第94話 親子の対面と嫌がらせの対応策
「メイナード!」
「母上!」
アリナとハンナに連れられてやって来たメイナードは、ロゼッタの顔を見るなりベットに居るロゼッタに向かって走っていった。でも体調が悪い母親の事を思い出すと、ベットの前で立ち止まり抱き着くのをためらった。だが、ロゼッタが腕を広げて頷いて見せると、甘える様にそっとその腕の中へと入っていった。
こんな小さな子が母親に会うのも禁止され、なついていたメイドも外され、厳しい教育を……いいえ、体罰を受けていたと思うと胸が痛くなった。メイナードは私への手紙に助けを求める事など一つも書いて寄こさなかった。それは友達に心配かけさせたくないというメイナードの優しさと、厳しい環境に一人で耐えた心の強さであると私は思った。
二人は暫くの間涙を流しながら抱き合っていた。ハンナやドナもそれを見てもらい泣きをしていて、この姉妹のロゼッタとメイナードに対する愛情の深さを感じたのであった。
程なくして、落ち着いたころにお母様がメイナードとロゼッタに話しかけた。まだロゼッタの体調は無理を出来ないので、今日はこれぐらいにしておきましょうとの事だった。でもこれからは毎日会えるし、ロゼッタの体調が良くなれば一緒に食事を取ったり、勉強を見て貰ったりと傍に居る時間が長くなるのだと説明すると、メイナードはとても嬉しそうな顔で微笑んでいた。
ロゼッタもメイナードに 出来るだけ早く病気を治しますからね と約束をして、生きる気力を取り戻していたように見えた。
少し良くなったロゼッタを疲れさせてもいけないので、私達は部屋を後にした。これからメイナードを連れてスター商会へと向かう。ハンナはドナと交代してロゼッタに付き添うことになっている、ドナは寝ずの看病をしていたので、これから少し仮眠を取る予定になっていた。
「やっと安心して眠ることが出来ます……」
と微笑んでいたドナの顔には疲れが見えていたので、私は癒しを掛けてあげた。そしてメイナードの事は任せてね と言って二人と別れたのだった。
店に転移して、勿論最初にリアムの部屋へと向かった。昨日のアダルヘルムとの話し合いの後の店での事も気になったし、何より渡したい物があったからだ。
「リアム、おはよう」
私がリアムの執務室へと入ると、リアムは仕事の手を止めソファへ座るように誘導してきた。それを見てジョンはお茶を入れる準備を始めた。私達はソファに座りゆっくりとジョンの入れてくれたお茶を味わった。
「今日はこっちに来ないかと思ってたぜ」
リアムはそう言いながら私やメイナードそしてセオの頭をわしゃわしゃと撫でた。メイナードは領主邸ではそんな事をされたことが無いのだろう、昨日もそうだったが頬をピンク色に染めて嬉しそうに微笑んでいた。
「うん、実は渡したい物があって」
「渡したい物?」
私はランスやイライジャ、ジュリアンそれにジョンにも声を掛けて、ソファの方へと来てもらった。仕事中なのに申し訳なかったが、彼らに渡したいものがあったので、それをテーブルに置いた。
「皆用のキーホルダーです」
私が置いたキーホルダーを見ると、皆が息をのむのが分かった。
リアムは平民にしては魔力量が多いため、私達と同じ様にキーホルダーを使うことが出来るが、平均値しかないランス達にはかなり厳しい物であった。特にジョンは平均値50よりも少ないので、持続して魔法を使うのが厳しい、キーホルダーは無理かなと思っていたのだが、小さな生き物だったら良いのではないかと思いついて作ってみたものであった。
「これがジュリアンのです」
ジュリアンにはドーベルマンをイメージして作った犬型のキーホルダーだ。リアムよりも魔力量は少ないが体力のあるジュリアンなら大型犬ぐらいは出せるのではないかと、期待して作ってみたのだった。
ジュリアンはごくりと喉を鳴らすと、キーホルダーに魔力を通した。するとそこには可愛らしい青色のチワワが現れたのだった。
「凄い! 可愛い!」
「小さいワンちゃんだ!」
メイナードは嬉しそうに手を叩いて喜んでいる。私はすぐに驚いて固まっているジュリアンに、名前を付ける様に声を掛けた。
(おい、おまえが呼び出したのか)
チワワは可愛い顔で偉そうにそうに言いながらも、嬉しそうに尻尾を振ってジュリアンの周りを走り回っている、呼びだした人間(主)が分かっているのであろう。
「あ、あ……リアナで!」
心の中でアリナって名付けたかったのかなと思いながらも、ジュリアンには突っ込まないで置いた。リアナは一瞬キラリと光るとジュリアンの前でお座りをした。
(しょうがない、おまえを守ってやっても良いぞ)
そんな事を言いながらもリアナの尻尾は盛大に揺れていたので、微笑ましい気持ちになった。皆もリアナをみて笑いをこらえているのが分かった。
「次はランスとイライジャです」
ランスとイライジャにキーホルダーを手渡すと、二人はジュリアンの真似をしてキーホルダーに魔力を流した。二人に渡したキーホルダーはハムスターをイメージして作ったものだ。それぞれにどんなハムスターが出てくるのか楽しみでもあった。
ランスのハムスターはペールオレンジの様な薄い肌色みたいな色だった。ランスはすぐにその子にパールと名付け手のひらに乗せていた。
(主の為、働かせて頂きます)
さすがランスの賢獣だけあって大人の対応であった。
イライジャのハムスターは緑色で毛がカールしており、イライジャの髪そのものの様だった。イライジャがジャンガリアンのジャンと名付けると、ハムスターはイライジャの手の中で嬉しそうに踊っていた。
(主の為にはったらっくぜー!)
やる気は満々のようである。
そして最後はジョンだ、ジョンにはてんとう虫にしてみた。これだけ小さな生き物であればジョンでも大丈夫だろう。
ジョンが魔力を流すとてんとう虫が現れ、ジョンの肩に乗った。そしてジョンはその子にバグと名付けたのであった。
(主を守ります)
バグは小さな声で大人しくそう答えたのであった。
皆が口々に私にお礼を言ってくれた。けれどお礼を言いたいのは私の方である。これから確実に領主の叔父であるブライアンから何かしらの嫌がらせ行為を受けるだろう。それに対応するのは大人である彼らなのだから。
「つまりララ様はジャンを使って情報を探れと?」
察しの良いイライジャが私に問いかけてきた。イライジャの賢獣はそのつもりで作ったものだから頷いて見せる。
「成程……これは面白くなりそうですね……」
イライジャはそう呟くと悪い笑みを浮かべていた。
「ララ……おまえ……凄いもん作りすぎだろ……」
リアムが呆れたように私を見てきたが、私は首を振った。これは前振りの様なもので、本番はこれからなのだ。私は魔法鞄から緑色の魔道具を取り出した。
「この気持ち悪い人形は何だ……?」
「この子は盗聴器のカメレオン、メレオン君です」
「はっ? かめ? はっ? 盗聴器?」
驚いている皆に向けて一つ頷いて見せると、私はメレオン君に魔力を流した。するとメレオン君は動き出しスッと姿を消した。
「な、消えたぞ?」
私は驚いている皆を見ながらクスリと笑った。メレオン君の凄さが分かってくれたようで嬉しくなる。
「じゃあ、これから盗聴を始めるからリアムはこれを持って」
「これは? 同じ道具じゃないのか?」
ピンク色の魔道具を見つめながら驚いた顔のままのリアムに首を振った。この子は受信機なのだ。
「この子は受信機のカメレーナちゃん、メレオン君の音を拾ってくれるの」
リアムは頭が痛いといった顔をしたが、私は話を続けた。メレオン君は透明になってどこへでも盗聴に行けるし、カメレーナちゃんは何処まで離れていてもメレオン君の聞いた音は拾えるのだ。ただし、実験をまだしていないため、仮定の話であった。
「メレオン君、盗聴始め」
私がそう声を掛けると、カメレーナちゃんは口を開けた。でも皆が黙っているので何も音は拾ってこない。
「ほら、皆喋らないと実験にならないよ」
『ほら、皆喋らないと実験にならないよ』
「おお、スゲー! ララの声そのままだ……」
『おお、スゲー! ララの声そのままだ……』
「盗聴だからね、そのまま音を拾うからね」
『盗聴だからね、そのまま音を拾うからね』
盗聴が出来ることが分かった所で、メレオン君に終了と声を掛けて盗聴を終わらせた。皆感心している様だが驚くのはまだ早い、二体の素晴らしい所はこれだけでは無いのだ。
カメレーナちゃんは盗聴したものを印刷もできる優れもので、印刷開始と言えば口から聞いた会話を印刷して出してくれる、これで証拠として残すことが出来るのだ。
「何でこんなもの作ったんだ?」
姿を現したメレオン君を撫でまわしながらリアムが聞いてきた。私はその様子に少し笑いながら、説明を始める。
「私、領主の叔父様をこの前吹き飛ばしたでしょ、だからお詫びの品にお菓子を送ろうと思って」
「まさか……」
私はニヤリと笑って頷いた。そのまさかである。領主の叔父を盗聴するために透明になったメレオン君を送り付けてやるのだ。
「おまえ……なんて怖い事を……」
この世界では大切なものを守る為には自重はしないと私は決めている。それに先に喧嘩を売ってきたのはあちらだ、私は受けて立つだけなのだ。
ただし、メレオン君とカメレーナちゃんは氷竜の素材を使って作った為、加工が大変だったという話をすると皆固まってしまった。どうやら氷竜など伝説の生き物の様で、その素材など普通は手に入ら無い様だった。
屋敷の地下倉庫に竜の素材なども沢山置いてあるので、まさかそれ程高価なものとは知らなかった私はここでも常識が足りない事を悟ったのだった。
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