第30話 二人の秘密
セオは次の日にはすっかり元気になった。
私はホッとしてセオにぎゅっと抱き付いた。セオの体が暖かい。
昨日倒れた時は冷たかったので、本当に死んでしまうのかと思って、背筋に冷たいものが走った。
私も皆に度々こんな思いをさせていたのかと深く反省した。
「セオ、良かった。元気になって。昨日は本当にごめんなさい……」
「言っただろ、ララのせいじゃないよ」
セオは私の頭を優しく撫でてくれた。本当に優しくていい子なのだ。
「それにしても、昨日の馬車カッコよかったな!」
「ふふふ……でしょう。私の渾身の作品なのです!」
自慢気にぺったんこな胸を張っていると、そっとセオが目を逸らした。
「俺の魔力流した時どうだった?」
「馬が紺色になったの! 綺麗だった―」
今度試し乗りしようと話しながら、私達は朝食に向かった。勿論ココも一緒にだ。
食堂ではお母様が既に席についていた。私達も席に着く。アダルヘルムが椅子を引いてくれた。
ココはお腹が空いていたのか食堂に着くと、すぐに自分のお皿へと飛んでいった。
「セオ、体調はどうですか? 辛いところはないかしら?」
「はい、もう大丈夫です」
「訓練も大切ですがセオの体の方が大事なのですから、無理はしないで頂戴ね」
「はい」
セオは嬉しそうにはにかんだ、頬までピンク色に染まっている。お母様の笑顔は女性の私から見ても破壊力満点なのだ。赤くもなるよね。
「ララ、昨日はすぐにセオの応急処置が出来たそうですね。よく頑張りました。普段から本を読み勉強を頑張っていると、アリナも褒めていましたよ。大変素晴らしいです。よく頑張りましたね。怖かったのではなくて?」
お母様に不意に褒められて、昨日セオが倒れた時のぞっとした気持ちを思い出し、目の奥が熱くなるのを感じた。私のそんな様子にセオとお母様が心配そうな視線を向けてきた。
「セオが倒れたのは私のせいなのです……私が不注意だったからなのです……だから無我夢中でした。本当にセオが助かって良かったです。もしあのままセオが居なくなってしまったら……」
私は言葉を失ってしまう。本当にセオを失ってしまうところだったのだ。褒められる様なことはしていないーー
「心配おかけして申し訳ありませんでした……セオ、本当にごめんなさい……」
「ララ……」
セオは私の手をぎゅっと握ってくれる。また目の奥が熱くなってくる。お母様がそっと私を撫でた。
「ララ、反省することはとても良いことです。でも怖がって挑戦するのを止めてしまうのは駄目ですよ。分かりますね? これからも二人でよく考えて行動して、勉強するのですよ。何でも経験です、分りましたね」
お母様がそう言って笑うと、私達も笑顔で頷いた。お母様は姿勢をただし、一息つく。
「さて、本題です。ここの所毎朝二人は何処に行っているのかしら?」
お母様の言葉に私達はびっくりして顔を見合わせる。
「二人共何をそんなに驚いた顔をしているの? この城と森に結界を張っているのは私ですよ。2人が出かけたことに気づかないと思いますか? ララがセオを助けに行った時にアダルヘルムとマトヴィルが森に行ったのは、偶然ではありませんよ」
フフフと微笑むお母様の顔は、少女のようだ。私達を驚かすことが出来て嬉しいみたいだった。私達は苦笑いをして話し出した。
「森に秘密基地を作りました……」
「まぁ、秘密基地? それは楽しそうね。」
「それで、俺が転移できるのをララが思い出して……」
「教えて貰ったら私も転移が出来たので、毎朝秘密基地に練習を兼ねて行っています……」
「まぁ……」
周りを見ると、朝食のサーブをしていたアダルヘルムやオルガ、アリナもびっくり顔だ。私達は話を続ける。
「森にもっと秘密基地を作る予定でいます」
「転移の練習の為でもあります」
「転移が思うように出来る様になったら、行きたい場所があるのです」
「まぁ……それはどこかしら?」
私達は顔を見合わせると、ニヤリと笑った。
「大豚がいる場所に行きたいのです!」
私達はマトヴィルから大豚がとても美味しいと聞いて、自分達で見つけたいと思って転移の練習を頑張っている話をする。
魔素が多い森にしか居ないと聞いたのですぐには無理だろうから、力を付けてから行くのだと話をした。周りの皆はあきれ顔だ。
「大豚の為に転移を覚えるなんて……」
「お嬢様とセオがセットですと、尚更色々なことが起きそうですわ……」
「これもまた機密案件ですね……」
口々に問題児発言をしている、でもお母様は違った。
「ふふふ……本当に、貴方たちわ!」
少し涙目になりながら笑っている。こんなに崩した笑顔なのは初めてかもしれない。
「いいわ! どんどん頑張りなさい! ふふふ……大豚を捕まえることが出来たら皆にも振る舞って頂戴ね。楽しみにしていますね」
お母様は私達にウィンクして見せた。私達はホッとして、美味しい朝ご飯を食べたのだった。
セオと手をつなぎながら部屋へと戻っている途中、ふっとお腹いっぱいになってセオの肩で満足そうにしているココが目に入った。
(私、ココにクリスマスプレゼント用意してない!)
私の顔色が変わったのが分かったのだろう、セオが顔を覗き込んできた。
「ララ、どうしたの?」
「セオ、私……」
そこでハッとする。二人にプレゼントの事は秘密だし、ましてやココの目の前では話せない。
「あの……作りたいものが思いついて……」
「そうなんだ、授業終わったら手伝うよ」
今日は午前中はお母様との授業がある、ココにプレゼントを作るとしたら午後からになる。
「うん……ありがとう……でも火を使うから、ココを小屋の外で見ててもらえると助かるの……」
「うん、分かった。良いよ。ココ、今日は俺と遊ぼうな」
(セオ、スキ、アソブ)
ありがとう。と言いながら胸がズキンとした。噓をついているようで、心苦しい……
そんな事を考えている頭の中で、セオと私だけに分かる暗号とか秘密の言葉があればいいなと思った。
お母様との授業をソワソワしながらも無事に終え、昼食の後私は小屋の台所に(給湯室)籠った。
(ココと言えば食べ物だよね……)
良いことを思い付き、鍛冶室に行く。馬の形のクッキー型を急いで作る。ココが馬を美味しそう。と言っていたので馬型のクッキーを作ることにしたのだ。
魔法を使いサクサクと作っていく。後で何を作ったのか聞かれてもいいように、他のお菓子も作ることにした。
シュークリームや、プリンを作ってみる。甘い物苦手なアダルヘルムには無理かなと思い、フルーツ系のゼリーも作ってみた。
魔法で作るとあっという間にかなりの量が出来た。後でマトヴィルに渡しておかなきゃと、移動用の魔法袋に半分入れる。残り半分は自分専用の魔法袋だ。
その後はココへのクッキーをラッピングしてみた。私が作ったラッピング用紙で可愛く包む。ココが喜んでくれると良いなと思い、大好きな赤色のリボンで飾り付けた。
(あっ……メイナードにも何かクリスマスプレゼント出来ないかしら? あと、セオには昨日のお詫びがしたいな……)
何だか色々作りたいものが出来てしまった。
やる気スイッチが入ってしまった私は、夕方セオが呼びに来るまで一心不乱に作業に熱中した。
「ララ、まだ終わらないの?」
セオの声にハッと我に返る。
「セオ、呼びに来てくれたのね、ありがとう」
セオがお茶を入れてくれたようで、差し出されたお茶で一息つく。私は今日作った。プリンを2人? に出してみた。
「お菓子を作ってたんだ?」
プリンの柔らかさにびっくりしながらセオは美味しそうに食べている。ココはプリンの入れ物の中に体ごと入っている。気に入ったようだ。
「うん、お菓子も作っていたんだけど……これ……セオに」
私は作ったキーホルダーのようなものをセオに渡す。円の中に蛇を彫り込み、小さな魔石を埋め込んだ。円の部分には魔術式を張り付けてある。
セオは何だろうと、手に持ち見ている。
「これって? 蛇? 蛇の飾りかな?」
「うん、セオの帯びたいか、武器とかに付けてもらいたくて」
「嬉しい、ありがとう。蛇好きなんだ!」
「昨日のお詫びなの……本当にごめんなさい」
「ララ……もう気にしなくていいのに……」
「ありがとう。でも、セオの優しさに甘えちゃダメなの。それで、お詫びも兼ねて作ってみました。ねぇ、魔力を通してみて」
「魔力?」
戸惑うセオに今日は体調大丈夫かを確認し、作った飾りに魔力を注いでもらう。するとキーホルダーはキラキラとひかり、中の蛇が飛び出してきた。
色はセオの髪に近い色で紺色だ。見た目は魔獣の本で見たモデストによく似ている。モデストを真似て作ったので成功したようだ。良かった。
(ふむ……そなたが主であるか?)
セオに蛇が話しかける。私もまさか話をするとは思わず口をあんぐりと開けてしまった。私以上にセオは驚いている。
蛇は今度は私の方を見た。
(貴女様が私を作りし、神でございますか)
蛇はぺこりと私に頭を下げる。セオは嬉しそうに私に聞いてきた。
「ララ……これって……モデスト?」
(畏まりました。我が名はモデスト、主に心からお仕え致しまする)
名前を貰って嬉しそうにセオに挨拶している。
「あー……モデストって言うのは蛇魔獣の種類で……勿論、私はモデストをイメージして貴方を作ったんだけど」
名前はモデストでいいのか、チラッとセオの顔を見る。セオは只々興奮しているようだ。
「セオ、名前、モデストでいいの?」
「えっ? あー.……じゃあ、モディで! モディ、宜しく、俺セオだよ。で、こっちが……あー……神のララ?」
(おー、神のお名前を教えて頂けるとは、感無量でございます)
何だろう……私、神になってる。それに蛇の性格が……確かにセオを守ってほしくて、蛇神様の様なイメージで作ったけれども……
「あの……モディ、私の事はララって呼んで下さいね」
モディがビクビクと痙攣したようになった。
(なんと慈悲深い神であろうか……畏まりました。ララ姫様と呼ばせて頂きまする)
モディは深々と頭を下げた。取りあえず神では無くなったので良しとしよう。セオはモディに近づきそっと体を撫でる。
「ララ、スゴイや! モディ、本物の蛇みたいだ!」
私もモディの体を撫でてみる。ひんやりと冷たくてとても気持ちいい。
(おお、また魔力を頂けるとは、何たる幸せ!)
私達が触れるたびモディは喜んだ。
気づくと夕飯近い時間になっており、私達は慌てて屋敷に戻る。ココはモディのことを怖がっておらず、セオの子供? と言っていた。セオは嬉しいのか、モディをキーホルダーに戻すことはせずに、ずっと首に巻いていた。
夕飯時に屋敷の皆がセオを見てビックリして、目を真ん丸にしていたけれど……まぁ、良しとしよう。
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