第194話 浮かれポンチ
「ふんふんふーん、ふふふふっふっふーん」
私は良いこと続きにとっても浮かれていた。今日も朝早くから目が覚めてご機嫌だ。一緒の部屋で寝ているセオも私の浮かれ具合にため息をつく。でもそんな事はまったく気にならない位に私はご機嫌で有った。
アーロとミアからの妊娠の報告があった日、ディープウッズ家の屋敷に戻った私は、早速図書室へと名付けに関する本を探しに行った。出来るだけ皆に愛される可愛い名前を付けて上げたいと思い、私は図書室にあるだけの名付けの本を持ち、自室へと籠った。
出産まではまだまだ時間があるので、名前はゆっくり吟味する予定だ。女の子、男の子どちらが産まれてもいい様に両方の名前を考えておきたい。楽しくて、楽しくて、少しだけ寝るのが遅くなってしまい、セオに本を取り上げられてしまった私であった。残念。
ディープウッズ家の皆にもアーロとミアの事と、トミーとミリーの事を伝えた。皆幸せが増えたことに喜んでくれて、今度屋敷に呼んでお祝いをしてあげようとの事になった。私も大賛成だったのだが、ディープウッズ家に来ると緊張してお腹の子供に影響があるのではとリアムに言われて、それもそうかもしれないと、取りあえず安定期に入ってから相談してみようとの事になった。そんなちょっとした事でも色々と考えるのが、とても楽しくてしかたない。幸せ最高である。
私からリアムにミアの妊娠の話が伝えられた後、どうやら ”スター商会首脳会議” が有ったようだ。会頭の私を除いてである。おかしな話だ。
とにかく私の浮かれ具合が酷いというのが議題だったようで、このままでは仕事が増えすぎて、スター商会が立ち行かなくなってしまうのでは無いかという物だったらしい。
セオにも相談するから何とか私を止めようとなったらしいが、結局誰も良い案が浮かばなかった様だ。その上今はノアが居るため、二人でどんどん話を進めてしまうので、手が付けられないとなったらしく、結局人材を増やす方がよっぽど楽なのでは無いかとの話でまとまったようだった。
勿論そんな情報は私には届いてはいない。自分がリアム達を忙しくさせて居ることに、浮かれている私は全く気が付かないままなのであった。
「ララ、良い名前は見つかったの?」
身支度を整えた、すっかり騎士らしくなってきたセオが私に問いかけてきた。セオもルイもここの所背がぐんと伸びている。もうすぐ12歳なのでそれも当然だ。オルガとも背が変わらなくなってきていて、とってもカッコ良くなって来た。騎士学校でモテモテになってしまうのではと、親ばかの私は少し心配なのであった。
私はそんなセオに首を振り答えた。まだこれだと言う名には出会っていないからだ。
「セオの時はこれしかないと思っていたんだけど……やっぱり顔を見ていないからピッタリくるものが思いつかなくて……」
セオが少し大人っぽくなった表情でクスリと笑った。リアムがここに居たら真っ赤になりそうな笑顔だ。独り占めしていて少し申し訳ない気持ちになった。
「じゃあさ、候補をいくつか決めておいて、生まれたら顔を見て決めればいいよ。そうすればきっとララの事だから良い名前がひらめくと思うよ」
セオの言葉に頷く。そうそれは勿論分かっているのだ。でも浮かれ気味の私は、名付けの本をその後も手放せないのであった。
ノアを起こし、身支度を整えさせると、スター商会へと向かった。今日は朝一番にスター・リュミエール・リストランテの店長であるサシャの所へと向かう。サシャにウエディングパーティーの話をして、担当を決めて貰う為だ。従業員をよく見ているサシャならすぐに候補を上げてくれるだろう。
スター・リュミエール・リストランテに着くと、まだ開店には時間がある為に店内は落ち着いた様子であった。サシャは店長室にいる様なので、早速向かってみることにした。サシャは私達を室内のソファへと促してくれると、お茶を入れてくれた。店長室にもすっかりとなれた様子で、始めの頃店長と聞いて驚いていたとは思えないほど板について落ち着いた様子だった。
「サシャ、開店前の忙しい時間にすみません」
私が謝るとサシャはアイドルが見せる様な可愛い笑顔で首を振った。邪魔だと思うのに優しく接してくれるサシャにほっこり心が温かくなった。
「それで、ララ様、お話とは?」
「はい、レストランで【ウエディングパーティー】を行おうと思っているのです」
「うえでぃんぐ? パーティー?」
「はい、結婚のお披露目会ですね」
私はリアム達に話したウエディングパーティーの内容をサシャにも伝えた。トミーとミリーの事も話して、最初のウエディングパーティーは二人の為に行いたい事を話した。それから、パーティーに必要な物の話などもして、専属の担当者も欲しいのだと伝えた。一気に話したせいかサシャは少し青い顔になっていたが、頷いていたので内容は分かってくれた様だった。
「ララ様……この件はリアム様は……」
サシャが心配げな表情で聞いてきたので、ニッコリと微笑み安心させるように頷いた。サシャはホッとしたように息を吐くと、担当はフレヤが良いと思うと教えてくれた。
開店準備中だったフレヤをサシャが呼んできてくれた。フレヤは店長室に会頭である私がいたことで少し緊張したような表情になったが、何とか笑顔を保ち席へと着いた。フレヤは落ち着いた女性といった印象だ。ノアも甘えられそうな女性が来たことで、退屈そうだったのに元気になっていたのだった。
「あの……お話と言うのは……」
開店前で時間も無いだろうから、私はフレヤの問いかけに頷くと早速話をすることにした。サシャに話したことと同じ内容を伝える。一般庶民がこのレストランを貸し切ってパーティーが出来るのかとフレヤは驚いていたが、これからブルージェ領は景気が良くなる予定だと話すと、ララ様がそうおっしゃられるのならと納得してくれたのだった。
「それで、フレヤには【ウエディングプランナー】になって頂きたくて」
「うえでぃんぐ? ぷ? ぷらんな? でございますか?」
私は頷きウエディングプランナーの仕事を説明した。結婚披露会の段取りやカップルの意向を聞いたり、提案したりするのだ。ドレスなどはマイラやブリアンナと相談してもらい、花嫁が気に入ったものを選べばいいと思うが、会場の設置や料理などやることは沢山あるので、店長であるサシャや料理長であるマシューとの話合いも重要になってくる。大変な仕事だが、サシャ推薦のフレヤに任せたいと伝えると、フレヤは嬉しそうに頬を赤らめた。
「ララ様、私は是非やらせて頂きたいと思います。挑戦させてください!」
元々フレヤたちウエルス邸から来た三人は、レストランで働きたいと希望を出して異動してきた者たちだ。だからこそ仕事にもやる気があり、今回の事もとても嬉しそうに喜んでくれた。やはりサシャは見る目があるなと思ったのだった。
フレヤに最初にこのレストランで披露会をするのはトミーとミリーの予定だと教える。なので打ち合わせもやり易いだろう。それから勿論私やノアも協力する話を伝えた。トミーとミリーの大切な門出だ会頭である私が精一杯お祝いしてあげたいのだ。
「フフフ、街の人ものぞけるようにして、大いに宣伝したいですね……中庭辺りまでは誰でも入れるようにしても良いかも知れません……後は従業員のお祝いという事で領民に無料でお酒をふるまってもいいかも知れませんね……」
そう言ってニヤリと笑った私の顔は、少し悪どい顔になっていたのかもしれない。サシャとフレヤの顔を見てみると何故か青くなっていたからだ。二人が心の中で、逐一リアムに報告しなければ危険だと思っている事などまったく気が付かない私なのであった。
ウエディングプランナーも決まった事で、リアムの執務室へと向かう事にした。ご機嫌な私はここでも鼻歌だ。ノアも私に合わせて鼻歌を歌ってくれている。仲良く手を繋ぎながらスキップをすれば、益々楽しい気持ちになった。嬉しすぎて幸せが溢れ出しそうだった。
リアムの執務室では今日も忙しそうだった。私とノアが手を繋いだままご機嫌で部屋へ入ると、リアムは何故かうんざりした様な顔になっていた。きっと最近はセオと仲良くする時間もないぐらい忙しいので、私とノアの仲良しさが羨ましいのだろうなと思った。
私が良い話を持って来たのに、リアムは余り聞きたくない様な顔であった。両思いの人を祝う仕事はもしかしたらリアムにはキツイのかも知れない、これは私が頑張らなければと益々気合いが入ったのであった。
「リアム、フレヤが【ウエディングプランナー】になってくれる事になったの!」
リアムはやっぱりか……と言うような表情を私に向けると、ウエディングプランナーとはなんだ? と話を聞いてきた。私はフレヤに伝えたのと同じ事をリアムにも説明をした。リアムは あー とか んー とか疲れきった様な返事を返して来た。やっぱり辛い恋を抱えているリアムには、今は人を祝う気持ちにはなれない様だ。可哀想に……
「リアム大丈夫! リアムは何もやらなくても大丈夫だよ!」
「はっ?!」
「全て私が企画するから問題ないからね!」
リアムは副会頭として曖昧な返事をしてしまった事を後悔しているのか、少し青い顔になった。リアムの仕事の大変さはよく分かっているので、私に出来る事は任せて欲しい物である。今はノアも居るので魔道具作りも以前よりずっと楽である。説明しなくても通じ合えるので、アレ作って、コレ作ってと言うだけでノアはササっと作ってくれるのだ。ノアは力強い味方である。可愛いだけの甘えん坊ではないのだ。
「ララ……お前は、あー……庶民の結婚に疎い……だからフレヤとは俺が話をする……とにかく何かやる前に俺に相談して欲しい……」
リアムは力が抜けた様な喋り方をした後、手で顔を覆ってしまった。開店後も続く忙しさで疲労困憊っといった所だろうか。何か役に立てればと思う。やはり沢山商品を作ってリアムを喜ばせる事しか私に出来る事は無いようだ。
私は立ち上がりふんっと気合いを入れると、疲れきっているリアムの肩に手を置いた。そして元気付ける言葉を伝えた。
「リアム、リアムが喜ぶ様に沢山商品作るから、任せてね!」
リアムは嬉しすぎた様でソファに倒れ込んでしまった。良かった。良かった。
ランス達が喜び過ぎて倒れてしまったリアムを何とか起こしてあげたので、私は甘味好きなリアムの為に魔法鞄から最近作ったオヤツを出すことにした。その間もランスやジュリアン、ローガン、双子達はリアムに 「私達がいます!」 みたいな事を話し掛けていた。嬉しさを共有しているようで、青春ドラマの様であった。
「リアム、どうぞ。新しいデザートですよー」
デザートと聞いてリアムは少し元気になったのか、起き上がりテーブルの上に目を向けた。喜びあっていた皆も新作デザートに興味を持った様で、同じ様にテーブルのデザートを見ていた。ノアは食べなくても大丈夫な体なのに、一番に手を出し、すでに食べ始めていた。セオとルイはクスリと皆の様子を笑っていた。
「ララ……これは……何だ? 鮮やかで綺麗だが……」
「コレは【フルーツポンチ】です!」
「フルーツ……ぽんち?」
リアムは美味しそうに食べながらも笑顔では無く、怯えている様な表情を私に向けてきた。聞いた事のないデザート名に、変な物でも入っているのではと思ったのかも知れなかった。
「これをウエディングパーティーの時に出したいと思ってるの、それにね、【白玉】を入れたり炭酸を入れたりお酒を入れたりも出来るの、それに季節のフルーツを使えるから、時期毎に違った味が出せて面白いのよ!」
「ララ、スターベアー・ベーカリーのイートンスペースで食べられる様に出してみたら? これから暑くなるし、凄く売れると思うよ」
「なるほど! 流石ノアだね! 良いと思う! スターベアー・ベーカリーでは普通の物をだして、パーティーではお酒と炭酸の物を作って、少し特別感をだしても良いよね!」
「流石ララだね。じゃあ僕はフルーツカットが簡単に出来る魔道具でも作ろうかなぁ」
「ノア! 凄い! 有難う! リアム、益々売上伸びるよ、良かったね!」
リアムの方に振り返るとフルーツポンチを食べ終わって、またソファに横になっていた。お腹いっぱいで眠くなったのかもしれない。ただ、ボソリと 「悪夢だ…… 」 と呟いていたので、夢見が悪かった様だ。セオとルイは同情した表情でフルーツポンチを食べていたのだった。
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