第28話 セオと私の秘密基地

 間もなく寒い冬がやって来る。去年はかなり雪が積もったので、今年は早めに冬支度を始める。

 私とセオとココは、森へ薪集めを兼ねて遊びにやって来た。


 今日は先ずは三人で秘密基地へ行くのだ。

 秘密基地は、以前私が大きな木の枝の中腹に建てた丸型のもので、結界も張って有り、ブランコも付けたお気に入りである。

 実はセオを連れて秘密基地へ来るのは初めてである。チェーニ一族のことを考えて、念のため余り森には来ないようにしていたためだ。


 セオは森が好きだ。森というより生き物全体が好きなのだと思う。

 小屋の大部屋にいるカイコたちの事を始めて見せた時も、生き生きとして目が輝いていた。

 勿論、自然の中にいるのも好きなのだと感じる。魔獣を見てもどこか嬉しそうだからだ。知識的に魔獣にはそれほど詳しくはなかったらしいが、図書室の魔獣の本を見つけた時にはとても嬉しそうで、何度も読み返し、今ではマトヴィル並みに詳しくなっているように思う。

 ただし、マトヴィルは魔獣図鑑に載っているほぼすべての魔獣に会ったことがあるというので、セオと一緒に感心してしまった。流石マトヴィルであるーー


 セオはマトヴィルと時間が合えば、魔獣の話をして盛り上がっている。お陰で、側にいる私もかなり魔獣には詳しくなる事が出来た。

 今、私たち二人のお気に入りは大豚だ。その肉はとても美味しいらしく、いつか捕まえようと話している。


 この森では赤豚しか見かけたことが無い。勿論赤豚も美味しいのだが、マトヴィルに 大豚はすっごく美味い! 比べもんになんねぇ! と聞いてからは、いつか食べたいと思っている。


 残念ながら地下倉庫の大豚の在庫は、数年前に終わってしまったらしい。魔素がかなり強い森に行かなければ大豚は見つからないらしく、セオと何時か食材探しの旅に行こうと、話して盛り上がっている。

 勿論ココも一緒にだ。今日もそんな話をしながら森を歩き、秘密基地へと着いた。


「じゃじゃーん、セオどう? 僕が作った第一号の秘密基地だよーん!」

「凄い、凄い! あっ、あれは? なに?」

「ふふふん、ブランコだよ。【遊具】ってなんて言うんだろう……とりあえず……乗って遊ぶものだよ。後で乗ろうね。ココも一緒にね。さあ、中へ行くぞー!」


 三人(?)で おー! と気合を入れて、秘密基地の梯子を上り、中へと進んだ。秘密基地の中は3LDKの作りになっている。

 勿論空間魔法で広げているので、外からの見た目とは広さが全然違う。今は簡単なテーブルや椅子ぐらいの家具しか作っておらず、中はかなりガランとしているので、少し小屋の内装に手を付けようかとの話になった。


「自分の部屋作る? それともみんな一緒の寝室にしよっか?」



 今は屋敷でも三人で一緒に寝ているので、話し合った結果、寝室は一緒にすることにした。暫くは泊まる許可も下りないだろうが、大きなベットを作ることにして、板を整える作業をセオにやってもらうことにした。


「セオゆっくりでいいから、サイズ揃えて丁寧にね」

「うん、分かった」


 セオの魔法はとても丁寧だ。性格も真面目だし、今は頑張りたい気持ちがとても強いので、吸収力が凄い。私的にはもっと気を抜いて子供らしくしてもいいのでは? と思うのだが、セオは自由に勉強できて、知識が増える事がすごく楽

しいようで、暇さえあれば本を読んでみたり、アダルヘルムやマトヴィルに師事してみたりと、とにかく様々なことに興味を持って勉強している。


 村では決められたものだけを勉強し、無駄な知識を取らないようにと、本もほとんどなく、遊ぶということも無かったようだ。


なので森での秘密基地作りも楽しくて仕方がないようで、数日前から秘密基地に来ることをとても楽しみにしていて、ソワソワしていて可愛かった。

 なので今日はとても張り切っているセオである。


「わぁ、セオ、すっごい上達したね!」


 セオが作ってくれた板は、とても丁寧に仕上がっている。


「うん、師匠にちょっと教えてもらったんだ」

「マトヴィルに? えー、いいなぁ。僕も教わりたい……」

「ノアには必要ないと思うよ」

「えー、何で?」

「だって、屋敷中のお風呂とトイレ、きれいにしたんだろ? 師匠が凄いって褒めてたよ。俺も早くララやノアに追いつきたいんだ」


 そう言ってセオはまた作業に戻った。可愛いことを言うセオに胸が締め付けられる。


(セオ、可愛い、可愛すぎる!)


 胸がキュンキュンしながら、私も続きの作業に戻り、暫くするとベットも完成し、ソファや本棚なども作り終えた。家具の製作作業が終われば、勿論次は遊びの時間だ。三人でブランコに乗って遊ぶのだ。

 でもその前にお腹が空いたので、マトヴィルが作ってくれたお弁当を美味しく頂く事にした。

 ココはとっても幸せそうで勢い良く食べている。私たちもブランコが待っていると思うと、ついつい早食いになってしまった。


食事を終えてから外へ出て、ブランコ乗り場へと行く、ブランコは大きめに作ってあるのでみんなで立って乗れるようになっている。

 私達は風魔法を少し使ってブランコを揺らしていく。大きく弧を描きブランコが揺れ、風をビュンビュンと切っていく。


「わぁー! すごいね! 凄い気持ちいいや!」

「だね! 作って正解」


 セオの紺色の髪も、ノアの銀色の髪も、ブランコに乗りすぎてぐしゃぐしゃになってしまい、二人でお互いを見て大笑いをした。


 そんな何気ない事がとても楽しい。セオが来てくれて本当に良かった。私も今、毎日が充実してとても幸せなのだ。そんなことを考えているうちに、セオが森に来た日のことを思い出す。


「そう言えば、セオって転移が出来るんだよね?」

「うん。でもまだレベルが低いから、そんなに遠くへは行けないし、行ったことのある所にしか飛ぶことが出来ないけどね」

「それでも十分すごいよ。レベルが上がればもっと色んな所に行けるわけだし… …村では使わなかったの?」


 セオが言うには偶然自分が転移を使えることを知ったらしい。大切に育てていたバルが死んでしまった時に、始めて発動したようだ。

 いつも遠くから見ていた森にバルの遺体を埋めてあげたいと、思ったのがきっかけのようで、森には行ったことは無かったが、いつも見ていたから転移出来たのだと思うとセオは言った。

 村の先生や子供たちには、転移出来ることを話さなかった。バルのお墓を誰にも知られたくなかったからだ。


 だから練習もしないようにした、見られて大事なバルの事をこれ以上蔑まれたくは無かったのだ。もし転移出来ることを知られていたら、セオは村から出ることは出来なかったのではないかと思う。転移は貴重な魔法で、使える人間も数少ない。そんな有能な存在を手放すはずはないのだから。


 ブランコから降りて、薪を集めながらセオに聞いてみる。


「ねぇ、僕にも使えるようになるかな… …?」

「ノアに?」


 私はうんと頷く。もし家族が危険な目にあっているときに近くに居なかったら… …そう思うととても怖い。


 出来るかぎりいろいろな手段を手にしておきたい、勿論私の自己満足かもしれない、人はいつか死ぬ。でも助けられる命を見捨てるつもりは私には無い。

 この世界には魔法がある、私には神様から貰った素晴らしい魔力量もある。

 私は自分の幸せの為に、遠慮なく貰ったものを最大限使わせてもらう。


 この世界では諦めることはしないと、決めたのだから。


「練習してみる?」

「うん!」


 セオが言うには行きたい場所を想像することが、とても大事だそうだ。今は薪集めで外に居るので、私は秘密基地の中へと転移する事を想像してみる、秘密基地の今日セオと作ったベットを想像して… …


(転移)


視界が揺らぐ、魔力が減るのが分かる。これは出来たかも。そう思った時には秘密基地のベットの上立っていた。


「出来た!」


 ベットの上で思わず飛び跳ねそうになったが、慌てて降りた。手には集めた薪を持っていたため、その場に薪を下していると、誰かが秘密基地へ入ってきたことが分かった。セオだと思い寝室を飛び出す。


「セオ! 出来た、転移できたよ!」


 私は思い切りセオに飛びついた。その反動でセオは勢い余って後ろに倒れた。


「アハハ! ノア、すごいよ! 良く出来たね!」


 セオはマトヴィルの様に私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。ブランコで既に乱れていた髪が、もっと酷いことになる。

 だけど嬉しいのでそんなこと気をしないで、されるがままに撫でてもらう。褒めて貰えて嬉しい。沢山撫でて貰いきって落ち着いたので、二人で起き上がった。でも笑顔のままだ。


「これって、すごいよね。秘密基地にも来たい放題になるね」

「そうだね! それに、もっとレベルが上がれば行きたいところに自由に行けるよ」

「そうか、そうだね! ってことは……」

「「大豚捕まえられる!」」


 私達は アハハ! と笑いながら手をたたき合った。ココは私の肩に居たので、一緒に転移したのだが余り気にしていなかった。ただし大豚は早く食べたいと言っていたけど。


 その日は秘密基地の家具作りでも魔力を使って、転移でも使ったので、拾った薪を魔法リュックに入れて帰ることにした。

 これ以上身体強化等で魔力を使いたくはない。セオにもリュック型魔法袋を渡してあるので、お互いのリュックに半分ずつ薪を入れて持ち帰る。

 勿論守備付きのミサンガも作ってセオに渡してある。ミサンガはセオの瞳の色と同じ紺色にしてみた。セオは恥ずかしそうで、嬉しそうな様子で受け取ってくれた。

 ありがとう。と頬を染めて笑顔で言われた時には、可愛すぎてキュン死するかと思った。

 セオがあまりにも可愛いので、出来ることは何でもしてあげたいと思ってしまう。

 これが親心か… …と呟いたら、アリナに笑われてしまった。


 屋敷に付いて薪を下し、私達は部屋へと戻った。ひっそりと今後の計画を立てる為に私の部屋で話し合いをする。


「レベル上げには練習が必要だよね」

「練習って転移しないといけないよね」

「毎日秘密基地まで転移して戻ってこようか?」

「そっか、それいいね。毎日往復転移すればレベルもすぐに上がるかも」

「秘密基地、もっと増やそうか?」

「それもいいね。転移出来る場所が増えるし、練習にもなるよね」


 コソコソと秘密の会談をしていると、ノックをしてアリナがカートを押し部屋に入って来た。おやつとお茶を持ってきてくれたのだ。


「さぁ、お二人とも手を洗い終わりましたか?」


 私達は顔を見合わせて、慌てて洗面所へと飛んで行く。ココはすぐにテーブルに乗り、用意されたおやつを食べている。

 私達はそんなココの食いしん坊な姿に、苦笑いしながら用意された席へと着く。今日のおやつはパンケーキだ。クリームもはちみつも付いている。


「さぁ、森へ行ってお腹が空きましたでしょ? 沢山食べてくださいね」


 私達は頂きますをして、ふわふわのパンケーキを味わった。


「今日は森の中で何をされたのですか?」


 アリナの質問にお互いに顔を見合わせる。


「えっと… …薪拾いと後はみんなで遊びました」

「とても楽しかったです。あと、マトヴィルのお弁当美味しかったです」

(マト、ウマイ)

「まぁ、ココったら、それではマトヴィルを食べたみたいですわ」


 アリナのセリフにみんなで笑う。ココは我関せずパンケーキに夢中だ。

 秘密基地のことは何だか話したくなかった。

 みんなの事は大好きだけど、秘密基地は私とセオだけの秘密に今日はしたかった。


 そのうち話すかもしれないけれど、今日だけは何だか二人だけの思い出にしておきたかった。

 セオも私と同じ気持ちのようで、その後も誰にも秘密基地の事は話さなかった。


 暫くは二人(いや、ココを入れて三人かな?)だけの秘密にしようと、目で語り合った。

 明日からは転移の練習も始める。二人だけの秘密が、どんどん増えるかもしれない。そんなことにワクワクしながら、私は残りのパンケーキを口に頬張ったのだった。

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