第22話 木の実取り

 マトヴィルと久しぶりに一緒に森へ来た。


 今日はマトヴィルが一緒なので、ノアではなくララの姿だ。

 勿論、ココも一緒に森に来ている。3人(?)で森の木々に実った果物を取りに来たのだ。

 マトヴィルは料理のソースやジャムに、私はお菓子作りに果物を使いたく、それなら一緒に行こうとなったのだ。 

 果物を摘みながら先日の話をマトヴィル話してみることにした。


「マトヴィル、この前アダルヘルムに、どんな人と結婚したいか聞かれたのです… …」

「おー、あいつの心配症は病気ですからね… …エレノア様の時にしつこい王子が居ましたからね… …ララ様をアホどもから守りたいんでしょう。

 まぁ、俺もその気持ちは分かりますけどね……」

「私、自由にさせてくれて、私を好きになって下さる方がいいのですけど… …そんな方はいないかも知れませんでしょ… …ですから子供だけ出来ればいいと思ったのですが… …オルガとアダルヘルムに怒られてしまいました」

「ぶわっはっは! ララ様なんでそうなるんですか!」

「だって、オルガとアリナにはよくお嫁に行けなくなるかも、と言われますし… …自分でも少しお転婆かなとは思っていますから… …」


 でも私は自分の家族を守るための訓練や、勉強を辞めるつもりはない。だったら子供だけでもと思ったのだが… …

 それに私を好きになってくれる人が現れるかどうかも分からないのだ、だったら子供が産めるうちに子づくりをしておきたい。お母様と同じ様に、皆に手伝ってもらいながら子育てをすればいいのだ。


「オルガとアリナも心配してのことですよ。決してララ様が結婚できないなんて思ってませんぜ」

「本当ですか?!」

「まず、ララ様はお転婆かもしれないが、可愛らしい。その見た目だけでも寄ってくる男は沢山います、ただし、アダルヘルムが片っ端からぶっ殺しそうですがね」


 マトヴィルは恐ろしい事を言いながら、ウィンクをしてガハハハッと笑い続ける。


「魔力量、家柄… …その頭脳、心構え… …アダルヘルムが心配するはずですよ… …オルガとアリナの気持ちも分かります… …つり合いが取れる男がどれだけいるかーー

 とにかく言い寄ってくる男がいたら、俺たちに相談してください。約束ですぜ。アダルヘルムの知らないところで手を出そうとする不届き者を見つけたら、あいつは本当にそいつを殺しちまいそうですからね… …まぁ、俺もかもしれませんがねーー」



 何か物騒な言葉が聞こえたが、取り敢えず結婚相手の候補は居そうなので、一安心である。子供には出来れば両親がいた方がいいものね。あとは、お父様お母様の様に素敵な夫婦になれたらいい。



 マトヴィルとそんなやり取りをしながら、籠いっぱいに果物を摘むことが出来た。ベリーやチェリー、木苺もある。 

ココはつまみ食いで既にお腹いっぱいだ。全てを魔法袋に入れて、屋敷へ戻ることにする。

 ココは美味しいものを作ってくれるマトヴィルの事も好きなので、帰りはマトヴィルの肩に乗っていた。

 マトヴィルも肩口でぐっすり眠っているココに目じりを下げていた。


 屋敷のキッチンには、私専用のスペースもマトヴィルが作ってくれたので、今日はここで一緒に料理をする。

 二人で味を調えながら、ジャムやお菓子などを作る。

 勿論そのまま生で食べる分は、保存箱へと入れておく。

 これでいつでも新鮮なまま食べる事ができるのだ。



 今夜のディナーには、マトヴィルの豚のフルーツソース掛けと、私のイチゴのタルトを出した。お母様は喜んで下さり、私はマトヴィルとの森での出来事を話したり、とても楽しい夕食となった。



 次の日、昨日森で梅も取ってきたので、梅酒や梅ジュースを作ったりして楽しんだ。梅のうち少しの量を梅干しにしてみることにした。出来上がったらおにぎりにしてみるのが今から楽しみだ。




 夜の月になり、私は5歳になった。


 体もだいぶ大きくなり、ノアとしてもララとしても動きやすくなってきた。アダルヘルムやマトヴィルとの訓練でも、対人戦や、魔獣戦、団体戦など、かなり本格的になってきたと思う。

 先日は、マトヴィルがまた結界魔道具を壊してしまい、その結果屋敷の塀を壊してしまった。

 勿論、次の日には修復だ。私も作業を手伝い、早い時間で以前より頑丈な塀を作ることが出来た。


 マトヴィルがまた壊してもララ様が居ればすぐに直せるから平気だなと、笑っていたのがオルガに聞こえたようで、後でまた注意されていた。


 そのオルガはすっかり私の作った生地に夢中になり。お母様や私のドレスをたくさん作ってくれた。

 オルガの物も作って欲しいと言ったのに、遠慮してかブラウスだけにしていたので、内緒でオルガとアリナに私が作ってドレスをプレゼントした。


 とても喜んでくれたのだが、普段着るのはもったいないと言って、まだ着たところを見ていないので、とても残念だ。


 勿論、マトヴィルとアダルヘルムにもまたシャツを作ってプレゼントした。相変わらず二人共何を着ても似合ってしまうので、腹立たしい。

 今度はココのきぐるみでも作ってプレゼントしてみようかな? と少し悪いことを考えてしまった。


 小屋では相変わらず、作りたいものを思いついたら作っている。最近は硝子細工にはまっていて。グラスは勿論、ランプを作ったり、動物を作ったりと遊んでーーいや、勉強している。


 カイコたちは、魔獣に襲われることなく生活出来るので、疑似森で生き生きとしている。ココはこの疑似森が大好きで、私が小屋にいるときは、疑似森で遊んでいることが増えた。

 森の中で、蜘蛛の巣を使って絵を描いて遊んでいたので、面白くて笑ってしまった。

 勿論、小屋の台所(元給湯室)で私が料理をしているときは、べったりと私のそばから離れないのだった。相変わらず食いしん坊のココである。


 夜、何時のアリナとの読書タイムの時、アリナはこの前馬車で街へ行ってきた話をしてくれた。エルフという事で街では目立ってしまうので、護衛の為マトヴィルも一緒にだ。

 マトヴィルもエルフなので、二人そろっていると返って目立つのでは? と思ったのだが、近寄りがたいようで遠巻きで見られる程度らしい。


 街で売っているほとんどの品が地下倉庫にあるのだが、補充の為にも、街の様子を知る為にも、たまに買い物に行くようだ。私も今度連れて行って欲しいとお願いしてみたら、アダルヘルムが良いと言えば連れて行ってくれると、約束してくれた。

 お母様ではなく、なぜアダルヘルムなのかは聞かなかったけれど… …


「アリナ、街の様子はどうでしたか?」

「ブルージェのアズレブの街はブルージェの領主様が亡くなられたようで、あまり活気がないような感じでした… …」

「そうなのですか?」

「ええ、急に亡くなられたとかで、街の人々も戸惑っているようでした」

「そうなのですか… …街が荒れないといいのですど……新しい領主様は、どのような方なのでしょう、アリナは何か知っていますか?」

「買い物先で聞いた話では、まだお若い方のようでした。亡くなられた領主様の弟様が後見人としてついて下さる様で、何とかなるのではないかとの話でございました」

「そうなのですか… …アズレブは一番近い街ですから心配ですね。ブルージェ領全てが荒れないといいですけど… …」

「そうですね… …それに、街が落ち着きを取り戻すまでは、残念ですがお嬢様が街へお出かけになるのも難しいと思いますし… …」

「えっ?! それは困ります!」

「アダルヘルムが、今の街の状況で許可を出すとは思えませんし… …」

「ええっ! それでは当分行けないではないですか……」


 アリナはニコリとして黙ってしまった。私は新領主様に 頑張って と本気で祈るしかなかった。



 私はいつ頃になったら街へ行けるようになるのか、アダルヘルムに確認してみようと思い、朝一番で声をかけてみることにした。


「アダルヘルム、おはようございます。」

「ララ様… …おはようございーーはぁ… …寝間着姿で出歩いていますと、アリナに怒られますよ… …」

「仕方がないのです、アリアが私を起こしに来るのは、もう少し後ですから。その前にアダルヘルム会いたかったのです」

「私にですか?」

「はい、私街に行ってみたいのですが、アリナにアダルヘルムに許可をもらう様に言われました。行ってもよろしいですか?」

「そうですね… …現状では許可を出すのは難しいでしょうね……」

「えっ、なぜですか?」


 アダルヘルムは深い溜息をつき、ジッと私を見る。


「ララ様、ララ様は、ただ街に行きたいだけではありませんよね?」


 私はアダルヘルムの言い分に首をかしげる。私は街を見たいだけだ。アダルヘルムはその様子を見て続ける。


「私の知るララ様は好奇心旺盛でございます。一度街へ行けば色々な事に興味をお持ちになり、また行きたくなることは確実でしょうーー今、森に自由に行っているように、街にも自由に出入りしたくなることは目に見えております」


 私はアダルヘルムの言い分に、ぐうの音も出ず黙ってうなずく。


「私たちの誰かが付いていくことは可能でございますが、私共はエルフですし、返って悪目立ちし、ララ様を危険にさらす可能性もございます。いくら平民にまぎれたとしても難しい事でしょう… …ララ様がせめてもう少し大きくなるまで、我慢していただけないでしょうか… …」

「… …ううう… …分かりました… …」


 私は、アダルヘルムの言い分に頷くしかなかった。


「では……せめて馬に乗る練習がしたいです!」

「馬ですか? 馬車ではなく? 乗馬の練習でございますか?」

「そうです! いつ出かけられるようになっても大丈夫なように、今から練習をしたいのです!」


 アダルヘルムはまた深い溜息を付いた。苦笑いだ。


「ララ様が馬を乗れるようになったら、どうなさると思いますか?」

「それは勿論、乗って出かけます!」


 アダルヘルムがニッコリとした。


「それが私の答えでございます」

「へっ?!」

「ララ様にはまだお教えできません。ご了承くださいませ」


 答えを間違えてしまった私はガックリだ… …アダルヘルムに、早く戻らなければアリナに怒られますよと、部屋に戻るよう促され渋々戻ることにした。


 自室のベットにボスンと飛び込み、バタバタとベットで暴れる。悔しい、街に行きたかった。


 そしてひと暴れし、考えるーー


(馬がダメなら乗り物を自分で作るしかないよね… …ううう、アダルヘルムめー、見てなさいよー! びっくりさせてやるからー!)


 最初の目的とは少し違う方向へ、考え始めていた私だった。

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