第29話 馬車とバイクとプレゼント
アリナが起こしに来る少し前に、私とセオは起きた。今日から転移の練習を始めるためだ。先にセオが秘密基地へと転移をすると、私の目の前からスッとセオの姿が消える。
次は私の番だ。ココを肩に乗せ一緒に転移をする。
(転移)
思い浮かべたのは秘密基地のベットだ。セオと一緒に作ったからか、秘密基地と思い浮かべると、どうしてもベットが浮かんでしまう。案の定ついた先は、またベットの上だった。
セオが居間からドアを開けて寝室へと入って来ると、その顔には苦笑いが浮かんでいた。
「なんでララは寝室に転移するの?」
「なんでだろう? 秘密基地って思うとセオと作ったベットが浮かぶからかな?」
セオはちょっと嬉しそうに頬をそめる。またその顔が可愛い。
「取り敢えず、成功だね」
「うん、アリナが来る前に戻ろう。先にララが戻って、俺は後から戻る」
私はこくんと頷き屋敷へと先に転移するため、自分の部屋を思い浮かべ、魔力を動かす。
(転移)
セオの姿が見えなくなると、自分の部屋へと戻っていた。成功だ。ホッとしているとすぐにセオも姿を現した。セオも無事に戻ってくることが出来た事にまたホッとする。
「やったね! 往復成功だよ」
「うん、でも、俺かなり魔力使った気がするし、結構疲れたかも。ララは?」
「うーん、魔力は大丈夫かな……でも疲れはあるかも。あと、ちょっと到着地点が……調整が必要かも……今も戻ってきたとき部屋の机の上だったし……」
「あー… …ララは微妙な調節苦手だもんね」
「そうなんだよね… …はぁ……取り敢えずアリナが来るまで、ベットで休もうか… …」
「うん、俺疲れたから、アリナが来るまで寝るよ」
私達はアリナが起こしに来る30分後まで、疲れを取るためにしっかりとベットで休んだ。
アリナは部屋に入って来たとき、いつもなら起きて話し込んでいる私達がスヤスヤと寝ている事にとても驚いたけれど、昨日の森での遊びで疲れていたのだろうと納得してくれた。
それからも毎朝必ず転移の練習を行った。セオは疲れることも無くなり、私は物の上ではなく、部屋の中へキチンと転移できるようになった。
後は少しづつ秘密基地を増やし、少し遠いところにも転移できるように引き続き毎朝の練習をして、レベルを上げようとセオと話し合った。
太陽の日、セオはアダルヘルムに剣の特訓をしてもらうと言うので、私はお預け状態になっていたかぼちゃの馬車作りに精を出すことにした。
魔木であるムーの木を使い、馬と馬車を形作る。木彫りは蘭子時代に学校の授業でしかやったことが無かったので不安だったが、そこは魔法を使えばサクサク削っていける。
何体目かに何とか気に入った馬を作り出すことが出来た、上手に削れた馬三体の額に魔石を嵌める。そこに魔術式を貼り付ければ、ようやく馬は完成だ。
次にかぼちゃの車体部分に手を付ける。丸く可愛さを忘れないように削っていく。窓を作り中も削る。これが一番大変だった。
中身を削り出そうとすると、私の力で折角作ったかぼちゃが真っ二つに割れてしまうのだ。仕方なく天井部分を切り取って中を削り、それから屋根で蓋をすることにしてみた。
その後車体の底部分に魔石をはめ込み、同じ様に魔術式を貼り付れば完成だ。
小屋の大部屋に作った疑似森へ行き、試しに作った馬車を使ってみることにした。馬と車体に魔力を通す。ぶわっとかなりの魔力が抜けたのが分かったが、上手くいったようで馬車は大きくなり馬たちも動いていた。
魔力をもう少し使わなくていいように調整しなくてはならないが、取りあえずはこれで完成だ。
次に自分一人で移動できる乗り物を作ることにする。原付バイクならぬ、魔石バイクだ。
最初は自転車が欲しかったのだけれど、森の中を走ればすぐにパンクしてしまうだろうと思い至たり、 折角魔法が使えるのだ空を飛ぼう と思いついて、タイヤのないバイクを作ることにした。
形は原付バイクのタイヤが無い状態だ。
エンジンとなる心臓部分に、大きな魔石を埋め込む。そしてメーター部分に小さめの魔石を埋め込み、そこに魔力を流せば動くようにする。
ついでにメーター部分のサイドにスピードアップボタンを付ける。ハイとスーパーハイで二段階のスピードアップが出来る。
かなり魔石の減りが早くなると思うので、緊急事態用として貰おうと思った。
シート部分を開ければ魔石が取り出せる、そこに予備の魔石も入れて置き、魔石を使い切った時に備える。
車のガソリンが走っている途中に無くなるなど、前世では非常事態だ。
そうならないためにも、予備の魔石を摘んでおかなければならない。
自分用のバイクは子供用サイズだ。セオのは少し私のよりは大きめにして、そしてアダルヘルムとマトヴィルの物は大人用、それも二人乗りできるようにしてみた。
これを今年のクリスマスプレゼントにしようと思っているのだ。
「ふふふ… …みんなの驚く顔が今から楽しみ……」
私はニヤリといたずらっ子の笑顔で笑う。
次は女性陣へのプレゼントの準備だ。実はずっと作りたかったものがあった。化粧品だ! 薬草や魔獣の勉強をしてから、いつか絶対に化粧品を作ろうと思っていたのである。
この世界には薬用のクリームがあり、顔用と手や体用と分かれてはいるがそれだけだ。その上口紅などは全て瓶の平べったい入れ物に入っていて、少し時間が経つと乾いてしまうものだった。
初めてオルガに見せてもらった時は、啞然としてしまった。なのでクリスマスっぽいポーチを作り、その中へ口紅やファンデーションなどの化粧品一式と、化粧水や乳液などの基礎化粧品をプレゼントする予定なのだ。
「ふっふっふ… …前世でアラフォーだったのは伊達じゃないんだからね… …」
体に出来るだけいいものを選び、基礎化粧品を作る。自分で実験をしてみるが、何せ5歳児のピッチピチの肌だ、それ程成果は分からない。
「取りあえず… …使ってもらいながら検証していくしかないよね… …」
口紅はそれぞれ少し色合いを変えてみた、オルガは落ち着いたピンク、アリナには薄めのピンク、お母様には赤にしてみた。口紅はこれから好みを聞いて色々作っていけばいいと思う。
口紅をスティックタイプにし、ファンデーションと揃いのケースにしてみる、白基調で金色を少しアクセントに入れてみる。
全員分のプレゼントを作ると夕方になっていた。お昼を食べるのも忘れてしまっていて、もうへとへとだ。屋敷に戻るために魔法袋に作ったプレゼントをしまう、当日までは皆には内緒なのだ。
片づけをしていると、ココとセオが入ってきた。手にはおやつを持っている。
「ララ、今日は小屋にこもるって言ってたけど、大丈夫?」
「セオー、色々作ってたら疲れたよー。お昼食べるのも忘れちゃったのー」
「えー! アリナが聞いたら小屋に行くの禁止にされるよー」
私はうん、うん、と相槌を打ち、おやつを勢い良く食べながらセオからのお小言を聞いた。
一息つくとセオからの質問が入る。
「それで今日は何を作ってたの?」
私はニヤリと笑う。悪い笑みだ。クリスマスプレゼントの事はセオにも内緒だ。なので大部屋の疑似森へ連れていき、かぼちゃの馬車を見せることにした。
小さい状態の木彫りのかぼちゃの馬車を魔法袋から取り出し、魔力を注ぐ。
するとずんずんと大きくなって、立派な馬車へと様変わりをした。
「わぁー! 凄い! 凄いよ! ララ!」
セオは馬車の周りをじっくり見て回る。特に馬の部分は時間をかけて見ている。やっぱり生き物が好きなようで、馬たちの鬣をそっと撫でた。
「うわぁ、白馬だね、鬣は金色だ。可愛いなぁ。いい子だね… …そうか、ララの魔力使ってるからか、だからこんなに可愛くていい子なんだね……よしよし」
「えっ? セオは私の魔力が分かるの?」
「えっ? だって、毎日一緒に居れば魔力感じるでしょ?」
「えっ? そうなの?」
「えっ? 違うの?」
えっ? の応酬である。どうやらセオは無意識に気配を感知しているらしく、常に探査している状態のようだ。それは魔法を使っての事ではなく、武術の心得として常に気配を感じられるという事だった。
魔獣並み、言い換えて獣並の鋭さである。チェーニ一族の村では常に気を張っていたので、自然と覚えたらしい。
「セオはすごいなぁ、私、魔法を使わなきゃ無理だもの」
「うん… …でも、俺からしたらララのがよっぽどすごいけど、ノアにもなれるし、こんなすごいもの作れるしね… …」
セオはうっとりと馬達を見ている。
「うん… …でも本当にすごいのはセオだよ。私のは魔力があってのことだもん」
「魔力か… …ねぇ、この馬たちって、俺が魔力流したらどうなるのかな?」
「はっ、そうだね! やってみようよ!」
私は一度馬車を解除させ、元の小さな飾り物状態へと馬車を戻した。その後セオが馬車に魔力を注ぐ、馬車はグングン大きくなり先程のサイズまでの大きさになった。
馬は綺麗な紺色に輝いている。セオの色だ。
「凄い、見てセオ、綺麗な紺色のーー」
セオを振り返って見ると、顔色が悪い。セオはふら付きながらそのままバタンと倒れてしまった。
(これは! 魔力切れ!)
セオに近づき顔を覗くと、真っ白な顔だ。脈も吐く息も弱い。朝からずっとアダルヘルムと訓練をしていたのだから、セオが疲れていたのは当たり前だった。
馬車を大きくするのにはかなりの魔力を使う事は分かっていたのに……
私はスッと息を吸い、口移しでセオに自分の魔力を送り込む。
(セオ、助かって!)
顔を上げセオを覗くと頬には赤みが指していた。息も落ち着いているし、まるで寝ている様子に見える。
私のせいでセオを危険にさらしてしまった、背筋に寒気が走る。使い方を間違えれば危険なのは分かっていたのに… …
とにかく先ずは、セオを屋敷に連れて行こうと、馬車をしまい、セオをおんぶする。小屋から屋敷までの距離ならば、紐が無くても何とか大丈夫そうだ。
小屋を出てしばらく歩くと、アダルヘルムが私を見つけて駆け寄ってきた。
「ララ様、どうしました?」
アダルヘルムはそう言いながら、セオを受け取って抱えてくれる。
「私のせいで魔力切れを起こしてしまいました」
私は涙目になりながらアダルヘルムに小屋であったことを説明する。その間も部屋へ向かうのは、身体強化をしながらの早歩きだ。アダルヘルムとでは歩幅が違い過ぎるので、かなり急いで歩く。
「今日は私が一日鍛えぬいたので疲れていたのでしょう。ララ様のせいではありませんよ」
アダルヘルムはそう言うが、馬車に魔力が多く使われることは分かっていたのに忘れていた私のせいだと思う。
アダルヘルムにお願いをして、私の部屋へとセオを連れてきてもらった。今日は私がセオを看病したいのだ。
「ふむ… …ララ様、応急処置はされたのですね。顔色もそこまで悪くない様だ、これなら間もなく目も覚めるでしょう」
「本当ですか? 良かったです!」
「ララ様、良く魔力切れの応急処置をご存知でしたね?」
「はい、以前私が倒れた後に本を読んで勉強しました」
私達が話しているとセオの声がしたーー
「… …ララ……?」
私はセオのそばへ行きそっと手を握る。その手はまだ少し冷たい… …
「セオ、良かった! ごめんね! ごめんね!」
「私も長時間の練習で疲れさせてしまったね、済まなかった… …」
私もアダルヘルムもセオに頭を下げる。セオは横になったままゆっくりと首を振る。
「どちらも俺が望んだことです。俺の責任です」
アダルヘルムもセオに近づき、そっと頭を撫でる。
「それにしても、小屋に魔力切れの応急処置用の魔道具が準備されていてよかった」
「うん… …ララありがとうね……」
私は首を傾げる、応急処置用の魔道具など準備していないからだ… …
「アダルヘルム… …応急処置の魔道具とは何ですか?」
「医師が使う魔力を注ぐ道具です。アリナもそれを使ってララ様に対応しておりました」
私の部屋に常に置いてあるそうで、棚から出してアダルヘルムが見せてくれた。送る方は握り手になっていて、受け取る方はお腹にくっつくようになっているそうだ。
「ララ様がこの道具を知らないとなると、どの様に魔力を注いたのですか?」
「本に書いてあった通り口移しです」
私の話を聞いてアダルヘルムが頭を抱え、セオは青白かった顔が真っ赤なグランカの花のようになってしまった。
「それは……魔道具が無かった時の応急処置です……」
呆れるアダルヘルムにある意味間違いではありませんね、オホホホホっと 私は笑ってごまかした。
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