第341話 恋愛教育
スター商会の定休日、私はクルトに何故かお願いされてスター商会の応接室へと来ていた。
そこにはブランディーヌとミアにミリーそしてマイラとペイジあとそれと何故か男性であるニカノールも居た。
クルトは私を皆に預けると、ブランディーヌに何か目配せして応接室から離れて行った。一体何事なのかと思ったが、取りあえずブランディーヌ達に促されるまま席へと付いた。
まさかクルトが彼女たちにレディとしての振る舞いを私に教育してくれるようにと頼んでいる事など知りもしない私なのだった。
「ララちゃーん今日は沢山お話しましょうね」
何だかウキウキワクワクとした様子でとっても嬉しそうなニカノールに私は困惑しながらも頷いて見せた。皆とのお喋りはどんな理由でも楽しいはずだからだ。
ソファの前のテーブルにはお菓子やお茶が準備されていて、まさに ”女子会” と呼べるものだった。(ニカノールは男だけど……)
二年眠る前に行った領主邸でのロゼッタ達との女子会は楽しかったけれど、ガブリエラのせいで嫌な思い出になってしまった。きっとクルトはそんな嫌な事を良い思い出に変えてくれようと私をここに連れてきたのだなと悟った。優しいクルトに流石ディープウッズ家で鍛えられた世話係だなぁと、気が利くことに感心したのだった。
それも私が今一番情報が欲しかった、結婚したてのマイラやブランディーヌがそばに居る、フレヤとリリーとステラがこの場にいないのが残念だったけど、それでも十分に満足できるメンバーだった。クルトは良く分かっているなぁと思って、スター商会のお菓子を摘みながら自然に笑みがこぼれていた私だった。
「ブランディーヌはどうしてブレンディとの結婚を決めたのですか?」
私の問いかけを予想していたのだろうブランディーヌはクスリと笑みを浮かべると、カップをそっと受け皿に置いた。その仕草は妖艶でブレンディがめちゃぼれする気持ちがよく分かった。私も女だけどブランディーヌだったら結婚してみたいし、傍に居るだけで眼福である。最高だ。
「ブレンディはあたしに惚れてるからね……フフッ、そこが可愛く感じたんだよ」
確かにブレンディは見るからにブランディーヌにメロメロになっていた。
私もブレンディの事は可愛い人だと思っていたので何となくブランディーヌの気持ちは分かった。ブレンディはあの見た目だが子犬にでも懐かれたような気持ちにブランディーヌはなったのかもしれない、それがいつしか恋に……そして愛に変わったのだろう……はあー素敵だわぁー。
「マイラは? イライジャのどこが好きになったのですか?」
「えっ? わ、私ですか?」
マイラはクール美女で、結婚よりも仕事がしたいという人だったのに、何がきっかけで結婚しても良いと思えたのかが知りたかった。それにイライジャがどうやって仕事一途なマイラを自分に振り向かせたのかも知りたかった。きっと後々の私の役に立つはずだから。
「私は……その……段々と……イライジャはパートナーを望むことはあっても、家政婦のような妻を望むことはありませんでした。私は仕事が続けたかったですし、お互いに条件があっただけですわ……」
マイラは真っ赤になってしまった。可愛い。
条件があっただけと言って居るけど、それならば別の人でも良かったはずだ、ジョンだってローガンだって、ランス……は無いかな……他にもスター商会には沢山の男性従業員がいる。
その中でイライジャを選んだのは気になる何かがあったからだろう。その部分が知りたいけれど、これ程真っ赤になってしまったマイラからは残念ながらこれ以上は聞きだせないようだ……いつかイライジャに聞いてみようとそう思った。
「ねえ、ララちゃんは気になる男の子とかはいないのー? 皆の恋の話が聞きたいって事は多少は恋に興味があるんじゃないのかしら?」
ニカノールがフフフッと、その辺の男性が見たらうっとりするような可愛い笑顔で微笑むと、そんな事を私に聞いてきた。確かに恋とはどんなものなのかと興味はある。けれど気になる男の子と言われてみると、一番に浮かぶのは……彼しかいないだろう……
「私は……ウイルバード・チュトラリーが気になります……」
「「「「「「えっ?」」」」」」
驚く皆に向けて私は真剣な表情で頷いた。
彼が何を思い、どんなことをこれから仕掛けて来るのか……そして私を迎えに来ると言っていたけれど、それがどういった意味なのか……彼と私は従妹になる関係だろうし……一体彼はこれからどこへ進もうとしているのか、それが今一番気になるところだと言える……
けれど私の答えに皆は苦笑いを浮かべるだけだった。
「えーっと……ララ様、ニカが言いたいのはそう言う事じゃなくってだね……気になる……うーん……好きな男はいるかって事だよ」
「好きな男の人?」
皆がブランディーヌの言葉に合わせるようにうんうんと頷いている。
何だかどこかでもこんな話をしたような気がしたが……そう言えば女子会と言えばこういった話をする場所で有る事を思いだした。私は質問に納得して友人たちに正直に気持ちを話すことにした。
「フフフッ、好きな男性は沢山いますよ」
皆「ああ……」と言いながら頭を抱えてしまった。答え方が間違ったのだろうか? でも皆大好きなので仕方がないと思う、今は特別な人と言うのが決められないのだ。強いて言えば ”皆特別” と言った方があっているかもしれないけれど……
「ゴホン、ララ様、その中で結婚したいなーと思われる様な方はいらっしゃらないのですか?」
ミアが遠慮がちにそんな事を聞いてきた。
私としては皆大好きなので、皆と結婚したい。皆とずっと一緒に要られたらそれで幸せなのだけど? そう言う事では無いのだろうか? 難しい質問にうーんと頭を悩ませる。
「うーん……じゃあ、クルトですかね?」
「「「「「「えっ? クルト?!」」」」」」
皆がそろって大きな声を出して驚いたので私のほうが驚いてしまった。そんな変な事を言ったのだろうか?
「あの……ララちゃん、何故クルトなの? クルトはとっても年上でしょう?」
ニカノールが顔をひきつらせた笑顔を浮かべてそんな事を聞いてきた。
クルトが良い人なのは皆知っているけれど、私と年が違い過ぎるからか疑問のようだった。でも結婚相手にクルトはとっても良いと思うので、皆に私の自慢の世話係の素晴らしさを紹介することにした。
「クルトは良い父親になると思うんですよねー、とっても世話焼きですし、優しいし、強いし、面白いし、包容力もあるんです。どこかに良いお相手がいないですかね? 私は主としてクルトには幸せになって貰いたいんです」
ニコニコっと笑ってクルトの主として皆にお願いをして見たら、また「あー……」と言われてしまった。ハズレの答えだったのかもしれない……皆が望む答えを出すのはとても難しい……クイズ番組の超難問に挑戦している様だ。
ブランディーヌがコホンと一つ咳ばらいをすると、何故か皆が目を合わせ頷いた。
まるでここからが本題だとでも言っている様だ。これ以上難しいクイズの問題が出てくるのだろうか? と私は挑戦者としてごくりと喉が鳴った。
「NYに行きたいかー!」と言われれば「おー!」と声を出していただろう。この場の誰にもこの気合が分からないのが残念である……
「えー、ララ様……ララ様は自分をどう思いますか?」
ブランディーヌの質問はとても難しい物だった。哲学的質問とでも言えばいいのだろうか……「人間とは……」とでも聞かれている様だ。女子会にしては難しい質問に うーん と唸ったが、皆が私の答えを期待している目を見て、二年寝ていた私の成長が知りたいのだなと悟った。
ふっふっふ……私も間もなく10歳、そろそろ大人扱いされているのかも知れません事よー、オーホッホッホッホ
と頭の中でラウラに教わった女優の演技をしながらこの質問を考えた。
そう答えは一つ!
「猪に似てますね!」
ドヤ顔で皆に向かってそう言ってみると、皆は何も言わずに目をつぶってしまった……額に手を置いて考え込んでいる人までいる……答えをまた間違えたのだろうか? もっと無難に 「スター商会会頭です」 とか 「10歳のか弱い女の子ですわ」 とかそんな事を言えば良かったのだろうか? ガックリと肩を落としたブランディーヌが、力の抜けた様な声で話し出した。
「ララ様……ララ様は街では聖女と言われているんですよ……」
「はい、間違いですね……皆噂話をうのみにし過ぎですね」
うんうんと頷いていると、ブランディーヌがニカノールに視線を送っていた。次はニカの番よとでも言って居るような視線だった。ニカノールは頷くと頬筋がぴくぴくした状態で私に話しかけて来た。笑いたいのを我慢しているかのようだ。
「ララちゃーん、ララちゃんってとっても可愛いくって魅力的だと思うのよねー、そんな子が『大好きー』とか言うと勘違いしちゃう子も居ると思うのー、だからそれは大切な人にだけ伝えた方がいいあなーって、あたしは思うのよねー」
なる程、ニカノールは私がだれかれ構わずに告白しているように見えたんだ……勘違いさせてしまったのだなと反省した。でも私は今までもこれからも本当に好きな人にしか好きとは言っていない、だから安心して欲しい事を伝えようと頷いた。
「ニカ、心配してくれてありがとう。大丈夫、私好きな人にしか好きって言ってないから、ここに居る皆も大好きだし、ディープウッズ家の皆も大好きなの、だからこれからも素直に皆に大好きって言い続けるね」
ニカノールは力なく頷くとマイラに視線を送っていた。マイラは何かを決意したように私に話しかけた。
「ララ様……ララ様はとても魅力的なのですわ、ですからララ様が微笑まれると、その……勘違いをする輩が出てくるかも知れません……ララ様が人をとても愛されているのは美点ですが……その……これから学校へ行くようになりますと、勘違いして言い寄ってくる男が増えるかもしれません……ですからあまり男性に好きと言わない方が宜しいかもしれませんね……」
マイラが一生懸命に言葉を選んで私に話しをしてくれた。
つまり好きだと言うと恋されていると勘違いされるよって事だろうか?
まずマイラ自体が私がモテると勘違いをしている事が分かった、こんな猪少女の私が告白したところで、靡く男性などごくわずかだと分かって居ないようだ。
皆がマイラの言葉に頷いているのを見て、この場の全員がそんな勘違いをしている事が分かった。きっと身内だから可愛いらしく見えるフィルターが掛かっているのだろう、有難いけれど私は皆の誤解を解くことにした。
「あの……私……皆が心配する程男性にモテる訳では無いですよ……既にこの年齢で告白して二回も結婚の申し込みを断られてますし……」
「「「「「「えっ?」」」」」」
やっぱりこの驚き様を見て、皆私がモテると勘違いしていた事が良く分かった。
例えばすっごい可愛い子に好きと言われれば男性もドキドキしてしまうのはしょうがないだろう、だけどこんな幼女が……今は少女かな? そんな子が告白しても「お父さん大好きー」と同じレベルにしか見られないのだ。
心配してくれてとても有難いが、私ではまだまだ誰にも相手にされない事を皆は分かって無い様だ……神様が呆れるくらいに私には恋愛が遠い場所にあるのに……
「ラ、ラ、ララちゃん……ちなみに誰に結婚の申し込みをして断られたのかしら……もしかしてセオ君?」
私はフルフルと首を横に振った。セオは私を大事にしてくれているので、もし結婚してとお願いすれば自分の気持ちに関係なく承諾してしまうだろう。そんな事は親代わりとしてはさせられない……セオには大好きな女性と幸せになって欲しいのだから。
恋バナ好きな皆が熱い視線を送って来たので、私はここでもまた正直に話すことにした。
「えー、一人目がリアムでー」
「「「「「「えっ?」」」」」」
「その時は……馬鹿なことをいうなって言われてフラれたかな?」
「「「「「「はっ?」」」」」」
部屋にいる女性陣の(男性のニカノールも含め)顔が一気に怖くなった……どうしたのだろう……
「二人目が、クルトで……死刑宣告だって言われちゃって……私みたいな幼い子との結婚は大人の男性のクルトからしたら、そう思うのも仕方がないですよねー」
「「「「「「なっ?」」」」」」
その後「まあクルトの返事が冗談なのは分かって居るんだけどー」と言ってみたのだが、この部屋の女性陣の怒りの笑顔はとても怖い物だった……きっと子供に冗談でも何て断り方をしたのだ! とでも思っているのだろう。私は慌てて二人をフォローした。
「あ、あの、皆、リアムもクルトも私と年が違い過ぎて……」
「だからと言ってララ様にその様な発言は許されません!」
ここにきてペイジが凄い怒りだ。子を持つ母親として怒り心頭のようだ。ごめん……ごめんよ、リアム、クルト……
「で、でも……私は魅力がないですし……」
「冗談じゃありませんわ! うちの子にとってララ様は天使その者です! それなのに何て酷い事を!」
普段穏やかなミリーがすごい剣幕だ。ステラのがよっぽど天使なのに、女の子だという事からか私の事も天使だと言ってくれた。少し恥ずかしいけど嬉しい。
「あの……あまり怒らないであげて……二人にはもっと大人な女性が……」
「いいえ、ララちゃん! これは許せないわ!」
「ええ、そうですとも! ララ様が女性らしさを学ぶ前に、男性で成人している二人が女性の扱いを学ぶべきです!」
「そうだね、ララ様はちっとも悪くないじゃないか、幼くたって女は女なんだよ! それをあの馬鹿どもに教育しなきゃいけないね!」
皆の怒りはすさまじい物だった……ただの女子会が修羅場の様になってしまった……申し訳ない……
この後私の目に付かないところで、リアムとクルトは女性陣から熱い指導を受けたようで……
申し訳ない事に、暫くぐったりと元気がない様子だった……
結局女子会は今回も怖い思い出になってしまった……折角クルトが気を使ってくれたのに……
ごめんね。クルト……リアム……
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