第17話 飛行紙作り

 納の月になり、寒さが身に染みるようになってきた。お母様は、お風呂のおかげか、今のところ寝込むこともないので、皆も喜んでいる。 

 私は自由時間が出来ると、小屋にこもり作業をする日が増えた。作りたいものが沢山ありすぎるのだ。


 今日は、前から心の中の作りたいものリストに載せていた物を、色々と作ろうと思っていた。


「先ずは、時計だよね… …」


 この世界にも時計はあるが、大きくて場所を取る物だ。私的には、小さい目覚まし時計が欲しいのだ。ついでにタイマーも作る。料理には欠かせないだろう。あとは、遊び心で砂時計も作ってみた。中に可愛くて小さな人形を入れてみた。


「ココ、見て、砂の中にココがいるよ。ほら」


 ココの人形版も作ってみた。砂が流れていくと、ココ人形が見えるものだが、何だか蟻地獄のようで、これは失敗かな? と思ったが、ココはうっとりと見つめていたので、これはココ専用にしようと、ココにあげることにした。


 腕時計も作ってみる。これは、小さくてかなり大変だった。小さな魔石を電池の代わりにして、中に入れる。少しの魔力を流すと動き出す。

 ベルト部分には蛇型の魔獣モデストの皮を使う。ついでに、防御の魔術も付与する。


「うーん、改善の余地ありだなぁ、最終的に日付とかまで分かるようにしたいし……」


 今の自分には、これが限界だなと、とりあえず完成とする。


 次は手紙を作る。紙に魔術を付与し、折紙サイズにする。ちゃんと使えるか確認をする為に、早速言葉を書いてみた。


『お母様へこれは実験です。ララより』


 お母様への手紙は、鶴の形におり、鶴のお腹に魔力を入れる。


『アダルヘルムへ、お母様へ声の手紙は届きましたか。ララより』


 これは、返信用の紙を重ねて、二枚折で飛行機にする。魔力を通し、早速飛ばしてみた。


「よし、行っておいで」


 二種類の手紙を空中にそっと投げると、空へ飛んで行く。魔法で壁などもすり抜けることが出来る。

 鶴は、相手に声を届ける手紙。飛行機は二枚折で、返信付きのハガキのようにした。なかなかにいい出来だと、自画自賛する。ほかのみんなにも実験がてら、手紙を書いてみることにする。


『マトヴィルへ、夕飯のメニューは何ですか? ララより』


 マトヴィルには飛行機型を送る。


『オルガへ、これは、実験です。私の声が聞こえますか? 後で教えてくださいね。ララより』


『アリナへ、これは、実験です。今夜の本を選んでおいてくださいね。ララより』


 オルガとアリナには鶴型にした。三つの手紙に魔力を通し、空中へ飛ばす。


「そうだ。ボトルメッセージをやってみよう!」


 飛行機型の手紙を、お友達を欲しがっている子に届けてみようと思いついた。


『私はララです。お友達になりませんか? 良かったら一緒に送った紙でお返事をください』


 なるべくお友達になってくれそうな子のところへと飛んで行ってね。と飛行機にお願いしながら魔力を通し、飛ばしてみた。返事が来たらいいなぁ。と考えていると。アダルヘルムとマトヴィルから返信が返ってきた。


『アダルヘルムです。無事に届きました。エレノア様はとても喜んでいらっしゃいました』


『ララ様へ、夕飯はレッカー鳥のローストチキンです。お楽しみに。マトヴィル』


 無事に返信も届いた。これならボトルメッセージの方も期待が持てるかもしれない。そんな淡い期待が膨らむ。


 私は返信が無事届いたことで、調子に乗ってきた。


 他の種類も作ってみよう!


(うーん… …とりあえず、今の白色は、普通の手紙と考えて……)


 先ずは、黒、黒は姿を消せるものにしてみた。渡したい相手にしか見えないものだ。

 次は青、青は速達、スピード重視だ。白とどれぐらいの速さの違いがあるか、後で実験が必要だ。

 次に赤、これは、長距離タイプ、これも実験が必要になる。届く距離と、速さをいずれ確認しようときめた。

 その後は黄色、ひもを付けることで軽い荷物を運んでくれる。これは、ココを乗せて実験だ。飛行機型に折り、ココを上に乗せる。ココには紐はいらないので、そのままだ、宛先は自分にして空中へ飛ばす。


 ココレターは、ぐるっと部屋の中を一周すると、私のところへと返ってきた。成功だ。

 ココも満足したらしく、上体をそらし 手? を叩いているようだ。

 最後にピンク、これは、音楽が流れる様にしてみた。選曲は ”愛の夢” と ”愛のワルツ”にしてみた。私がオルガンで弾いたものを録音してみる。これが中々に難しい。録音用に魔道具を作り、先ずは、曲を録音する。その後、薄い小さな爪の先サイズの魔道具を作り、サビの部分だけをうつす。

 小さな魔道具作りが、とても大変だった。どうしても私の流す魔力が大きいのか、煙を出したり、割れてしまったりしたのだ… …ピンクだけは大変で10個しか出来なかった。要改善だ。

 他の色は、それぞれ100枚づつ、いっぺんに作ることが出来た。


「大量にドンっと魔力使う方が楽なんだよね… …」


 これも訓練が必要だと反省をし、後日頑張って、ピンクを作って練習しようと決めた。


 作業に夢中になっていると、作った目覚まし時計が鳴りだした。もう夕方だ。つい没頭してしまうので、やっぱり時計を作って良かったと改めて思った。


 屋敷に戻り、お母様の部屋に向かう。折り紙を渡すのだ。

 お母様の部屋に着き、今日作った折紙を渡した。アダルヘルムも興味津々だ。


「まぁ、これが今日届いた手紙なのね」


 お母様のデスクの上には、今日送った鶴が置いてあった。どうやら気に入って、飾ってくれているらしい。


「ララ様この紙をどの様にすると鳥になるのですか? 飛行機型といわれた方は、重なっていたので解りましたが、鳥の方は、見ただけでは分からなくて… …」


 アダルヘルムは少し悔しそうにしている、私が鶴を折って見せたが、見ただけでは折るのは難しいようだ。


「まぁ、複雑な折り方ねぇ… …出来るかしら」

「覚えるまで、時間がかなりかかりそうですね。とても複雑です。マトヴィルには無理かもしれませんね」


 私はついでに、スズメ折にもしてみた。こちらも複雑だと言われてしまった。簡単な鳥型もあるが、それだとお腹が膨らまないので、魔力がこめられない。

 結局、何個か私が前もって折って、渡すことにした。飛行機の折り方は簡単だったので、二人共すぐに折ることが出来た。次に、色の説明もする。


「では、白が普通版、黒が隠蔽、青が速達、赤が遠距離、黄色が荷物でよろしいですか?」

「はい、その通りです。でもまだ実験が足りてないので、今後、改良していく予定です。黄色は、ココを乗せても大丈夫でしたが、どれぐらいの重さまで大丈夫かは、時間が無くてまだ実験していませんし、青と赤も、詳しい実験はこれからです」

「そうですか。白だけでも十分ですのに、ララは色々と考えて素晴らしいですね」

「ララ様は研究者気質のようですね。とても良いことだと思いますよ」


 2人に褒められてうれしくなる。私はここで、ピンク色の鶴を出す。


「このピンクは、まだ試作品で、実験途中なのですが… …」


 私は、予め準備しておいた、ピンク色の鶴型折り紙に魔力を通し飛ばす。鶴は部屋の中をくるっと一周すると、お母様の手の中へと降り立った。


 お母様の手のひらで音楽が流れ出す”愛の夢”だーー


 最後に鶴が喋る。


『お母様大好きです。ララより』


「まぁぁ! 可愛らしいこと!」

「これは、素晴らしいですね!」


 お母様とアダルヘルム、2人の驚く顔が見れて、私は大満足だ!

 ピンクも沢山作れるようになったら、お渡しする約束をした。その後、目覚まし時計を見せたり、作った折り紙の中で、ピンク色が一番繊細で作るのが大変だったと話をして、お母様の部屋を後にした。


 就寝前、いつもの読書時間だ。アリナと今日の手紙の話をする。


「アリナ、今日の手紙はいかがでしたか?」

「とても驚きましたわ、それに可愛らしくて。手のひらに止まったと思ったら、お嬢様のお声で、話し始めるのですもの」

「気に入っていただけて。良かったです」


 ふふふ、と二人で笑いながら、手紙の話続けた。どうやら、オルガとマトヴィルも驚いていたそうだ。

 その後も、まだほかにも種類がある話をする。実験もしたいので、付き合って欲しい話もした。


 それから、アリナ用に作った紙があると伝える。銀色の折り紙だ。その折り紙を、手裏剣型に折ってアリナに渡す。部屋の壁に、私の遠投練習の的をかける。


「アリナ、これに少し魔力を通してあの的に向かって投げて頂けますか?」


 アリナは頷き、的に向かって手裏剣を投げた。すごいスピードで手裏剣は飛び、カッと音を立てて、的の真ん中に綺麗に突き刺さった。


「まぁぁ! これは! 凄いですわ!」


 手で口元を抑え、喜び驚くアリナに、小さく折り紙で折った剣も渡す。


「剣も折ってみました。投げナイフには威力は負けますが、使ってみて頂けますか?」


 アリナは頷き、的に向かって、今度は剣を投げる。ガッと突き刺さり、こちらも成功だ。


「これは、本当にすごい発明ですわ!」

「ふっふっふ、でしょう?」


 私はニヤリと笑い、自慢する。


「これの、凄いところはですね、もし、悪い人につかまって、持っている武器を取られたとしても、紙なら武器と気づかれないで、相手をだますこともできますし、密偵が身体検査されても、紙ならごまかせると思うのです」

「まぁぁ!お嬢様、そんなことまで… …」

「【忍者】ごっこ… …あー、密偵ごっこ? をしてもいいかな? と思って作りました」


 アリナは呆れた顔をして、その後は苦笑いを浮かべた… …


「これは……本当に……結婚のお相手を見つけるのが、難しいかもしれませんねぇ… …」

「えっ?!」

「紙から武器を作り出そうとするんですもの、その辺の男性ではお相手になりませんわ… …」

「えっ?!」

「鳥などは可愛らしくて、女性らしいと感心致したのですが… …」

「ええっ?!」


 アリナは、天井を見上げ、あきれ顔である… …

 はぁ、ため息をついた。さぁ、就寝のお時間ですよと、アリナに促され、私は床に就いた。


 喜ばそうと思ったのに、何だか呆れさせてしまったようだ。横で、ぐっすりと寝ているココを撫でながら、最悪結婚できなくてもしょうがないかなと考え、その時は子供だけでも作ろうと、思いながら瞼を閉じたのだった。

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