第373話 庭造りと内装工事

「大豚ちゅわーん、今日も可愛いでちゅねー」

(カワイイデチュネー)


 先日王都に建てるスター商会の工事を、私は興奮から手伝う事が出来なかった。

 それはそれは悔しくって、ぶー垂れていたのだが、クルトと共にウエルス商会へと行って気を紛らわせて帰って来た。そして今日は王都店の庭と内装工事、そして魔道具の搬入をするのだが、今日こそは手伝いたいと、私は朝から魔力を沢山使って気持ちを落ち着かせるべく、先ずは大豚ちゃんたちに会いに来ていた。


 既に興奮から気持ちが高揚しているので、大豚ちゃんたちのお世話にも力が入る。

 いつもそっと撫でながら上げている魔力も、今日はたっぷりと欲しがるだけ上げてみる。大豚ちゃんたちも大喜びだ。


「ねえ、ララ……なんか大豚たちキラキラしてない?」


 一緒にお世話をしてくれているセオが、大豚ちゃん達が発光している事に気が付いた。

 確かに三匹ともキラキラしているし、機嫌がいい。興奮しているともいえるかもしれない。ちょっと魔力を上げ過ぎてしまった様だ……これは大変だ。


 私は大豚ちゃんたちを豚舎から出し裏庭をお散歩させることにした。トコトコトコ歩く姿はとっても可愛い。見た目は大きいけれど大豚はなつっこくってペットのようだ。どんなことがあってもこの子達を食べるなんてもう私にはできないだろう。


 庭を沢山歩いて大豚ちゃんたちを落ち着かせた後は、ベアリン達と一緒に稽古をする。

 今日は魔石バイク用に作った警棒の練習だ。朝練のこの時間にはルイも庭にやって来た。毎日の様にスター商会の護衛の仕事や、ブルージェ領の警備隊の仕事を手伝っているので、朝早い時間だと流石に眠そうだ。ベアリン達もまだまだ眠気眼だった。


 皆に声を掛け目を覚まさせると、準備運動を始めた。軽くランニングまで行えば、皆いつも通りシャッキリと目が覚めた様だった。

 そこで早速警棒の練習を始める、私とセオとルイはオレンジ色の如意棒だ。私以外は魔石バイクに跨り、警棒と如意棒を使って打ち合いを始めた。バイクと警棒と相手の動きを意識しなければならないので、中々大変そうだった。レオナルドがセオとの通信魔道具を使った報告会で、連動した動きが大変だと言って居たけれどそれが分かる物だった。


 だけどセオもルイも如意棒の扱いに慣れていたし、ベアリン達も元々魔石バイクの扱いは上手い。すぐに三つの行動が出来る様になった。流石うちの子達だ。


 そしてその間私が何をして居たかと言うと、如意棒を大きくしたり、小さくしたり、太くしたり、細くしたりと、出来るだけ魔力を使う行動をして居た。


 朝のうちにこれだけ魔力を使えば興奮して王都で爆破する事もないだろう。フフフ、天才だ。


 朝のうちに魔力を十分に使った私は身だしなみを整えて、スター商会にセオとクルトとルイとそしてベアリン達も一緒に連れ立って向かった。今日は内装工事が終わった後で店内のレイアウトも行う為人手が必要だ。力持ちのベアリン達なら大に役に立ってくれるだろう。


「リアムおはよう」

「おう、おはようさん、ララ今日は大丈夫なんだろうな?」


 リアムが仕事中の手を止めて私達が座るソファへとやって来た。

 その顔は言葉とは裏腹に全く心配していない様なニヤニヤした顔だった。まるで私が魔力を爆発させるのを楽しみにでもして居る様だった。大人げない。愛しのセオが目の前に居るのにそんなにやけ顔を見せていいのだろうか……


「朝から沢山魔力を使ってきたから問題無いよ。今日は癒し爆弾も、魔力玉も使わないと思う」

「ハハッ、そうか、よし、その言葉を信じるぞ」


 リアムは私の頭を優しくポンポンと叩いた。最近のリアムは優しい……

 特に私が目覚めてからは前みたいにデコピンとかグリグリとかを強くやる事は少なくなった気がする。何か有ったとしか考えられない、もしかして今ニヤニヤ顔だったのも私を馬鹿にしていたのではなくってセオの前で顔が緩んじゃっただけだったのかも! 

 だめだ……恋愛本の読み過ぎで頭が可笑しくなってる気がする……今度は心理学の本でも探して見なきゃだね……


 自分の考えに納得して居ると、クルトに肩を叩かれた。いつもの興奮してますよのサインでは無く、そろそろ出発しますよのサインだった。気が付けば店の間取りを決めるサシャとニカノールも、そしてスター商会の若手の護衛であるアーロン、ベン、チャーリーも集まっていて準備万端になっていた。私も立ち上がると気合を入れた。


「皆さん、今日中に店を完成させますよー!」

「「「おー!」」」


 転移部屋を使ってあっと言う間に王都の屋敷へと転移すると、かぼちゃの馬車を三台並べて出発だ。

 先頭は金馬ちゃんでキラキラ光っているのでよく目立つ、その上後ろからは綺麗な紺色の馬が引くかぼちゃの馬車と、炎の様に赤い色の馬が引くかぼちゃの馬車が続いている。王都の人達は何事かと振り返って見ていた。ここでも良い宣伝になったようだ。スター商会のかぼちゃの馬車を広めるのにちょうどよかった様だ。


 王都店に着くと、結界の中へと馬車のまま入っていった。

 既に店の塀や門などは出来ているので、外観だけ見ると店は完成しているように見える。ここからは内装を如何に美しく性能良く仕上げるかと、庭を見たお客様がホッと出来るように可愛らしく整えるのが重要だ。


 店の中の内装組と、庭作り組に分かれて早速作業を行うことになった。


 私は庭係だ。只の土だけの地面に店の玄関から門まで続くアプローチを作っていく。スター商会の顔といえる部分なので自然と力が入る。折角なので儀式用に作った剣の飾りの部分である宝石から出た細かな宝石をアプローチの所々にちりばめてみた。

 天の川の様に綺麗な星空みたいになって大満足の作品になった。そしてアプローチの周りには色とりどりの花を植えて行く、勿論イザベラも忘れず飢えておく。玄関ポーチや馬車で入りやすい様にロータリーも作れば大部分が完成だ。


 そして次に門のすぐ傍へとシンボルツリーを作ることにした。クマの形と星の形のトピアリーを作ればスター商会側の玄関は完成だ。後は各店の玄関を作っていく。


 先ずはスター・リュミエール・リストランテ王都店の玄関だ。

 夜訪れるとライトアップで花が輝いて見えるようにして、恋人同士が来ても良い様にムードある物にした。王都店でも結婚パーティーを受ける気でいるので、庭に出て楽しめるように芝生もしいた。所々に花壇を作り、季節の花が育つようにした。これならここでプロポーズをしたいと思う人も出てくるだろう。ニヤリと顔が緩む。


 そして次はスター・ブティック・ペコラの玄関と庭だ。

 マダムが訪れる事の多いスター・ブティック・ペコラは、可愛い感じでは無く落ち着きのある庭にしようと思った。日本の庭園をイメージして店内から見える庭の部分は石を使って作り上げた。これならマダムたちも落ち着いてティボールドと話が出来るだろう。


 そして最後にスターベアー・ベーカリーの玄関と庭に取り掛かる。

 スターベアー・ベーカリーには家族連れが多く来る、子熊達のトピアリーを多く作って目でも楽しませられるようにした。匂いの強い花は置かず、ワイアープランツなどの子供に踏まれても大丈夫な草花を植えて行く。これならもし花壇に子供の足が入ってしまっても大丈夫だろう。店のオープンが楽しみだ。


「クルト、後は裏庭ですか?」

「裏庭はルイがやってましたよ、遊具を作るんだって言って張り切ってました」

「そう言えばルイは今までブランコぐらいしか作ったことがないかもですね」

「あまり作り過ぎない様に注意しますか?」


 まあ大丈夫でしょうとクルトと笑い合い、庭作りが終わった私はスター商会王都店の中へと入っていった。店の中の内装工事は既に終わり、今は家具の位置取りや魔道具置き場を決めて居る様だった。少し店内を歩いて回るとニカノールの声が聞こえてきた。


「やっぱりこっちに置いてくれる? うん! 良くなったわ、アーロン有難う」


 また進むと今度はサシャの声だ。


「エレノア様が描かれた絵画は受付に、一番目立つところへ飾って下さい」


 声がする方を覗いて見ると皆とっても真剣な表情だ。

 定休日があるとはいえスター商会は常に忙しい、気軽に配置換えとは行かないので、オープン前のセッティングがとても大事だ。サシャとニカノールが店長として力が入るのはよく理解できた。



 私は寮の方へと進んだ。

 王都の寮は最初のスター商会の寮程の大きさだ。その分各店は広く作ってある。

 従業員が増えてもブルージェ領側の寮もあるので、問題無いだろうとそう決めた。従業員がまだまだ増えても部屋には余裕がある。いい人材を出来るだけ沢山迎え入れたいところだ。


 そして私は最後に自分の執務室へと向かった。

 続き部屋にはセオとクルトの部屋も作ってある。ブルージェ領側ではセオは別で部屋を持っているのだが、殆ど私と行動を共にしているので、今回は私の部屋内に作ってしまった。クルトは世話係なので勿論の事だった。


「クルト、私達も自分の部屋のコーディネートをしましょうか」

「ララ様……ですが殆ど置くものは無いですよ……仕事机も本棚ももうできてますし、荷物を入れるぐらいですが、今の所運び入れる物も有りませんしねー……」

「確かにそうですね……ブルージェ領側と繋がっているんですものね……」


 そこで私とクルトはハッと顔を見合わせた。

 そう言えば転移部屋をまだ作っていないと! 大急ぎで転移部屋にする予定の小部屋へと向かった。すると仕事を終えたらしいセオがこちらへやって来た。なのでセオも一緒に転移部屋作りへと向かう。セオと私が一緒にやれば作業はすぐに終わるだろう。



 繋げるのはディープウッズの屋敷に、王都の屋敷、それからブルージェ領のスター商会、そしてブルージェにあるリアムの屋敷とも繋がる様に準備する。あとは相手側にも同じ様に魔法陣をセットすれば転移部屋の完成だ。

 これで私達の仕事はほぼ終わりと言える。


 また皆の様子を見ながら、仕事が終わった人は一緒に店内を見て回った。そして最後にルイが居る裏庭へと行ってみると、驚く物が出来ていた。


「……大豚ちゃん……」


 そこには大豚の滑り台が出来ていたのだ。


「ルイ! 凄い! 可愛い! 大豚ちゃんの滑り台!」

「へへへっ、ララ様を喜ばせたくてさ、ホラ、回転ジャングルジムはココをイメージしてて、シーソーはキキの羽にした。どう? 気に入った?」


 良く周りを見渡せばキキとココの遊具まであった。

 アルパカ君のスプリング遊具や小熊のロッキング遊具まである。私は思わずルイに抱きついた。


「ルイ凄い! ありがとう! とっても嬉しい!」

「へへっ、喜んで貰えて良かったぜ」


 ルイのお陰でスター商会の王都の裏庭はとっても賑やかな物になった。うんていや、はんとうぼう、それにターザンロープまである。これなら大人でも楽しめるだろう。


「あー……所で……護衛達の訓練は何処でやるんだ?」

「「あ……」」


 いつのまにか庭に来ていたリアムの言葉によって、ルイが作った遊具は残念ながら端へと動かされる事となった。


 こうしてスター商会王都店は無事に完成したのだった。

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