第164話 スター商会へのご招待と防犯対策

「メルメルさんがお知り合いなら丁度いいでしょう。スター商会へプリンス伯爵をお呼びしましょう」


 私が商業ギルドのギルド長の応接室で皆にそう言うと。面白い事に皆が 「はっ?」と と揃って言った後、口を開けて固まってしまった。皆同じ様な表情を浮かべているので面白くなる。


 一番初めに動いたのはやっぱり場慣れならぬ、私慣れしているリアムだった。セオがここに居たらクスクスと笑って居そうだなと私はそんな事を考えていた。

 リアムは何かを止めるかの様に手を上げると、声を出した。皆はまだ動かず人形の様だ。


「待て待て待て、ララ何でそうなるんだ! 貴族を呼ぶなんて……それも王都に住む伯爵だぞ?! あり得ないだろう?」

「そうかなぁ? でもここで ”プリンス” の事をグダグダと考えているより、呼んじゃったほうが早いでしょ?」

「早いでしょって……お前なぁ……」


 リアムは頭を抱えてしまった。王都の伯爵とはそんなに位が高いのだろうか?開店するレストランのスター・リュミエール・リストランテには領主であるタルコット達だって来るのに、王都の貴族と田舎の貴族ではそんなに価値が違うのだろうか? 第一ディープウッズ家の者と顔を合わせることがあるリアムなのに、何をいまさら慌てるんだろうと私は思った。


「メルメルさん、プリンス伯爵と連絡を取ることは可能でしょうか?」


 メルキオールは私の言葉を聞きハッとして動き出した。リアムと私のやり取りをただボーっと口を開けて見ていただけだったが、なんとか意識が戻ったようだ。良かった。


「は、はい。連絡は可能です。ですがこんな田舎の店に来てくれるかは分かりませんが……」


 そう田舎……ブルージェ領は不況のせいで貴族の別荘も売りに出されてしまい、訪れる観光客も減り、益々不況になるという悪循環を起こしていた。

 けれど王都の研究員であったノエミやジュール達も面接の時に言っていたが、スター商会は王都で噂になっているのだ。あのディープウッズ家と繋がりが有るのではと……そんな噂が上がっている店に来れる機会があるのを、噂や情報が命の貴族が見逃すだろうか? 声を掛ければプリンス伯爵がスター商会へと来てくれることは、私はある程度予想できたのであった。


 その事をリアム達に伝えると 「まあ、そうだろうな……」 と納得してくれたが、それでも尚プリンス伯爵を呼ぶことには賛成できない様であった。


「そいつが本当に悪い奴だったらどうするんだ? 店の中に入れるという事はスター商会の事だけじゃなく、お前の事も、下手したらディープウッズ家の事も全てバレてしまうかもしれないんだぞ? 分かってるのか?」


 どうやらリアムの一番の心配は私の事だった様だ。リアムの私に対する友情に嬉しくなる。商人なら王都の貴族と懇意になれるなど、もろ手を挙げて喜ぶことなのに、それよりも私の事を優先してくれようとする姿に、前世ではありえない位大切にされている気がして、心が温かくなった。

 私はリアムを安心させるように笑顔を向けると、メルキオールの肩にポンと手を置いた。身体強化など使っていないし軽く置いただけなのに、メルキオールは何故かビクッと体をこわばらせていた。


「リアム大丈夫! その為にメルメルさん達 ”星の牙” がいるんだから、ねっ!」


 今度はメルキオールに笑顔を向けたのだが、こんなにも可愛い私の笑顔なのに、何故かメルキオールもニールも 「は、はい……」 と言いながら青くなってしまったのだった。

 それを見てベルティが大きな声で笑い出した。私が見るベルティは良く笑いいつも楽しそうだ。後ろのフェルスは何故かまた驚いた顔になっていたけれど……


「アハハハハ! まったく、ララあんたは本当に! アハハハハ! ハァー、分かったよ。そうしようじゃないか、あたしも協力させて貰うよ」

「「ギルド長?!」」


 リアム達やフェルス、メルキオール達までギルド長であるベルティが賛成するとともに、協力すると言ったことに驚いているようだった。


「ギルド長、危険すぎます。ララに何か有ったら――」

「じゃあ、リアム、あんたはこのまま受け身で、いつどこから攻撃されるか分からない状態のままで良いのかい?」


 リアムはベルティの言葉に 「うっ……」 と言葉を詰まらせた。私を守ろうとしてくれているのは嬉しいのだが、従業員や店が狙われるのは、私はもう嫌である。だったら出来ることはしておきたい、プリンス伯爵が ”プリンス” と呼ばれている本人なのかは分からないが、このまま何もせずにただ黙って大人しくしているのは我慢ならなかったのだ。ベルティは私の気持ちを良く分かってくれた様だった。


「ララはね、戦おうとしてるんだよ」


 リアムがそれを聞いて何かを言おうとしたが、ベルティは止めて続きを話した。


「リアム、あんたがこの子を守りたい気持ちは分かるよ。戦わせたくない気持ちもね。だけどこの子が店やあんた達を守ろうとしているのを、副会頭のあんたが協力してあげないのは可笑しくはないかい?」

「……確かに……そうですが……」


 リアムは頭では分かっているが納得していないと言った苦しそうな表情を浮かべている。ベルティはリアムに優しい笑顔で笑いかけた。


「あたしもプリンス伯爵が来るときは店にお邪魔させて貰うよ。今から連絡して開店に間に合うのかい? 間もなく開店だろ?」

「……開店日は難しいかも知れませんが……先ずは来るかどうかの打診をして見ましょうか……メルキオール」

「は、はい」


 リアムが副会頭の立場としてメルキオールを呼んだことに、メルキオールは護衛のリーダーとしての表情を浮かべ返事を返した。二人共真剣な表情だ。

 リアムはランスに指示を出し、自分の魔法鞄から速達用の紙飛行機用紙を出させ、メルキオールに渡した。そして指示を出す。


「プリンス伯爵に手紙を書いてもらいたい。スター商会で働くことになった事を、出来るだけ羨ましくなるように書いてほしい……そうだな……見たことのない魔道具が手に入るとか、客間はあり得ない位豪華とか、貴族が気になる様な事を自慢げに書いて欲しい。そして従業員は友人を呼ぶことが出来るが、来る気があるかと聞いてみてくれ、この用紙なら二時間ぐらいで王都に手紙は到着するだろう。ランス、傍に行って指導を頼む」

「はい、畏まりました」


 ランスは頷くとメルキオールのそばに行き、手紙の書き方を指導し始めた。リアムは肩に入った力を深呼吸することで抜くと、私の方へと顔を向けて来た。


「ララ、約束して欲しい。プリンス伯爵がもし来ると言ったら、お前は名乗らず大人しくして居ることを……出来るか?」

「はい。約束します」


 リアムはちょっと信用していない様な怪しむような表情で私を見た後、頷いた。ベルティはクスリと笑い満足そうだ。


 そこで私は先日、店での因縁事件の件で考え付いた魔道具をベルティ達に渡すことにした。スター商会だけでなく商業ギルドにも必要だと思ったからだ。


 ごそごそと魔法鞄を触っているとリアムが嫌な予感がしたのか、私の方を目を細めて見てきた。何を出すのか気になるようだ。私が出した魔道具をテーブルの上に置いていくと、手紙を一生懸命書いているメルキオールやランスまでもがその魔道具の方へと目を向けてきた。皆この子達の可愛さに気が付いた様だった。


「……ララ……これは……魔道具かい?」


 さすがベルティである、私が説明する前に分かったようだ。出した魔道具を手に取り、興味があるのか目をキラキラさせて見ていた。リアムは説明する前に何故か頭を押さえていたけれど……


「はい。これは【防犯カメラ】魔道具のフクロウ君です。この前店に嫌な人たちが来てから、考えて作りました。商業ギルドには受付とベルティの部屋の分、二体で大丈夫ですか? スター商会には店ごとと、スター商会の受付に置く予定でいます」


 私がフクロウ君の説明を始めると、皆がフクロウ君にくぎ付けとなった。可愛い子達だから思わず見つめてしまう気持ちは私には良く分かる。それに一人一人(一体一体)個性があって微妙に顔も違うし、今は作った6体全てをテーブルの上に出してあるので、ベルティに先に好みの子を選んでもらおうと思ったのだった。


「ベルティ、どの子が良いですか? それぞれ顔が違うし体の大きさも違って個性があるんですよ。可愛いでしょう? あ、名前も付けてあげてくださいね」


 私がニコニコと笑ってベルティとフェルスの方へと笑顔を向ければ、二人は困ったような表情を浮かべて笑っていた。苦笑いだ。どうしたのかなと思い首を傾げていると何とか言葉を発した。


「……ララ……まずは、その……ぼうはん? かめら? ってやつの説明をしてくれるかい?」

「あっ……」


 そう言えばこの世界に防犯カメラが無いからこそ、この魔道具を作ったのに、フクロウ君たちの可愛さに大事な部分を説明するのを忘れてしまっていた。だからリアムも呆れてしまって頭を抱えているのかもしれない。それに何だか顔色も悪いような気がする。


 私は皆にフクロウ君の使い方の説明を始めた。フクロウ君の胸にある魔石に魔力を注げば、カメラは作動する。フクロウ君は首の部分は360度動かせるが、魔力をあまり使わせないように普段は殆ど首以外は動かすことは無い。

 だからこそ少量の魔力で一日動くことが出来る。ただし、撮影した物を投影する時は別だ。投影する画面のサイズはフクロウ君にお願いすれば変えることは出来るが、大きければ大きいほど魔力を消費することになる。

 私やセオなら問題なく使えるが一般庶民では数分ならまだしも数時間の投影は厳しいだろう。これは盗難を防ぐためにわざとそうしたのだった。


 そして彼らは身に危険が迫れば自ら飛び、逃げ出すことが出来る。置物にしか見えない魔道具がまさか飛んで逃げるとは誰も思わないだろう。


 皆の前で一度フクロウ君を使ってみることにした。一体に魔力を流し、今現在の部屋の様子を勝手に撮影させる。そして暫くするとカーテンを締め、部屋を薄暗くしてからまだ名の無いフクロウ君に投影をお願いした。

 壁に先程までの自分たちの様子が映し出されると、皆信じられない物を見るように固まり、啞然といった言葉がぴったりな表情になってしまった。

 手紙を書いていたはずのメルキオールは既にペンをテーブルに置いてしまい、体に力が入らないような状態になっていた。ニールも初体験の魔道具の為、椅子からずり落ちそうになっていたのだった。


 ちょっとこの世界の人には刺激が強すぎたのかな……?


 私がそんな事を考えていると、やはり場慣れしているリアムが一番に動き出し、得意の無我の境地で私に問いかけてきた。


「ララ……まさかこれは、流石に商品じゃないよな……?」


 いつもと同じセリフに思わず笑いそうになったが、流石にこれは商品じゃないよと首を振る。第一内緒で設置したいのだ、魔道具として売り出したら防犯カメラが有る事に気が付かれてしまう、それでは意味が無いのだ。


「リアム、これは商品じゃないよ。大丈夫」

「そうか……ならよかっ……ん? これは?」


 流石がリアムである、私がこれだけで終わらないと気が付いたようだ。そう、フクロウ君がただの置物と思われるようにと、フクロウ君ぬいぐるみを作ったのだ。

 丸々とした可愛いフクロウのぬいぐるみに、子供たちが喜ぶ姿が目に浮かんだ。


 私は商業ギルドにもカモフラージュ用にぬいぐるみが必要かなと思い、何個か出して、おいて行くことにした。フクロウぬいぐるみは前世の記憶を頼りに、メンフクロウ、森フクロウなど数種類作り、私の一番のお気に入りはシロフクロウなので、そのぬいぐるみをベルティに渡してあげた。


「ベルティ、フクロウの【ぬいぐるみ】可愛いでしょう。この子も貰ってくださいね」


 この後リアムやランスは仕事が増えたと思ったからか、暫く動かなくなってしまい、ベルティには 「こんな高価な物を……」 と呆れられてしまい、メルキオール達には 「こんな価値のある人を守るのか……」 と呟かれてしまい、どうしていいのか分からなくなってしまったのだった。

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