第二章 新しい出会い
第23話 馬の絵と森の願い
今日は金の日だ、アリナにお願いして自由時間に馬小屋へ行く許可を貰った。マトヴィルと一緒ならば馬小屋へ行ってもいいと言われた。
我が家の馬たちの面倒は、マトヴィルが見ている。マトヴィルは生き物がとても好きで、ココの事も可愛がってくれる。
馬たちもお世話をしてくれるマトヴィルの事が大好きで、行けば鳴きながら甘えてくる。
マトヴィルはそれを目頭を下げながら喜んでお世話する。ブラッシングしている姿は、お互い至福そのものだ。
「ララ様、今日は急に馬を見たいなんてどうしましたか?アダルヘルムにくれぐれもララ様を馬に乗せないようにって、朝から注意されたぜ。あいつの心配症は病気だぜ、こんな可愛い馬たちがララ様に何をするって言うんだよ。
なぁ、お前たちもそう思うだろ」
馬たちはマトヴィルの問いかけに嬉しそうに鳴いた。それを聞いたマトヴィルのブラッシングは、尚更熱がこもる。可愛くて仕方がないと言った感じだ。アリナの私の髪結いも、この気持ちかも知れないなとふっと思った。
「アダルヘルムはどちらかと言うと、私が馬たちに何かしないか心配しているのだと思いますよ」
「はっ? ララ様がかい?」
「そうです。まあ、アダルヘルムが心配性なのは勿論なんですけどね」
それもただの心配性ではなくて、反論できない確信のある心配性だ。
私はうっとりしている馬たちを見つめながら、マトヴィルに話を続ける。
「マトヴィル、私今日はここで馬たちの絵を描いていたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「絵を描くんですか?」
「ええ、馬たちの全身を前後左右から描いて、完璧に頭に入れさせてもらいますね」
「それは構いませんが……その絵は何かに使うためですかい?」
「ええ、そうです。かぼちゃの馬車計画の一環です!」
私の考えた、自分専用の疑似馬車を作る計画だ。シンデレラのかぼちゃの馬車をヒントに、普段は小さく持ち歩けて、魔力を注げば馬車になる魔法の馬車。
その名も ”かぼちゃの馬車計画!” その為には先ずは、馬を魔木で木彫りする予定だが、馬の姿形を頭に叩き込む必要があるのだ。
「ふっふっふ……アダルヘルム… …見てなさいよ……」
マトヴィルと馬が少し怯えていた様だが、取り敢えず絵を描く許可はもらえたので良かった。
私が絵を描いている間、ココは馬とすっかり仲良くなったようで、馬の鬣の中でお昼寝をしていた。前に馬を見たときは美味しそうと言っていたけれど、食べ物じゃないと分かってくれたようで良かった。
今日の自由時間は、絵を描くだけで終わってしまった。
ついムキになって沢山描きすぎてしまったようだ。
上手に描けたものをメイナードに一枚送ってあげよう。動物の絵でも喜んでくれるよね。
最近は、メイナードも絵を描いて送ってくれたりもする。可愛い絵が描いてあり、動物なのか人なのか判断が付かない時もあるけれど、一生懸命に描いてくれているのが分かる。
字もだいぶ覚えてきているようで、私もそれに合わせて少し文章を長くしてみたりする。お互いのことはあまり聞かない様にしているけれど、メイナードの様子から小さな男の子なんだろうと、可愛らしさを思いながら想像を膨らませているのだ。
(メイナードへ、ララです。こんにちは。今日は馬小屋で沢、馬の絵を描きました。メイナードに一番お気に入りの絵を送りますね。また森に行ったら絵を描いてきますので、楽しみにしていてくださいね。ララより)
絵を紙飛行機で包み、空へ飛ばす。早くメイナードに会えるといいなと思いながらーー
夜になり、何時もの読書の時間だ。この時間はアリナとの他愛のないおしゃべりをする時間でもある。今日の本は魔道具についての本だ。かぼちゃの馬車の為に勉強あるのみなのだ。
「まぁ、お嬢様、また何かお作りになられるのですか?」
「ふっふっふ、アリナよくぞ聞いてくれました。私は今かぼちゃの馬車計画を立てているのです」
「かぼちゃの馬車計画? でございますか?」
「そうなのです。アダルヘルムをビックリさせるのです! ですからアダルヘルムには内緒にしてくださいね」
「まぁ、アダルヘルムに内緒なのですか?」
「そうなのです。ふっふっふ… …きっとアダルヘルムは【びっくり仰天】になりますよ」
私はニヤリと笑って、アダルヘルムが驚く姿を想像した。
(ふっ、私に素直に乗馬を教えなかった事を悔やむがいい……)
黒い笑みになっていたのだろう。アリナがそっと目をそらしていた。
本来の目的は街へ行くことだったのに、乗馬が出来なかった悔しさがいつの間にか魔道具作りにすり替わっていて、アダルヘルムの手のひらで踊らされていることにも気が付かず。私は本に没頭したのだった。
気がつくと就寝の時間になり、アリナに促されて布団に入る。ココは今日は沢山お昼寝をしたので、こんな時間まで珍しく起きていて一緒にベットへ移動した。
「ココも、今日は馬たちと仲良く出来て楽しかったですね」
(ココ、ウマスキ、ウマ、イイニオイ)
「いい匂いなの?」
(オイシソウナニオイ、イイニオイ、デモ、ココイイコ、ウマ、タベナイ)
「まあ! ココってば、おりこうさんね。そう、お馬さんは、私達の家族ですからね。食べないで仲良くしましょうね」
(ココ、イイコ、ナカヨクスル、アルジヨロコブ)
「ふふふ、いい子いい子」
私は眠りにつくまで、ココの事を優しく撫でてあげたのだった。
どれぐらい時間がたっただろうか… …ガサゴソと音がする。それに何だかくすぐったい、ココが眠れなくて私にじゃれてるのかしら? まだ朝じゃないのに起きちゃったのかしら? そんなことをまどろみながら思っていたら、ココの声がはっきり聞こえた。
(アルジ、オキテ、アルジ、オキテ)
やっぱり動いてたのはココだったようだ。ココを落ち着かせるようにそっと撫でる。お昼寝を沢山したから早くに目が覚めてしまったのかもしれない。
「ココ、どうしたの? … …目が覚めちゃったの?」
(アルジ、オキタ)
「ココ、まだ起きるには早すぎですよ… …もう一度一緒に寝ましょうね……」
ココをそっと撫でながら時計をちらりと見ると、まだ二時過ぎだ。これは朝ではなく夜中だ。良く寝るココにしては随分早く起きちゃったんだな… …と私がまたウトウトし始めると、ココが私の顔に乗った。
(アルジ、オキル、モリ、ヘン)
「えっ?」
その言葉でやっと目が覚める。慌てて起き上がると、ココが私の肩に乗った。
(アルジ、モリヘン、ザワザワ)
私は窓に近き、開けて森を見る。確かに森からざわめきを感じる。でもその異変が何かは分からない… …
「ココ、これは風の音じゃないね… …ココにはなぜかわかる?」
(ココ、モリオカシイワカル、モリイケバ、モットワカル)
「分かったわ。森へ行って確かめましょう」
私は窓からココと一緒に飛び出した。身体強化と風魔法を使えばこんな高さへっちゃらである。お母様との魔法の勉強はかなりの成果があるのだ。アダルヘルムやマトヴィルとだって、伊達に訓練はしていない。
門を軽々とジャンプで乗り越え、森へと入っていく。
「ココ、どう? 何か分かる?」
(… …アルジ、アッチ、アッチガヘン)
「あっち? 北側? … …よし、行こう! ココ走るからしっかり捕まっててね」
森の北側はアグアニエベ国に近い。アダルヘルムやマトヴィルには、森の中でも余り近いては行けないと言われる場所が多いところだ。
アグアニエベ国付近には、深い谷や、強い魔獣も多いからだ。でも今はココが異変を感じている、いかなければならないと強く感じるのだ。
ココは森に居れば私より探査機能が高い、ココの道案内があれば強い魔獣も避けて進めるだろう。
森の中を随分と走って辿り着いたのは、大きな木々が生い茂る、その中でも一段と大きな木のうろだった。
(アルジ、ココ……)
「うん、ココ……有難うね……」
さすがに私の探査でもここまで近づけば何が異変だったのか分かった。森は助けを求めていたのだ。
消えそうな小さな命を心配して… …
うろの中に入ると、一人の少年が倒れていた。腹部には刺し傷があり、あたりにはかなりの血が流れている… …
意識は無く、顔も青白いを通り越して、白に近い。
少年の闇夜の様な色の髪がまたその白さを引き立てていた。少年の口元に顔を近づけると、まだ息はあった。
私はすぐに少年に癒しを掛ける。傷口はスッと綺麗にふさがった。けれどまだ顔色が悪いーー
(血が抜けすぎているんだ……)
「ココ、この子を家へ連れて帰ります。道案内をお願い!」
(アルジ、ワカッタ、マカセテ)
ココはそう言うと私の前にぴょんと飛び降りた。前に出て誘導してくれるらしい。私は少年をおんぶすることにする。
少年は小学3,4年ぐらいの大きさだ、5歳の私がおんぶするにはかなり厳しい。寝間着の裾をかなり破り、紐を作って少年の体を自分に結びつける。
「よし! これなら何とか大丈夫そう。ココ行くよ!」
私の声を聴きココは前へ飛んで行く、木を使ってドンドン前に進む。私はココの動きを探査しながら後をついていく。
身体強化をかなりの時間使っているのでだいぶ疲れてきた。少年を抱える手が少し震える。
「大丈夫だからね。絶対助けるからね!」
見慣れた森の景色になってきた。屋敷までもうすぐだ。
ふと、大好きな人たちの気配を感じた。遠くに灯りが見える。
あれは… …アダルヘルムとマトヴィルだ。
「「ララ様!」」
私を見つけた2人が勢い良く走ってくる。
「アダルヘルム、マトヴィル、お願いこの子を助けたいの!」
私が悲痛な叫びを上げると、2人はすぐに理解してくれて、マトヴィルが私から少年を受け取り、アダルヘルムは私を抱え、全速力で屋敷へと走り出した。
2人の本気の走りはすごく早く、あっという間に屋敷へとたどり着いた。
玄関入口ではお母様を始め、オルガとアリナも待っていた。
お母様は少年を見るとすぐに客間へ連れて行くように指示を出し、少年に増血剤を与えた。意識のない少年は口元から薬を少しこぼしながらも、何とか飲み込み、少しづつ顔色も良くなって、吐く息も寝息に変わった。
私はそれを見て安心し、そっと意識を手放したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます