第19話 クリスマスと雪合戦

 アダルヘルムに案内されて、お母様の部屋へと行った。すぐにいつもの席へと促され、アダルヘルムは美味しいお茶を入れてくれた。ホッと一息つくと、お母様が訪ねてきた。


「ララ、どうしましたか?」

「あの……」


 私はもじもじしながら紙を差し出す。


「ココの絵を描いたのです。お母様にも見て頂きたくて… …」

「あら… …まぁ……」


 私からそっと受け取り、絵を見たお母様の瞳がキラキラと輝きだした。


「ララ、大変よく描けておりますよ。絵の対象者に対する愛情がとても良く出ております。ココが生き生きとしていますね。今にも飛び出してきそう。

 ふふふ…ココの可愛らしいこと……このお尻の部分がまた、プリっとしていて可愛いわねぁ… …

 ココ、今度私にも絵描かせてくださいませね」


 褒められた事が面映ゆくて、もじもじしていると、お母様は微笑んで私の頭を撫でた。その後ココの事も優しく撫でる。


「それにしても、これはどんな道具で描いたのかしら? 初めて見る色合いね……」


 私は魔法袋から色鉛筆のセットを出して、お母様の前に広げる。


「色鉛筆といいます。お母様も宜しければ使ってみてください」


 ついでに普通の鉛筆も出し、手作りの筆箱に入れてお母様にプレゼントした。お母様はとても喜び私をぎゅうっと抱きしめたのだった。



 納の月も終りに近づき、間もなく年末を迎える。今年は例年より寒く、雪が積もる日も多い。森の木々も雪化粧をしてとても美しく輝いている。


 さて、もうすぐクリスマスだ。今年はプレゼントを何にしようかと考える。


(うーん… …やっぱり腕時計かな… …皆使うよね?)


 私は時間を気にして働くであろう皆に、腕時計をプレゼントする事にきめた。


 お母様には美しい装飾品の様な腕時計がいいだろう。


 早速地下倉庫に行き、材料を集める。オルガとアリナには、私と同じモデストの皮を使おう。アダルヘルムとマトヴィルは、ヴィリマークという牛型魔獣の皮にしてみた。とても耐久性に優れていると本に乗っていたのだ。

 お母様のは、フルモスという名の金属を使ってみることにした。


 色はお母様のは、バックル部分が金色の金属だから、文字盤部分は薄いピンクにしてみる。

 アダムヘルムは全体的に黒に、マトヴィルはベルト部分は黒、残りはシルバーだ。オルガは薄緑、アリナは薄ピンクにしてみた。


 時計を入れるケースも作り、最後に可愛くラッピングをする。完璧だ。これでプレゼントの準備は出来た。


 次はオルガンの練習だ。最近は時間があればオルガンを弾いて練習している。指が鈍らないためにするためだ。


(うーん、今年はアヴェマリアにしようかなぁ… …)


 結界を張って練習をする。ココはオルガンの上でうっとりとしているようだ。皆が喜んでくれるといいなと思いながら、私は練習を頑張ったのだった。



 クリスマスの日、演奏も無事成功し、プレゼントもそれぞれに渡すと、とても喜んでくれた。

 今年は、マトヴィルが張り切り、とても美味しそうなディナーとなっていた。ヴィリマーク牛を使ったシチューだ。肉がとても柔らかく煮込めていて美味しい。舌鼓を打ちながら食べ終わると、驚く事に皆からプレゼントがあった。


 オルガからは新しいドレス。アリナからは本、アダムヘルムからは武器の手入れセット、マトヴィルからは包丁だった。

 そしてお母様からは、色鉛筆で描かれた私の肖像画だ。

 全部で三枚あり。一枚は私がとてもいい笑顔の物、二枚目は変身したノアの私、三枚目はココと私だ。


 色鉛筆の優しい色合いを使って、とても素敵に描かれていた。私は一人一人に抱き着きながらお礼を言う。

 何だか面映ゆくて恥ずかしい。部屋に戻りお母様から頂いた絵をキャビネットに飾り、他の皆からのプレゼントも大事に自分のデスクに並べた。


 その夜、床に就きながら、蘭子時代に感じられなかったこの気持ちを、大事にしようと誓ったのだった。



 霞の月を迎えた。相変わらずの寒さが続き、昨日から降り続いた雪がつもり、今朝は一面銀色の雪景色となっている。


「この雪じゃ、森にもいけませんねぇ」


 今日はマトヴィルと一緒に森に行く予定だったが。新雪の中を歩くのは今の私ではまだ危険ということで、残念ながら取りやめとなったのだ。そこで私は魔石を使い、あるものを作ることにした。


「マトヴィル、良いものがあるのですけれども… …一緒に、遊びませんか?」

「おっ、なんですかい?」


 ふふふ、と笑いながら作った魔石を見せる。私が細工したので、真白な魔石になっている。


「魔石ですか? これがどうしました?」

「これを埋め込んだ雪だるまを作って、雪合戦をいたしましょう!」


 マトヴィルは目を丸くした後、ニヤリと笑った。


「それは、面白そうですね」


 私とマトヴィルはお互いに三体ずつ雪だるまを作る。ハンデを付けて、マトヴィルの雪だるまは私の半分ぐらいの大きさにした。


 その後は陣地を作り、作戦会議だ。私は雪だるま達に名前を付ける。


「一番背の高い貴方はスノー、細い貴方はウイン、小さい貴方はアイスと名付けます。これから雪合戦をします。みんな力を貸してくださいね!」


 私が名前を付けると、三体は魔力に包まれてキラキラと輝いた。


(ボク、スノーガンバリマス)

(ボクハ、ウイン、テキヲタオシマス)

(ワタシ、アルジマモリマス)

(ココ、アルジマモル、マト、ヤッツケル)


 ココまで参加宣言をした。やる気満々の様だ。私たちは先ずは、雪玉をたくさん作ることにした。雪玉には私の魔力を送り、スピードが出るようにする。その後はなるべく壁を頑丈に補強し、どこから攻めるか作戦をたてる。

 お互いの陣地の旗を先に取るか、全員に雪玉をあてて場外とすれば勝ちとなる。

 時間制限を設けて試合時間は10分とする、終了時に残っていた人数が多い方が勝ちとなる。


「では、始めましょうぜ!」


 マトヴィルの声の合図で戦いが始まった。

 私が中央から雪玉を投げ、スノーが右から、ウインが左から雪玉を投げる。

 アイスとココは陣地の旗を守りながらの後方支援部隊だ。雪玉をせっせと作り補充してくれる。


「ララ様、なんちゅう速さの雪玉投げるんだ!」


 マトヴィルの声が聞こえる。その時、右側からマトヴィルの雪だるまが一体、こちらの陣地に攻め込んできた。

 その瞬間、ココの引いた糸に引っ掛かり、マトヴィル側の雪だるまは転んだ、すかさずそこをスノーが狙い撃ちだ。


「ココの糸を使うなんて!」


 マトヴィルの喚き声が聞こえる、してやったりだ。向こうの陣地の弱くなった部分にウインが攻め込む、私もその後に続く。二体目の雪だるまを私が倒し、ウインはもう一体と相打ちとなった。


 さあ! 残るはマトヴィル一人だ!


「さあ、残りはマトヴィル一人です。総攻撃を掛けますよ!」

((オー!))


 全員でマトヴィルを攻撃し、マトヴィルはあっけなく散ったのだったーー


「スノー、ウイン、アイス、ココ、よく頑張って下さいました!」


 私は雪だるま一体ずつとココを労い、それぞれを撫でてあげる。


「ララ様、一体ずつ名前を付けてたのかぁ… …そりぁ、かなわねーわ… …」


 ガハハハッとマトヴィルは笑い、私と雪だるまたちと握手をした。ついでにマトヴィルの三体の雪だるまたちにも名前を付ける。ルミ、ハンキ、ランタだ。

 名前を付けるとみんな生き生きと動きだした。六体は雪が降る冬の間、我が家の庭を賑わせた。

 ココや私のいい遊び相手にもなってくれたり。訓練の相手にもなってくれた。マトヴィルも喜んで彼ら達に稽古をつけていた。

 その姿は可愛らしく、オルガやアリナは微笑ましくみつめ、お母様も窓から毎日庭の六体の雪だるまを眺めていた。


 春に近づき暖かくなると、遂に六体は溶けてしまった。


「また、来年の冬に会いましょうね」


 と約束をして、魔石を取り出した。その後寂しさを感じた皆が、庭を見てはため息を付いていた。

 マトヴィルは特にひどく、たまにウルウルと涙目になっては「早く冬になれ」とぼやいていた。私はその背中を(届かなかったので肘あたりを)慰めるためにそっとなでたのだった。


 そしてアダルヘルムも雪合戦をやりたかったらしく、来年はかならず自分も参加させて頂きますと張り切っていた。 

 その為、来年はもう四体雪だるまを増やそうと、今から魔石を作るのだった。

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