第20話 お菓子沢山と返信
夢の月になり、森にも春の実りが芽生えてきた。
今日は小屋で大好きなお菓子作りに没頭する。小屋の給湯室はかなり改善して、使いやすいキッチンに改装し、作業台も作り、大きなオーブンも準備した。
キッチン用品も思いつくままに作ったり。窓も作って外の景色が見えるようにもした。10人がけのダイニングテーブルもセットしてみた。
屋敷のキッチンにはかなわないが、かなりの大きさの部屋になったのだ。
先ずはクッキーから作り始める。クッキーはココの大好きなおやつなのだ。特にナッツ入りのクッキーが大好きで、おやつに出してあげるとその体のどこに入るの? と疑問に感じるほどの食いつきぶりだ。
ココはビスコッティも大好きで、最近は作っているのが匂いで感じられるのか、別の場所にいても香りだけで喜ぶようになった。
勿論、家族の皆も大好きなので多めに作り、軽くラッピングした状態で魔法袋にジャンジャン作って入れていく。
次はケーキ類に手を出す。女性陣の希望だ。ショートケーキ、ロールケーキ、シフォンケーキと、こちらも思いつくままにジャンジャン作る。
その横では、ココが早速クッキーの味見をしている。作業中匂いがしていたのを我慢して大人しくしていたので、ご褒美も兼ねている。
ケーキ類は、ホールのまま箱に入れ、そのまま魔法袋に入れる。この魔法袋はお菓子を入れる専用に作った新しいもので、私専用と屋敷用があり、屋敷用のはマトヴィルに預けてある、そこから普段のおやつを出してもらっている。
私専用のものはほぼココのおやつなので、クッキーが多い。今回は森で人に出会うこともあるかも? と思って少しケーキ類も入れてみた。
マトヴィルはお菓子も好きなのだけれども、アダムヘルムは甘いものがあまり好きではない。
この世界のお菓子はお砂糖漬けの様なものも多く、アダルヘルムが子どもの頃最初に食べたお菓子が、とても甘かったらしく、それで苦手になってしまったようだ。
アダルヘルム用に塩クッキーや、おせんべいなども作っておく。
あとは、塩バター味のポップコーンも忘れずに作る。アダルヘルムの好物なのだ。
なんだかんだと一日かけて作業をしていると、白い紙飛行機が部屋へと飛んできて、そっと私の手の中に止まった。
驚きながらも飛行機を開いてみると、つたない文字で言葉がつづられていた。
『ララ こんにちは ぼくは メイナードです。 ララと おともだちになりたいです』
読んでみてこの手紙はボトルメッセージの返信だと気が付いた。
「返信まで随分時間が掛かったのね……もう来ないかと思っていたけど……」
手紙を送ってからかなり経つ、確か納の月に送ったはずだ……
届ける相手を指定していなかったので、飛行機が迷ったのかしら? これもいずれ、相手にいつ届いたのかを確認しなければ… … とリストに刻む。
私は早速返信を書くことにする。ついでにクッキーを送ろうと思い、黄色の大きいサイズの折紙にする。返信用は普通通り白にした。
「えーっと、なんて書こうかしら… …」
『メイナードへ、返信有難う。お友達が出来てとても嬉しいです。今日はお菓子作りをしたので、手紙と一緒にクッキーを送りますね。良かったら食べてくださいね。ララより』
簡単な文章と共に、お菓子を紙飛行機にお願いする。
(紙飛行機さん、またメイナードへお願いね)
そう祈りながら紙飛行機を見送ったのだった。
この日から私には新しいお友達が出来た。文通友達だ。
メイナードからの手紙は週に一度のペースで届くようになった。
『ララへ おかしありがとう。でも ハンナにとられてしまいました ララごめんなさい メイナード 』
メイナードにはメイドが付いているのかもしれない、平民ではなく貴族か商人の子? かしら… …そんな考えが浮かぶ。
空から降ってきたお菓子を怪しんで普通は子供に与えたりしないよね… …
自分が浅はかだったと思い知る。
今度は絵を描いて送ることにした。森の絵だ。花や木々の美しい様子を絵描く。
『メイナードへ、絵を描きました。森の中の絵です。お菓子は気にしないでね。ララより』
今度は取り上げられることはないだろうと期待しながら、紙飛行機を飛ばした。メイナードが喜んでくれるといいなぁと思いながら… …
また、暫くするとメイナードから返信が届く。
『ララへ ぼくはもりのなかをはじめてみました。とってもきれいです。ありがとう。メイナード』
今度は取り上げられることもなく喜んでもらえたようだ。届いて良かったと胸をなでおろす。
それからも出来るだけ絵を描き送るようにした。メイナードはその度に喜んでくれた。
あまり外には出してもらえないらしく、ララに大きくなったら会いたいと書いてあった。可愛いものである。
何だかメイナードの可愛さに心がほっこり温まる。私が寝る前にメイナードへ送る絵を折り紙型に折っていると、アリナに心配そうに声をかけられた。
「お嬢様… …どなたにお手紙を送られるのでしょうか?」
「新しく出来たお友達ですの。紙飛行機にお願いして、お友達になってくれそうな子を選んでもらったのですよ。とーってもかわいい子で。 あ、もちろん、会ったことは無いのですけど… …あまり外に出たことが無いそうで、私の絵を楽しみに待っていてくれてるのですよ。
ですからなるべくメイナードが… …あっ、お友達の名前ですけど… …そのメイナードが行ったことのない森の中のお花とか、木の実とか、見せてあげたいものを絵にして送っているのです」
ふふふ、と折り紙を開いてアリナに絵を見せてあげる。アリナは苦笑いで受け取った。
「ーーその… …お手紙の事は奥様にはお話してらっしゃいますか?」
「ああ、そう言えばお話していませんでした」
「そうですか… …でしたら奥様に是非お話しくださいませ。きっとお嬢様の新しいお友達をお知りになりたいと思いますよ。ーーそれにアダルヘルムも! 勿論知りたいはずですわ!」
何だか妙にアダルヘルムを強調された気がしたけれど。私はそうですね。と笑顔で頷いた。
次の日、メイナードからの手紙を全てかかえてお母様の部屋へ赴いた。今日もいつもの席へと案内される。アダルヘルムが美味しいお茶を入れてくれた。今日は私の作ったお菓子付きで私の好きなマドレーヌが一緒に出された。
一息ついてお母様に手紙を見せる。
「お母様、私新しいお友達が出来ましたの。紙飛行機にお友達をお願いしましたら、可愛らしくて素敵な子を選んでくださったのです」
「まぁ、手紙を見せてくれるのね… …ふふふ、可愛らしい字で書いているわね」
「そうなのです。いつも可愛らしい返事を下さるのですよ」
「そうね… …大切にしましょうね。ふふふ… …あ、そうそう、ララに話そうと思っていたのだけど、あれからモナルカ国のヴァシーリ王子… …ふふふ、今はヴァシーリ王ね。そう、あの遠距離の紙飛行機を送ってみたのよ」
「まあ! 本当ですか?」
「ええ、お返事もちゃんと届いたのですよ」
アダルヘルムが何故か額に手を当てている… …
「ただね、届いた時間も差出し時間も書いてなくて……お願いしたのだけれど、届いた時に私の手紙が読めなくなっていたのかしら… …」
「まあ! それは気になりますね!」
「返信には、聡明なお嬢様を是非ご紹介頂きたいと書いてあったのよ。ララが褒められて私とても嬉しいのですのよ… …ふふふ」
「そうなのですか? では一度、モナルカ国へお邪魔した方がよろしいでしょうか?」
親子二人で そうねー、どうしましょうねー。 と話していると。額を押さえたアダルヘルムが口を開いた。
「エレノア様、ヴァシーリ王が日付を記入しなかったのは、きっとワザとでございます……」
「「えっ?!」」
お母様と思わず顔を見合わせる。
「エレノア様からの次の連絡を貰いたいが為に、ワザとそうしたのです。ヴァシーリ王は昔からエレノア様に好意がございます」
「まぁ、アダルヘルム、あの子と私とでは年が離れておりますよ… …それにもう結婚もしているはずでしょうし… …」
アダルヘルムは、はぁーと深い溜息を吐きながら続ける。
「エレノア様は、初めてヴァシーリ王にお会いした時の頃をお考えでしょうが、あの頃の王は王子で10歳になるかならないかだったとしても、現在は40歳をとっくに過ぎております。妃を亡くされたとも聞いておりますし、エレノア様を諦めたとは思えません。それにララ様のこともです。自分がダメなら、子か孫にララ様をと考えそうな男です。粘着質であり油断のできない毒蛇のような男ですから……」
アダルヘルムがまるで苦虫を嚙み潰したような顔をしている。初めて聞いたけど、モナルカ国のヴァシーリ王はストーカー気質のようだ。
「ララ様もお友達をお作りになるのは構いませんが、十分にお気を付けください。くれぐれも自画像など描いて送らないようにして下さい。宜しいですね」
その迫力に、私は素直に頷くことしかできなかった。
お母様とはその後も、手紙談議で盛り上がり。ピンクの手紙も長距離に出来たらどうかとか、他の国にも王の知り合いが居るから送ってみようかとか、声だけでなく姿を映す手紙も作ろうか、もっと便利な通信魔道具を作ろうかなど、色々と話し合ったのだった。
話を傍で聞いていたアダルヘルムが呆れた顔でーー
「お二人は、本当によく似ていらっしゃいますね… …」
と言ったことに、お母様と見合って笑ったのだった。
「アリナ、今日お母様にメイナードの事をお話いたしました」
「まぁ、奥様は何とおっしゃていましたか?」
「良かったと喜んでくださいました」
「… …そうですか… …あの… …その時アダルヘルムはおりましたか?」
「はい、お母様と私の話を聞いて額に手を置いていました。 あ、あと、こんな目をしてーー」
私は目じりを指で引っ張り細くする。
「自画像はけっして送ってはなりません! 宜しいですね! って、言われました。 でも、お母様とそっくりとも言われました。とても嬉しかったです」
「まぁ、宜しかったですね」
そう言いながらアリナは何故か、今夜私が読もうと思っていた本を取り上げた。
せっかく図書室で見つけた、スカーレット・キャデンビィッシュ の "男友達への探求心” という名の本だったのにーー残念である。
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