第121話 友達とは
ベルティは自殺したとされるオリバーの事を出来るだけ調べると言ってくれた。私は心強く信頼のおけるベルティにいつでも連絡が着くようにと、通信魔道具を渡すことにした。
ベルティに魔道具を渡すと呆れた顔になって、高価な物をホイホイ他人に渡すんじゃないよ とリアム見たいなセリフを言いながらも、嬉しそうに受け取ってくれたのであった。
それから今後の事も考えてこまめに連絡を取り合う約束もした。この街をブライアンや裏ギルドの好きなようにはさせないと皆で決意を固めると、ベルティは商業ギルドへと戻っていったのであった。
さて、そんなこんなで、結局今回採用できたのはマイラ一人となってしまった。
今回偽の不合格通知が届いた人達に、商業ギルドを通さずに、再度スター商会から直接連絡をしてみるとランスが言っていたが、日にちも経っている事から就職先を見つけている可能性もあり、この後何人面接を受けに来るかは分からないだろうとランスは言った。
問題は研究員である。ビルとカイは出来れば物作りや改装工事専門にしてあげたい気もする。そこは本人の希望を聞くのだが、マルコのお世話もあるので悩むところだ。
そして研究員はタルコットと約束したビール工場の事もあることから、せめてあと4~5人は欲しいところでもある。
商業ギルドを通せば裏ギルドに筒抜けでまた邪魔が入る可能性もあるだろう、そう考えると自分の店で勧誘をするのが一番いいという事になるのだが、果たしてどこで勧誘するかになってくる。
「他店にお願いして恩を借りるのも嫌ですしね……」
ランスは出来るだけ裏ギルドの介入を拒みたい様で、他の人の力が入るのが嫌なようだった。かと言って兄弟や友達で研究員として働けるような知り合いがいるとしたらマルコだけになってしまう、マルコに友人が居るのかが問題なのだが。
「まあ、念の為マルコにも声を掛けてみましょう……」
まったく期待していない様なランスの返事であった。
そして他に人が集まるところと言えば――
「スラム街でしょうか……」
「スラム街ですか?」
「ええ、不況の煽りで、優秀な者であってもスラムに堕ちている者もおりますからね……ただどうやってその者を見つけるかですが……」
「難しいのですか?」
「ブルージェ領のエストリラという街がほぼスラム街になっております。そこから何のつても無く優秀な者だけを探すとなると……」
ランスの言葉に皆が頷き渋い顔になった。やはりつてが無いと難しい様だ。だからと言ってスラム街に直接求人票を張りだすのも、裏ギルドの事を考えると難しいとの事だった。
「後は……奴隷でしょうか……」
「奴隷?」
「はい、奴隷と言っても犯罪奴隷ばかりではありません。親に売られた者や、借金で奴隷落ちになった者もおります。そういった者を買う事も一つの考えとしてありますね……」
「人を買うのですか……」
前世の記憶がある私としては奴隷を買うという事が人身売買の様で嫌悪感があった。人としての尊厳を無視しているようでとても嫌な気持ちになるのだ。だがランスはそんな私を見て小さく笑った。
「ララ様、考え方でございます」
「考え方?」
ランスは頷くと説明を始めた。奴隷を買うと言うのではなく、奴隷に落ちてしまった人をお金で助けてあげると考えてはどうかと話してくれた。
この商会の人間ならば元奴隷という事で邪険にするものもいないはずであり、何より私がそんな事を許さないのではないかとランスは言ってくれたのだった。
「そうですね……それも視野に入れていきたいと思います……」
そして暫くは人材確保の為に皆で頑張ろうという事になったのであった。
さて、先ずは期待はしていないがマルコに声を掛けてみることにした。私とセオそしてランスも一緒に、元秘密基地第一号であり仮の研究所へに転移することにした。
仮研究所の転移部屋から出ると玄関前で大騒ぎをしている三人が目に入った。外へ出ようとしているマルコを、ビルとカイで引き留めている様だった。
「ビル、カイ離せ、森に行かねばならぬ!」
「ダメだって! この辺りの魔獣は強いんだ、俺たちじゃ危なすぎる」
「そうだよ! マルコ落ち着いてー」
私達は押し問答を繰り広げている三人の元へと駆け寄ると、三人を引き離した。
カイとビルは私達が来たことにホッとした様子で、マルコはというと、唇を尖らせて座り込んでしまったのであった。
ちなみにマルコは21歳なりたてほやほや、ビルは17歳、カイは15歳になったところである、誰が見ても一番年下なのはマルコだと思うだろう。
「一体何があったのですか?」
「薬草が……雪下草が切れたから取りに行くってマルコが騒ぎ出して……」
カイの話にマルコはプイっとそっぽを向いてしまった、全くの子供である。
「マルコ……薬草に詳しい貴方らしくないですね、雪下草はこの時期は取れないはずですよ……」
「「「あっ……」」」
三人の声がそろった。どうやら頭から抜けていたらしい、三人でここに籠りきりになっている為、季節感がずれているのかもしれない。
これは早目にちゃんとした研究所を作らなければ、三人に悪影響を及ぼす可能性がある気がしてきた。(特にマルコ)
マルコにとってディープウッズの森の中は宝の宝庫だ。危険な森だが入りたくて仕方ないのであろう。
せめて第二秘密基地の方なら、ここまで森の奥深くでは無いので良かったのかも知れないが……
今後も森に入りたがるマルコの事を考えると、早めに護衛を雇わなくてはならないかも知れないなと思った。それに研究所にはどの道護衛は必要になる、すぐに雇っても何の問題もないだろ、ただしーー
その辺の護衛じゃだめだよね……強い魔獣を倒せるくらいじゃないと……
と別の問題が出てしまうのであった。
私はふーとため息をついた、結局また人材不足に行きあたってしまうのだ。何だか頭が痛くなってしまったのだった。
皆でソファに座り一旦落ち着くことにした。ビルは和食が好きなので、おやつも和テイストの物を出してあげた、みたらし団子だ。
残念ながら緑茶はまだ見たことが無いので、これもいずれは探し出したい品であった。
「それで、ララ様、何かご用事でしょうか?」
もう既に一本みたらし団子を食べ終わり、二本目を手もとにキープした状態で、ビルが代表して聞いてきた。やはり研究所の代表はビルだと思った方が良いだろう。そうなると物作りの方に人手が必要だろうか……
カイとマルコが初めて食べるお団子に驚いているのを見ながら、先ずはマルコに研究員の事を相談してみることにした。
「実は人材不足を何とかしたくて、マルコに研究ができる知り合いがいないかを聞こうと思ってここに来たのです」
マルコは自分に話が振られるとは思っていなかったのか、口いっぱいに団子を含んでモグモグとしていた。ランスが苦笑いをしながらマルコの前にお茶を差し出してあげると、マルコはそれを一気に飲み干し、いつもの様に ガハハハッ! と笑い出した。
「ララよ! ララ様よ! 俺を頼るとはさすがであるな!」
自信満々なマルコにみんなが驚いている。友達が居なさそうだが、どうやら当てがある様だ。マルコの笑いが収まるのを待って、ランスがマルコに話しかけた。
「マルコ、では、当てがあるのですね?」
マルコはふんと力強く頷くと、ランスの方に胸を張って答えた。
「ある! だが、俺は奴が苦手である!」
偉そうな態度だが思いつくのはその 奴 とマルコが言っている人のみの様だ。その上苦手ときている。マルコが嫌がるような人物とはいったいどんな人なのかと、違う意味で気になってしまった私であった。
ランスがマルコの事をジッと見ていると、マルコは少しバツが悪そうな顔をして話しだした。
「連絡は取れると思うが……俺は奴とは一緒に働きたくないぞ……」
マルコが珍しくしょんぼりして大人しくしているので、その人物に皆が興味を持ったようだ。もしかしたらマルコを大人しくさせられる人物なのかもしれない。
空気を読んだビルがマルコに声を掛けてくれた。
「なあ、マルコ、俺とカイが一緒に居てもその人に会うのが嫌か?」
マルコは大きな目を益々大きくしてビルの事をみた。ビルは優しく小さな子にするような表情を浮かべて、マルコの頭を撫でた。
「”友達” の俺たちが守るって言ってもその人に会うのは不安か?」
「”友達”?」
「そうだよ! マルコ、俺と兄ちゃんはマルコの”友達”だろ! その人が何かしてきても守るから大丈夫だよ!」
マルコはビルとカイの間で嬉しそうに頬を染めて、恥ずかしそうな表情を浮かべていた。今この瞬間だけを見た人にはマルコは女の子にしか見えないだろうと私は思った。
ただし口の周りについた、みたらしのたれが残念だったが……
「わ、分かった、ビルとカイがそこまで言うなら連絡を取ってみても良いぞ!」
「マルコ、ありがとうございます!」
お礼を言う私の顔をマルコがチロリとみてきた。そして、唇を尖らすような顔をしながら、小さく呟くように私にお願いをしてきた。
「ノア様が一緒なら奴に会ってもいい……」
「えっ? ララじゃなくてノアですか?」
マルコは小さくこくんと頷いて見せた。小学生の女の子の様な可愛らしい様子に、ビルやカイが微笑ましそうにそれを見ていた。普段からこれぐらいしおらしかったら、可愛くてモテモテだろうなあ と馬鹿な事を考えてしまった私であった。
「私は構いませんよ、ではマルコ、その方に連絡を取って頂けますか?」
「うむ! 分かった、任せておけ!」
マルコはいつもの様子に戻るとドンと自分の胸を叩いてみせた。
私は次にビルとカイに話をしてみることにした。研究員が良いのか、物作りが良いのかを確認したいからだ、それによっては採用する人材も変わってくるからだ。
「次はビルとカイに話があるのですが、二人は研究員と物作り担当と、どちらがやりたい仕事ですか?」
ビルは困ったような表情になった。それを心配そうにカイが見つめていた。マルコだけは気にせずに次の団子に手をのばしていたので、セオとランスが呆れたような顔をしていた。
ビルは少し考えると口を開いた。
「俺……正直言うと、どっちもやりたいんです……」
「研究も物作りの仕事も両立したいということですか?」
ビルはこくんと頷くと、今の自分の気持ちを話してくれた。
ビルは改装工事を受け持つことになってから、とてもやりがいを持っている事を話してくれた。ちょっとしたことでお客さんに喜ばれる事がとても嬉しい様だ。
それと共にマルコと出会った事で、学校に通えなかったビルは、知識を吸収させて貰えてとても勉強になっていて、マルコと話をする事が楽しいのだとも教えてくれた。
マルコは薬草の知識だけでなく、魔木や魔鉄などにも詳しく、物を作るビルにしてみると、話をするのがとても楽しいのだそうだ
「マルコと友達になれたことが、有難いのは俺の方なんです」
今まで面倒なマルコには友達が居なかったが、それは家の事や兄弟の世話をするビルも同じだったようだ。お互いにとって大事な親友であり仕事のパートーナーになって居る様だった。
「あの……俺、兄ちゃんの事手伝いますから、兄ちゃんに好きな事やらせてもらえませんか?」
カイがビルの事を心配した顔で見ながら私達にお願いをしてきた。兄弟思いのカイとビルには本当に心がほっこりとさせられる。
私がランスの方をちらりと見るとニッコリ笑って頷いていたので、特に問題が無いという事だろう。
その結果、物作りと研究所は同じグループ扱いとなった。作ったものも実験をしなければならないので、どの道研究が必要となるからだ。それに人手が足りないスター商会としては色々と出来る人材はとても有難いのだ。
ただしビルやカイが大変になるのだが、それは望むところだと言うので、このままの状態で話を進めていくこととなったのだった。
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