第31話 セオの初めてのクリスマス
就寝前になってもモディはセオの首にぶら下がっていた。
お風呂も一緒に入ったようで、蛇泳ぎが見られたとセオが目を輝かせて報告してくれた。
モディの体の長さは1mぐらいだ。本物の蛇魔獣のモデストは大人になれば10m級にもなる、もしかしたらモディもセオの成長と共にそんなに大きくなるのかも知れないと、ふと思った。
「私もモディとお風呂入りたかったな」
そうつぶやくと、セオの顔が赤くなった。
「絶対にダメだからな!」
「ノアの姿だったらいいと思うんだけど」
「ノアだって、中身はララだろ、絶対にダメだ」
「別にセオと一緒にお風呂入るって言ってないじゃない」
セオの顔が益々赤くなった。本当は皆で一緒にお風呂に入りたいのだけど、余りにもダメダメ言うので意地悪を言ってみた。
「我が姫の体は私が洗って進ぜよう」
「うわぁ、気持ちよさそう、モディ、お願いね」
モディが頷くとセオが慌てて止める。お風呂に一緒に入るのは良いが、洗うのは禁止らしい。
意地悪返しをされてしまったようだ、私はモディにそっとキスをする。
「モディ、明日はココと私とお風呂に入りましょうね」
(我が姫に美しき水の舞をお見せいたしましょうぞ)
(ココ、モディ、アルジ、オフロ、スキ)
セオが大きくため息をついた。どうやら諦めたらしい。
「ところで、ララは何を書いてるの?」
そう言えば、セオにはメイナードの話をしていなかった事を思い出した。私は黄色い紙飛行機用の折り紙をセオに見せる。
「メイナードって名前の子とお手紙のやり取りをしてるの、【文通友達】なんだけど……もうすぐクリス……」
クリスマスの話をしてしまいそうになった自分にハッとする。
「さ……最近お手紙が届かないから、こちらからもう一度出して見ようと思って……」
そうなのだ、ここ3週間ぐらいメイナードから手紙が届いて居ない、何かあったのかもしれないと不安になる。
「これも、作ったから一緒に送ろうと思って」
私はメイナード用に作ったクリスマスプレゼントをセオに見せる。水色のペンダントだ。
「このペンダントの魔石の部分に魔力を通すと、私のペンダントも光るようになっていて、もし困った事があったら呼んでもらうようにしてみたの、光ったらペンダントを目印に転移するつもりでいるのよ」
「そいつが悪いやつだったら?」
確かにセオの言う通り、悪いやつかもしれない。でも手紙の中のメイナードはいい子なのだ。それに会ってみたい気持ちもある。
「その時はその時よ。すぐに戻ってくるわ。それに大事なお友達なの……」
セオの顔を見ると何だか曇っている。やっぱり会った事もない相手の所へ転移するのは心配なのだろうか……
「俺は?」
「えっ?」
「俺は? ……その……何でもない!」
プイっとセオはそっぽを向いてしまった。
(ほっほっほ、主は艶羨でございますな……我が姫も美しく罪深いお方だ、ほっほっほ)
どうやらメイナードの事を大事だと言ったので、セオは焼きもちを焼いたらしい。
なにそれ、セオ可愛すぎ!
私が可愛いセオに思いっきり抱き付くと、セオの首に巻き付いていたモディは勢い余って床に落ちたーー
「もう、セオ、セオ! 大好き! 私はセオが一番大好きだよ!」
私はセオの胸に顔をぐりぐり押し付ける。本当にセオってばなんて可愛い子なんだろう。ココじゃないけど、もう食べちゃいたいぐらい可愛いよ!
(これは、これは、主と姫との艶事の邪魔立ては致しませぬ、ご安心下さいませ。ほっほっほ)
モディはベットの方へとココを連れていってしまった。
私が顔を上げてセオを見ると真っ赤になっていた。セオも表情がとても豊かになって、何だか嬉しくなる。
「あー……分かったよ……でも、その時は俺も一緒に行くからな……」
「うん、セオ、よろしくね!」
セオの機嫌が無事に良くなったので、私は手紙の続きを書き、黄色い折り紙にペンダントを乗せて飛ばそうとした……でも、手が止まるーー
「ララ、どうした?」
「うん、メイナードは手紙を受け取れる状態なのかな?」
クッキーの時を思い出す。もし手紙を出すことを誰かに止められていたら? ペンダントも届くだろうか? 下手したら届く前に捨てられる? それとも私は呼び出されて、どうされるだろうか……
「監禁されてるってこと?」
セオがつらそうな顔になった、村での事を思い出したのかもしれない……
「その可能性もありうるよね……暫く手紙が届いて無いの……」
私は黒の折り紙で黄色の紙飛行機を包んで折りなおす、返信用も黒にし、使い方を手紙に添えて書き上げると、紙飛行機に魔力を通してお願いをする。私をメイナードに引き合わせてくれた時の様にーー
(どうか、私の大切な友達に届けて……)
紙飛行機は空中に浮かび、そっと姿を消して飛んで行った。私とセオは窓からそっと森の方を見つめた。メイナードが無事であることを祈りながら……
今日は待ちに待ったクリスマスだ!
マトヴィルにブッシュドノエルを作って渡してもある。
オルガンの練習もみんなの目を盗んでこっそりとやっていたので、私の計画は完璧なのである。フフフ……
だって、セオの初めてのクリスマスだよ! いい思い出にしたいじゃない!
これが親心、母性というものだろうか……私はそんなことを考えながらニヤニヤしていた。
「まぁ、お嬢様、今日はご機嫌ですわね」
朝の身支度の時間、アリナに髪を綺麗にセットしてもらいながら、にやける私を見てアリナが素敵な笑顔で声を掛けてきた。セオは隣の自分の部屋で身支度を整えている。
私は少し小声でアリナに答えた。
「今日はクリスマスなので楽しみなのです」
私がフフフと笑うとアリナも何だか嬉しそうに笑った。
「今年はセオが居ますものね。ふふふ」
「そうなのです! セオの母親代わりとして、私は頑張りますよ!」
ふんっと胸を張ってみたが、アリナにはまぁ! と言って笑われてしまった。ぺったんこだからだろうか……
私は可愛いセオの為に頑張っちゃうんだから!
夜になりセオと一緒に食堂へ向かう、ココは私の肩にいて、セオの相棒モディは食事をしないので、キーホルダー状態でセオの帯びたいにくっついている。
食堂に入ると、中央にオルガンが見えた。部屋の中はオルガとアリナが可愛らしく飾り付けをしてくれてある。
前世のクリスマスの飾りつけとは違って、花やリボンそれから魔法で灯りがキラキラと宙に浮いている。
「うわぁ、凄いや!」
飾りつけを見てセオの目が輝いた。セオの驚く顔が見れたので掴みはOKだ!
「セオ、今日はクリスマスなのですよ」
「クリスマス?」
「大好きな人に感謝する日なのです」
前世とは違うけど、ディープウッズ家ではそうなのだ!
私はセオをお母様の横に座らせる、オルガンを囲んだ観客席だ。
私は一つお辞儀をして、オルガンの椅子に向かうといつものようにアダルヘルムがエスコートしてくれる。
今年はセオに向けて、ちょっとかわいい曲を選んでみた。
先ずは、飾り付けの曲、二曲目は雪景色の曲、三曲目はソリの曲、そして最後はシックに星が歌う曲にしてみた。オルガンに合わせて最後の曲は私が歌ってみせる。
全て弾き終わり立ち上がって挨拶をすると、大歓声がおきた。みんなから大きな拍手を貰う。女性陣はウルウルしてるし、男性陣は良い笑顔だ。
特にセオは頬を染め今までで一番の笑顔をみせている。その上モディに初めて会った時みたいにキラキラした目をさせていたーー
(やったね! 成功だ! セオ喜んでるよ!)
しかしこれで終わりではない! ふふふ……プレゼントがあるのだ! セオだけじゃなく、みんなをビックリさせるからね。
「皆様に感謝を込めてプレゼントがあります」
私は先ず、ココに馬型クッキーを渡す。ココはそれを見て大喜びだ。蜘蛛なのにピョンピョン飛び跳ねている。
次に女性陣にプレゼントを渡す。化粧品セットだ。
「これは私が作った化粧品セットです。ポーチの中には化粧品が、別で袋に入っている瓶のものは基礎化粧品で洗顔後や入浴の後に使ってもらうものです。
私で試したのですが余り効果が分からなくて、使ってみて改善点を教えて頂けると嬉しいです」
「ララ、これは何かしら?」
お母様はリップタイプの口紅を見ている。
「これは口紅です。こうやって……」
私はキャップを外し、回してリップ部分を出して見せる。
「回すと口紅が出てくるのです。色は皆別々ですので、欲しい色があったら教えてくださいね。また作りますので」
私は女性陣に向いてニコリと笑う。お母様たちは驚きながらも、化粧品に夢中だ。
続いては男性陣だ。魔法袋からそれぞれの前にバイクを一台ずつ置いていく。最後に自分の前に一台置き乗り方の説明だ。三人とも何だこりゃ? のいい表情を浮かべている。
「これは魔石バイク、乗り物です。アダルヘルムとマトヴィルは大人なので二人乗り用です。私とセオのは1人乗り用です。この真ん中の魔石に魔力を通すと動くようになっています。ハンドルを回せば走り出すのですけど、ここでは……流石に動かせないので、明日にでも試運転いたしましょうか?」
私が三人の顔を見るとポカンと口を開けている、あのアダルヘルムでさえもだ。
「これが乗り物なのですか?」
「ララ様、またスゲー物作りましたね!」
「ララ、これ、凄いカッコイイ……」
みんなのバイクは黒色で統一してある。私のだけ可愛く水色だ。ふふふ……驚かすのに成功だね。
特にセオが喜んでくれているのが、すごく嬉しい。
取りあえず試運転は明日行う約束をして、食事に入る。
マトヴィルが気合を入れて作ってくれた美味しい料理に、舌鼓を打った後は、私が作ったブッシュドノエルだ。
セオはケーキを見てまた目を輝かせた。
「凄い、これって木なの? えっ? 食べ物?」
これは丸太をイメージして作ったケーキで、クリスマスによく食べるケーキなのだと教えてあげる。セオは子供らしく一口食べると顔が蕩けそうになっていた。
(ううう、セオ可愛すぎるよ……)
食後にみんなからお礼を言われたり頭を撫でられたり、頬を撫でられたり、ぎゅっと抱きしめられたりした。
私も皆から素敵なプレゼントを貰ったりして、すごく嬉しいクリスマスになった。
セオにも皆からのプレゼントがあって、自分からはお返しが何もない事に、申し訳なさそうにしていたが、セオが家に来てくれたことが、それだけで嬉しいから何もいらないのよとお母様に言われて、頬を染めて微笑んでいた。
夜、布団の中でセオが呟いた。
「俺、今本当に幸せなんだ。ララ、本当に俺を助けてくれてありがとう。俺、ララの事大好きだよ」
そう言ってセオは私の頬にキスをして、布団の中に隠れてしまった。私は隠れてしまったセオに、大好きだよと伝えて眠りについた。
勿論、何時ものように二人で手をつないで眠ったのであった。
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