第367話 王都店へ向けての話合い

 私達は今スター商会の副会頭の執務室で、リアムを中心に各店長達を集めて王都の新店の話し合い行っている。


 リアムが王都の商業ギルドでの話を皆に伝えた後は、各店舗がこれからどう動くのかを店長たちから説明して貰う事になった。リアムは店長達を信頼している。店長達が決めた人員の配置には口を出さない予定だ。


 先ずはスター・リュミエール・リストランテからだ。店長のサシャが立ち上がり皆に向かって説明を始めた。

 スター・リュミエール・リストランテではサシャとフレヤが王都店へと夫婦で異動し、ブルージェ領はゲルマンとイリーナに任せる予定だ。今スター・リュミエール・リストランテで働いているアルバイトの子達数名が、今後は従業員として就職するが決まっている、その中から二名ほど王都には連れて行く予定だと教えてくれた。そして徐々に王都店でも人員を増やして行くのだそうだ。


「リアム様には商業ギルドに王都のスター・リュミエール・リストランテのアルバイトの募集と従業員の募集をお願いしたいと思います。私が面接をして気に入らない場合は採用するつもりは有りませんので、ゆっくり選びたいと思っております」


 それまでは四人でホールは回すのだそうだ。

 ブルージェ領での開店を経験しているので少ない人数でもサシャには余裕がある様だった。


「王都のスター・リュミエール・リストランテの料理人はモシェとナッティを連れて行きます。これは料理長のマシューからの推薦です。この二人なら王都の人達を驚かせるほどの料理を作る事が出来るとの太鼓判を押されました」

「確かにモシェもナッティももう一人前だからな」


 モシェもナツミも若いけれど料理人としとの経験値は十分にある。私も納得だ。

 話し合いの結果暫くはドワーフ人形達には両方のスター・リュミエール・リストランテの厨房を手伝って貰う事になった。そのため料理人もゆっくりとサシャが吟味して従業員を増やして行くらしい。


 そこでセオが手を上げた。料理人の良い人材に当てがある様だ。


「学校の料理部の先輩なんだけど、今王都で働いてて、声を掛けてみても良いですか?」

「ああ、セオ、その先輩とやらはどこで働いているんだ?」

「確か……有名店で…… ”テンポラーレ” って店だったかな?」

「えっ……」

「なんだ、サシャ知ってるのか?」

「ええ、王都の有名店で、モシェとボビーが元いた店ですね」

「「あっ……」」


 私もリアム達も声が揃った。

 モシェ達が居た店は確かに王都の有名店だと言っていた。

 ただし、新人イジメが酷い所だった様だが……セオの先輩だから騎士学校出身なのでいじめられている事は無いとは思うのだけれど……ある程度の強さはある筈だし、でも、だからこそ我慢している可能性もあり得るだろう。


「セオ、取り敢えず手紙を書いて見てくれ、引き抜きには触れず、どんな様子か聞くだけで良いからな」


 セオはリアムの言葉に頷いた。セオがお勧めする先輩という事はきっと優しくていい人なのだろう。だからこそリアムが心配するのは、その先輩が順調に仕事をしている所にセオからの転職の打診が届いた事で、今居る店で揉める様な事になっては申し訳ないからだろう。転職も本人の希望に任せたいところだ。


 次にスター・ブティック・ペコラの店長であるニカノールが話を始めた。

 ニカノールとキャーラが王都店に行き、ブルージェ領側のスター・ブティック・ペコラはブランディーヌが店長を務める様だ。こちらも新しいパート従業員が居るため問題はない様だった。


 そして裁縫組はマイラと裏ギルドのアジトである ”スカァルク” で助けた少女のうち、ヨハナとカーヤが王都店へと異動する。彼女たちももう一人前だ、ユルデンブルク騎士学校の卒業パーティーの手伝いの際に仕事ぶりを見たが、十分に戦力なることは間違いなかった。安心できるだろう。


 それとスター・ブティック・ペコラの支配人としてマダムたちの相手をしていたティボールドだが、王都店の方へと異動する。王都の方が貴族の来店が多いことは確実なので、ティボールドにはそちらでのおマダム達のお相手をして貰う予定だ。

 そしてブルージェ領側ではなんとティボールドの下僕だったヤコポが支配人の仕事を引き継ぐそうだ。ヤコポはティボールドとまた違った魅力でマダムたちを魅了している様で、きめ細やかなサービスや、裏表のない褒め言葉で、ヤコポは可愛いと人気のようだった。

 まあ王都店とブルージェ領店は転移部屋でつなぐ予定なので、ティボールドに会わせて欲しいと要望が有れば向かう事は可能だ。密かに作家として人気のあるティボールド・ウエルスこと ”ルド・エルス” に、自分の恋愛小説を書いて貰いたいと密かに申し込んでくる女性は多いようなので、ティボールドは色んな意味で人気なのだった。流石リアムのお兄さんだけあって人を惹きつける魅力を持っているようだ。


 そして今度はスターベアー・ベーカリーの店長ボビーだ。

 初めて会った頃は動揺する姿をよく見ていたボビーだったけれど、今やすっかり店長が板についていて、私が寝ていた間に大人になっている。スターベアー・ベーカリーはボビーとルネが王都に移り、ウィルがブルージェ領のスターベアー・ベーカリー店を、そしてサムが二号店を担当するそうだ。ただし……


「パティシエが足りないのか……」


 今二号店で販売して居るお菓子類は一号店で作った物を並べてある。

 なので王都で作ったお菓子をブルージェ領の一号店、二号店と持って行って販売することは可能だ。けれど今後の事を考えると、スター・リュミエール・リストランテも含めパティシエを数名増やしていきたい。

 暫くはマシューの妻のペイジやドワーフ人形、それに私が作っていけばいいが、後々の事を考えると、将来的に各国にスター商会の支店を作る予定でいるので、人材を増やすに越したことは無いだろう。こちらも募集が必要だ。


「そう言えば、秋祭りの料理大会でめぼしい人はいなかったのかしら?」


 私が二年間眠っていたのだから、その間に秋祭りが開催されていたはずだよねー、いい人材がいたと思うのだけど……


 私の問いにはイベント担当のローガンが答えてくれた。


「秋祭りの初年度の優勝がモシェでした、二年目がボビー、そして昨年はウィルでした。三人とも二位との差があり圧倒的な優勝だったので、彼等の他に余りめぼしい人材はおりませんでした。何より料理大会でしたので、お菓子を出すものが殆どいなかったのも理由に挙げられます。それにスター商会では若い料理人が大会に出ることが出来ますが、普通の店は中堅の料理人が出ることが殆どでしたので、この店に向いて居る者は中々見つかりませんでした」


 確かに人気の祭りに大会なので、店の代表として出るため料理人として実力のある人が出場するのが殆どだろう。そうなると年齢的に若手ばかりのスター商会で働ける人を見つけるのも難しいかも知れない。

 そもそもこの世界には料理学校など無いのだ。ナツミは家が宿屋で料理を幼い頃から手伝っていたから料理人になろうとしたけれど、最初からパティシエを目指していたわけではない。お菓子を作れる人材を見つけるのも中々に難しい様だった。


 結局パティシエもブルージェ領と王都の両方で従業員の募集を掛けることになった。良い人が見つかることを神様にお願いしておこう……


 そしてイベント担当のローガン。

 ブルージェ領のイベントは順調に発展している。

 来年からはギルド長のベルティと補佐のフェルスも手伝ってくれることになるので、色々と催しを増やしていきたいそうだ。王都でもイベントが開催されるようになったらそちらも手伝ってもらわなければならなくなるだろう。それまでにブルージェ領のイベント担当者をもっと増やして行きたいのだそうだ。仕事のことを話すローガンは、母親のロージーが見たら喜びそうなほど生き生きとしていた。幸せそうで何よりだ。


 そして護衛リーダーのメルキオール。

 メルキオールは先ず手を上げ希望を言ってきた。それ次第で人員配置を考える様だ。

 それは――


「モンキー・ブランディのメンバーをスター商会で雇えませんか?」


 モンキー・ブランディの隊長であるブランディは、スター商会のブランディーヌと結婚をして今は週末婚をしている。その上スター商会が手薄になるときは、モンキー・ブランディの皆に手伝いに来てもらっている間柄でもあった。

 モンキー・ブランディのメンバーは面接の頃は20人ぐらいいたのだが、年齢的に引退したものもいて今は12、3人しかいないらしい。ブルージェ領が安定してきた今、傭兵の仕事がそれ程無くなっているようで、ブランディ達にも悪い話ではないはずだとメルキオールは言っていた。


「ふむ……こちらとしても悪い話では無いな、ブランディ達とは気心も知れてるし、何よりララの事も分かっている」

「ええ、彼らがブルージェ領のスター商会側に居てくれるのなら、トミーにリーダーになって貰い、その補佐を彼等にして貰えたらと思っています。そして王都店には自分達元星の牙のメンバーと、新しく護衛になったアーロン、ベン、チャーリーが向かいたいと考えています。我々は王都での生活は長かったですからね」

「ああ、そうだな、先ずはブランディ達に打診をして見よう」


 ブランディ達の傭兵隊は古くからあるチームで年齢層も高いそうだ。

 よく来るブランディとゲイブとバメイでさえ若手の部類になる。隊を作った理由も年を取り始めた先輩を手助けしたくてブランディが立ち上げたらしい。

 メルキオールの話を聞いて優しいブランディらしいいきさつだなとそう思った。あの綺麗なブラディーヌが惚れるぐらいだ、いい男だと思う。私もブランディの事が大好きだもの!


「ハッ、これが恋?」

「なんだ? ララ、何か言ったか?」

「ううん、何でも無いよー」


 オホホホーと笑いながらレディスマイルで怪訝そうなリアムに返事をした。


 これが恋だとしてもダメだ。ブランディは結婚している。十歳で不倫はあり得ないでしょう。

 うん、初恋だけど諦めるしか無いと思う!


 とすんなり納得できた私は5秒で初恋が終わったようだった。勿論これが恋ならばの話だけれど……


「じゃあ、最後に俺達だな。ブルージェ領のスター商会はイライジャに責任者を任せることになる。まあ、転移で繋がっているから気軽にやってくれ、そして補佐がジョンだ。ジョンには今ランスが行っている仕事を引き継いでもらう。ジョン頼んだぞ」


 イライジャもジョンも頷いている。前以って話し合って居たのだろう、納得して居る様だった。


「王都には俺とランス、双子のグレアムとギセラ、ガレス、そして俺の護衛のジュリアンだ。これから子供達が成長して来たらその都度ブルージェ領で研修させるが、出来れば王都の事も勉強させたい。特にタッドとゼンは有望だ。ランスに仕込ませたいと思っている」


 リアムがタッドとゼンを褒めたけれど、皆頷いていた。

 あの子達は小さな頃からスター商会で働くことを目標に勉強しながら下働きのような仕事を頑張って来た。同じ様にワイアット商会で下働きをしながら学校に通っていたリアムには思う所があるのだろう。自分の後継者にと思っているのかも知れなかった。


 こうして王都店へ向けての話し合いは終了した。


 後は店を建てるだけだ! 頑張るぞー!

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