第274話 結婚披露パーティー

 スター・リュミエール・リストランテに着くと、昨日からフレヤが中心となってスター・リュミエール・リストランテの従業員皆で会場を準備してくれていたので、花に囲まれた美しいパーティー会場が既に準備されていた。


 店の前の庭も普段より多くの花が飾られ、そして昼間なのに既にライトアップもされていて、全てがトミーとミリーのようにキラキラと美しく輝いていた。庭には領民が入って見学できるようにベンチが備え付けられていて、ここで気軽に楽しめる軽食やお酒を振る舞う予定でいた。


 庭は今は星の牙のメンバー達が、ロープを張り入れないようにしてある。トミーとミリーは式が終わると、この庭の前に到着する。それから領民たちも入れるようになるのだった。

 今日は警備が大変だと思うがメルキオールは「祝い事だ! 任せてくれ!」と言って、仲間であるトミーの結婚披露パーティーを成功させるために、皆で店をそしてパーティーを守り抜くぞと張り切ってくれていた。流石メルキオール、頼りになるリーダーだ。


 マシュー達料理人を手伝い、私も料理を始める。もう殆ど作ってあるので後は仕上げだけだ。今日は従業員達もパーティーに参加するので、皆準備が出来次第ドレスアップをしなければならない、忙しいがとっても楽しそうだった。ただサシャ達ホールスタッフだけは給仕があるので参加とは行かない。子熊達やアルパカ君たちも手伝ってくれるが、やはり店の中心となるサシャは抜ける訳には行かないだろう。


「この仕事が楽しいので大丈夫です。それに自分の結婚の時は抜けさせて貰うので問題ないですよ」


 ニッコリとアイドルの様に微笑むサシャに、もしかしてお相手が居るのかな? と思ったが、質問はしなかった。それよりも今は大急ぎで仕上げに取り掛かる必要があるからだ。


 私はセオとクルトに手伝って貰ってウエディングケーキを飾ることにした。

 五段のケーキは全て本物のケーキだ。各段ごとに味が違うケーキになっているので、ケーキ入刀後に振る舞えば参加者が喜ぶだろう。一番はリアムなのは間違いないと思うが……


「ララ様……凄い高さのあるケーキですね……」


 クルトが初めて見るウエディングケーキに感心した様子だった。自分の背よりも高いケーキを首を上げて口をポカンと開けて見ている。その様子に私は大満足だ。セオも「頑張ったね」と言って私を褒めてくれた。最近カッコ良くなり始めているセオに頭を撫でられると少し恥ずかしい。リアムが見たら焼きもちを焼かれそうだとも思った。


「ララー、そろそろ着替えないとー」


 身支度を整えたノアがパーティー会場へとやって来た。既に瞳と同じ赤色のスーツを着込みカッコ良くなっていた。パーティー会場の事は自分とフレヤに任せて着替えておいでと言われたので、私は自分の執務室へと向かう事にした。スター商会の会頭として割烹着のままパーティーに参加するわけには行かないだろう。セオとクルトも着替えの為に一緒に向かった。


 今日の私のドレスはモーヴピンク色だ。ブリアンナが可愛くフリルを付けて作ってくれたお気に入りだ。リボンも同じ色の物を付け髪も今日は巻き髪にしてみた。自分でも中々上出来に仕上がったと満足できた。


「ララ、凄く可愛いよ!」


 着替え終わって私の部屋へとやって来たセオが、満面の笑みで褒めてくれた。セオも紺色のスーツがよく似合っている。クルトは今日は黒色のスーツだ。スター商会の大人男性たちは今日は黒のスーツが多い様だった。白のスーツを着たトミーを目立たせるための様だ。皆仲間思いだなと感動した。


 セオのエスコートで先程まで準備をしていたスター・リュミエール・リストランテに降りていく、店に馬車で来店する招待客を会頭として待ち受けるべく店に入っていくと、黒のスーツに身を包んだリアムが既に待ち構えていた。


「おお、セオ、何だか逞しくなったな、それに大人っぽいぞ!」

「はは、リアム有難う」


 リアムはセオをジッと見て褒めていた。大好きなセオの成長した様子に満足げだ。


「あー、ララも、その、かわ、かなり……良い色のドレスだな……」


 とリアムは私を褒めてからプイッと顔をそらした。無理に恋のライバル褒めて恥ずかしくなったのか耳まで赤くなっていた。ランスが子供っぽいリアムのライバル心に苦笑いを浮かべている。無理に褒めなくても良いという事だろう。


「リアム、有難う。リアムもとっても素敵。黒も似合うんだねー」

「お、おう……そ、そうか? ありがとな」


 そんな何気ない会話を楽しんでいると、領主のタルコット達が店へとやって来た。スター・リュミエール・リストランテの庭では領民たちが領主の登場に歓声を上げていた。すっかり人気領主のようだ、タルコットも慣れた様子で手を上げ声援に応えていた。


「ララ様、リアム殿、本日はお招きありがとうございます。また従業員のご結婚おめでとうございます」


 最近のタルコットはリアムと砕けて話している姿ばかり見るので、畏まっているとちょっと吹き出しそうになってしまうが、そこは笑顔で誤魔化し挨拶を受ける、領主夫人のロゼッタと第二夫人ベアトリーチェもミリーとは仲が良いので嬉しそうにしている。タッドとゼンと仲良しのメイナードもだ。


「ララ、今日もとっても可愛いねー、淡い色のドレスもとっても良く似合っているよ」

「ありがとう、メイナード」


 どっかの誰かとは違ってメイナードはいつも私を可愛いと褒めてくれる、優しい友人の言葉に嬉しくなった。


 次の馬車には商業ギルドのギルド長ベルティーナ・ランゲと補佐のフェルス、それから商業ギルド側のイベント担当であるヒューゴも一緒に来ていた。フェルスの固い表情とは違ってヒューゴは陽気な様子が顔に出て居た。楽しくてしょうがないといった様子だ、フェルスの甥っ子とは言われなければ気が付かれないだろう。


「ララ、凄い豪華な飾りつけだねー」


 黒色で肩が開いたドレスを着こなしたベルティに声を掛けられた。今日も大振りのイヤリングがよく似にあっている。私の憧れのカッコイイ女性だ。


「ありがとうございます。スター・リュミエール・リストランテの従業員達が頑張ってくれました、私はウエディングケーキに掛かりきりだったので」

「ウエディングケーキ? あの高く積み上がっているケーキかい? 本当にあんたは面白いことをするねー」


 ベルティは挨拶を終えると、ケーキに近づいて行った。フェルスとヒューゴも一緒だ、じっくり見て回るようだ。流石商人と言うべきだろう。


 会場内に客が集まったころ、時間通りにトミーとミリーを乗せたかぼちゃの馬車が到着した。二人が馬車から降りてくると、皆が拍手で出迎える、招待客だけでなく店前に居る領民たちからも拍手と「おめでとう!」との声が上がっていた。恥ずかしそうに見つめ合いながら二人は仲良さげに会場へと入って来た。後ろからはタッドとゼンもだ、二人も幸せそうな笑顔だ。付き添いのニカノールは送れて会場入りしようとまだ馬車の前に居て、そのカッコイイ立ち姿は王子様の様だった。


 トミーとミリーが新郎新婦の席に着くと結婚披露パーティーは始まった。司会はサシャが受けてくれた。サシャの進行なら何の問題も無いだろう。


 リアムからの挨拶や、新郎新婦のトミーとミリー二人の紹介が終わると、皆お待ちかねの食事が始まる、乾杯の音頭は領主のタルコットだ。料理とお酒が運ばれてくると皆の目の色が変わった。今日は普段スター・リュミエール・リストランテでは食べられない料理とお酒が出てくるため、待ちきれなかった様だ。会場中にいい香りが漂、皆が涎がたれそうな顔になっていた。


 一口で食べられるサイズの様々な料理が出て、皆が堪能してくれている事が分かった、料理長のマシューを始め、スター・リュミエール・リストランテの料理人達はその様子に満足げだ。この前マトヴィルと倒したモデストを使った料理も含まれていて、一口食べて美味しさからか目を丸くして居るのが分かった。その様子に私も大満足だ。


「それではここで新郎新婦によるケーキ入刀に入ります」


 トミーとミリーがナイフを持ってケーキに近づくと、「ヒューヒュー」とはやし立てる様な声が聞こえた。拍手も上がり二人共恥ずかしそうだけど良い笑顔だ。


 ケーキ入刀が終わると、全てのケーキを一口サイズに切り分け、好きな物を自由に食べることができる、庭にウエディングの様子を見に来ている領民たちにもケーキが振る舞われる。勿論これを一番楽しみにしていた男が動き出した。リアムだ。


「ララ、何種類有るんだ」

「【末広がり】で八種類」

「すえひろがり?」

「ううん、気にしないで、リアムはどれを食べるの?」

「そりゃあ、全種類だろう、副会頭だからな!」

「アハハ……そうだよね……」

 

 セオも私の横でクスクスと笑って居る。副会頭だからというリアムの言い訳が面白い様だ。

 でも一口サイズだからか、全種類選ぶ人が殆どだった。リアムに至ってはお代わりしそうな勢いだった。まー、そこはランスが止めるとは思うが……


 今日は先日作ったばかりの研究員達の日本酒もお披露目になる。それにピンクのシャンパンもだ。リアム達は既に味見と言って何度か新しいお酒に手を出しているが、招待客の殆どが味わいの違う美味しいお酒に目を丸くしていた。これでまた注文が入ることは間違いないだろう。ランスもイライジャもニヤリ顔で有った。


 そして遂にパーティーは終わりを迎えた。

 スター商会の食堂で二次会を開くらしいのだが一旦解散となる。殆どの人が明日からは通常の仕事の業務が待って居るはずなのだが、二次会にも参加したいと言って居た。盛り上がる皆の様子を見てこれ以上飲んで大丈夫かと心配になってしまった。


 客たちをトミー一家が玄関口で見送りをする。皆に「おめでとう」と最後まで言われて嬉しそうだった。私も最後にトミー一家に声を掛ける。


「トミー、ミリー、タッド、ゼン、皆で幸せになって下さいね」

「はい、ララ様、絶対に幸せになります!」


 そう言って四人は笑顔で答えてくれた。もう既に幸せいっぱいだ。


 パーティーの片づけを終え、寮の方へと行ってみると二次会は大盛り上がりだった。皆日帰りの予定だったが泊まりになりそうだなと苦笑いになった。

 私は眉間にしわを寄せているランスの所へと近づいて行った。


「ランス、凄い賑わいですね」

「はい……ここに来る前に皆既に酔っていましたから……」

「トミーとミリーは早めに帰してあげて下さいね」

「ええ、それは勿論……新婚ですからね」


 ランスにお願いをして私はディープウッズ家に戻ることにした。いつか私にも本当に好きな人が出来、こんな風に友達に囲まれながらお祝いされたいなとそう期待した。


 でもそれは……まだまだ先かなー……

 




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