第342話 学校訪問

「クルト! 私良いこと思いつきました!」


 ここ最近クルトはブランディーヌ達に注意を受けた事で少し元気がなかったけれど、私が閃きを感じたことを声に出すと、何だか元気を取り戻したように、私の方に大きく開いた目を向けてきた。


 やる気に満ちている目のような気がする……きっと私の思い付きが楽しみで仕方ないんだね。


「ユルデンブルク騎士学校に今から行きましょう!」

「はっ?」

「ですから、ユルデンブルク騎士学校に……」

「いやいやいや、そうじゃなくって、なんでユルデンブルク騎士学校に今から行かなきゃならないんですか? 王都ですよね? セオかルイに忘れ物でも届けに行くんですか?」

「えっ? 二人とも忘れ物なんてしてたんですか?」

「……ララ様……そうじゃなくて、何の用事で行きたいかって事ですよ……」

「ああ、実は【成人式】を思い出しまして、スター商会で【成人式】の【着物】の着付けみたいなことをしたらいいかなって思って、【美容院】も兼ねて【ヘアメイク】とかの注文も受けて、卒業パティーで我がスター商会の技術を使って女の子も男の子も素敵に【セット】して上げたいなと思ったのです。学生の皆さんが王都出身な訳では無いですからね、きっと困っている子が沢山いると思うんですよ。【レンタル】衣装もあった方が良いかなー。あ、魔道具で【写真】を撮っても良いですね。卒業式の記念になりますからねー」


 私の考えをクルトに向けて言い終わると、クルトはまだ目を大きく開いていた。ヤル気があるって事だろうか?


「あー……ララ様……すみません……珍紛漢紛です……とりあえず商売の話みたいなんで……リアム様に相談しましょうか……」


 クルトに言われて頷くと、早速リアムの執務室へと向かった。今日もリアムは忙しそうだが、私が部屋へ入ってくるとやっぱり手を止めて出迎えてくれた。リアムもブランディーヌに注意を受けた筈なのにまったくへこたれて居ない様だ。長く男の子であるセオに片想いをしていると、精神的に強くなるのかも知れない。


 ソファに向かい合って座ると早速先程の話をリアムに伝えた。


「リアム、今からユルデンブルク騎士学校に行こうと思うの」

「はっ?」


 クルトと同じ様な返事をした為思わず笑ってしまったが、商売の話だと伝えるとランスやイライジャまで近寄って来た。流石商人だなーと思って見直した。商売話に目がない彼らがいるからこそスター商会はここまで発展したと思う。


 私はクルトに先程した説明をこちらの言葉だけ使ってリアム達に説明をした。さっきは閃いたばかりだったので前世の言葉に引きづられていて、クルトには分かり辛かっただろう。申し訳ない。


 そもそもユルデンブルク騎士学校はブルージェ領の学校と違って、他領から、または他国からも学生が入学して来ている学校だ。

 卒業パーティーでドレスや化粧をするのに実家に戻れない学生はとても辛いと思う。特に女の子は尚更だろう。

 なのでスター商会でそれを受け持ってみてはどうかと伝えてみると、ランスとイライジャは顔を見合わせニヤリと笑った。良い案と思われた様だ。


「ララ様、貸衣装、着付け、化粧の三つを受け持つと言う事ですね?」

「そうです、今年はもう時間がないので衣装はあまり需要が無いかも知れませんが、着付けと化粧はかなり申込みがある気がします」

「確かに、王都出身者以外は自分でやるか、宿屋に実家の使用人を集めるかになりますからねー、皆が皆、王都に屋敷を構えている訳では有りませんからねー」


 ランスとイライジャはクックックとアダルヘルムかと思う様な笑みを浮かべ笑い出した。慣れているリアムでも引くぐらいだ。私も少し怖かった。


「では、すぐにユルデンブルク騎士学校に向かいましょう!」

「はい、そうですね、ではランスとイライジャが一緒に行きますか?」

「いやいや待て待て、そこは担当者を連れて行こう、そうだな、ニカとマイラを連れて行くか、良し、すぐに向かおう」


 善は急げと言う様に、私達は準備を整えると転移部屋から王都の屋敷に向かった。

 屋敷に着いてすぐにリアムがユルデンブルク騎士学校の校長先生宛に、そして私がセオとルイ宛に紙飛行機型の手紙用紙で先触れを送った。


 ユルデンブルク騎士学校とは改装工事の関係ですっかりスター商会は懇意になっているようで、急な訪問も構わないと校長には言われている様だったが、そこはリアムはキチンとしていて、失礼のない様にとこれから行く事を知らせていた。


 セオとルイにももしかしたら少しは会えるかな? カエサルにも会えるかもと、期待をしながら私はクルトが魔力を流してくれたかぼちゃの馬車に乗り込んだ。ただし、マイラとニカノールは私を挟む様に座ってクルトとリアムを明らかに警戒していた。先日の女子会の事で、二人とも乙女を傷つけた犯人と認定されてしまった様だ、申し訳ない。


 でも私との結婚を承諾した方が色々と問題な気もするのだけれど……


 そんな事を考えて居るとあっという間にユルデンブルク騎士学校に着いてしまった。エントランスでは校長と教頭が既に待機して待っていてくれた様だった。


 馬車から降りると、直ぐに校長室にある応接室へと案内された。セオとルイが取り付けた冷房魔道具が良く効いていて少し寒いくらいだった。

 騎士学校では体を動かすので体を冷やす為に部屋の温度を低めに設定しているのかもしれない。ただ校長は運動とは無縁な体をしていたのだけど……


「校長先生、急な訪問に対応して頂き有難うございます」

「いえいえ、お世話になってるスター商会さんですから、出来る限り対応させて頂きますよ、それで本日はどう言ったご用件で?」


 リアムが卒業パーティーの際の衣装の貸し出しや、化粧や着付けの話をすると、校長、教頭は「おー」「それはそれは」など相槌を入れながら満足そうに聞いていた。好感触の様だ。

 マイラとニカノールの事をリアムが当日の担当者だと紹介すればもうこの話は決定となったようだった。あとは学校の応接室を借りる事を約束すれば大体の話は終わりの様だ。


 今年は既に卒業パーティーまで残り数日となって居る為、衣装の貸し出しは掲示板に貼って申請者がいた場合のみ対応する事となった。ドレスを合わせたり、サイズを直したりが必要となるのでその申請期間も前日までとなる。卒業パーティーまで短い期間なので申請者が居るかどうかは分からないが、今年は初年度と言う事もあるので少ない方がスター商会としても有り難いだろう。来年からは半年前からは受付をしたいとリアムは校長に話していた。メモを取っていたのは教頭だったけれど……


 校長の案内で当日使用する応接室を見せてもらう事になった。ニカノールとマイラの厳しいチェックがここで入る。部屋にある家具などは全て魔法袋に一旦しまわせて貰う許可を貰った。

 当日はスター商会から鏡やパーテーションなどを持ち込む予定だ。勿論魔道具各種も持ち込み、完璧なスターブティックペコラを再現する予定でいる。人員配置としてはニカノールとキャーラが担当する予定らしい。ニカノールの頭の中にはもう当日のスケジュールが出来ている様だ。流石である。


 そしてマイラの方は勿論パーテーション、姿見の鏡の持ち込みは勿論、後はドレスや靴なども当日の急な変更にも合わせられる様にすると言っていた。そして人員は裏ギルドから助けた女の子達であるエッバ、ヘラ、ヨハナ、カーヤを連れて来たいと言っていた。彼女達もスター商会に慣れて来たのでそろそろ自分達が担当する仕事が必要だと言う事だった。

 マイラも目をギラギラさせて張り切っていた。ユルデンブルク騎士学校でこの仕事が成功すれば、他校からも申込みがある事は確実だとマイラは言っていた。

 イライジャとお似合いな夫婦だなとその姿を見て良く分かった。


「ララ!」


 セオの声がして振り向くと、ルイやトマス、コロンブ、マティルドウ、アデル、アレッシオ、そしてレオナルドも顔を見せに来てくれた。子供達の後ろにはカエサルも居てニコニコと手を振ってくれていた。今日のカエサルもライオンのようでとってもカッコいい!


「セオ、ルイ、休み時間なの?」

「うん、これからお昼なんだ、それにしても手紙には驚いたよー」


 どうやら授業中に紙飛行機型の手紙がセオとルイの所に届いてしまったようで、私にまた何かあったのかと心配を掛けてしまったらしい。申し訳ない、そこまで気が回らなかった。

 丁度カエサルの剣術の授業だったらしく、許可を貰って手紙を読んだようだ。そしてそのまま授業が終わると皆で顔を出してくれたらしい。うんうん、みんなとっても良い子だね。


「これからお昼ならあまり時間ないんでしょう?」

「うん、顔だけ見に来だけだから、今日もララはココに負けないくらい可愛いよ」

「セオ有難う」


 セオは最高の褒め言葉を言って私の頭を撫でてくれた。だけど周りの皆は苦笑いだ。確かにココの可愛さには負けてしまうのでそれもしょうがないけど……


 私はレオナルドに近づいて行って魔石バイク隊の件のお礼を言う事にした。レオナルドは相変わらず恥ずかしがり屋の様でジッと目を見つめると真っ赤になってしまった。早く仲良くなって普通に接して貰いたいと思う。今度照屋さんとの仲良しになる方法が分かる本でもを探して勉強して見ようかな。


「レオ、魔石バイク隊の件は有難うございました! やっぱりレオは王子様だけあって頼りになりますね。とってもカッコいいです!」

「あ、いや、その……と、当然の事です……ので……」

「ふふふっ、謙虚ですね、そう言うところもとっても素敵ですよ」

「はっ、あっ、はい、あ、有難う……」


 仲良くなろうと思って手を握って褒めて見たけれど、レオナルドは益々人見知りが出てしまった様で全身真っ赤になってしまった。

 クルトが視線で「それ以上褒めてはいけません」と送ってきた。照れている人をそれ以上褒めるな! という事らしい。リアム達大人組は真っ赤になったレオナルドの事を気の毒そうに見ていた。恥ずかしがり屋さんな王子という事で、人前に立つ機会が多い王族として考えると皆可哀想になる様だ。やっぱり良い本を見つけて、レオナルド本人が対処方法が分かる様にプレゼントしようと決意した。


「ララ様ー、レオはララ様の事好きなんだってさー」

「えっ、そうなの? 本当に?」

「なっ! ル、ルイ!」


 ルイの言葉を聞いて驚いた。まだレオナルドには心を開いて貰っていない、どちらかというと私の事を苦手だと思われていると思っていた。私は嫌われていない事が嬉しくって思わずレオナルドに抱きついた。


「レオ、有難う! 私も大好きです! これからも仲良くしましょうね!」


 私の魔力が溢れていたのか、レオナルドはその後益々真っ赤な顔になり、体調が悪くなってしまった様で保健室に運ばれてしまった。もしかしたらお腹が空いていたのかも知れないけれど……




 ただ帰りの馬車の中では、あんなにクルトとリアムの事を警戒心を剥き出しにして見ていたニカノールとマイラが、何故か二人にとっても優しくなっていた。それも「アレなら注意したくなるの分かるわー」と同情めいた事を言っていた。良く分からないけれどとりあえず仲良しに戻れて良かった良かった。


 リアムも久しぶりにセオに会えて嬉しかったのか、帰りの馬車の中では私の隣に座ってずっと頭を撫でてくれていた。ユルデンブルク騎士学校との商談が成功してご機嫌だったのかも知れない。優しい笑顔にちょっとだけドキドキした。


 セオが成人するまであと少し、二人の恋も間も無くクライマックスかも知れない……そう考えると益々ドキドキした私なのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る