第16話 改装工事

 秋がそろそろ終わりを告げそうになると、風も冷たくなってくる。私は冬を迎える前に、お屋敷中のお風呂とトイレを改装しようと計画していた。


 その為、一週間勉強などの授業をお休みさせてもらう。魔法を使えば改装などあっという間かもしれないが、私のお家はお屋敷、いや、城なのだ。部屋数もかなりの多さである。とても一日では賄いきれない。


 特に今回は、大浴場を作ろうと思っている。男女別で、10人位が余裕を持って入れるぐらいの大きさにしたい。テントのお風呂と同じように、シャワーなども作る予定だ。

 先ずはお母様をはじめ、各自の部屋の改装。次に大浴場。そして多々ある客間。最後に時間が許す限り、屋敷中の残りの部屋を改装する予定だ。


 最初にこの話をした時に、そこまでしなくてもいいと言われるかなと思っていたのだが、皆マトヴィルから話を聞いていたのか、是非やって欲しいという事で、全員が賛成してくれたのだ。お母様も楽しみにしています。と喜んで下さった。


 先ずは、お母様の部屋に手を付ける。風呂場は広いがやっぱり浴槽は狭い。丸身をおびた浴槽を作り、サイドには落ち着ける灯りをセットする。疑似窓を作り、温もりのある灯りで安らぎを演出してみる。

 体の弱いお母様には気温差は天敵なので、洗い場や脱衣場には冷暖房設備を付けてみた。足元には床暖も付与してみた。寒い日に使えばお母様の体も楽だろう。

 トイレは、今現在ぼっとん便所式の魔法トイレなので、水洗式の魔法トイレに変える。ウォシュレット機能も付け、便座も暖かく自動開閉にし、ランプも自動センサー付きにしてみた。

 白色を基調に清潔感を出し、鏡や手洗い場も設置する。勿論、トイレ空間にも冷暖房をつけるのは忘れない。お母様には必需品なのだ。


 お母様の部屋だけで最初の一日が終わってしまった。出来上がりを見てお母様はとても喜んでくださった。

 簡単に使い方をお教えする。トイレのウォシュレット機能にはとてもびっくりしていたし、暖房機能には感謝された。


 翌日は自分の部屋だ、浴槽は真ん丸にしてみた。疑似窓も作り同じ様に景色を映し出す。トイレは可愛らしくピンクを基調に、森小屋の中の様にしてみた。疑似小鳥などを作ってみる。鳥のさえずりが聞こえるようにしてみて、その可愛さに、自分の作品に満足した。


 今日はもう一人誰かの部屋を改装出来ると話すと、ジャンケンになった。オルガが勝ったので、オルガの部屋から改装する。

 オルガは一番年上なので、気を使いお母様と同じ様に冷暖房付きだ。それと、オルガは可愛いものが好きなので、可愛い小物が置けるようなスペースも作ってみた。

 特にトイレの機能には感激され、もうほかのトイレは使えないとの喜びだった。


 次の日は、ジャンケン二位のアダルヘルムの部屋から始めた。アダルヘルムはシンプルなものが好きなので、白と黒を基調に、温かみのあるランプを使い、シックで大人っぽくしてみた。アダルヘルムはつきっきりで私の作業を見ており、ワクワクしているのが無表情ながらも分かった。


 次はアリナの部屋だ。アリナの部屋も可愛くてしてみた。浴槽は猫足にしてみた。鏡は丸いものを選び、トイレの手洗い場なども丸身を帯びたものにする。

 やはりトイレのウォシュレット機能にはとても感謝され、手を握ってお礼を言われた。


 最後はマトヴィルだ、悪戯心でお風呂のお湯口をライオンの形にしてみたが、かなり気に入ったようだった。

 トイレの壁は木目調にしてみる、後はなるべくシンプルになるようにした。ウォシュレット機能を初めて使ったマトヴィルはずっと「うぉ……うぉ……」と言っていて、うるさかった。とにかく気に入ったのは分かったので、良しとしよう。


 四日目は大浴場だ。使っていない二部屋をドーンとお風呂に改装する。男湯、女湯を作り、檜ならぬ魔木のシュタルク木を使って木のぬくもりを出してみた。

 壁全体を疑似窓にし、季節を感じられるようにもしてみた。ちょっと面白くなって、星空が窓全体に映ることが出来るように設定する。その日の気分で変えられるようにもしてみた。

 この日はマトヴィルも手伝ってくれたので、とても助かった。マトヴィルは手慣れていて、作業が早いのだ。

 大きい浴槽に、これなら泳げるなぁと喜んでいた。


 大浴場の更衣室にはトイレも完備する。勿論、ウォシュレット機能付きにした。


 この日は疲れたので、早めに就寝した。流石に四日間連続で作業をして疲れてしまった。心配したココが一生懸命に小さな体でマッサージをしてくれたのだが、ただくすぐったいだけで耐えるのが苦しかった。


 五日目は客室だ。まずは一番大きな二つの客室をシンプルな物と豪華なものに作りかえてみた。オルガに出来上がりを確認してもらい、両部屋共、合格点をもらえた。


 六日目は残りの中小の客室。そして、七日目に残りの使用人部屋などを同じ形のお風呂とトイレにしてサクサク作っていく。魔法でやるので、一部屋十分ぐらいだ。

 かなり改装作業が上達したのが分かる。


 全ての部屋を改装し終えると、皆からとても感謝された。私はへとへとだったので、今日も早く休むことにし、明日大浴場を初めて使ってみることにした。


 翌日、大浴場では景色を星空に設定し、ココと一緒に入る。ココは、窓の景色が気に入ったようで、流れ星が流れるたびに追いかけていた。

 勿論、二人とも泳ぐのも忘れない。ココは水黽泳ぎ、私はカエル泳ぎをして楽しんだ。


「はぁ、ココ気持ちいねー。 幸せだねー」


(アルジ、シアワセ、ココ、シアワセ)


「はぁ、極楽極楽」


(アルジ、ゴクラク、ココ、ゴクラク)


 こうして屋敷中のお風呂とトイレ改装は、無事に終わったのだった。




 ある太陽の日、地下倉庫で探検をしていると、あるものを見つけた。お米だ! ずっとお米が食べたかったのですごく嬉しい。毎日食べたいくらいなので、炊飯器を作ってみることにした。

 小屋に行って、炊飯器を作る。屋敷の台所だと私の身長に合っていないので。小屋の給湯室で米を炊く、ついでにご飯に合うおかずを作る。 

 とりあえず、肉じゃがと唐揚げ、サラダ、小松菜のお浸しだ。本当は魚が食べたっかったのだが、仕方ない。地下倉庫では見かけなかった。 


 出来た料理をすぐに魔法袋にしまう。そんな間にご飯が炊けた。ご飯を味見してみるが、日本のお米の様なもっちり感が足りなかった。


「うーん、もう少しもちもちして欲しいな。でも、まぁまぁかな」


 ココにも上げてみた。可もなく不可もなくという感じの気持ちが伝わってきて、笑ってしまった。肉には敵わないらしい。


 マトヴィルの所に行き、味見をしてもらう。


「マトヴィル、倉庫で【お米】を見つけたので料理してみました。味見してみてくださいませ」

「おお、米か、ララ様よく料理の仕方を知ってましたねぇ。これは、チェルボニ国の主食なんですよ、水の加減が難しくて扱いにくくてねー。俺も殆ど作ったことがないんですよ」


 マトヴィルはそう言いながら、ご飯を口に運んだ。


「おお、こりゃ、上手く炊けてる。ララ様すげぇーなぁー。うん、美味い!」


 私は作った炊飯器を見せる。これで炊くと水加減が線の通りでいいことを伝え、次におかずを出してみる。


「これは! このからあげ? って言うやつは美味い! 何だこりゃ。本当に鶏肉かい? それに、この芋を煮たやつも美味いなぁ。どんな味付けですか?」

「【醬油】を使っています。お米の近くにあった黒いソースですよ」

「ああ、醬油か! そうか、そうか!」


 マトヴィルに合格点をもらえたので、夕飯の席でお母様にも食べてもらうことにした。


「まぁ…… ララが作ったのですか?」


 お母様は驚いて、その後、嬉しそうに、微笑んだ。


「貴女は、本当に何でも作ってしまうのね」


 ふふふ、とお母様は笑って私が作った料理を食べてくれた。


「まぁ、凄くおいしいわ。これは、お米よね? 以前チェルボニ国で食べたときは、もっとパサパサしていた印象があるのだけど……このサラダは何で味付けしてあるのかしら。初めて食べる味だわ……」

「サラダにも、お芋にも醬油を使っています。マトヴィルから聞いたのですが、これもチェルボニ国のソースだそうです」

「どれもこれも、初めて見る料理よ……ララ……貴女は本当に不思議な子ね……アラスター様にそっくりだわ」

「お父様に似ていますか?」

「ええ、アラスター様も良く不思議なことを言っていたわ。それになんでも出来たのよ。 あ、でも、女性には少し失礼だったわね。ふふふ」

「そうなのですか? お母様にもですか?」

「ええ、初めてあった時にお化けみたいって言われたのよ。今までそんな失礼な事言った人はいなくて、驚いたわ。でも、気が付いたら忘れられない人になっていたの、不思議よね……」


 お母様は懐かしそうに話してくれた。少し瞳がにじんで見えた。

 それにしても、お父様、こんなに美しいお母様を、お化けみたいだなんて……

 他の女性は、ゾンビにでも見えていたのだろうか……

 今度、夢で逢ったら聞いてみたいと思ったのだった。


 就寝前、アリナが夕飯で私が作った料理が出て、驚いたと話してくれた。何故かマトヴィルが自慢していたそうだ。確かに料理でもマトヴィルを師匠と呼んでいるので、弟子自慢として、嬉しく受け取っておく。


「また、作ったら皆食べてくれますか?」

「勿論でございます。今から楽しみですわ」

「お菓子も作りたいと思っているのです」

「まぁ、お菓子ですか?」

「マトヴィルはあまりお菓子は作らないそうなので、私が担当しようと思っています」

「まぁぁ、それは楽しみですわ。私にも手伝えることがありましたら、おっしゃて下さいませ!」


 勿論、味見はお手伝いさせて頂きます! とアリナは胸を張っていったのだった。


 ベットに横になり、目をつぶる、頭に作りたいものが浮かんでくる。


(お菓子は何がいいかしら……クッキー、プリン、ゼリー、マフィン、チーズケーキ、モンブラン、カステラもいいなぁ。ハッ、計量カップ、スプーン、計りも必要だよね。ハンドミキサー、ケーキ型も必要だよね)


 給湯室をもう少し広げて、オーブンを置いたり、作業台も作りたいと思った。明日の自由時間はやることがいっぱいある。また楽しみが増えた。


「ココはおやつは何が食べたいですか?」


 ウトウトしているココを撫でながら尋ねてみた。


(ココ、ニク、スキ)


 そんな答えが返ってきて、思わず吹き出してしまったのだった。今度、ココが喜ぶ味付けを研究してみようと、心のリストに書き込んだのだった。

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