第165話 星の牙、スター商会へ

 私は今、商業ギルドからの帰りの馬車の中だ。勿論メルキオールとニールも一緒に馬車に乗っている。

 あの後、防犯カメラ魔道具のフクロウ君の説明を再度した。何故か最初の説明で皆頭に入っておらず、簡単な使い方のはずなのに、もう一度最初からやって見せるようにとベルティに頼まれたのだ。


 なのでもう一体新しいフクロウ魔道具にも私の魔力を通して、最初の物と合わせて、その二体を商業ギルドへと贈呈してきた。

 フクロウぬいぐるみも二種類ベルティは選び、商業ギルドの受付とベルティの部屋に、防犯カメラ魔道具と一緒に飾ってくれると言って約束してくれたのだった。

 私はベルティに渡すぬいぐるみのフクロウだけでも、魔石を埋め込み動くようにすればよかったかなと思ったが、そんな可愛い子達が居たら、ベルティも仕事に集中できなくなる可能性があると思って今回は諦めたのだった。


 でもベルティも裏ギルドと対立してくれようとしているだけに、護衛のキーホルダーを渡した方がいいかなとちょっと思った。これはセオの試験が終わったら相談してみようと決めたのだった。


 そしてスター・ブティック・ペコラで新しく販売する予定の新商品、 ”NIKA"  の試供品をベルティに渡した。スター商会の研究所のメンバーが、開店の為に一生懸命研究をして作ったお薦め商品なので、ぜひ使って欲しいと言って、受付女性たちの分も含めて渡した。

 開店日には彼女たちと一緒にスター・ブティック・ペコラに来てくれると約束してくれたのだった。


 勿論スター・リュミエール・リストランテの方の食事会は既にベルティとフェルスには案内状を送ってあるので、そちらにも来てくれるとの事であった。


 私達のそんなやり取りを見た後のメルキオールは、手紙を書く手が何故か震えていて、ベルティに 「この子は宝だからね、くれぐれも大切に守るんだよ!」 と脅されたのが原因ではないかと私は思っていた。


 実際は見たことのない魔道具を作り上げるところや、私の子供とは思えない行動や言動に、護衛のリーダーとしての責任の重さを実感し、震える原因になったようだったのだが、そんな事には私は全く気が付かず、呑気に皆にケーキを出し、私がディープウッズの森の栗で作ったモンブランなのですと話すと、メルキオールは 「お菓子まで作るのですか?!」 と言って何故かまた驚いた顔になったので、料理や武術などは生きて行くために必要なので最低限は出来るようにしていますと伝えると、最低のレベルが高すぎると頭を抱えられてしまったのだった。


 結局メルキオールは手紙を書くのにかなり時間が掛かり、商業ギルドを出るのが予定よりも遅くなってしまったのだった。

 勿論手紙は無事に飛ばすことは出来たが、手紙が空を飛んでいくことにも驚かれてしまい、今の馬車の中は何故か驚くことに疲れ切った男性陣に囲まれて、ちょっと息苦しさを感じている私なのであった。


「ララ……フクロウ君は店のどのあたりに置くんだ?」


 スター商会の門に入ったところでリアムが話しかけて来た。部屋に行く前に先に設置しようと思っている様だ。またこの前の様な嫌がらせを受けた時に、ジェロニモの様な声を出してくれる人が居るとは限らないため、早い方が良いというリアムの考えの様であった。


 馬車から降りると、私は先にリアムの執務室へと行くように言われた。余り目立つところに出るなという事らしい。この時間はスターベアー・ベーカリーも混んでいる時間なので客が多い、セオがいないときは出来るだけスター商会の建物の中に居て欲しいとのリアムのお願いだった。

 何だか最近やけにリアムが心配性に感じる。やっぱりセオがいなくなると言うのはリアムの中では重大事項の様であった。


 私は四体のフクロウ君達を出して、それぞれに魔力を通してからリアム達に手渡した。リアムにはスター君、ジュリアンにはカリー君、ランスにはリュミエール君、そしてメルキオールにはペコラ君を預けた。貴重な魔道具と有って皆慎重に抱えていた。ニールにフクロウのぬいぐるみを渡していたら、トミーとアーロが丁度やって来たので、二人も一緒に魔道具設置に行くことになった。


「じゃあ、この子達の事をお願いしますね」

((((ホー))))


 私の言葉に何故かフクロウ君達が揃って返事をした。どうやら自分達が男性陣を守る気の様だ。頼もしい。

 私は皆を見送ると、安心してリアムの執務室へと向かったのだった。


「ララ様お帰りなさいませ」


 リアムの部屋ではイライジャ達が忙しそうに働いていた。ジョンもウエルス家から戻っており、同じ様に書類仕事に精を出していた。

 私が部屋に入ると、リアム達はどうしたのか? と皆が気にしていたので、新しい魔道具の防犯カメラを設置に行って居ることを伝えると、皆何故か顔色が悪くなってしまったので、その様子を見て本当に働き過ぎだと心配になってしまったのだった。


 暫くするとリアム達が部屋へ戻って来た。勿論メルキオール達とトミーとアーロもいる。皆疲れ切った顔をしていて、やっぱりリアム達も働きすぎだなと心配になった。


 リアムはソファへ座ると双子たちやパーカーも含め、皆を近くに来るようにと呼んで、スター商会の従業員となった星の牙のメルキオールとニールを紹介した。そして二人も立ち上がって、全員に挨拶をしたのだった。

 

「それにしても……広い店だ……良く二人で護衛してましたね……」


 メルキオールの問いに、トミーとアーロは顔を見合わせると苦笑いをした。


「いや、俺達は殆ど雑用係に近いですね。勿論従業員が店から出かけるときは護衛として付いて行ってましたが、店の事は殆どセディとアディ……あー、ララ様が作った護衛魔道具ですが、そいつらが守ってくれていました」


 決してそんな事はないのだが、トミーとアーロは謙遜している様だ。二人が朝から店回りを必ず毎日見回っていてくれたことは知っているし、時間で店を点検して見回ってくれている事も分かっていた。それでも、セディとアディの実力には敵わないためか、トミーとアーロはそう話したのだった。


「……その子熊の護衛達は? 今どこに?」

「先日スターベアー・ベーカリーに問題客が来たばっかりなんでね、店の周りで待機してますよ……あ、さっきスターベアー・ベーカリーに行ったとき店にいましたでしょ、白と紺の子熊が、あの子達です」

「「えっ? あれはぬいぐるみでは無かったんですね……」」


 メルキオールとニールは子熊達がじっとしていたからだろうか、私が渡したぬいぐるみの大きい物だと思ったようであった。確かに魔道具というよりはぬいぐるみに見えるだろう。トミーとアーロもうんうんと頷いていた。


「……って事はスター・ブティック・ペコラにいた白と黒のやつも?」

「ええ、魔道具です。でも彼らは戦闘タイプではありませんがね」


 その後は、トミーとアーロに暫くスター商会の事を教わることになり、メルキオールとニールは先ずは仲間をスター商会へ連れてくるという事になった。

 今現在一軒家を共同生活の場として借りているので、そこを引き払い、スター商会の寮へと越してくることになり、それから今後の護衛のやり方を話し合う事となったのだった。 


 私は自分の魔法鞄から巾着型の魔法袋を、星の牙のメンバー分出してテーブルへと置いた。そしてメルキオールとニールに引越しの荷物入れとして使ってくださいと渡したら、とても驚かれてしまったのだった。


「じょ、嬢ちゃん、いや、姫様じゃなくってララ様! これは魔法袋でしょう? こんな高価な物を!」

「ああ、大丈夫ですよ。スター商会の従業員皆がその巾着を持ってますから」

「「はあ?! 魔法袋ですよ?!」」

「はい。私が作った物なので無料ですから、どうぞ受け取ってください」


 メルキオールとニールは口をパクパクしながら信じられないといった顔をしてリアム達を見つめると、この部屋にいる皆に同情される様な顔で見られてしまったのだった。


「あ、ちゃんと1人一個魔法袋有りますか? 確認してから持って行って下さいね」


 メルキオールとニールはその後はもう何もしゃべらなかった。大事そうに魔法袋を人数分抱えると、大人しくスター商会を後にしたのだった。


 私が 「メルキオール達元気が無かったですけど、どうしたんですかね?」 と言っても誰も答えてはくれず、リアムにだけ少し悲しげな顔で微笑まれたのだった。何でだろう……


 魔法袋のお陰か、次の日には星の牙の全員がスター商会へとやって来た。皆期待に胸が膨らんでいるのかキラキラした表情をしていた。


 メルキオールが一人ずつメンバーを私達に紹介してくれた。

 年上順にニール、ノーラン、オーランド、ペイトン、リッキー、ライリー、シーヴァー、ヴィック、そしてリーダーのメルキオールの全員で9名だった。

 ニールのすぐ下のマーティンという子だけが就職先が見つかって、出て行ったばかりだったそうだ。皆若くて可愛い男の子ばかりで、この部屋が急に中学か高校にでもなったようであった。


 先ずはトミーとアーロも含め護衛用の制服を作るために裁縫室へと向かった。ブリアンナやマイラそしてミアもいて、全員の採寸をしてくれた。メルキオール以外は思春期の子らしく、綺麗なお姉さま方の前では顔を赤らめ緊張しているようであった。


 それから私は皆に腰に付ける魔法鞄を渡した。中にはポーションや傷薬、そして緊急用の食事などが色々と入っている物であった。皆高価な魔道具に驚くとともに、大切にしますと約束してくれたのだった。

 そして腕時計も渡した。護衛に時間は大切である。皆こんな小さな時計は見たことが無いと驚いていたが、トミーとアーロに時間の合わせ方や付け方などを習い、早速付けては何度も時計を見て喜んでくれていたので、渡した私としてはとても嬉しくなったのであった。

 

 その後はこれから守るべき店の中を見学したり、店の外を見て回ったりと、トミーとアーロに色々と話を聞きながら仕事の内容を覚えていた。皆真面目ないい子ばかりで、メルキオールの育て方が良かったんだろうなと、感心したのだった。


 スター・ブティック・ペコラに行ったときは大変だった。お姉さま方の色気に男の子たちは皆真っ赤になってしまったのだ。その様子が可愛いからか、キャーラ達は彼らの体をソフトタッチしたりと、少しからかうようにしていたので、ブランディーヌに怒られたのであった。

 そしてスターベアー・ベーカリーでも同じ年頃の可愛い女の子たち、ナッティーとルネがいたために、スター商会へ来て良かったと男の子たちは小さく呟いていたのだった。どこの世界でも男の子たちは美人さんや可愛い子に弱いのだなとおかしくなった私なのであった。


 そして、最後にアディとセディと剣を交えた。とても強い二体にメルキオールを始め、全員がボロボロになるまで稽古を付けられることとなった。夕暮れ時にはフラフラになってしまった9人なのであった。


 それからプリンス伯爵に送った手紙だが、やはりスター商会に興味があるらしく、すぐに王都を出発してブルージェ領へと向かいますと返信が来た。

 これにはリアムを始め、新しく入った護衛と共に皆の気持ちが引き締まり、プリンス伯爵を見極めようと決意を固めたのであった。


 そして……護衛の面接が終わった日、私には恐ろしい事が待っていた。


 転移部屋を使いディープウッズの屋敷に帰ると、そこには鬼の形相のセオが待ち構えていたのだった……


「ララ! 今日の事、リアムから連絡が来たよ!」


 どうやら私の知らぬ間に、リアムはセオに今日の面接の時の話をした様だ。セオが一番怒っていたのはメルキオールとの闘いの事であった。


「ララ! 相手にララの強さが分かる様に、わざと威圧を掛けたんじゃないの?」

「えっ……そ、そんな事は……メルメルが……強いから気が付いただけで……」

「木刀じゃなくて本物の剣を使ったんだって? 何でそんな危ない事するの! 怪我したらどうするんだ!」

「……でも……ポーションもあったし……」

「ラーラー」

「ひっ、ご、ごめんなさい!」


 その後はずっとセオのお小言が続き、そしてその後アダルヘルムにも今日の私の行いの情報が届いてしまい。長い長いお小言タイムが待っていたのであった。


 ひー! 怖いよー! ごめんなさーい! もうしませーん!


 たぶん……


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