第273話 見送りと結婚式の準備

 冬祭りの次の日、セオとルイの騎士学校の友人マティルドゥ、トマス、コロンブ、アデル達を王都へと送る日を迎えた。


 セオとルイ、そして四人は朝からアダルヘルムとマトヴィルの訓練を受けていた。

 本当は折角の冬の長休みなので、もっとディープウッズ家に滞在して鍛えてもらいたかったようだったが、そこは急に決まった予定の為、年末年始のお家のお手伝いなども有る事から、予定通り今日帰ることとなった。


 夏の長休みには合宿のつもりでディープウッズ家に滞在すればいいと伝えると、四人ともとても喜んでくれた。そして夏には冬祭りよりもっと賑やかなお祭りがあると伝えると、絶対にその時期に来たいと大はしゃぎだった。今回の冬祭りがとても楽しかった様だ。誘って良かったと安堵した。


 本当は夏祭りの前には春祭りがあるのだが、学校が休みの時期ではない事と、それ程大きな祭りでは無いため、来るなら夏祭りが良いだろうと皆で話し合ったのだ。でもいつか春祭りにも、そして秋祭りにも参加させて欲しいと可愛い顔でお願いをされてしまって、あの顔を見たら絶対に叶えて上げようと思うのは私だけでは無かっただろう……皆素直で可愛い良い子たちなのだった。


 朝食も終え、身支度も整えると、遂に帰る時間となってしまった。

 私は皆に沢山のお土産が入った魔法袋を渡した。

 この中にはスター商会の商品が沢山入っているので、使ってみて感想を教えて欲しいと話すと、喜んで受け取ってくれた。家族と共に商品を使って意見をくれるそうだ、有難い物である。持つべきものは友達といったところだろう。


 転移部屋の前で、お母様も含めディープウッズ家の皆がお別れをしてくれた。お母様に


「またいつでもいらっしゃいね」


 と優しい微笑みで声を掛けられると、子供たちと共にクルトやベアリン達まで真っ赤な顔になってしまった。まだまだお母様の微笑みの耐性は付かないようだ。こればかりは仕方が無いだろう。


 転移部屋を使って私、セオ、ノア、ルイ、クルト、そしてマティルドゥ、トマス、コロンブの皆で王都の屋敷へと転移した。ディープウッズ家に来る時やスター商会に行くときなどに転移をしたとはいえ、やはりまだ転移には驚くようで、本当に王都に戻って来たんだよな? と半信半疑で外を見ていた。

 ただモロロにあるこの屋敷も周りはほぼ木々で覆われた森の中なので、外を見てもあまり実感はわかないようだった。


 屋敷の玄関に降りてかぼちゃの馬車を出すと、待ち合わせの場所でもあったユルデンブルク騎士学校前へと向かった。今日もマティルドゥのお兄さんが時間に合わせ迎えに来てくれることとなっていて、シモン家の馬車で行きと同じように、他の子達を馬車で送ってくれるとの事だった。


 ユルデンブルク騎士学校が見えてくると、シモン家の馬車が既に着いているのが分かった。マティルドゥのお兄さんは護衛と使用人と共に兵士のようにビシッとした立ち姿で待ち構えてくれていた。あらかじめ時間は伝えてあったのだが、随分前からこの寒い中あの状態で待っていたのではないかと思える様子だった。特に使用人はカチカチと歯が鳴るぐらい寒さに震えていたのだった。


「マティのお兄さん、お待たせいたしました」

「と、と、とんでもございません!!」


 マティルドゥのお兄さんは緊張からか、私の顔を見ると寒くて青ざめていた顔から一気に真っ赤な顔になってしまった。妹のマティルドゥはその様子を見て困ったような表情を浮かべていた、きっとお兄さんを長く待たせて申し訳ないとでも思ったのだろう、優しい子だ。


 寒いので簡単に挨拶を終えると別れの時間となった。セオとルイも手を振り名残惜しそうな様子だった。もっと友達と一緒に過ごしたかったのだろう。

 親の気持ちでいる私としては、セオとルイに仲のいい友達が出来て満足だった。学校に行かせた甲斐があるという物だろう。

 だからこそ、「気軽に話しかけるな」と友人を作らない様に一線を引いている、レチェンテ国の第三王子のレオナルド王子の事が少し心配になった。後期は少しは砕けてくれると良いなと祈るばかりだ。


 こうして皆と別れてセオとルイの騎士学校の友人とのお泊まり会は無事に終わった。楽しい学生生活を送れて何よりである。後期も沢山の友達を作って欲しい物である。





 今日は遂に待ちに待ったトミーとミリーの結婚式の日だ。

 私は朝から作業着を着てスター商会に来ていた。これから準備の為の戦争が始まる。


 王都に住む ”星の会” のメンバーはクルトにお願いして迎えに行って貰った。今日はメルキオッレとプリンス夫人もやって来るので楽しみでしょうがない。ああ、勿論プリンス伯爵本人とワイアット商会のジョセフ・ワイアットも一緒だ。あとエイベル夫妻の息子のダニエルもだ。この日を皆楽しみにしていてくれたようだった。


 ただし、ブロバニク領の商人ビアンキとジェルモリッツオ商人ミュラーは遠いため来れなかった。年始の仕事を休むわけには行かないため長期の旅行は無理の様だ。こちらにもいずれ転移陣を作りたいと思った。残念ながらジェルモリッツオの英雄であり、セオとルイの学校の担任でもあるカエサル・フェルッチョも来れない。仕方がない事だが、少し寂しい物であった。


 トミーとミリーは結婚式を先ずは教会で挙げるので正装に着替えさせなければならない、私がミリーを担当し、ニカノールがトミーの準備を担当してくれる。勿論、式から参加のタッドとゼンもニカノールが磨き上げてくれるそうだ。二人の出来上がりも今から楽しみでもあった。


 スター・ブティック・ペコラに着くとミリーは、ブランディーヌ達にエステ魔道具で最後の磨きを掛けられている所だった。結婚式の為ここ一カ月は時間があればミリーはこのウエディングエステを受けていた。

 そのかいあってか今のミリーはとっても美しい、スターベアー・ベーカリーに来たお客の中で、結婚することを知らない者が交際を申し込んでくるほど魅力満点だ。その為トミーのスターベアー・ベーカリーを見回る時間が長くなってしまったのは仕方がない事であった。


 ミリーのエステが終われば私の出番だ。この日の為に準備した整髪料と先日披露したヘアーアイロンを使ってミリーの髪を結い上げ行く、その様子をブランディーヌ達スター・ブティック・ペコラのメンバーが感心した様子で見ていた。まだヘアーアイロンを上手く使え熟せていない様で、手際の良さを感心されてしまったのだった。


「本当にララ様は、お小さいのに何でも出来ちゃうんだねー」

「うーん……何でもって程では無いですけど、この魔道具達は私が作った物なので、使えるのは当然なんだと思います」

「アハハハハ、こんな魔道具を作れること自体凄い事なんだけどねー」


 ブランディーヌが呆れたようにそう話すと、キャーラ、ビオラ、レベッカ、マルタ達までクスクスと笑い出した、ミリーまでもだ。私の話題で場の空気が和んだのなら何よりだと思った。


 ミリーの髪を結い上げた後は化粧を施す。今日は普段のミリーよりは濃い目の化粧となる。

 この時も皆私の作業を見ながら、後ろで「あーやって使うのか」とか「目が大きく見える」とか何やらボソボソと話していた。勉強熱心なのは良いのだが少しやり辛かった。


 化粧が終わればドレスの着付けになる。

 ここではブリアンナ達が大活躍だ。スター・ブティック・ペコラの女子更衣室を使って、ミリーを美しく仕上げてくれた。トミーが見れば惚れ直すことは間違いないだろう。それぐらいミリーは美しかった。


「ミリー、とっても綺麗ですよ」

「ララ様、ありがとうございます……」


 外は寒いので教会まではこの日の為に作ったコートを着ていく、ベールは教会に着いてから、補助として一緒に付いて行くニカノールに付けて貰う。私は残って結婚披露パーティーの準備があるからだ。


 玄関までミリーを見送ろうとスター・ブティック・ペコラの店内側の扉を開くと、そこに真っ白いスーツを着た王子様風のトミーが待ち構えていた。ニカノールの渾身の力作ともいえるトミーは、普段の何十倍、いや、何百倍もかっこよかった。これならミリーの隣に並んでも何の違和感も無いだろう、トミーの後ろに立っていたニカノールは満足げな顔をしていたのだった。


「トミーとっても素敵ですよ!」

「は、はい、有難うございます! ……それでミリーは?」


 美しいミリーを早く見たいと目で訴えるトミーに苦笑いしながら、新婦であるミリーの手を取りトミーの前まで歩ませた。トミーは一目ミリーを見ると真っ赤な顔になり「はわわわ」と声にならない吐息の様な物を出した。


「ミリー! 凄く! 凄く綺麗だ!」

「フフフ、トミー、ありがとう……貴方もとっても素敵だわ……」


 お互い褒めて見つめ合い、そしてのろけ合う姿に周りの者が当てられて恥ずかしくなった、幸せそうで何よりだが、時間も迫っている事から玄関へと向かった。トミーはミリーに肘を出しエスコートをしているが、その姿は緊張からか既にカチコチで、教会で転ばないかと心配になる程だった。


 玄関前には既にリアムを先頭に従業員達が待ち構えていた。そしてクルトが連れてきてくれた星の会のメンバー達も集まってくれていた。

 トミーと同じ服装で着飾ったタッドとゼンも居て、とっても可愛らしいかった、ステラもミアの抱っこで二人をお出迎えしている。皆が大きな拍手をトミーとミリーに送った。


「二人共おめでとう」

「あ、ありがとうございます!」

「トミー、今からあまり緊張してると一日持たないぞ」

「は、はい!」


 リアムにポンポンと腕を叩かれたが、トミーの緊張が解けることは無かった。皆それを見てクスクスと笑って居る。


「母さんとっても綺麗だ!」

「まあ、タッド有難う」

「トミーのおじさん、あー、”父さん”、母さんを宜しくお願いします」

「タ、タッド! おう! 任せとけ!」


 タッドにお父さん呼びされて感極まったのかトミーは泣きそうになってしまった。ニカノールがハンカチを出しサッサッと目元をぬぐう、一番肝心なことがこれから待っているのにその前に泣かれるわけには行かないからだ。


「あー、”父さん”、今日は俺と兄ちゃんはピートの家に泊まるから安心して頑張ってよね!」


 ゼンがそうトミーに告げると、トミーとミリーは真っ赤な顔になってしまった。皆がそれを見て嬉しそうに笑って居る。ニカノールだけはこの寒い中、汗をかきだしたトミーの額にハンカチを押して拭いていた。汗と涙の対応で大変そうだった。


「さあ、からかうのはここまでだ、皆二人を送り出すぞ」


 トミーとミリー、タッドとゼン、そして付き添いでニカノールがかぼちゃの馬車へと乗り込み、幸せそうに手を振りながら教会へと出発していった。私は門を抜けていく馬車を見送ると、サシャの方へと振り返った。


「さあ、戦争ですよ! 準備に取り掛かりましょう!」

「はい!」


 こうしてトミー一家を見送った後、私は戦場となる結婚披露パーティーの会場のスター・リュミエール・リストランテへと急いだのだった。

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