第254話 秋祭り

 遂に秋祭り当日を迎えた。

 リアム達はやっぱり今回の祭りも大忙しで有った。


 タルコットも領主として勿論祭りに参加している。今回のかぼちゃ料理コンテストでの優勝者には、タルコットからの祝いの言葉と、賞金がもらえることになっている。 

 領主邸でもそうだが、ビール工場でも料理人としていい人材がいたら雇い入れたいそうで、タルコット達の出場する料理人を見る目は怖い物があった。


 そこはスター商会も同じである。これから王都に店を構えることを考えると、全てにおいて人材が足りない、今回いい料理人が居たらスター商会で雇う気満々で有った。


 その為今日のタルコットやリアム達は皆目が怖かった。お互いライバルなのでギラギラしている。私はなるべく近づかないようにしようとこっそり決めていたのだった。


 今回スター商会からの秋祭り料理コンテストの参加者は、モシェ、ボビー、ウィル、サムだ。パティシエであるナッティーとルネは参加しなかった。お菓子大会が有ったら参加したいと言って居たので、今度お菓子大会も開催しようと私が声を上げると、頼むから暫くは止めてくれとリアムとタルコットに懇願されてしまった。

 確かにまだ春祭りも、冬祭りもこれからある為、暫くは無理かなと納得したのだった。


 王都に行ったら開催しても良いなと話すと、苦労する仲間が増えそうだぜとリアムが嬉しそうに言っていた。やっぱり仲間が増えるのはどういう事でも嬉しい様だ。


「ララ様、そろそろ会場に向かいましょうか」

「料理の祭ってやつは何だかワクワクしますぜ」


 私はアダルヘルム、マトヴィル、クルト、そしてベアリン達と一緒にこれから会場入りだ。これだけの人に囲まれている私を襲おうとする人はまず居ないだろ……ただし……とっても目立つ……


 アダルヘルムとマトヴィルはいつもの事ながら、美しいと言う理由で目立っていて、既にスター商会の前には出待ちのファンが多く待ち構えている状態だった。

 そしてクルトだが、クルトは奴隷の腕輪をしている為、気付く人はやはり居る、それなのだが男気があって体はガッチリしているのに甘い顔をしているので、以外と人気がある。それも何故か男性にだ。時折 赤い顔をした男の人に 「助けて頂いた者です」 と声をかけられている。スラムでは随分人助けをしていた様だった。


 そして何と言ってもベアリン達だ。まず背が高い。それにベアリンは横にも大きい。狼なのに私が熊だと勘違いする程のガッチリさだ。

 その上、ベアリンの仲間であるバーニー、ファルケ、ハーン、カシュが大きな声で「ララの姉貴」「アダルヘルムの兄貴」「マトヴィルの兄貴」などを道端で言うのだ……目立たない訳が無かった。困った物である……


 という事で私達はビール祭の時よりも多くの領民を引き連れて料理コンテストの会場まで向かった。壇上から私達を見たタルコットやリアム、そしてベルティまでもが唖然として口を開けてこちらを見ている事が分かった。

 前回が1クラス分だったとしたら今回は学年移動ぐらいの多さだ、驚かれるのは無理も無かった。


「ララ……あんた、目立ちたくないって言っても……これじゃあ誰も信じないよ……」


 呆れた様子でそう呟いたベルティに、返す言葉はなかった。


 はい。ごもっともです……


 タルコットの挨拶が終わるとかぼちゃ料理コンテストがメインの秋祭りは始まった。今回こそはビール祭の様に大規模にならないようにと、気をつけて小さい祭にしようとしていたのだが、やはり噂を聞きつけた商人や貴族達が他領から多く押し掛けていた。


 プリンス伯爵を含めた ”星の会” のメンバーも祭に来たがっていたのだが、スター商会のメンバーが大会の出場者として参加する為、申し訳無いがお断りさせて頂いた。スター商会に泊まっても接待する事が不可能だったからだ。


 領内のホテルは既に満室だった為、”星の会” のメンバーには泣く泣く諦めて頂いた。ただし、”星の会” のメンバーにはブルージェビールの新商品である、黒ビールを試作品として送らせて貰った為、それで何とか我慢して貰えたようだった。

 ただし、メルキオッレに会えないのが私はとても残念で、お祭りで喜ぶ可愛い姿を近くで見たかったなとがっかりしたのだった。


 秋祭りが音頭と共に始まると、大会参加者の屋台も開店となった。


 大会の受賞者は審査員の得点と領民達の得点で決まる予定だ。領民の得点の入れ方は簡単だ。購入した店で配られる店舗名が書いてある紙を壇上の箱に入れるだけだ。

 気に入った店が複数有ればそれだけ入れられるし、同じ店で何度も購入しても良い。領民の入れた紙は1ポイントだ。

 審査員は10ポイント持っている。それをどう使っても良い。10ポイントを一店に全て上げても良いし、気に入った店が10店舗有れば1点ずつ分けても良い。使い方は自由だ。その集まった得点が一番高い人が今回の優勝者となるのだ。スター商会代表の四人にも頑張って貰いたい物である。


 審査員として壇上で待っていると、今日の露店の全ての料理が運ばれてきた。審査員はここで味見をして投票するのだ。

 実は私はスター商会の参加者たちが作っていた物を知っていた、自分が審査員長になるとは思ってもいなかったので仕方が無いだろう。本来ならタルコットが委員長だったはずだ。それが私に回っていきたのは聖女の噂が有る事と、大人しくさせるための理由なのだ。

 確かに朝のあの状態で露店を回ることになっていたら、祭りの警備主任を担当しているメルキオールには大迷惑を掛けていただろう。

 アダルヘルムとマトヴィル見たさに押し掛ける人の多さで動くたびに危険だっただろうと思う、壇上に居れば取りあえずは多くの人に見える位置に居るため、店には迷惑を掛けることは無い、それだけでも十分に役に立てた気がするのだった。


「これが全てかぼちゃ料理なのですね……」

「くー! 楽しみだな、俺は全部味見するぜ」

「兄貴たち、俺がお取りしますぜ!」


 アダルヘルムとマトヴィルとベアリンが仲良く試食している様子を見ながら、私も試食を始めた。

 どの店の作品も思考を凝らしていて面白い、田舎の伝統的なかぼちゃ料理の煮物もあったり、斬新な料理ではかぼちゃで無理矢理肉料理の物を真似している物もあった。こちらは残念ながら微妙な味だったが発想は面白いなと思った。


 しかしながら贔屓目を抜いてもスター商会の四人の料理が抜きんでていると思った。

 ボビーはパン屋の店長らしくかぼちゃのパンを出していた。スティック状で食べやすい物だ。

 サムはかぼちゃのドーナツだった。可愛い形にしてあり子供たちに人気だった

 ウィルは温かいスープだ。スター・リュミエール・リストランテの物とは違い、具がしっかりとある物だった。

 そしてモシェはかぼちゃのコロッケだ。実はこれはモシェの恋する相手であるナッティーの実家がコロッケの有名店で有る事から、自分の気持ちをアピールするためにコロッケにしたのだ。それがナッティーに届いて居るかは分からないが彼なりの告白の様だ。分かってもらえたら良いなと思った。


「ララ、どうだ、味見は出来たか?」


 リアムが商人の笑顔を張り付けたまま私に近づいてきた。今日は、いや、今日も取引を望む多くの商家の人間に声をかけられて大変の様だ。私も壇上に居なければ噂の聖女として声を掛けられていたかもしれない、そう思うと審査員でありがたかった。


「リアムお疲れ様。もうお腹いっぱいだよ……取りあえず審査は出来たかな……」

「さっきノアが衣装係のメンバーと楽しそうに露店回ってたぞ」

「今日は私にはアダルヘルムとマトヴィルがついて要るからね、ノアはマイラたちの護衛かな」

「……護衛ねー……」


 どうやらノアは女性陣にとっても可愛がられて居たようで、リアムからしたらとても護衛には見えなかったようで、その甘えん坊の様子にリアムは苦笑いを浮かべていたのだった。


 投票も落ち着いてきて開票作業に入ることとなった。その間に露店は片付けに入る。今年はお試しの為小規模開催としたが、これだけ盛り上がったので来年は大規模にやるようだ。

 一日目は料理対決にし、二日目はかぼちゃの重さ対決にする予定だとイベント担当者のローガン、ヒューゴ、オーギュスタンは言って居た。

 今日が終われば次は冬祭りの準備だ、彼らはこれからずっと忙しい日々を過ごすことになるだろう。


 開票作業は魔道具であっと言う間に終わった。会場の片づけが一段落するのを待っての開票だ。

 参加者は壇上近くへと集められる、そこで自分が呼ばれるのを待つのだ。


 タルコットが中央に立ち発表が始まる。私も審査員長としてタルコットの隣に立った。あちらこちらから ”聖女様” との声が上がる、ブルージェ領内ではこの噂が先日の癒しのせいで止めようがなくなってしまったので、私は既に諦めていた。

 せめて聖女風に少しでも見えるようにと笑顔は絶やさないで置いた。そのおかげか、手を振り返せば、喜んでくれる人もいてホッとした。

 ただし私の護衛の為に、アダルヘルムとマトヴィルが怖いぐらいの視線を会場に居る領民に送っていたために、倒れる人が多くいてメルキオール達は大変そうだった。

 美しいとは罪深い様だ……


 タルコットの手によって先ずは三位から発表された。


「三位、スターベアー・ベーカリー、ボビー、かぼちゃのスティックパン」


 ボビーの名前が呼ばれると わー! と歓声が上がった。「美味しかった物ねー」との声も聞こえてきた。師匠であるマシューも嬉しそうだ。ボビー本人は緊張した面持ちで壇上に上がると、タルコットから労いの言葉を貰って少し涙ぐんでいたのだった。頑張りが認められて良かったと思った。


「二位、タインの街出身、アメリア、我が家のかぼちゃ煮」


 アメリアという女性の名が呼ばれると、また わー! と歓声が上がった。アメリアは主婦でありながら今回この大会に参加してくれたようだ。涙目になりながら家族と一緒に壇上へと上がって来た。領主であるタルコットに声を掛けられると震えて旦那様に支えられていた。緊張したようだった。


「一位、スター・リュミエール・リストランテ、モシェ、かぼちゃのコロッケ」


 モシェの名が呼ばれると大歓声が上がった。かぼちゃのコロッケは大人気で圧倒的勝利だったのだ。マシューも息子が一位を取った事が嬉しい様で、普段見せない笑顔のいなっていたのだった。

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