第95話 通信機と賢獣

「ララはすごいねー、大叔父上きっと喜ぶよー」


 素直なメイナードは嬉しそうにそう言って笑った。本当にブライアンへのプレゼントだと信じている様だ。まあある意味では高価な贈り物である事は間違いないのだが――

 メイナードの言葉を聞いてリアムは苦笑いを浮かべていたが、今度はカメレーナちゃんを撫で繰り回していたので、私は吹き出しそうになりながらメイナードに答えた。


「喜んでくれるなら良かった。 ”お返し” は大事だからね」


 リアム達は私の言葉に顔を引きつらせていたが、まあ、ブライアンもそれなりの覚悟を持ってメイナード達に酷いことをしたのだろうから、今更やり返されても文句は言えないでしょうと私は思っていた。


 とにかく、私は自分の大切な人や店を守る為なら、スキルだって魔法だって使える物は使ってやるんだからね!


 そんな事を考えて ふん! と気合を入れたら魔力による風圧の様な物が出てしまい、目の前にいたリアムとランスがソファごと後ろに倒れてしまったのだった。


 私は謝ると、リアムとランスが起き上がってくるのを待ってから話を続けた。


 実はまだこれで終わりでは無いのである、とっておきの物を作ってみたのだ――


「これが最後の魔道具です」

「これは何だ?」

「通信魔道具です!」


 今回の件もあって、手紙ではなくすぐに連絡が取れることは凄く大切だと思い知った。ハンナの事ではバタバタしていて、手紙を書いてリアムに連絡する時間が無かったのだ。(言い訳ではなく)

 前世の携帯電話の有難みをもの凄く感じ、メレオン君の通信機能を作っているうちに、これは通信魔道具作れちゃうかな? と思って頑張ってみたところ、出来てしまったのである。


 自分の技術が進歩していることをこんな時に感じることが出来るのだと嬉しくなった。

 ただし、携帯電話の様な小さい形の物ではなく高価な魔石を使った置き型電話のような物である。魔石に触りながら喋ると魔力によって相手とつながる為、まだまだ修繕が必要なものでもあった。

 特に私やセオの様な魔力量が多い者には問題は無いのだが、一般庶民に普及させるにはまだまだ改善が必要なため、時間がかかりそうだった。


「魔力がかなり必要だから、リアムでも長時間使用は無理だと思うの、だから簡潔に話をする感じでお願いしますね」

「ああ……」


 リアムは魔石が入った箱型の通信魔道具を興味深げに手に取ると、ジックリと見ていた。傍に居るランス達も気になる様で、覗き込むようにリアムの手の中を見ていたのだった。

 ただしジュリアンだけはリアナに 遊んでやってもいいんだぞっ と言われて、困ったようにリアナを抱きかかえていたのだった。


 通信魔道具は店とディープウッズ家、そして私とリアムの魔法鞄の中に常に置いておくことにした。これで何かあってもすぐに連絡が出来、私がリアムにデコピンされることも無くなるだろうと思った。


「一度練習してみようか?」


 私が自分用の通信魔道具に魔力を流しながら リアムに連絡 と言うと、リアムが持っている通信魔道具の魔石が光だしピーピーと音を立てた。リアムが恐る恐る自分の通信魔道具に魔力を流すと光と音が止まった。そして――


『リアム、聞こえますかー』

『おー! スゲー! 聞こえるぜ……』


 周りにも勿論話してる内容が丸聞こえである、これも改善が必要だろう。つまりは内緒話が出来ないのである。

 勿論、ここには信用出来る人しかいないから良いのだが、お年頃のリアムに彼女でもでき様なものなら、これで内緒話でもしたくなるだろう。まあ今はセオに夢中の様なので、問題ないかも知れないが……


 そんな感じで私がブライアン達の対策として作った魔道具のお披露目は終わった。ランス達はこれから賢獣達の教育をすると言って張り切っていた。

 特にイライジャはジャンに早速ネズミとしてのスパイ活動を教え込むのだと悪い笑みを浮かべていた。ランスはお金の計算を教えたいと言っていたし、ジョンは客の訪問や店内の見張りなどをバズに教えてみたいと言っていた。

 ただ、ジュリアンだけがどちらが主か分からないほどリアナに振り回されているように見えた。


(おい、主、偵察に行ってやっても良いぞ)

「いや……今はここで仕事が……」

(何だー、縄張りを守るのが主の仕事だろー)


 こんな感じで舐められっぱなしのジュリアンが気の毒になり、リアムはウエルス家の守りをさせているブレイを暫くはスター商会に連れてきて、リアナのしつけをさせようかと苦笑いを浮かべながら言っていたのだった。


「リアナ、私達と一緒に来る?」


 これからタッドとゼンにメイナードを引き合わせに行くので、丁度いいかとリアナにも声を掛けると、嬉しそうに私の元へと駆け寄ってきた。


(神様だ、神様だー!)


 小さな体で私の足元を走り回るリアナはとっても可愛い、メイナードもセオも目じりが下がっていた。


「リアナ、私はララよ仲良くしましょうね」

(神様、ララ様なのか! いい名前! 大好きだー)


 リアナはジュリアンに振り返ることなく私達と一緒に部屋を後にした。キーホルダーを作った私としては寂しそうに見送るジュリアンが、少し可哀想になってしまったのだった。


 さてこの時間なら寮側の三階にある図書室で、タッドとゼンそしてピートも勉強しているはずなので、そちらに向かうことにした。リアナは店の中を探検できるのが嬉しいのか、ずっと私達の周りを走り、廊下の匂いを嗅いで回っていたのだった。


 図書室に入るとアリーに教わりながら、タッド達は一生懸命に勉強をしていた。三人は私達に気が付くとニッコリと笑って手を振ってきた。


「ララ様だー!」

「青い犬もいるー!」


 下の2人はまだ無邪気だが、タッドは随分としっかりしてきた。一つ上にセオがいるのでいい刺激になっているのかもしれない。食事がキチンと取れるようになったからか、背も伸びて体つきも以前よりしっかりとしてきた。来年には華奢なマルコなどは背が抜かされてしまうかもしれないなと思うほどだった。


「ララ様その子は?」


 タッドが一緒にいるメイナードに気が付き声を掛けてきた。私は友達になって貰いたいので領主の子というのは伏せて紹介をした。


「この子はメイナード、私のお友達です。皆仲良くしてくださいね」

「俺はタッド、こっちが弟のゼンだ、で、こっちはアーロさんの息子のピートだ、メイナード宜しくな」


 メイナードはタッドに差し出された手を嬉しそうに握ると頷いて見せた。頬が少しピンク色に染まっていて、はにかんだ笑顔を浮かべている。新しい友達が出来てとっても嬉しそうだ。


「メイナードも一緒に勉強するか?」


 タッドの誘いにメイナードの顔が曇った、きっとガブリエラの事を思いだしたのだろう。


「あの……僕……間違えちゃうかも知れないんだけど……」


 メイナードの言葉に子供達は首を傾げた。私はメイナードの手を握りニッコリと笑って見せた。


「メイナード、間違えても大丈夫なのよ」

「えっ? 良いの? 打たれないの?」


 メイナードの言葉の意味が分かったのかタッドの眉間に皺が寄った。ゼンとピートは首を傾げている。


「メイナード、沢山間違えて覚えて行くのよ、だから一緒に勉強しましょうね」

「そうだよ! 勉強頑張ると玩具作ってもらえるんだぜ」

「ピーも、風船貰ったのー」

「メイナード、こっち座れよ、アリーが何でも教えてくれるぜ」

「うん!」


 メイナードは早速一緒に勉強をする様だ。これまで狭い自室の中で監禁されるように生活してきたメイナードにとって、タッド達がいい友達になってくれたら良いなと私は思っている。

 どうしても私では蘭子時代の記憶があるので、母親気分になってしまうし、セオでは兄になってしまうだろう。歳の近いゼンとピートはメイナードの友達としてピッタリだと私は思っているのだった。


「ララ様、その犬はどうしたの?」


 部屋の匂いを嗅ぎまわってウロウロしているリアナが気になった様で、ゼンが声を掛けてきた。リアナに触りたいのか、興味津々な目をリアナに向けていた。


「この子はリアナ、ジュリアンの賢獣なの、リアナ、こっちに来て皆に挨拶をして」


 リアナは尻尾を振りながら子供たちの方へとやって来た。小さな尻尾が盛大に動いていてとても可愛い。


(俺はリアナだ! お前たちを子分にしてやるぞ!)

「可愛いー!」


 ゼンはリアナを抱っこすると体を撫でてあげた。リアナは 降ろせー と言いながらも嬉しそうだ。



「良いなー、僕も賢獣欲しいな――」

「ゼン!」


 ゼンが素直な言葉を発したのだが、それをタッドが制した。ゼンは兄の顔色を見てハッとなり口をつぐんだ。もしかしたらミリーから身分の事などタッドは話をされたのかもしれない、でもここではそんなものは関係ないと私は思っている。

 それにいずれ彼らが学校へ行くようになったら護衛が必要だ。トミーとアーロを護衛に毎日つけてとはいかないだろう。

 勿論剣術の稽古もセディやアディにタッド達は付けてもらっているのだが、賢獣がいれば護衛にもなってくれるだろ。但し問題は魔力量なのだが、今から意識して訓練すればこの子達なら伸びる可能性がある。


「そうだね、タッド達にも学校に上がる頃に賢獣が必要だよね……」

「えっ?!」

「でもね、大きな賢獣ほど魔力量が必要なの、だから訓練が必要なんだけど頑張れるかな?」

「うん! 僕頑張るよ!」

「ピーもー!」


 ゼンとピートは嬉しそうに手を叩き合って喜んでいた。タッドだけは申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「タッド、そんなに畏まらなくて良いのよ」

「けど……」


 自分の立場が分かり始めた年ごろなのだろう、タッドは素直には喜べない様だった


「ねえ、リアムを思い出して、タッドも私と友達でしょ。普段はリアムみたいで良いのよ」

「……リアム様……」


 私は笑顔で頷くとタッドに話を続けた。


「そう、普段は友達、それで人前に出るときだけ役職に付きましょ」

「……それでいいの?……ですか?」


 私が頷くとタッドはホッとしたように笑った。きっと長男として男としてミリーやゼンを守ろうと背伸びをしていたのだろう。やっとタッドらしい笑顔が見れた気がしたのだった。


「皆どんな動物が良いかよく考えてね、特にタッドは来年には必要なんだからね」

「うん……有難う……」

「メイナードもだよ」

「えっ? 僕も良いの?」

「勿論! でも魔力量を伸ばす訓練は必要だからね」


 メイナードも嬉しそうに微笑むと、ゼン達と手を叩いて喜んでいた。この子達が一生懸命に頑張るなら、どんなことでもしてあげたいと思った私であった。

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