第186話 閑話27 和食販売会

 私とビルは和食が大好きだ。

 スター商会に行った時にお昼のタイミングが合うと、和食の話を良くする。この世界のお米は前世に比べて少しパサパサ感がある為、もっとモッチリとした美味しいお米が食べたいのだとビルに話すと、「マルコとノエミに研究して貰いましょう」 と心強い事を言ってくれる、とっても頼りがいのあるビルなのであった。


 そしてこの和食同好会と名付けた会合に、最近はカイとジェロニモも参加する様になっていた。カイは兄であるビルが 「惚れた!」 と話す食べ物に興味があるからで、ジェロニモは以前食べたおにぎりが忘れられなかったからでもあった。


 でも、ジェロニモは梅干しおにぎり食べて、悶絶していたのでは?


 と思ったが、せっかく出来た貴重な仲間を減らすわけにはいかず、大人しく突っ込まなかった私なのであった。


 そして今日も4人でヒソヒソとお昼休みを使い、和食談義に花を咲かせている私達なのであった。


「【お正月】は【お節】ですかねー」

「お、おしょうがつ? お、せち? 不思議な名ですね……」

「雪の月(2月)は【恵方巻】でしょうか……」

「また不思議な名ですね……」

「季節事に料理があるなんて、和食は奥が深いですねー」


 「何か食べてみたい料理はありますか?」 と質問してみたところどんな料理が和食にあるのかが分からないということで、寮で出る食事の他に季節の料理などを和食好きの仲間に少しずつ説明しているところなのであった。


 ジェロニモはお米が好きだといい、おにぎりもそうだが、何よりも寮の食堂で食べられる丼物が好きらしい、赤豚のかつ丼が今一番のお気に入りのようだ。

 ビルもおにぎりとお味噌汁のセットが好きなようだが、夕飯に食べるとしたら唐揚げ定食が一番のお気に入りのようだった。カイも横で話を聞きながら 「あれは旨い!」 と合いの手を入れていたのだった。


「揚げ物もいいですけど、焼いたお魚や、煮つけなんかも美味しいんですよ。本当は生のお魚が手に入るのなら海鮮丼を作りたいんですが、この辺りだと、川魚が多いしなかなか難しいですよねー」


 生の魚を食べると聞いて皆が驚いた顔になった。卵も生で食べるのは嫌悪感があるため、生魚はもっとあるのかもしれなかった。でもいつか美味しいお刺身で作ったお寿司なんかを食べさせてあげたいな。とちょっと母親気分になれたのだった。


「そうそう、ジェロニモ、日本酒好きでしょ? あれもお米で作ってるんだよー」

「そ、そうなんすかっ?!」

「今度一緒に作りましょうか?」

「ええっ! 是非お願いしやす!」


 ジェロニモは嬉しそうに頷いた。お酒好きなだけあって日本酒造りは楽しみなようだ。ビルもカイも仲の良いジェロニモが喜んでいる姿を見て幸せそうに微笑んでいた。

 おいしい食べ物は人を幸せにするようだ。さすが日本食だけなことはある。


 お昼休みの楽しい和食同好会のミーティングを終えると、私は自分の執務室へと戻った。セオが今受験前で私の傍にいたいため、なるべく大人しく自室に籠るようにしているのだが、お昼時にビルたちと話をしたため、なんだか料理がしたくなってきたのだった。


 そういえば先日ルイの訓練のためディープウッズの森の中へと行き、魔獣を沢山倒したことを思い出した。訓練なので、ほぼセオとルイが倒したものだが私はそれを集めるのを担当していたので、今魔法鞄の中には魔獣が沢山入っているのだ。特に初心者でも倒しやすいレッカー鳥はルイの練習台として沢山倒した為、あふれんばかりに入っている。私はそれを使って料理をしようと思いついたのだった。


 とりあえず何か作る前にリアムに部屋を離れることを報告に向かった。リアムの執務室へ入ると相変わらず忙しそうにしていた。お盆の上にお皿とグラスがあることから、この部屋でお昼をとったのだろうなということが分かったのだった。

 そんな忙しそうなリアムに声をかけ料理をするために下へと降りることを伝えた。リアムは料理なら何の問題もないと笑顔で見送ってくれたのだった。


「出来たら持ってくるから楽しみにしててねー」


 リアムだけでなく、部屋にいるランスやイライジャ、ジュリアン、ジョン、ローガン、そして新しく入った双子たちまでも嬉しそうに頷いてくれたのだった。


 私は台所で大量にあるレッカー鳥をまずはさばいた。100匹近くいたとしても魔法を使えば自動化できるので楽勝だ。次に肉を刺す串を作りそれに細かく部位ごとに分けた肉をこちらも自動化でじゃんじゃん刺していく。吞兵衛には塩味が良いだろうが、子供にはたれ味が良いだろうと、焼きあがった肉を付けるたれも作った。そして裏庭に行きキャンプ用に作った炭火焼き魔道具を並べれば、準備は完璧だ。

 そうこれから皆の為に焼き鳥を焼こうと思っているのだ。


 その前にドレスを汚さないために自分で作った作業着に着替えた。少し背が伸びたのでそろそろ新しく作りかえないといけないなと、袖を見て思った。そして裏庭に戻ると早速串に刺した肉をどんどんと焼き始めた。


 ほぼ自動化で済むので私のやる事と言ったら、下処理をした肉を魔法袋から出し並べ、焼きあがったら別の魔法袋に入れるぐらいだ。煙は風魔法を使い自分に掛からないように外へ流れていく様にした。

 じゃんじゃん肉を焼いていたら匂いに気が付いたのか子供たちが庭へとやって来た。時計を見ればおやつの時間だ。テーブルセットを出してあげて、子供たちに焼きたての焼き鳥を出してあげた。


「皆焼き鳥だよ。ももに皮にねぎま、それにハラミ、ボンジリ、はつ、レバーに軟骨もあるからね。好きなだけ食べていいよ、まだまだたくさん焼くからねー」

「「「「やったー! ララ様大好きー!」」」」


 子供たちは席に着くと夢中になって食べだした。塩味もたれ味も文句なく美味しい様だ。用意した焼き鳥は売るだけあるのでいくら食べても無くなることは無い。遠慮せずにたくさん食べるようにと話していると、トミーがこっちに走ってくるのが見えた。血相を変えて物凄い勢いだ。焼き鳥が無くなってしまうと思って慌てているのだろうか。


「ララ様! た、大変です! この匂いに釣られた領民が沢山スターベアー・ベーカリーに押し掛けていて、大変な騒ぎになっています!」

「えっ?!」


 確かに自分に煙が掛からないようにと風魔法で煙を飛ばしたが、どうやら飛ばし過ぎたようで、街中に広がってしまったらしい。匂いの元がスター商会だと気が付いた領民が、この香ばしい良い匂いの商品を売って欲しいとスターベアー・ベーカリーの前で騒いでいるようであった。

 取りあえず、トミーを落ち着かせるためにお茶と焼き鳥を一本渡す。トミーは嬉しそうに受け取ると、一口食べて 「んんーん!」 と唸っていた。

 トミーが二本目に手を出そうとしている所へ、アーロに連れられたリアム達がやって来た。先程のトミーの様に血相を変えていて怖いぐらいだった。


「ララ! 何をやってるんだ?!」

 

 怖い顔をしているリアムにも取りあえず、お茶と焼き鳥を渡してみる。ジロリと私を睨んでから焼き鳥を口にするとリアムもトミーの様に唸った。


「ん! んんーん!」


 リアムとトミーそして子供たちの姿を見て、リアムと一緒に来た皆がごくりと喉を鳴らしたので、皆にもお茶と焼き鳥を渡す。先程までの怖い顔がほころんで笑顔になった。


「リアム、美味しいでしょう? 焼き鳥だよ」


 リアムは次の焼き鳥に手を出しながらコクコクと黙って頷いている。美味しくて喋る時間が勿体ない様だ。私は焼きだめして魔法袋に入れた焼き鳥を、そのまま魔法袋に入れた状態でリアムに渡した。まだまだ焼く予定なので、売る程あるからだ。


「リアムこれ、売っても大丈夫な焼き鳥だよ。10本で1ブレでーー」

「1本1ブレだな! よし! すぐにスターベアー・ベーカリーに行くぞ」


 リアムは後ろ髪を引かれる様に今焼いている焼き鳥に視線を送っていたので、ちゃんと夜お酒のおつまみ分の焼き鳥はとって置くと約束すると、嬉しそうに頷き。渡した魔法袋を持ってスターベアー・ベーカリーの方へと走って行った。

 私は続けてまだまだ焼き鳥を焼いて行く、これから食べる皆の分と、スターベアー・ベーカリーに押し寄せている客の分だ。きっと先程渡した物だけでは足りないだろ。


 焼き終われば子供達が魔法袋に入れてリアムの所へ持って行き、また空いた魔法袋へ焼いた焼き鳥を入れると言う事を繰り返すと、全ての用意した肉が無くなり、店でも完売となって、何とか領民達を満足させる事が出来た。


 流石に私も自動化で焼いていたとはいえ、ずっと作業をしていたのでクタクタになった。それはお手伝いをした子供達も販売したリアム達も同じ様だったらしく、皆閉店作業を終えると疲れから寮の食堂でテーブルに突っ伏していたのだった。それだけ凄い客の入りだった様だ。


 私は皆を労うためにポーションを飲んでからお疲れ会の準備を始めた。

 それをミアやミリー達が手伝ってくれる、その姿を見た男性陣も先程の焼き鳥にあり付けると有って皆が作業を手伝い始めてくれた。皆のお陰で準備を終えると、やっと私達も焼き鳥パーティーを始めることが出来た。リアムの音頭で乾杯をして飲み会も始まった。

 焼き鳥の美味しさからか、急な販売会の疲れからか、お酒の進みもとてもいい様だった。


 椅子に座り一息ついているとリアムが寄って来た。手にはお酒と、焼き鳥を持っている。そして酔っているのか上機嫌の様だ。赤い顔をしてニヤニヤしながら私に近づいてくると、がばっと肩を抱かれた。


「よー、ララ元気かー? おっ疲れさーん」

「もう、リアムお酒臭いよー」

「そうかそうか、俺も好きだぞー」


 リアムはそう言うと私に頬擦りして来た。お酒臭いので思わず渋顔になってしまう。私とリアムが取っ組み合いの様な事をしていると、見かねたランスが助けに来てくれた。


「リアム様、ララ様が困っておられますよ、離れて下さい」

「おーランス、飲んでるかー?」


 ランスはまるで子供をあやすように 「はいはい」 と言ってリアムを椅子に座らせると、お酒を取り上げて水を渡した。慣れた手つきで普段からの様子がうかがえた。

 ランスはリアムが水を飲むのを見ながら私に話しかけて来た。イライジャもいつの間にか私達のそばに居て、話を聞く気満々の様に見えた。


「ララ様、今日は何故急にあのような事を?」


 ランスは私が急に焼き鳥を焼き始めたことを不思議に思っていたようだ、なので和食同好会の話をして、そこから急に料理がしたくなったことを伝えると、少しホッとした様子に見えた。


「では、これから毎回あの臨時販売会があるわけではないのですね?」


 今度はイライジャが私に質問してきた。ランス、イライジャと商売に詳しい二人が心配そうに私を見て来たことで、もしかしてこれは期待されているのかな? と流石に私も気が付いた。

 この販売会を毎月開催すればスター商会は益々人気となり、売り上げも伸びて王都に店を構えるのもすぐに叶いそうだ。二人が私に話しかけて来た意図をすぐに理解できる大人の私なのであった。


「二人の気持ちは分かりました!」

「「えっ? ララ様?」」

「これを毎月のスター商会の催し物といたしましょう!」

「「へっ?! いやいやララ様、そんな――」」

「大丈夫です! 心配いりません! これぐらいの疲れは問題無いですから、二人の希望通り和食販売会は毎月恒例にしましょうね」」

「おーう! 良いぞー! ララやれやれー」


 酔っ払いのリアムが赤い顔で相槌を入れると、ランスとイライジャが青い顔になった。酔っ払いが口をはさむなという事だろう。売り上げが気になる二人はもしかしたらリアムに反対されるかもと思ったのかも知れないが、リアムはすっかり乗り気で 「俺もやるぞー!」 と言って居る。ランスとイライジャは酔っ払いに渋い顔で頭を抱えてしまった。

 

「ふっふっふ、ランス、イライジャ任せて下さいね。次はもっと大々的にやりますよー!」


 気合を入れた私を見てランスとイライジャは、何故か最近よく見せる無我の境地を開いていたのだった。相当嬉しい様だ。


 次の日この話し合いの事をランスとイライジャから聞かされたリアムは真っ青な顔になり、二日酔いのせいもあって寝込んでしまったようだった。そうとは知らず私はディープウッズの屋敷で次の和食販売会に向けてのメニューを練るのであった。


 和食を売るぞー!

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