第18話 紙飛行機と色鉛筆

 納の月にしては暖かくお天気の良い日に森へ行った。


 今日は先日作った紙飛行機の実験をする。先ずは普通紙と速達紙の速さの違いを比べる。私が森から送ってアリナが受け取るのだ。 

 アリナにも時計を渡してあり、到着時間をメモしておいてもらう。紙飛行機達を森の入口、秘密基地、街道付近から送り、帰ってからアリナに到着時間を確認する予定だ。


 次に、黄色の実験をする。森の中の石を乗せてみる。普通の折紙サイズだと大きさにもよるが1キロ、少し大きめの折り紙を使うと3キロまで耐えられた。

 ただし、軽くてもあまり大きいものは運べない。黄色はあまり需要はないかもしれないなと思った。


 赤は遠距離だが、私は遠距離に知り合いがいない。どうしようかなぁと思ってお母様に相談すると、モナルカ国の王と知り合いだから送ってみましょうか? と言ってくれた。

 でもアダルヘルムからは、あの王に手紙など調子づくだけなので駄目です。と言われてしまった。どうやらお父様が無くなったあと、何度もお母様にアプローチがあったらしい。


 アダルヘルムが以前に言っていた、愚かな王子なのかもしれない… … …


 困って居ると、フォウリージ国にあるセレーネの森のアダルヘルムの故郷に、手紙を出してくれることになった。そこまで遠い国ではないが実験をしてみる。

 遠い国はいずれ私が知り合いを作ったら行うことになった。ただし、王子などの愚か者は除くようにとアダルヘルムから注意された。アダルヘルムの知り合いには愚かな王子しか存在しないようだ。


 森から隠蔽の紙飛行機も送ってみる、これも到着時間を調べるためだ。普通紙とどちらが早いのかの確認だ。

 いずれ雪の日とか、雨の日、風の強い日なんかも研究しなければいけないなと考える。やることがいっぱいだ。なんだか、研究員が欲しくなった。


(まぁ、追々かなぁ……)


 その後はココと森で遊ぶ。かくれんぼだ。ココが隠れ、私が探査を使いココを見つける。お互いの訓練だ。

 ココはこの遊びが大好きだ。隠蔽の魔法を使い存在を消す。蜘蛛の本能なのだろうか、狩りに似ているのかもしれない。

 そんな遊びを繰り返し、お腹もすいたし、疲れたので帰ることにする。勿論、実験の結果も気になるからだ。


「ココ、楽しかったね。隠れるの上達したよね」

(アルジ、タノシイ、ココ、タノシイ)

「今度は違う遊びもしてみようか? ココと私の魔法の訓練しようね」

(ココ、ツヨクナル、アルジ、マモル)

「ふふふ、守ってくれるのね。有難う」


 ココを優しくなでると、私の肩口で両手? を上げてココは喜んだ。


 自宅に戻り手紙の確認だ。アリナに到着時間を確認する。


「青はかなり早いですね。予想以上です。白の倍の速度で飛んでいますね… …黒は、白よりも早いみたいですね、やっぱり色がある分、魔力がちがうのかしら… …

 アリナ、黒はどの時点で届いたのが分かりましたか?」

「はい、部屋に何か風が吹いた気がして、見上げると姿が現れました」

「そうですか。うーん、隠蔽だからこのままでいいかな… …届いた合図があったら、ほかに人に気づかれてしまいますものね… …」

「そうですわねぇ… …秘密の手紙ですから、そのままがよろしいかと存じます」

「黄色はどうでしたか? 速さは荷物を載せているので、一番遅いはずですけど… …」

「問題なく届きました。重さによるふらつきなども有りませんでした」

「そうですか。良かったです。実験成功ですね。あとは、アダルヘルムに頼んだセレーネの森に送ったものがいつ返信来るかですけど… …」


 セレーネの森の話をすると、アリナがビクッとなった気がした。顔もこわばっている… …それでも答えてくれた。


「セレーネの森までは馬車を使って、その後山道を歩いて、早くても二週間は掛かります。赤飛行機は馬車より早いでしょうか?」

「そうですね… …馬車の速さは私は分かりませんが、最短距離で飛べることを考えると、馬車よりも早いかも知れませんね… …相手の方がちゃんと到着時刻と返信時刻を書いてくれることを期待します。

 まぁ、無事に成功してキチンと届くことが前提ですけど」

「アダルヘルムの事ですから、抜かりなく、きちんとした相手を選んでいると思いますよ」


 そう答えるアリナの笑顔は、やっぱり少し曇っていた… …



 数日たち、赤紙飛行機の返信が届いた。お母様の部屋へと向かう。部屋ではお母様とアダルヘルムが待っていた。私はいつもの席へ座り、ふと、キャビネットに目をやるとピンクと白の鶴が並んで飾られていた。


「ララ様、私の知人のバルドヴィーノというものに手紙を

送ったのですが、約10日で戻ってまいりました」

「往復10日ですか… …これは早いのでしょうか?」

「大変早いと思います。一般に流通しております郵便を使う場合、セレーネの森までは届くまで1ヶ月は掛かりますし、下手をしたら手紙自体届きませんからね… …」

「それは何故ですか… …?」

「それだけあの森は奥深いという事です。エルフの森は隠されていますから」

「そうなのですね… …」

「貴女の曾祖母様の故郷でもあるのよ」

「そうなのですか?」

「私も一度だけアラスター様と行った事があるの」


 お母様はお父様と、結婚の報告を兼ねてセレーネの森に行った事を話してくれた。当時、曾祖母様のお兄様であるエルフの王が存命であった為、挨拶をしに出掛けたそうだ。

 王国自体は無くなっているが子孫は生きており、現在は代替わりをしているらしい。話を聞きながら私はアリナの事を思い出した。だが、本人がいないのに聞くわけにはいかない… …

 そんなことを考えながらお母様とアダルヘルムにお礼を言って、部屋を後にした。



 実験でここの所失敗しているものがある。色鉛筆だ……

 絵葉書教室に蘭子の時に通っていた経験のある私としては、どうしても欲しいものであった。

 何度か挑戦を試みたのだが、魔力を通してしまいすぎるのか、書いた線が踊ったり、下手をすると、浮かび上がったりしてしまった。

 色を付けるのに、魔力を使うのがいけないのだろうか? この世界に色鉛筆はあるのだろうか? そんなことを考えながら、今日も色鉛筆づくりにせいをだしていた。


(そうか、芯だけ色を変えるようにすればいいのか! 鉛筆自体に魔術式を埋め込むからおかしくなるんだ……)


 何とか形を作り、12色の色鉛筆画出来上がった。ついでに普通の鉛筆も作った。この世界はインクのペンなので、鉛筆を作り消しゴムが有れば、随分と便利だろうと思いついたのだ。

 とりあえず色鉛筆に時間が掛かり過ぎた為、消しゴムはまた後日にする事にした。


 部屋へ戻り絵を描き始める。モデルはココだ。ココを部屋の花瓶の花の上に乗せる。白い花にココの黒い色がとても映える。


「ココ、素敵ですよ。少しの間お花の上で我慢してね」

(ココ、ガマン、アルジ、ヨロコブ)


 ココと花の絵を描いて、色を塗っていく。ココの黒い毛の輝きを表すのがとても難しい。銀蜘蛛と呼ばれる由来か、日が当たると銀色にキラキラと輝くのだ。

 お尻の赤いところは、チャームポイントだ。出来るだけ可愛らしさを表現したい。あまりどぎつい赤ではなく、紅葉色といえばいいのだろうか… …

 うーん… …と悩みながら色を付ける。なかなかの出来に仕上がった。


「ココ! 見て、できましたよ。これがココですよ」 


 私はココに描いた絵を一番に見せてみた。


「どうですか? 気に入りましたか? ココの可愛いらしさが表現されているでしょう」

(ココ、カワイイ、アルジ、ジョウズ)


 ココから喜びの気持ちが伝わってきた。それに気をよくした私は、皆にも絵を見せに行く。


「マトヴィル見てください。ココの絵を描きました」

「おお、ララ様は絵も上手なのかい、スゲーなぁ。どれどれ… …おお、ココの凶暴さが絵からにじみ出てるなぁ!」

「えっ?!」

「獲物を狙っている前の銀蜘蛛の荒々しさが、十分表現されてるぜっ! ココ、良かったな、ララ様はお前をよく見てるぞ!」


 ガハハハッとマトヴィルは笑う。可愛さを表現したのに、戦闘狂のマトヴィルには伝わらなかったらしい……


 マトヴィルのことはあきらめて、次にオルガとアリナの元へと向かう。女性ならこの可愛らしさがわかるだろう。


「オルガ、アリナ見てください、ココの可愛らしさを絵に致しました」


 私から受け取った絵を見てから、2人は見つめ合い、そして、頷いた。


「お嬢様、大変上手にかけてらっしゃいますが、決してこの絵を他の人に見せてはなりませんよ」

「えっ?!」

「そうでございます。それからココがいくら可愛くても、銀蜘蛛の事を可愛いなどと外でおっしゃってはなりませんよ」

「えっ?!」


 その後も、このままでは婚期を逃してしまいます。とか、女の子の友達ができないかもしれないとか、上手に描けば描くほど恐れられます。とか散々注意されてしまったのだった。


 三人に分かってもらえなかった事に、がっくりしながら廊下を歩いているとアダルヘルム会った。


「ララ様どうされました? いつもの元気がありませんね?」


 アダルヘルムに皆にも見せた絵の話をした。


 ココの可愛さが伝わらないのだと… …


「ララ様には可愛くても、ココは銀蜘蛛ですから雄々さが絵に出てしまうのでしょう。私にも見せて頂いてもよろしいですか?」


 私は渋々、アダルヘルムに描いた絵を渡す。


「ふむ、良く表現されておりますね。流石お嬢様です。エレノア様も絵がお上手なのでございますよ。お見せしてみたらどうでしょうか?」

「えっ?! お母様は絵を描かれるのですか?」

「はい、あのアラスター様とノア様の絵はエレノア様の描かれたものですよ」

「えっ?! そうなのですか?!」

「はい」


 アダルヘルムはそう答えて、ウィンクをしたのだった。

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