第163話 星の牙との契約とベルティとの話し合い
メルキオールとの試合を終えて、面接用の応接室へと皆で戻った。
傭兵、星の牙の隊員であるメルキオールとニールは、自分達がディープウッズの姫様に働いた不敬に青くなっていた。
私の事はどうやら小人族か、エルフの為見た目年齢とは違い、大人の女性だと思っていたようだ。面接の場で副会頭であるリアムの横に座り、その上意見も言って居たのだ、そう勘違いされても仕方が無いなと私は思っていたのだが、リアムもベルティも勝手な試合を始めたことに腹を立てていたので、メルキオールの事を慰めようとはしなかった。
私に至っては勝手な行動はしないようにと、何故かリアムに腕を捕まれていたため、メルキオールに近づいて話しかけることが出来なかったのであった。
応接室へと入り、試合を見ていた人には温かいお茶を、そして私とメルキオールには冷たいお茶を出した。メルキオールは見た目は勇ましい男性なのにすっかり落ち込んで小さくなっていて可哀想になるぐらいだった。
「まったく、メルキオール、あんたどんだけ危険な事をしたか分かってるのかい?!」
メルキオールはベルティにまた怒られて小さな声で 「はい」 と呟いていた。先程までの面接の時とは違い、弱々しい姿に思わず噴き出しそうになってしまった。
そんな私の態度にベルティとリアムはカチンときたのか、私の顔をジロリと鋭い目で見るとお説教が始まったのだった。
「ララ、あんたって子は、何で無茶ばっかりするんだい、メルキオールは大人の騎士だよ。元冒険者で経験も豊富なんだ。あんたがいくら強いって言ったて何があるかは分からないだろうに! まったく、あんたって子は」
(ほう……メルメルさんは元冒険者ですか……通りで小さい私にも対応できたはずだわ、魔獣で慣れているんだねー)
「ララお前なぁ、俺達がどれだけ肝が冷えたか分かってんのか? いくらお前が強いって言ったってまだ6歳なんだぞ、いい加減自分の事を理解しろよ」
(そうなんだよねー、まだ6歳。やれることは少ないよねー。早く大人になりたいな……、前世が40歳だったから、大人子供してるよねー)
「……ララ様……お話を聞いておいでですか?」
「へっ? はっ! はい? 勿論聞いてますよ」
ベルティとリアムの目が怖かったが、ランスの問いにはちゃんと反省してますという表情で頷いた。決して今後の事など考えてニコニコとなどしてはいなかった。はずなのだが……ベルティもリアムも大きなため息をついて、額に手を置き考え込んでしまったのだった。
「それより、メルメルさん、いつからスター商会で働いていただけますか?」
「「へっ?」」
しょんぼりといていたメルキオールとニールは顔を上げるとキョトンとして私を見つめてきた、意味が分からないといった表情をしている。
せっかく私が試合に勝てたのに、まさかスター商会で働くのは無理だといわれるのだろうかと思っていたら、メルキオールとニールは顔を見合わせた後、動揺しているような声で話し出した。
「あの……姫様……俺達を……いや、私達を雇うおつもりでいるのですか?」
「えっ? そういうお話で決まりましたよね?」
「えっ?」
私とメルキオールはお互い首を傾げてしまった。
私は先程までの話で雇う事は決まっており、実力も十分に理解したつもりでいたのだが、メルキオール側は私より弱かった上に、不敬を働いたという事で、採用は無かったものだと思っていたようだ。
お互いの話がかみ合っていない私達を見かねて、疲れ切った顔になっているリアムが間に入ってくれた。
「メルキオールさん、ニールさん、スター商会で働くことに異存は有りませんか?」
「あ、ええ、勿論です……ギルド長の話も聞きましたし、あんた達は信用が出来る人の様だ。俺としても有難い」
「お、俺もです。アニキ……メルキオールさんだけに負担がかかってる今の現状を考えると、正直助かります」
「そうですか、ではランス」
「はい」
ランスは書類をメルキオールとニールの前に置いた。こちらの雇用条件が書いてある物だ。
メルキオールとニールは早速それに目を通していくと、段々と目が大きくなり、最後は口まで大きく広がってしまった。ベルティはそれを優雅にお茶を飲みながら面白そうに見ていたのだった。
「お、おい! いや……あの、これは金額が間違ってないか? ですか? 毎月の給金が高すぎだろ……です」
「いえ、我が店ではそれが普通です。護衛には危険手当も付きますし、これからリーダーになって頂くメルキオールさんには役職手当も付くでしょう」
「はっ? 役職手当? お、俺がリーダーなのか?」
ランスの言葉にメルキオールは驚きリアムや私の顔を確認するように見てきた。今現在スター商会では護衛が子熊のセディ、アディとアーロとトミーだけだ。これから店を大きくさせると大人数の護衛がいなければ店は回っていかない、その為に今回彼らを雇い入れるのだ。経験値が高く実力のあるメルキオールにリーダーになって貰って、トミーとアーロに補佐で付いてもらうのがベストだと思う。
スター商会の事はこれから追々覚えて行って貰うにしても、経験値はすぐには付く物ではないため、トミーとアーロもこの事は十分に分かっている事であった。
ランスがその事をメルキオールに説明をしたのだが、新人の自分がリーダーになるのはおかしいのではと納得していない様なメルキオールだった。
「メルメルさん、そんなに難しく考えなくても大丈夫ですよ」
私が安心させるように声を掛けたのだが、何を呑気なといった顔を向けられてしまった。困ったものだ。
「あのですね、今スター商会は護衛が二人と子熊しかいないんですよ」
「「子熊?!」」
何故か子熊と言うところに驚かれたが、話を続ける。
「今ここに居るジュリアンはリアムの護衛ですし、スター商会に居る人間の護衛二人には、リーダーの経験は有りません。スター商会に入ったのはその二人の方が先輩かも知れませんが、全体をまとめるリーダーになれる実力があるとは、あの二人はまだ思っていません。ですからメルメルさんに遠慮なく実力を発揮していただいて構わないのですよ?」
最後はニヤリと笑い、ちょっと煽る様に言ってみた。実力を見せてみろと遠回しに言ってみたのだが、メルキオールにはそれが無事に伝わったようで、やる気に満ちた笑顔になったのだった。
そして星の牙のメンバー全員がすぐに越してきて、早ければ明日から働いてくれることが決まった。そして説明の為今日はこのままスター商会に一緒に来ることとなり、スター商会の見学と護衛二人と子熊との顔合わせをする事になったのだった。
契約の話が無事終わったのでホッとしていると、メルキオールが先程話に出た子熊たちの事が気になったらしく、私に聞いてきたのだった。
「子熊はですね、スター商会のマスコットでとっても可愛いんですよ」
「ララ……メルキオールさんの聞きたい事は、そう言う事じゃないと思うぞ」
「えっ?」
リアムは私に困った顔を向けてからメルキオールに子熊の話を教えた。
「メルキオールさん、子熊はララの作った護衛魔道具だ」
「「えっ?!」」
メルキオールもニールも驚いてから信じられない様な者でも見るような目で私を見てきた。まあ、子供が魔道具を作るなんて珍しいからしょうがないよねと私はその顔に頷いておいた。
「見かけは小さくて可愛いんだが、恐ろしく強い」
メルキオールとニールの喉がごくりとなった。怪談でも聞いたような、怖い物を見たか聞いた後のリアムの様な顔色をしていた。
「……てことは……嬢ちゃん……じゃない、姫様みたいな化け物が他にも二体もいるって事か……?」
メルキオールの失礼な言葉に私は頬を膨らませ、「子熊達の方が私よりよっぽど強いですよ」 と教えておいた。2人が俺達要らないんじゃ? と思った事など気が付かない私なのであった。
「さて、じゃあ契約が終わったんなら、私の応接室に移動して貰おうかね、ここじゃあ誰でも入ってこれちまうからね」
私達は部屋をサッと元の状態へと戻すと、ギルド長の応接室であるベルティの部屋へと向かった。勿論メルキオールとニールも一緒だ。
二人はベルティの部屋へ初めて入る様で、明らかに緊張していた。リアムが以前言っていたが、ギルド長の部屋にすぐに招待されるなど普通はあり得ない事の様だ。
長い付き合いで信用されてから呼ばれる様な物であって、出来立てほやほやのスター商会が最初からギルド長の部屋に入れたことが異例で有った。なので、メルキオール達が緊張するのも頷けるものなのであった。
ベルティの部屋のソファへと私達が腰かけると、メルキオール達は護衛だからとジュリアンと共に立っていようとしたのだが、店の警備に関する話であり警備のリーダーを務めるメルキオールにはしっかりと話を聞いて欲しいとリアムが言って、メルキオールにはベルティの目の前に座ってもらうことになった。
メルキオールは最初は緊張していたが仕事モードに入ったのか、真剣な表情になり、ベルティの言葉を一言も漏らさないようにと怖いぐらいになっていた。
先ずは事情を知らないメルキオール達に、これまでの経緯を教えた。開店前からの嫌がらせや、面接の妨害があった事、従業員になる者が襲われたこと、そして先日は店に嫌がらせがあった事、そして商業ギルドでスター商会の面接受付担当をしていた職員が亡くなった事を話すと、メルキオールは鋭い目つきになって 「完璧に標的にされているな」 と呟いたのだった。
「嫌がらせの相手は裏ギルドで間違いないんですか?」
メルキオールの言葉にベルティとリアムが頷いた。けれど何故ここまで執拗に狙われるのか疑問の様であった。
「今迄の脅しが失敗しているのに、ここまで裏ギルドがしつこく仕掛けてくるのはおかしいだろう……商業ギルドの職員も亡くなってる、その上スター商会は街で評判のいい店だ、領民全体とも敵対し兼ねない……これは……」
メルキオールはチラリとベルティの顔を伺った。ベルティはこの話だけで裏を読み取れるメルキオールに感心し、嬉しそうにしながら頷いた。
「ああ、あんたの予想通りだよ、大物貴族が絡んでるんだろうね」
ベルティが調べ上げた結果、最近の警備隊員の横柄な態度や、裏ギルドの派手なふるまいは後ろ盾があるからこその行動だと読んでいるようであった。
そこで一番に上がるのがブライアンである。ブライアンならタルコットの評判を落とすためなら何でもやるだろう、それに実際にタルコットの家族を手に掛けようとしていた。そしてブライアンは彼らがスター商会と繋がりが有る事を知っているのだ。
だが、ベルティはそれだけでは無いのではと言った。たかだか領主の叔父と言う立場の者が、そこまで権力があるとは思えないと言ったのだった。
「……プリンスか?」
リアムが呟いた名は、良くブライアンの言葉に出てくる ”主” とされている者だ。ブライアンは契約者であるプリンスの事を ”プリンス様” と言って従っているように思えた。そのプリンスがこれだけの事を指示しているのだろうか?
全く接点のない ”プリンス” に恨まれる様な事など無いはずなのだが……と考えてしまった。
「プリンスって……王都のプリンス伯爵か?」
メルキオールはプリンスと言う名の貴族を知っている様であった。
皆が驚きメルキオールの方を見ると、以前冒険者の頃にプリンス伯爵を助けた事が有るそうだ。皆がどんな人物なのかと目で訴えていて、メルキオールは皆の圧に少し身をそらしていたのであった。
「プリンス伯爵は良い人だった……冒険者だった俺を、助けてくれたお礼にと自宅にまで呼んでくれた……あの人がそんな事をするとは思えない……」
皆がメルキオールの言葉を聞いて、半分はまだ怪しみ、半分は、では違うプリンスなのかと思っているような様子であった。メルキオールは疑われているプリンスを守るためか援護の言葉を続けた。
「それに、あの人は家族思いで妻や息子を大事にしていた……そんな人が弱い者を襲うとは俺には到底思いつかねえ……」
皆が黙り込んでしまった、では、一体だれが? と思っているようであった。ただ私だけは違う方向へと考えが巡っていたのだった――
「メルメルさん、プリンス伯爵の息子さんはおいくつなのですか?」
「……ああ、確か……8歳ぐらいか?」
「ふっふっふっ……良いことを思いつきました! プリンス伯爵をスター・リュミエール・リストランテとスター・ブティック・ペコラの開店にお呼びしましょう!」
私の言葉を聞いて皆が 「はっ?」と揃った声を上げたのだった。
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