第32話 試運転と雪合戦

 バイクの試運転の為に朝早くから四人で裏庭に集まった。マトヴィルもセオも見るからにワクワクしているのが分かる。アダルヘルムだけは顔に出していないが、普段より顔がほころんでいるように見えた。

 私は自分用のバイクにまたがり皆に説明を始めた。


「この中央の魔石に魔力を通すと動き出しますからね。スピード調整はハンドルで出来ます。【ガソリン】の代わり……あー、走るためのエネルギーは、シートのえー、座る場所の下に有って、予備が一つ付いてるので、無くなったら交換してください。

 それから両サイドの魔石はスピードを上げるための物なので、走りながら魔力を通せばスピードが上がります。

 左の青い方が少しスピードが上がって、右の赤い方がそれよりも早くなります。まだ試して無いのでどれぐらいスピードが出るのか分からないので、使うときは絶対に気を付けてください。では先ずは私が乗ってみますね」


 私はバイクに乗り、徐行運転を始めた。出来るだけゆっくりと皆に分かりやすく見せるためだ。


「以上です。何か質問はありませんか?」


 みんなは大丈夫と頷いた。その顔には早く乗りたくて仕方ないと書いてある。アダルヘルムまでもだ。

 私が皆にどうぞと促すと、三人とも喜んで動き出した。流石に皆運動神経がいいだけあって、特に問題なく乗れている。

 セオの顔は遊園地で遊具に乗った子供の様にほころんでいる。アダルヘルムは乗る姿が様になりとってもカッコイイ、サングラスを作って上げようかなと思ってしまうほどだ。

 マトヴィルは最初からかなり飛ばしている、どうやらスピード狂のようだ。マトヴィルにバイクを上げたのは危険だったかもしれない……と少し思った。


 暫く乗って休憩に入ると、口々にお礼を言われた。


「ララ様これは大変素晴らしい品です! 馬車に乗らなくなりそうです」

「ララ、ありがとう。凄い、楽しいや!」

「ララ様は天才ですね!」


 マトヴィルはそう言ってバイクにまたがったまま、赤い魔石にそっと触った。アッ! と思った瞬間、マトヴィルはバイクと共に森の中へと一瞬で姿を消してしまった。残ったのはマトヴィルが起こした巻きあがる風だけだーー


「ア、アダルヘルム……どうしましょう……マトヴィルが……」


 私はマトヴィルが消えていった森を見つめた。セオも呆然と私と同じ方向を見ている。しかしアダルヘルムは笑い出した。


「クックック……マトヴィルには丁度いい……」


(いやいや、丁度良くないから!)


「それにしても、赤の魔石はかなりのスピードですね……」

「はい……思ったよりも早かったです……」


 アダルヘルムにつられて私も冷静になってくるーー


「ねぇ、ララ、アレはどうやって止めるの?」


 セオの言葉にハッとした、止め方を説明していなかった事を思い出したーー


「もう一度触って魔力を流せば止まりますけれど……マトヴィル……気付くかしら……」


 アダルヘルムに まあ大丈夫でしょう と言われ、私達はそのまま試運転を続けた。マトヴィルが戻ってきたのはお昼前だった。案の定止め方が分からず、そのまま進んでいるうちにスピードが楽しくなり、ガソリン代わりの魔石が無くなるまで乗り続けたらしい。


 帰りは予備の魔石を使って景色を楽しみながら帰って来たようだ……

 私はマトヴィルに謝り スピードを調節し直します と伝えたら、このままのスピードで良いと言われてしまった。


 アダルヘルムとセオもハイスピードを試したいと言うので、結局そのままの状態で良しとなった。皆かなりのスピード狂のようだ。



 年が明けて、雪が降る季節となった。昨年ほどではないが雪も積もる日が増えた。

 私は昨年の雪合戦を思い出し、準備をすることにした。大切にしまっておいた雪だるま用の魔石を出す。

 あの後アダルヘルムに参加したかったと言われ、6体の他に4体追加で作ったのだ。雪だるまは全部で10体ある。


 雪が積もった後の天気のいい日、セオに手伝ってもらい雪だるまを作る。そこに魔石を埋め、雪だるまたちに再会だ。

 勿論アリナ達にお転婆を叱られないように、私はノアの姿になっている。


「スノー、ウイン、アイス、ルミ、ハンキ、ランタお久しぶりです。それから、イッチ、ニッチ、ミミ、シー初めまして、仲良く遊びましょう」


 私が全部の雪だるまに魔力を流せば、みんな動き出したーー


(アルジ、オヒサシブリデス、ボクアソビマス)

(ワタシモアルジトアソビマス)

(アナタ、アルジ、ハジメマシテ)


 みんなそれぞれに口を開く。とっても可愛い。セオとモディも雪だるまたちを気に入ったようだ。


 私達が裏庭で遊んでいると、アダルヘルムとマトヴィルがやって来た。気合が入っている様に見える……雪合戦をやる気満々だ。


 ちょっと大人げない気もするけれど……


 先ずは、チーム分けだ、ココとモディも参加するというので私、セオ、ココ、モディ、スノー、アイス、ハンキ、ニッチ、シーがチーム

 アダルヘルム、マトヴィル、ウイン、ルミ、ランタ、イッチ、ミミがチームだ。

 私達は子供なので、ハンデでとしてココとモディが仲間だ。私達はまず作戦をたてたーー


「マトヴィルは絶対中央から攻めてくるよ」

「アダルヘルムがどう攻めて来るかだよね……」


 話をしながらどんどん雪玉を作っていき、お互いに準備が出来たら試合開始だ。


 今回の試合の制限時間は10分、雪玉は100個までとした。陣地には壁が三つ、お互いの陣地の間に一つ、そして相手陣地の旗を取るか、終了時に残り人数の多い方が勝ちとなる。


 私の作ったタイマーの音がなり、試合の開始の合図を告げる。


「お前たち、行くぞー!」


 思った通りマトヴィルが中央からウインと、ランタを引き連れて攻めてきた。中央の壁を先に陣取る気だ。私は大きな雪玉を身体強化を使って空へ投げる。


(大きくても、一個は一個だもんね)


 その雪玉目掛けてモディが水魔法を打ち込む。雪玉ははじけ飛び大人側陣地は吹雪の様に視界が悪くなった。その隙に中央の壁をセオとスノー、ハンキが陣地取る。

 中央目掛けて走りこんできたマトヴィル達三人(?)に集中砲火だ。三人はあっけなく散ったーー

 相手陣地の吹雪がやむ前に次の作戦だ。ココが作った、魚漁の網の様な蜘蛛の糸でまとめた雪玉を私が空へと投げる。空中で開いた網から雪玉が大人陣地目掛けて落ちていく。

 だがアダルヘルムは華麗に全てを避けていく、吹雪で視界が悪いにも拘わらず余裕の笑みだ。

 セオが空中爆弾に気を取られているルミとミミに雪玉を当てた。相手側は残るはアダルヘルムとイッチだけだ。


「ふむ……なかなか、考えていますね」


 アダルヘルムはそう言うと、こちらの陣地の空中へ雪玉を抱えて放り投げた。そしてすぐさまこちらの旗に向かってイッチを投げて、自分も右サイドから走りこんできた。

 そのスピードは身体強化しているだけあって、かなりの速さだ! それに慌ててがら空きになった敵の旗をセオ達が取りに行く。

 私と雪だるま達は、何とか走りこんでくる2人(?)を雪玉で狙うが、速さについていけない。

 アッ と思った時にはイッチが旗にたどり着いた。その瞬間、私達の負けが決まった……


 セオの手は相手チームの旗のすぐ目の前だった。


 残念。結局私達は誰もやられることなく、試合に負けてしまった。


(ううう、勝負に勝って試合に負けた感じだよー)



 試合の後の反省会だ。皆で中央に集まる。


「ふむ……二人共良く作戦を考えましたね」

「でも、負けてしまいました……」


 私とセオはガックリうな垂れる。色々と考えたけれど、アダルヘルム1人にやられてしまった感じである。


「もしかして、師匠が最初に飛び込んだのも作戦ですか?」


 セオが二人に問うと、アダルヘルムとマトヴィルは顔を見合わせ笑った。


「俺たちのどちらかがやられればノア様もセオも油断するだろうと思ってな、でもまさか中央組全員がやられちまうとは思わなかったけどな」


 どうやら私達は、2人の手のひらで踊らされていたようだ……


「ノア様が力技、セオが突撃は理にかなっていたと思いますよ。お二人の長所を良く生かしていました。後はそうですね……もう少し雪だるまたちを上手く使えたら良かったですね」


 その後も雪合戦談義をして、疲れを癒す為に皆でお風呂に入ることにした。

 勿論、私は大浴場の女風呂でココとモディと一緒に湯船につかる。とっても気持ちが良い。冷えた体に温かいお湯が染み渡る。

 雪だるまたちは今年も雪が残る間は、庭を賑わせる事になった。10体もいるとかなり賑やかだ。


「はぁ~……ココ、モディ気持ちいですねー」

(ココ、オフロスキ)

「恍惚の境地でございますなー」

「極楽だねー」

(ココ、ゴクラク)

「群棲し、極楽でございます」


 私達はお風呂で泳ぎに熱中して、アリナにもういい加減になさいませ と注意されるまで堪能したのだった。



 雪も落ち着き、雪だるまたちともお別れの季節になった。

 10体もの雪だるまたちが庭からいなくなってしまうと、一気に寂しくなってしまった。特に女性陣はその可愛らしさに夢中になって居たので、暫く庭を見てはため息をついていた。また、武術、剣術の稽古にも参加していたので、練習中にふっと思い出しては寂しくなる時があった。


 来年も雪が積もってくれると良いなと思いながら私達は春を迎えた。


 夢の月になると、森にやっと遊びに行けるようになった。

転移の練習は勿論していたが、森の中で遊ぶ許可は降りなかったのだ。雪が積もって足元が不安定なため、もう少し大きくなるまでは冬の森に行くのはダメらしい


 久しぶりにセオと森に来て、第二の秘密基地を作る事にした。出来るだけお屋敷から離そうと、バイクに乗って出かけることにした。街道よりは先には行ってはいけないので、道沿いのブルージェ領寄りの森の入口付近で、出来るだけ目立たないようにひっそりと建てることにした。

 今回はセオが中心になって建てる。セオも物作りの魔法の訓練をしたいそうだ。どうしても私は蘭子の記憶があるので、5歳の子が作るにはありえないものを作ってしまうが、セオだって十分に魔法が扱えるのだ。


 今回の秘密基地は、大きな木の洞の中に作ることにした。

 空間魔法で洞の中を広げるのは私の役目だ。部屋は二つでリビングを広めに作る。想像したのは絵本によく出てくる、リスやウサギのお家だ。

 セオが室内を整えていき、私は家具や台所を作る。セオに窓は絶対に丸型にしてね。とお願いしておいた。

 カーテンやベットのカバーなどは前もってミシンで作って置いたものを使う。少し可愛らしく赤と白のチェックにした。リビングのテーブルは丸型にして洞や、セオに頼んだ窓に合うようにする。何だかとっても可愛いお部屋になった。

 階段を作り、上にも出口を作る。そこは屋上の様にして、外を見ながら食事が出来る様にしてみた。


 階段を降りて下に戻ると、セオの作業も丁度終わったところだった。最後に結界を張り、危険なものは入れないように指定すれば、完成だ!


「セオ、作業上手になったね」

「ノアみたいに早くはないけどねー」

「早くここに泊まってみたいな」

「確かに! 楽しみだな!」


 私達は自分達の作業に満足して屋敷にもどった。まだリュックに入っているテントも使ったことが無いし、秘密基地も遊びに行くぐらいだ、早く使いたいね と話しながらゆっくり自宅へとバイクを走らせたのだった。

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