第174話 スター・リュミエール・リストランテ開店
リアム達と受付予約を開始しているスター・リュミエール・リストランテへ様子を見に行くことにした。
スター・リュミエール・リストランテの従業員であるサシャ、ゲルマン、イリーナ、フレヤだけでは手が回らないため、イライジャとローガンが手伝いに行って居る。人手が足りているのか、その様子を見に行きたいのだった。
ゲルマン、イリーナ、フレヤの三人は元はウエルス家の使用人だったが、リアムの声掛けでスター・リュミエール・リストランテに勤めることを決めてくれた。
使用人としての教育が行き届いていたことから、サシャの指導の元あっと言う間にレストランのホールの仕事も覚え、スター商会の従業員が客の代わりをするプレオープンの時も、しっかりと背客が出来ており全く問題が無い様であった。
ただやはり本格的な開店となると、プレオープンの時とは違い緊張しているようであった。結局プレオープンは身内しかいないため、失敗してもそれ程問題が何のである。なので ”本当のお客様” というのは別物なのであった。
これは会頭である私の責任だと思うので、今後はそう言ったことも考えて行きたいと思った。何故ならまだまだこれから店は建てて行く予定だからだ。王都にも店を建てる気満々の私は、今回の事を生かしていきたいと思ったのであった。
王様とお友達になってプレオープンに来てもらうのが一番の練習だよね。これ以上緊張するお客様っていない物……でもアダルヘルムには怖くて言えないけどね……
王族嫌いなアダルヘルムには絶対に言えないし、リアムも頭を抱えそうな、王様とお友達計画をかなり本気で考えていた私なのであった。
スター・リュミエール・リストランテに裏口から入って見ると、開店前なので入口の所で予約の受付を行っていた。サシャとゲルマンそしてイライジャとローガンがセットになり予約を取っていた。
開店したらサシャとゲルマンはホールスタッフの仕事に戻る為、イライジャとローガンだけで予約受付を担当する予定だが、並んでいる人を見ると、これは今日はこの二人はこの仕事だけで一日が終わりそうだなと、思うほどの人数で有った。
リアムがその様子を見てジョンに指示を出し、ウエルス家からの応援をお願いしていたので、誰かが手伝いに来てくれることだろう。
この事も事前から打ち合わせていたことであった。何故ならゲルマン、イリーナ、フレヤ達を雇う事にした時に、手伝いたいと言ってくれる使用人の方が多かったためだ。緊急事態の際に手伝いが出来るようにと、ホールやキッチンの手伝いを何度か練習にもきてくれていた。なのでいつでもウエルス邸の皆様は緊急要請準備万端なのであった。ありがたい事だ。リアムは本当にウエルス邸の使用人たちに愛されているなぁと、感じた私であった。
開店の時間となりサシャが入口で挨拶を始めた。
本来はこの一時間後の開店だったのだが、押し寄せる客が多かったために早まっていた。
早くから並んで今日の予約が取れた人達は、まだかまだかと待って居る様だった。
サシャは緊張を全く表に出さず、いつものアイドルの様な素敵な笑顔を並ぶお客様に向けていた。
女性陣だけでなく男性からもその笑顔を見て、吐息が漏れていたのだった。
「御集りの皆さま、大変お待たせいたしました。スター・リュミエール・リストランテではスター商会が販売するお酒や、考案する料理を皆さまに楽しみながら味わって頂ける場となっております。私共スタッフはお客様を精一杯おもてなしさせて頂きます。どうか一時の夢の世界をお楽しみ頂けたらと思います。それではここにスター・リュミエール・リストランテの開店を宣言させて頂きます。開店!」
サシャの挨拶が終わると、早速一組目の客が店へと入って来た。今日から一週間先の予約者までには記念品として赤と黒のビールがプレゼントされる。
入口で渡されたプレゼントに驚きながらも、客は店の中へと入っていき案内された席へと着いた。私が作ったBGM魔道具から流れる音楽にも驚いているようであったので大成功である。
庶民は一階の席に着き、貴族は二階へと案内される。これはお互いに気を使わせないための処置で有った。
やはり貴族がそばに居れば庶民は落ち着いて食事が摂れないし、反対に貴族も庶民が近くに居ればいい恰好……では無く貴族らしく振る舞わらなければならない。夫人などを連れてくるのも気が引けてしまうのだ。しょうがない事である。
確かにもし領主のタルコット達がいたら、騒然となってしまい食事処ではなくなってしまう事は想像が付いた。
なのでみんな一緒でいいじゃん? 見たいな私の軽いノリは、リアム達には採用されなかったのであった。
店内が賑わってきたために私達はリアムの執務室へと戻ることにした。
プリンス伯爵とカエサル・フェルッチョと剣の稽古をするのならば、早めに昼を取り着替えを済ませておきたいところだ。
リアムもプリンス伯爵が気になる様だったので、お昼をリアムの執務室で一緒にどうかと誘って見ることにした。
プリンス伯爵の宿泊部屋に向かう途中、だいぶ普段の様子に近づいたリアムに話しかけられた。朝の少し酔っぱらっているようなリアムとは違い、真剣な顔だった。
「ララ……まさかとは思うが、プリンス伯爵に名乗ってはいないよな?」
リアムが心配そうに私を覗き込んできた。ディープウッズの名を知られることが心配の様だ。
けれどそこは信用してもらいたいものだ、今日の私は接待役として完璧な仕事ぶりの大人なのである。リアムとの約束を破るはずが無かった。
決してティボールドとワイアットの余計な口出しのせいで名乗れなかったという理由ではない。自分から名乗らなかったのだ。
「リアム大丈夫だよ、接待役として大人しくしてるから心配しないで」
安心させるようにニッコリと笑ってそう言ってのだが、何故かリアムは益々疑い深げな表情で私を見てきた。
ララの大丈夫程不安な物は無いと言う、失礼なコメント付きで有った。
プリンス伯爵の部屋に着くと、プリンス伯爵も護衛のエドモンドも分かれた時とは違い、顔色もすっかり良くなっていた。旅の疲れも取れたようで良かったとホッと胸をなで下ろした。
リアムの部屋で一緒に食事を取ると言うので、共に移動することとなった。
プリンス伯爵の使っている客間からリアムの執務室は目と鼻の先であるので、お姫様抱っこは要らない様であった。
リアムの部屋に着き、魔法袋から料理を取り出す。今はジョンがウエルス邸に行って居るため、私が皆に料理を提供した。ランスが恐縮していたが、そこは接待役の私である。喜んで担当させて貰ったのであった。
「今日はレッカー鳥の唐揚げ定食です。お味噌汁も美味しいですよ、熱いですから気を付けて食べて下さいね」
寮の食堂で一番人気の唐揚げ定食を出してみた。リアム達は慣れたものだが、プリンス伯爵は驚いた顔をしていた。そして唐揚げを一つ食べると目が真ん丸になって、エドモンドやリアムにその顔を向けたのであった。
「これは……なんてジューシーで美味しいのだろう……この唐揚げって言う物は販売はしていないのかな?」
プリンス伯爵は可愛い息子にも唐揚げを食べさせたいようだ。私は後で唐揚げを作ってあげることを約束した。するとプリンス伯爵の目はもっと大きい物になったのだった。
「ララちゃん……君は……料理も出来るのかい?」
散々お米の説明をした私としては、料理出来ることに驚かれること自体に驚いたが、そこはレディである。素敵な笑顔で感情は出さず頷くに留めた。
この対応ならリアムも満足だろうとチラッと視線を送ってみたら、何故か額に手を置いていた。料理が出来ることも言わない方が良かった様だ。
「ララちゃんは何でも出来るんだね……6歳とは思えないよ。ウチの息子は8歳だが……こんな事は出来ないだろう……」
何故か息子さんと比べられてしまったが、私は前世の記憶があるので6歳と言えども少し違うのはしょうがないのである。それを説明する訳にも行かないし困ったものだ……と返事に困っていると、プリンス伯爵がまた話し出した。どうやら返事は要らなかった様だ。
「ララちゃん……良かったらウチの息子と会ってみないかな?」
プリンス伯爵の言葉に私はすぐに頷く。可愛い子供に会えるのに断る必要は無いからだ。けれどそこへリアムが口を挟んできた。
「プリンス伯爵、それは……どういったお誘いでしょうか?」
何故かリアムの笑顔が怖い。ランスも緊張した面持ちだけど、どうしたのだろうか。
「ああ、済まない親御さんの居ないところでする話では無かったね、ララちゃんにはウチの息子を紹介したかっただけだよ」
お母様がいるところで自慢の息子さんの話をプリンス伯爵はしたかった様だ。その気持ちは良く分かる、私もセオの自慢をする時は一人でも多くの人に話を聞いてもらいたいものだ。それが親ばかと言う物なのだ。
私が一人うんうんと頷いている中、リアムとプリンス伯爵は何故かピリピリした雰囲気だ。もしかしたら唐揚げがお互い最後の一個なので、お代わりの事を心配しているのかもしれない。魔法袋にはまだたくさんある。心配の必要などないのだ。
「ララちゃんは、どんな男性が好きかな?」
プリンス伯爵が急に話を変えてきた。好きな男性? 何故? 好きな料理の間違えじゃないのかな? と思った私であったが、接待役なのでお客様の希望に添える様、取りあえず理想の男性の話をする事にする。それが唐揚げ定食にどんな関係があるのかは分からないが、王都では好みの男性で食事について何か分かるのかもしれない。
「そうですね……私を見てくれる方が良いですね。自由に好きなことをさせてくれる方でしょうか……」
「ハハハ、大人の様な答えだね。ララちゃんを好きになる男なんて沢山いるさ」
リアムとランスは子供の好みのタイプの話など興味が無い様で、あからさまに機嫌が悪くなった。目つきが怖いぐらいで有る。
「他には何か無いのかな? 僕の息子ならララちゃんの事を大好きになると思うよー」
他に? 何だろうかと考える……話を終えないとリアム達の機嫌が増々悪くなりそうだ。子供の恋バナなど成人男子にはつまらないのだろう、プリンス伯爵は空気が読めないようだ。私の相手の話よりリアムの相手の話の方が先決な気がするのだが、私はここは子供らしいことを言って話を終わらせようと決めたのだった。
「私は、お父様の様な方が好きです」
「ほう……そうかそうか、お父様か、ララちゃんのお父様ならさぞかし立派な紳士だろうね、お名前は?」
「それは……」
名前を言おうかどうしようかと悩み始めたところで、リアムがバンっとテーブルを叩いたので、プリンス伯爵がそちらをビックとして見た。リアムのその笑顔は何故か毒々しい物であった。
「ララの父親はアラスター・ディープウッズ様です!」
あれだけ名乗るなと言っていたリアムが、何故か大きな声でプリンス伯爵にそう言ったのだった。どうやらまだポーションの効果は続いていたようだ……
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