第294話 入学式
「クソッ、何故だ! 何故私が新入生代表ではない?! 私はこの国の王子だぞ!!」
レチェンテ国の王城のとある一角で、レチェンテ国の第三王子のレオナルド・レチェンテは一人自室で憤りを感じていた。
王子としての教育の中で学校の在り方を学び、今回自分が新入生代表になることは間違いないと疑いもしていなかった。自分より、王族より高位の貴族などいない、王子である自分が選ばれるべきだとそう思っていた。
勿論、入学してみたら王子など大したことなかったと言われないように、しっかりと教育も受け、試験では家庭教師から問題ないと太鼓判を押されるほどの実力もあった。
実際試験では満点を一教科取ることができた。それに武術も剣術もAランクであった。自分には非がない事は明らかであった。
何故だ?! 私には問題ないはずだ! だとしたら誰かが金で順位を買ったとしか思えない!
そこまで考えてレオナルド王子はハッとした。従弟であるユルゲンブルク大公の第三子のアレッシオ・ユルゲンブルクも同じ学校に入学することを思いだしたのだ。
まさか……アレッシオは全て満点を取ったのか? いや……あいつの実力は家庭教師から聞いている……私の方が優れて居るはずだ……
だが、もし、それが嘘だとしたら……私を欺くための物だとしたら……
レオナルド王子が瞑想の渦に取りつかれていると、王である父からの呼び出しの知らせが入った。
ユルゲンブルク騎士学校の試験結果が届いた為の呼び出しで有る事はすぐに分かった。
面談室まで行く間にも、不甲斐ない成績を見せて良いのかと不安に駆られた。もしアレッシオに負けたのか? と言われたら……と不安になり、曇った顔でレオナルド王子は王の元へと向かった。
面談室には王だけでなく、母もそして第一王子の兄も一緒に居た。
一体何事か? とレオナルド王子は少し訝しげに思った。
「ふむ……レオ、やはり二位か……」
父が ”やはり” と言う言葉を聞いて何か知っていると悟った、一体何があるのだと言うのだろか……レオナルド王子は言葉の続きを待った。
「レオ……よく頑張った、素晴らしい成績だ。学校では友人と切磋琢磨し良く学ぶように……」
「はい、有難うございます……ですが、父上、何故私が二位だと分かっていらっしゃったのですか?」
父はジッと考える様なそぶりを見せた、そして――
「レオ、私はある噂を耳にしただけだ……そなたに話すのはまだ早い……とにかく入学まで手を抜かず頑張る様に……この国の未来はそなたに掛かっているのだからな」
「は、はい! 精進いたします!」
レオナルド王子は両親や兄に期待されていると知ってとても嬉しかった。要らない第三王子と影口を叩くものもいて、騎士になることを選んだのだ。少しでも次期王である兄の役に立てたらと……今日話を聞いてそれが認められた様で嬉しかった。
ただ父が期待しているのは違う意味だと気づくことは、この時のレオナルド王子には無いのだった……
☆☆☆
その頃のユルゲンブルク大公の屋敷では――
父に呼び出され応接室でアレッシオ・ユルゲンブルクは受験の結果を家族に見せていた。
そこには今ユルゲンブルク騎士学校に通って居る次兄のカミッロ以外が揃っていた。忙しい大公家の家族が揃う程の大事なのかと、アレッシオは笑顔を浮かべながらも内心では冷や汗をかいていた。
自分では従弟で王子であるレオナルドの次の二位になると思っていた。それが開いてみれば三位である。父に怒られるのではないかと緊張していたのだった。
「ふむ、やはり三位だったか……あの噂は本当のようだな……」
父親の ”やはり”と ”噂”と言う言葉が気になり、アレッシオは首を傾げた。父も母もそして兄もアレッシオが試験で三位になった理由を知っているような口ぶりだった。
アレッシオより高位の貴族など王子であるレオナルドしかいないはずなのに……と当たり前の疑問が浮かんだ。
「父上、何かご存じなのですか?」
父はハッとするとアレッシオに首を振って見せた。その様子に益々怪しさが増した。
兄や母も笑顔が引きつっている、アレッシオは自分に何か秘密が有るのではないかと思った。
「アレッシオ、お前はよく頑張った、入学までにまだ時間がある、次は一位を取れるように努力して見なさい、お前は我が家の希望の星になるのだから……」
「私が希望の星ですか?」
両親や兄がそこまで自分に期待してくれて居る事にアレッシオは驚いた。
何でも器用にこなす兄達ではなく、自分の事をだ。アレッシオは期待に応えようと頷いた。
「父上、母上、兄上、私は一生懸命努力いたします! お任せ下さい!」
アレッシオは自信たっぷりに胸を叩いて見せたのだった。
☆☆☆
そして入学式前日を迎えた。
レオナルドもアレッシオも今日から入寮だ。王族の子なので二人には個人の護衛が付いている。
それに寮の部屋も個室で一番高い階にある。下々の者とはこれで会う事が無いと思うと、二人共実はホッとしていた。庶民のような会ったことも無い人種に話しかけられても、どうしていいのか二人共分からなかったのだ。
出来れば関わりたくないとさえ思っているぐらいで有った。
「やあ、レオナルド」
「ああ、アレッシオか、久しぶりだな」
二人の部屋は隣同士だった。向かい側にはアレッシオの兄で有る、この学校の三年生のカミッロ・ユルゲンブルクの部屋があった。二人共兄で有り従弟であるカミッロに挨拶をしようと部屋を出た所でバッタリと顔を合わせたのだった。
レオナルドとアレッシオはいとこ同士、子供の頃から良く遊び、そして比べられてきていた。お互いがライバルだと思っていて、それが良い相乗効果になっていると親も家庭教師たちも思って居る様だった、だが実は二人にはかなりのストレスで有った。一つでも学年が違って居れば良かったのに……といつも思っているぐらいだったのだ。
「アレッシオ……聞きたいんだが……君が新入生代表か?」
アレッシオはレオナルドの言葉に驚きが隠せなかった。てっきりレオナルドが一位なのだと思っていたからだ。この国の王子よりも上の貴族などいない……では一体だれが? とアレッシオは不思議になった。
「アレッシオ?」
「あ、いや、済まない、てっきりレオナルドが新入生代表だと思っていたから……」
「……やはりそうか……」
二人は疑問を抱えながら、向かい側のカミッロの部屋のドアを叩いた。
アレッシオの兄カミッロは二人が来たことに気が付くと、腕を引っ張り部屋の中へと急いで入れた。カミッロの顔は怖いほど真剣な表情だった。
「兄上?」
「カミッロ兄さま、どうしましたか?」
カミッロは二人を自分の部屋のソファへと座らせるとそのまま怖い顔を二人に向けてきた。とてもじゃないが入寮の挨拶をするような雰囲気ではなかった。
カミッロはスー、ハーと深呼吸をすると、気持ちを落ち着かせたかのような表情になって二人に話しかけた。
「良いか、落ち着いて聞け」
カミッロの言葉に二人共頷く、自然と背筋はぴんと伸ばしていた。
「今年の入学生に ”ディープウッズ家” の子供が居る」
「「えっ? ディ、ディープウッズ家?!」」
二人は顔を見合わせて見せた。ディープウッズ家と言えば王族として一番に教育されることだ。
『ディープウッズ家には手を出すな!』
これがどの国の王族も小さな頃から聞かされる物であった。勿論レオナルドもアレッシオも知っている事だ。
それぐらい恐れられているディープウッズ家の子が、自分達と同じ学校にいると言うのだ……何ぜ?! と言う驚きしかなかった。
「兄上、それでは新入生代表はディープウッズ家の子でしょうか?」
カミッロは恐らくそうだろうと頷いてみせた。王族より上の家格の者など他に思いつかないからだ。
「良いか、お前達、コレは我がレチェンテ国のチャンスだ」
「「チャンス?」」
「ああ、世界中が欲しがるディープウッズ家だぞ、仲良くなればどうなると思う……」
レオナルドとアレッシオの喉がゴクリと鳴った。
もし自分達がディープウッズ家の子供と仲良くなったら……レチェンテ国は向かう所敵なしとなるだろう。その立役者にでも自分達がなれば……親だけでなく国中から感謝されるのは間違い無かった。
「良いか、これは私も含めてだが、ディープウッズ家の子と必ず友人になるのだ、どんな手を使ってでもだぞ!」
「「はい!」」
ディープウッズ家の子と、自分達の力で懇意になろうと決意する三人であった。
☆☆☆
そして入学式当日。
Aクラスの教室に集合したレオナルドとアレッシオは、早速ディープウッズ家の子に声を掛ける事にした。見つけるのは簡単だ。胸に輝く金の胸章を付けた者を探せばいいだけだった。
「やあ、君がディープウッズの御子息か? 私はレオナルド・レチェンテ、この国の王子だ。こっちは従兄弟のアレッシオ・ユルゲンブルクだ。その様な者と話していないで、私達と友人になろうでは無いか?」
そう、彼らはセオだけがディープウッズの子だと思い、セオと一緒にいたルイの事を ”その様な者” 扱いをしたのだ。
ルイは元々平民だ。だから別にディープウッズの子として見られなくても気にしない。
ただ、上に立つ王族として守るべき庶民に対して ”その様な者” 扱いした事に腹が立った。勿論セオもだ。
ここで普通に 「やあ、宜しく」 と挨拶していれば良かった物を、友人の作り方を知らないレオナルドとアレッシオは出だしを間違えてしまったのだった。
「悪いけど、友人は間に合ってるから結構です。それにルイは俺の義兄弟だから、”その様な者” とかって馬鹿にするのはやめてくれるかな? 第一、学校内では身分の差は無いはずだ。自分達の間違いを改めるべきじゃ無いかな?」
「「なっ!」」
レオナルドとアレッシオは王子と言う事で今まで正面切ってこんな言葉を言ってくる者など居なかった、その為とても戸惑っていた。悪い事を言ったとも気づいていない、その上自分から謝ると言う事も知らなかったのだ。
「初めまして、ルイ・ディープウッズです。悪いけど友達は自分で探せるから間に合ってます。それにしても王子なのに言って良い事と悪いも分らないんだな」
「なっ! 不敬だぞ!」
「はい、はい、”その様な者” が不敬をしてすみませんね、だけど、お前だって支えてくれているこの国の庶民を馬鹿にしたんだからな! それがどう言う事か考えろよな!」
そう言うとルイもセオもレオナルドとアレッシオから離れて行ってしまった。レオナルドはルイとセオの二人に怒りを覚えた。
ディープウッズだからと偉そうに! この私が友人になってやると言っているのに!
こうしてやり方、そして言い方を間違えたレオナルドは、ルイとセオを敵対視する事になる。
アレッシオの方はもしかしたら大変な事をしてしまったかも……と少し思い始めていた。
彼らが友人になれるのはまだまだ先の話しであった……
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