第15話 人助け
長の月になり、少しずつ森も秋の実りが見えるようになってきた。私は森歩きにもだいぶ慣れ、この前初めて一人で魔獣を倒した。
陽炎熊と言って、火を噴く気性の激しい熊だ。冬眠の前に餌を探して森をさまよっていたようだった。
マトヴィルにお土産で持って帰ると、これは美味しいんですよ! ガハハハッ と笑って嬉しそうだった。
アダルヘルムも修行の成果が出たと満足したようで、太刀筋が素晴らしいと褒めてくれた。
オルガとアリナは、このままではお嫁の貰い手が無くなるかもしれませんね… …と二人で話し合っていた。
それは私もすごく困るとガックリしていると、お母様が婿を取ればいいのですと言って私を安心させてくれた。
オルガとアリナは、そういう事ではないのですがと小さく呟きながら、口を継ぐんだのだった… …
森の中でココはずっと私の傍にいる日もあれば、狩りという名の遊びに行くこともあった。どうやらその日の気分で決めているらしい。
私は森に、秘密基地第一号を作ってみた。外壁だけ完成させ、次の週に内装に手を出そうと思っていたのだが、行ってみると粉々に壊されていた。
どうやら魔獣に壊されたらしい… …
学習して今度は大きな木の中腹に小屋を作る。勿論結界を張る事を忘れない。また壊されては困るのだ。
内装を整え、登る梯子を作る。ついでにブランコも作ってみた。なかなかの完成度だ。可愛い丸型の小屋が出来た。これで秘密基地第一号の完成だ。
作業が一段落してホッとしていると、遊びに出かけていたココが戻ってきた。街道に止まっている人間がいると言うのだ。もしかして魔獣に襲われたのかしらと思い、向かってみることにした。木陰からその人達の様子をそっと伺う。
どうやら馬車が壊れて動けなくなっているらしい。御者らしき人物が車輪を触っている。他には2人の人間が見えた。40代ぐらいの男性と成人したてぐらいの男の子だ。私はココを近くの葉に乗せ、見守っててね と伝えると馬車に近づいて行った。
街道には本当は出てはいけないのだけれども、仕方がないだろう… …
「こんにちは」
手を挙げ、何もしませんよ。のパフォーマンスを見せる。
三人は驚いて、勢いよくこちらを振り返った。森から急に小さな子供が現れたらそれは驚くだろう。
「あの… …こんにちは。僕はノアといいます。森に薬草を取りに来ていたのですが、皆さんの姿が目に入りまして… …なにかお困りですか?」
敵意はありませんよ。怪しい人間ではありませんよと、アピールをしてみる、すると代表者らしい40代の男が口を開いた。
「… …私はマクシミリアン・ミュラーだ。荷馬車の車輪がおかしくなってしまってね。立ち往生していたのだよ。
ああ、私はジェルモリッツオ国の商人だ、こっちは見習いのパウル、それと御者のベンだ」
紹介された2人はぺこりと頭を下げた。ミュラーの目はまだ私を疑っている。
「あの、宜しければ僕が直しましょうか? こう見えて鍛冶が得意なので直せると思います」
「お願いしたいところだが… …嫌……しかし… …」
「あー、お金を請求したり、荷物を盗んだりしませんから大丈夫ですよ。作業中は見張っていてくださって構いません」
「嫌々、そんな風には思っていないよ。小さい子に申し訳ないと思って… …」
了解を得たのだと思って、大丈夫ですよ。と言いながら作業に入る。長旅だったのか車輪が歪んでいるようだ。荷物の重さにも耐えられなかったのかもしれない。
一番歪んでいる車輪を魔法を使いなおしていく。ほかの車輪も見て回り補強する。最後に馬車全体に保護の魔法をかけてあげれば出来上がりだ。30分もせずに作業は終了した。
三人に目をやると、飛び出さんばかりに目を見開いていた。御者に至っては口まであんぐり開けている。
そんな彼らに優しく声をかける。
「これで大丈夫だと思います。一度車輪が弱っているので、あまりスピードは出さずに、気にしながら走って頂ければ壊れることも無いでしょう。
あと馬たちが疲れているようなので、癒しを与えてもよろしいですか?」
ミュラーに尋ねると、ぶんぶん縦に首を振った。私はそんな姿が可愛くなり、皆さんはお腹すいていませんか? と言って、リュック型の魔法袋からパンを出し渡した。マトヴィル特製のパンだ。
三人が休んでいる間に、馬たちに癒しをかける。
「よしよし、疲れたよね。今から魔法を使って疲れを取るからね。… …どうかな? 疲れは取れた? そうか、のどが渇いてるのか、うーん、ちょっと待ってね」
魔法鞄から鍋を出し、水筒から水を入れてあげる。ついでにリンゴも与えてみた。馬達は元気が出たようだ。
よしよしと撫でていると、ミュラーが近いてきた。
「君は動物の言葉が分かるのかね?」
「あはは、いいえ、何となくです。人間も走ればのどが渇きますからね。何となくそうかなと感じたまでです」
「いや、そうか… …そういうものか… …」
凄く感心しているようだ。見習いと御者も話が聞こえていたらしく、凄いですねと言っている。
「あの… …他にお困りのことが無ければ僕はこれで失礼します。まだ森に用事も有りますので」
「君、1人で大丈夫かい?… …いや、失言だったな。これだけの魔法が使えるのだ1人でも大丈夫だろう」
私は苦笑いをする。森の中には供もおりますので大丈夫だと伝えた。勿論、ココの事だ。
三人に散々お礼を言われ、何かお返しをしたいと言うのを断った。困った時はお互い様ですからと何とか言い含め、固い握手をして別れたのだった。
その後、三人があれは森の妖精だったのでは? と話していたことは知る由もなかった。
「ココ、お待たせ、つまらなかったでしょう。ごめんね」
ココを手のひらですくい、肩に乗せてあげる。
(アルジ、スゴイ、ウマ、ウマソウ)
ココのセリフに思わず笑ってしまった。あれは人のものだから食べたら駄目だよ。今度また、魔獣のお肉あげるからね。と言ってココを撫でてあげる。
(ヒトノモノ、ダメ、クマ、ウマカッタ)
この前の陽炎熊がお気に入りになったらしく、美味しかったとうっとりしている。私は笑いながら、良い子にしていたからマトヴィルに保存してある残りの陽炎熊のお肉出してもらうね。と、ココとの会話を楽しみながら、岐路に着いたのだった。
自宅に着いて、先ずはマトヴィルに今日はココに陽炎熊のお肉を夕飯に出してあげて欲しいとお願いをする。良い子にしていたご褒美なのだと伝えると、マトヴィルはココに一番おいしい部分を出してあげると約束して、ココを喜ばせていた。
その後は、お母様とアダルヘルムに今日有ったことを報告しに行く。お母様の部屋へ行くと、いつもの勉強用の席へ案内される。アダルヘルムはお茶を入れてくれた。美味しいお茶を味わいながら今日有ったことを話す。
「コンソラトゥール街道に出ないと言う約束を破ってしまって、ごめんなさい」
「困っていた人がいたのですから、しょうがないですわね。ねぇ、アダルヘルム?」
アダルヘルムと約束していたので、お母様が許してあげてと話を振る。
「そうですね… …一度キチンと観察をされたようですし、問題ないでしょう」
ただし、困ったふりをし、善意を利用して襲う人間もいるのだから十分に気を付ける様にと、念押しをされた。
あとは、一般の人間は魔力量が50も有ればよい方なので、あまり大きな魔法は使わないようにとも約束をさせられたのだった。
その後は、お母様と一緒に夕食へ向かい。今日森でココが馬に興味を持って、ウマウマソウと言っていた話をしたりして、楽しい時間を過ごした。
ココはマトヴィルに出してもらった陽炎熊のお肉を黙々と食べており、部屋へ戻る間。
(クマウマイ、クマウマイ)
と何度も呪文のようにつぶやいていた。
就寝前にアリナに今日有った出来事を話す。ココがウマウマソウと言っていた話をすると苦笑いになっていた。
「うーん、何か魔法で相手のことが少しでも分かればいいのですけど… …」
「そうですわねぇ、うーん、魔法で鑑定してみてはどうでしょうか?」
「鑑定? 鑑定できるのですか?」
「ええ、誰でもできるわけではありませんが、お嬢様でしたら、魔力量も豊富ですし、全属性ですから、使えそうな気がするのです」
「そうですか。確かにできそうな気がします。使えるようになれば、とても便利ですね」
「ええ、嘘をついていても分かりますし、危険な相手には近づかないで済みますもの」
私は試しに既にベットで寝ているココに鑑定を掛けてみる。
(鑑定)
ココは鑑定されたことに気が付いたのか、ビクッとした。
「あー、ココごめんなさい」
私はココに近いてそっと撫でると、頭の中に情報が浮かんできた。
(ココ 0歳 銀蜘蛛)
「あ、アリナ、鑑定できたみたいです。ココの情報が入ってきました」
「まぁ、流石お嬢様ですね」
「試しにアリナにもかけて大丈夫ですか?」
どうぞと言われ、アリナに鑑定を掛けてみる。
(アリナ・セレーネ エルフ 75歳)
「アリナはアリナ・セレーネというのですか?」
鑑定が出来たので聞いてみる、女性の年齢には触れないでおく。
「ええ、セレーネの森出身のエルフという意味でございます。アダルヘルムもオルガもマトヴィルもセレーネの森出身ですので、同じ氏名になります」
「鑑定されてどんな感じでしたか?」
「そうですね… …スッと触られているような… …風が周りを包んだような… …そんな感じを受けました」
「そうですか… …分かってしまうとダメですよね… …」
「そうですわねぇ… …でも、お嬢様の魔法が上達すれば変わるのではありませんか?」
「ハッ、そうですよね、どんなことも練習あるのみですよね」
うふふ、と二人で笑い合って話を終えたのだった。
後日改めてココに鑑定を掛けて感想を聞いてみた。
(アルジ、サワル、ココウレシイ)
やっぱり何かが触れる感触があるようだ。修行あるのみかもしれない。ココが私に触れられて嬉しいというので、その日はいつもより沢山撫でてあげた。
ココがお礼にと、蜘蛛の糸アートで私の似顔絵を描いてくれた。とてもよく出来ていたので、暫くそのまま飾っておいたのだった。
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