第368話 王都店造り

 今日は王都店の建設に向けての作業の為、今王都の商業ギルドへと向かっている。

 土地の購入は無事済んだが、建物の建設の許可の申請が今日降りるためそれを受取ってから建設地へと向かう予定だ。

 王都の商業ギルドのギルド長であるルイス・デニックはリアムの同級生で、今回の申請も早々に手続きしてくれた。お陰で土地購入から一週間もしないうちに建設に入れそうだ。ルイス様様である。


 そしてついでに従業員の募集も申し込んで行く。

 暫くはブルージェ領のスター商会が建ったばかりのころと同様に、ドワーフ人形達に手伝いを頑張って貰う予定だ。スター商会の各店長とも気に入らない人材を雇うつもりは毛頭ないので、面接はかなり厳しい物になるだろう。先ずは厳しい目の中で書類審査に合格できる人がいる事を祈るばかりだ。


 そんな中、今日私達は二台のかぼちゃの馬車を使って来ている。

 セオの紺色の馬車には、私、リアム、セオ、ジュリアン、ガレス、そしてメルキオールが乗っている。もう一台のルイの赤い馬車には、ルイ、オクタヴィアン、ビル、カイ、そして二人の弟のロイ、それと兄のジンまでも一緒に来ていた。

 ジンはスター商会の下請け工房になった為、建築関係の仕事の際は呼び出される……いや、依頼されるらしい。なので一緒に来て居るのだが、失礼なことに朝私の顔を見た瞬間「ひぃっ」と言ってお尻を押さえていた。未だに階段でぶつけたお尻が痛むようだけど、私の顔を見てそれを思いだすのはいい加減止めて欲しいと思う。


 なので、優しさをアピールするためにニッコリとレディスマイルを向けてみたのだけれど、ジンは何故かビルの後ろに隠れてしまった。皆それを見て苦笑いだ。こんなに可愛くって可憐な乙女に向かって酷い話だと思う。いい加減にしないとお尻ぺんぺんしてやる。ジンにもそろそろ大人になって貰いたいものだ……


 商業ギルドに着くと、待ち構えていたかのように受付のお兄さんが私達に走り寄ってきて、前回と同じギルド長の応接室へと案内してくれた。お兄さんは前回会った時よりも緊張している様子だったので、ルイスから何かを聞いたのかもしれない。

 ジンみたいに怖がられない無い様に少しづつ仲良くなっていこうと決めた。仲良くなる為に帰りにお菓子をプレゼントするのもいいかもしれない。ブルージェ領の商業ギルドでも受付のお姉さんたちと仲良くなったのはお菓子がきっかけだったのだから。若い男を誘惑するべくほくそ笑む私だった。


「よっおー、リアム、来たなー! おっ、今日は大勢だなー」


 ルイスは応接室へとやってくると、スター商会のメンバーの多さに驚いて笑って居た。

 笑顔のままソファへと腰かけると、手もみをした後、パンッと手を叩き「さあ、話合いましょうか」と何故か気合を入れていた。

 前回の土地の購入とゴミの清掃作業があっという間だったからか、スター商会と話すときは気合を入れないといけないとでも思って居る様だった。私は場を和ませるためにルイスにケーキをプレゼントすることにした。ここでも私の魅力を使っての誘惑だ。うっしっし。


「ルイスさん、甘い物はお好きですか?」

「ああ、普通に好きだぜー、疲れた時は食べたくなるよなー」

「じゃあ、良かったらこのケーキをどうぞ、リアムが一番好きなチョコレートケーキですよ」

「リアムが一番好き?!」


 ルイスは ”リアムが一番好き” という所に何故か凄く反応した。今すぐに食べて見たいと補佐のナシオにケーキを切り分けて貰っていた。仕事の補佐だというのにケーキを切り分けるナシオの手際はとても良く、ルイスの前にすぐにケーキを差し出していた。

 そして今にも涎を垂らしそうなルイスは一口チョコレートケーキを口にすると、可愛くほっぺを押さえ、目をキラキラさせて私を見てきた。


 どうやら気に入って貰えた様だ。これでルイスのハートもゲットだろう。フフフ、良かった。


「何だこれ! 滅茶苦茶美味い! これがスター商会の味かよ!」


 ルイスは私達が目の前に居るのも忘れたかの様に、一心不乱にチョコレートケーキを食べたした。切り分けて居なかったら、ホール半分ぐらいは食べて居たかも知れない。それ位ご満悦だった。

 そう言えば、前回魔法袋にスター商会の商品を色々入れてルイスに渡したが、ケーキは入れて居なかった事に気が付いた。今後困った時はケーキを出してお願いをしてみようと、一人ほくそ笑んだ私だった。

 

 そして話は戻り、スター商会側からは従業員の募集のお願いをして、商業ギルド側からは建設申請の許可証を貰った。これで今日から早速建築作業に入れる。一安心だ。


「それで、いつから建設工事に入るんだ?」

「あ、今日です」

「はっ?」

「ですから、今日です」


 ルイスは目を瞑ると黙ってしまった。

 そして思い立ったように目を開けると先ずはリアムをジッと見つめた。リアムが頷くのを見ると現実だと分かった様で大きなため息をついた。他店ではあり得ない事なのだろう。スター商会ではこれが普通なのだけどね。


「ルイス、ウチと付き合うんだったらこのペースに慣れてくれよなっ」

「まさか……全てがこんなにも早いペースなのか?」

「お前、土地購入の時に何を見てたんだよ」


 ニヤニヤするリアムにルイスは確かにと言う様に大きく頷きながら、指でリアムの事を一瞬指していた。

 ルイスは全てにおいて行動が演技がかっている気がする。なんだかボディランゲージが大袈裟なんだよねー。


 取り敢えず、ルイスは今日から工事に入る事を納得してくれた様だった。

 従業員の募集も出来うる限り早く行なってくれるそうだ。やっぱりリアムの友人だけあって頼りになる。これからはジャンジャン甘えてしまおうとニッコリと笑っておいた。

 ルイスは私の思惑など分からない筈なのに、私の笑顔を見ると何故か身震いしていたけれど……まあ、トイレに行きたかっただけなのかもしれない……


 そして私達は王都の商業ギルドのギルド長であるルイスとの話し合いを終えると、商業ギルドを後にして、歩いても行けるような距離にある購入した土地へと皆で馬車を使って向かった。


 私は出口に向かう途中で受付のお兄さんの所へと向かい、これからお世話になります。との挨拶の意味を込めて、スター商会自慢のお菓子の詰め合わせを渡しておいた。お兄さんは目を丸くしながらも嬉しそうにお菓子を受取ってくれた。フフフ、これでまた一つハートをゲット出来た様だ。

 ギルド長と、受付のお兄さんに良い商品宣伝が出来たし、商業ギルドでのスター商会の評判はこれで鰻登りだろう。使える物はなんでも使わないとね。商売とは繋がりが大事。少し大人になった私なのだった。


 購入した土地に着くと、この場所の事を知らない皆は馬車から降りた途端に土地の広さに驚いていた。それもそうだろう、中々手に入らないはずの王都の一等地だ。普通に考えればこんな広さが売りに出て居る事自体が可笑しいぐらいだ。それがゴミのお陰でとっても安く購入出来た。この幸運はきっと神様からの加護だろう。


 土地には結界を張ってあったので、新しいゴミが投げ込まれて居ることは無かった。私達は早速作業に入ることにした。私は先ず土地の端にテントを建てた。休憩する場所を前もって用意しておいた方がいいだろう。それに私は今ドレス姿なので着替えなければ作業はできない、セオ達も商業ギルドへ向かう為に騎士の服だ。ここでまずは皆の着替えが必要だろう。


「あれ? もしかしてリアムも着替えるの?」


 リアム達は土地の様子を見たらブルージェ領のスター商会に戻るのかな? と思っていたのだけれど、一緒にテントに付いてきた。珍しいことにリアムも着替えて建設作業を手伝うようだ。会頭の私が言うのもなんだけど仕事は大丈夫なのかと心配になった。


「ブルージェ領のスター商会も少しづつイライジャに任せているからな、今はこっちのが大事だ、それに――」

「それに?」

「俺も本格的に体を鍛えたい、魔法の能力もだ……」


 うんうんと私は頷く、リアムは前から自分を鍛えることは怠っていなかった。

 毎朝の剣術の練習も欠かさず行っている様だし、仕事が忙しいとはいえ、ジュリアンとだけでなくスター商会の子熊達とも訓練をして居るのを知っている。

 だけどここ数年は仕事の忙しさで多分思う様には訓練が出来ていなかったのだろう。会頭の私が子供で役に立たないせいで、スター商会の副会頭であるリアムはとってもハードな仕事状態だったのだから。


 リアムは私の方をチラッと見た後、視線をそらした。頬が赤い気がする……セオがすぐ傍に居るからだろうか?


「……あー……マスターとお前を守る約束をした……王都に店を出せば世界中から注目される可能性がある……その時に俺が守られる側でいるわけには行かないだろう……力ではお前やセオの足元にも及ばないかもしれないが……それでも守られる側でいるのはもう嫌なんだ……」


 リアムの以前の護衛であり友人でもあった人は、リアムを暴漢から逃がす為に亡くなったと聞いている、それもテネブラエ家の夜会の帰りに……


「建設作業は魔法の勉強になる……以前手伝ってその事が良く分かった」


 確かに建設作業では色々な魔法を使う、ルイが成長出来たのもスター商会の手伝いを私やセオに交じりながら行っていたからというのもある。魔法の使い方が格段と上がるのだ。


「だからできるだけ俺も建設作業を手伝うぞ、まあ、毎日は流石にランスに怒られそうだけどな……」


 確かにこの場にランスが居たら「帰りましょう」とブルージェ領のスター商会にリアムを引っ張って帰りそうだ。副会頭の仕事では無いと言いそうなことは予想がつく。

 私はそんなランスを想像しながら頷くとリアムに笑顔を向けた。


「フフフ、じゃあ、一緒に建設作業を頑張りましょう。フフフ、何だかワクワクしてきちゃった。今日中に店が出来ちゃうかもね!」

「いやいやいや、お前は張り切るな! ……っていうか……ララ、お前なんか体が光って無いか?」

「へっ?」


 リアムに言われて自分の体を見てみれば、新しい店を建てることが嬉しくって興奮していたせいか、抑え込んでいたはずの魔力が溢れ出していた。リアムの言葉に気が付いたクルトが光る私の側へ走って来た。


「と、取りあえず、クルト結界内でララに魔力を使わせろ、あー……出来るだけ目立たないやつでな」


 クルトは「はい!」と返事をすると、私を抱え上げてテントの外へと連れ出した。勿論セオも後を付いてくる。但しクルトが焦っている表情なのに対して、セオは嬉しそうににやけていたけれど……


「ララ様、何か魔法を!」


 魔法……いつもの癒し爆弾でいいのかな?

 でもこれだけ広いしせっかくだから魔力玉?


 セオが一瞬で結界の一番端まで転移して手を挙げた。


「ララ、いいよー。バッチコーイ!」


 どうやら魔力玉を受けてくれるようだ。私はセオが受けてくれるなら安心だと、魔力玉をセオに向かって思いっ切り打ち込んだ。セオはそれを剣ごと身体強化を使い切り刻んだ、私が放った魔力玉はセオの剣によって粉々になると結界にぶち当たった。


 結界は粉々の魔力玉の破片を受けて、ガラスが砕けるようにあっちこっちにひびが入り、パリパリと音を立て始めた。

 そして最後にガラスの砕けるような ガシャン! という大きな音を立てると結界は見事に砕け散ってしまった……

 この影響で先日から土地の四隅に置いてあった結界魔道具は煙を出して壊れてしまった……


 この後、私だけ建設作業参加を禁止されることとなった……ガックリである……


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