスタンのイベント組がヘンリーのそばに居て色々と話をして居る様だった。

 そう言えばピエールの実家であるドルダン男爵家はかぼちゃが多く取れると聞いていた事が有る。王都でもイベントを開催しようと思っているローガン達にはヘンリーは心強い相手なのだろう。良い仲間ができた様だ。


「ララ、スターベアー・ベーカリーの周りはもう凄い人だかりだ。大分早いが店を開けようと思う、準備は大丈夫か?」

「勿論、お菓子も、パンも準備オッケーだよ、ただ、皆を少し休ませたかったのだけど……」

「ララ様、俺達は大丈夫ですよ」

「ええ、タッドもゼンも手伝ってくれていますし、後で順番に休憩は取れますから」


 ボビーとルネの言葉を聞いて、リアムは頷くと開店をさせるため、スターベアー・ベーカリーの入口へと向かった。

 そして店の前に立ちスター商会の副会頭として挨拶を始めた。

 私とセオとクルトはスターベアー・ベーカリーを後にして、招待客と共に開店前の別の店へと向かう事にした。暫くはリアムは訪れた客たちへの挨拶で忙しいだろう。

 なので会頭として招待客の皆の事は私が案内することにした。


 先ずはスター・ブティック・ペコラへと向かった。

 こちらも既に従業員達が来ていて準備に余念は無いようだった。今日来たお客様には開店記念の記念品の試供品が配られる、それを目当てに来る客も多いので、スムーズに渡せるようにと練習をしているようだった。

 それからエステの予約を入れる客も多く来ると思われるので、予約受付場の準備もしていた。それから支配人であるティボールドが全体を見回して店長であるニカノールと共に皆に指示を出していた。貴族の女性も多く訪れるため、個室スペースも店の中には用意されている。優雅にくつろげるようにと準備に力が入っているようだ。


「ティボールド、ニカノール、おはようございます。少し皆さまと店内を見させていただきますね」

「ララちゃ……会頭、おはようございます。はい、ごゆるりと見て回られてください」

「ああ、そうだ、スターベアー・ベーカリーは時間を早めてたった今開店しましたよ」

「やっぱそうなったか……有難う、ニカ、こちらも開店を速めよう、リアムには僕の判断に任せるって言われてるからね」

「ええ、そうしましょう」


 スター・ブティック・ペコラも開店を早めることになったので、招待客の皆は遠慮気味に店を見ていた。そんな中ベルティはふと足を止め王都の商業ギルドのギルド長であるルイスの名のついた商品を見つけると、クスクスと笑って居た。

 その後とレチェンテ国のお姫様であるシャーロットとジュリエットの名前の化粧品を見つけると、今度は呆れた表情になった。新店の商店が広告塔に使うには有名人すぎるという事なのだろうか? ベルティは大きなため息をついていた。


「ララ、まさかシャーロットとジュリエットはこの国のお姫様の商品なのかい?」

「そうです。二人共私のお友達です」

「……今日のディナーには?」

「勿論来ますよ、それにお昼前にはここに来てエステも受ける予定です」

「……他にも有名な人は来るのかい?」

「有名……? えーっと、レチェンテ王とユルデンブルク大公も来ますよ、お友達ですから」


 ベルティは「分かったよ……」と呟くと、今一緒に居る招待客にその事を話しだした。

 王様とディナーを共にするという事はどうやら一大イベントだった様だ。ベルティの話を聞いて知らなかったフェルスや新しいギルド長ナサニエル・タイラーやガスパー、それにヒューゴ、オーギュスタン、あと一緒に楽しそうに話していた貴族のはずのヘンリーまでも引きつった顔になってしまった。

 ヘンリーは父親の事があったからか、真っ青な顔になってしまった。申し訳ない気持ちになったけれど、お友達なので許してほしい物だ……因みにカエサルだけは楽しそうにクスクスと笑って居たけれど……


 そして次にスター・リュミエール・リストランテに向かった。

 スター・リュミエール・リストランテは開店時間が一番遅いため、まだそれ程慌ただしくはなかった。今日の夜は招待客だけのディナーなので、昼間だけ一般客の受け入れをする。

 でもそれよりもなのよりも大変なのが予約の受付だ。この世界は電話があるわけではないので直接店に気て予約を行うか、手紙での申し込みになる。

 取引がある商店からの申し込みは事前に受けてあるが、手紙よりも直接申し込みに来る客の方が多い、その方が自分の目で空いている時間を確認することが出来るからだ。

 今日も多くの申し込み者が訪れることは予想されるため、特設スペースが出来ていた。

 あとでランスやイライジャ、それからきっとヴァロンタンとチコも手伝いに来るだろう。彼等なら大いに役に立ってくれることは間違いなかった。それにウエルス商会の従業員だったヴァロンタンとチコがスター商会の一員であることをお披露目するのに丁度いい場だともいえる。


 これでウエルス商会は実質店長だった人物を手放したと噂になることは間違いないだろう。ロイドの評判が益々下がることは確実だ。仕返しが出来ると悪い笑みが浮かんだ私だった。


 招待客の皆はこれから朝ご飯だというので、皆を食堂へと案内し、私達はそろそろ来るであろう友人たちを迎えるために玄関へと向かう事にした。

 約束の時間になる頃にルイも王都店の玄関へとやって来た。

 そう、セオとルイの友達であり、魔石バイク隊のメンバーであるレオナルド達がもう直ぐやって来るのだ。レオナルド達は隊の訓練も兼ねて、店の護衛の手伝いをディナーの時間ギリギリまで手伝ってくれるそうだ、スター商会が開店の時は忙しい事を知って名乗り出てくれた。友人とは有り難い物だと思う。


「あ、あれ、コロンブじゃないか?」


 ルイが玄関に着いたと同じ頃、コロンブが丁度歩いてスター商会の門を通って来た所だった。私達がいる事に気がつくと手を振って駆け寄ってきた。コロンブは少し日に焼けた様な顔色になっていて、元からひょろひょろっと高かった身長が、また伸びている様に感じた。まだ成長期の年頃なので当然だろう。

 セオとルイとは毎日顔を合わせて居るので気が付かないけれど、二人もまだまだ成長しそうだ。私も早く大人になりたい物だと思う。


「セオ、ルイ、久しぶり、ララちゃんもクルトさんもお元気そうですね」

「コロンブー、仕事どうだー、父ちゃんと仲良くやってんのか?」

「コロンブ、元気そうだね、それに歩いて来たんだね、遠く無かった?」

「セオとルイじゃ無いんだから家から歩いてくる訳ないだろう、途中まで辻馬車で来てさ、店の周りを一周歩いて見て来たんだ。もう凄い人だかりだったよ。流石スター商会だよね」

「コロンブ、有難う。もうすぐレオ達も来ると思うから、このまま此処で一緒に待って貰っても良い?」

「うん、勿論だよ」


 そんな話をしていると、レチェンテ国の王家の紋章が入った立派な馬車が二台程門を通ってやって来た。乗っていて御者も立派な服を着ている。馬車自体も金色の豪華な飾り付けがして有る、きっとスター商会が王家と繋がりがあると分かるようにする為に、敢えて派手な馬車を選んでくれたのだろう。レオナルドの心遣いを感じた。


 馬車が停車すると、すぐに御者が扉を開けてレオナルドが降りて来た。その後にアレッシオと二人の護衛だったルイージとアレロが降りてきた。二台目の馬車からはマティルドゥにアデル、そしてピエールにアヤンとヴィハーンが降りて来た。

 皆スター商会で作った魔石バイク隊の制服を着ている。上が落ち着いた青色で下が白のパンツ、それに茶色のロングブーツを合わせているので、前世の有名なアニメの主人公を思い出してしまった。魔石バイク隊は空を飛ぶので青空のイメージで作ったのだが、なんだか微妙に申し訳ない気持ちになった。でも皆とても似合っているのでまあ良いだろう。


「ララ様、今日はお招き有難うございます」


 レオナルドが代表して挨拶をすると、隊員皆が頭を下げて来た。既に魔石バイク隊として行動している様で、皆凛々しくてカッコいい。特に黒髪を後ろにポニーテールに纏めたマティルドゥとボブヘアーのピンク色の髪を耳にかけて居るアデルは可愛さ抜群だった。これは王都ですぐに二人のファンが出来るのは間違いないだろう。私も既に可愛い二人に夢中だ。


「トマスは後でブルージェ領主のタルコット達と一緒にきますから、楽しみにしていて下さいね。取り敢えず私の執務室に向かいましょうか」

「いえ、ララ様、本日私達は魔石バイク隊員の訓練の一貫だと思って来ておりますので、是非スター商会の護衛リーダーの元へと案内をお願いします」


 王都魔石バイク隊員の皆は、今日のスター商会での護衛の手伝いが、街を守るための最終の訓練に適していると思っていたようだ。制服で来たのも仕事だと思っているからだろう。

 それに青色の制服なら訪れた客の目を引くのは間違いない、ユルデンブルク王都の街の人達に魔石バイク隊の事に興味を引いてもらうのには丁度いいといえる。きっとその事も考えての事だろう。


 ルイとコロンブも皆と一緒に店の護衛の手伝いをするというので、私はメルキオールの所へと皆を連れて行く事にしたのだった。


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