第12話 森までの道

 夢の月になり、段々と暖かくなってきた。季節も穏やかになり。お母様の体調も安定してきた。

 あれから、オルガとアリナに、色々な種類のエプロンを作ってプレゼントした。カフェエプロンだったり、ガーデニングエプロンだったりだ。

 自分用には、割烹着を作ってみた。これが中々使い勝手がいい。ララの時に、ドレスを気にしなくても済むからだ。なので替え着として何着か作った。楽しくてついつい調子に乗ってしまう私であった。


 作業着としてつなぎを作ってみたが、ララの時は着てはいけませんと言われてしまった。折角可愛くピンク色で作ったのに残念だ。

 アダルヘルムとマトヴィルにはシャツをプレゼントしてみた。面白がって紫や濃藍や海老色などでも作ってみたが、イケメンエルフの2人は何を着ても似合ってしまった。

 その上、アダルヘルムはセクシーに、マトヴィルはワイルドに見えて、イケメン度があがってしまった。


 半分冗談で作ったのに… …


 紙を加工して拭い紙を作ってみた。これにはアダルヘルムがとても喜んでくれた。刀の手入れに使ってねとコッソリ渡した。

 紙を加工するのもなかなかに面白かった。こんなに簡単に色々なことができるので、魔法のありがたみをとても感じた。

 ついでに折り紙とかも作ってみようかなと思ったのだった。


 アリナには順調に投げナイフを教わっている。最初は投げると身体強化をかけているので、的に柄の方が刺さってしまい、アリナと大笑いした。

 今は何とか、投げ方が様になってきて、的に当たる程度だ。アリナの様になるにはまだまだだと思う。


 マトヴィルに鍛冶の練習で作った、ナックルダスターをプレゼントしてみた。手にしっくりくると言って、森へ行って使ってきたらしい。森からかなりの大きな音がして、オルガにこってり絞られていた。


 あれでは近隣の街の人を怯えさせてしまうとの事だ… …確かに雷の様な大きな音がしていたので、怒られているのを助けては上げなかった。


 お屋敷には温室があって、花や薬草が咲いている。ここの材料を使って、お母様には授業で薬作りを少しづつ習っている。傷薬などの簡単なものからだ。いずれは森に行って、色々な薬草を集めたい。その為今は、本を一生懸命読んでは、勉強している最中だ。


 剣の稽古の休憩時間、飲み物を取りながらアダルヘルムと木陰で休んでいる時にあるお願いをしてみた。


「アダルヘルム、僕、森へ行ってみたいのですが… …」

「森ですか?」

「はい、確かにこのお屋敷は広くて不自由はしていませんが、外へ出掛けてみたいです」

「ふむ、ノア様は森が怖くは無いのですか?」

「怖くは無いですが… …危険な場所なのですか?」

「この森はエレノア様に守られております。ですから、悪者は入ってこれません。ですが、魔力が豊富で森も肥えておりますので、魔獣がかなりおります。屋敷の近くには魔獣は近寄れないようになっておりますが、危険が無いとは言えません……ノア様は魔獣が怖くは無いですか?」


 私はアダルヘルムの言葉を考えてみる。確かに魔獣に会うのは怖い。かと言って、この世界にいるからには逃げては通れない道だろう… …それに本当に怖いのは何もないことなのだ… …


「魔獣は怖いと思ってます。戦うということは魔獣を殺すという事ですから、殺すという事は怖いです。でもおとうさまと… …いえ、父上と、この世界を守ると約束しました。そして、僕は自分の子供が出来たら守れる人で居たいのです。その為にはどんな努力もします。

 ふふふ、でも本当は単純に森に行ってみただけなのですけどね… …」

「そうですか… …では… …少し考えましょう。先ずは私かマトヴィルと一緒に出掛けることになると思いますが、もう少し鍛えてからですね」


 私達はお互いに微笑み合った。

 その後の練習がかなりハードだったのは、言うまでもないだろうーー


 取り敢えずアダルヘルムと約束が出来た。近々森へ行けるかもしれない。外はどんな世界だろう。神様のおかげで何不自由のない世界に生まれ変わることが出来た。今は優しい家族にも恵まれて幸せの毎日だ。

 その上魔法がある。自分の作りたいもの、やりたいことが、何でもできる。魔力量も沢山もらうことが出来た。努力すればかなりの魔法使いになれるだろう。


 この毎日を幸せにしよう。前世の様に寂寞した想いはもう感じたくはない。必ず家族を守れる自分になろうと、心に誓ったのだった。




 最近の夜の寝る前は、アリナに絵本を読んでもらうのではなく、自分で気になる本を図書室から借りてきて読んでいる。つい夢中になって、寝る時間が遅くなったりもするので、アリナからは時間を決められてしまった。

 時間になるとアリナが本を奪いに……いや、閉じに来るのだ。


「お嬢様、本日は何の本をお読みになるのですか?」

「アレサンドラ・ベルの ”男の本能” です」

「へっ?!」

「ですから、アレサンドラ・ベルの ”男の本能” です。今後、結婚や恋愛をするにあたって、男性の気持ちを理解できなければいけませんからね。私は自分の子供が欲しいですし… …アリナにも素敵な旦那様を見つけなければいけませんからね。男性が何を考えているのかーー」


 話している途中でバッと本を取られてしまった。何だかアリナの笑顔が怖い。


「お嬢様、こちらの本はもう少し大きくなるまでは読んではなりません。本当は、見て欲しくないぐらいです。ですのでせめて、成人してからにしてくださいまし… …」


 それって十年以上先だよね… …と思ったけれど、アリナの目が怖くて私は賢く黙り頷く。仕方が無いので別の本を読むことにする。


「そちらのご本は、なんでございましょう?」

「これは、アレサンドラ・ベルの ”男を喜ばせる行為” です。後は… …アレサンドラ・ベルの ”男の感じる部分” を借りてきました。今日はアレサンドラ・ベルの本で全て統一してみました。これだけ勉強すればかなりの知識がーー」


 ババっと素早くアリナに本を取り上げられた。


「お嬢様、大変申し訳ありませんが、アレサンドラ・ベルの本は読むのを禁止致します」

「えっ、でも…べんきょ… …」

「禁止致します!」


 アリナの笑顔が恐ろしくて素直にうなずくしかなかった、その後、アリナが図書室から持ってきてくれた本は、 ”ぴょんぴょんウサギの大冒険” と ”小さな小屋で遊ぼうよ” だった。私が読むにはこの本がお勧めだそうだ。

 私が男性の気持ちを理解できのは、まだまだ先になるだろう… …


 本を読み終わり、床に就く。アリナが灯りを消してくれる。アリナが持ってきてくれた本は、可愛いお話だった。

 ”ぴょんぴょんウサギの大冒険” は、白ウサギの家族の中に黒兎の子がいて、自分の色が違うことに悩み旅に出ることにする。その中で友達ができ、本当の自分を見つけると言う大作だ。


 ”小さな小屋で遊ぼうよ” は、ひとりぼっちで生きてきた蛇が、最初は怖がられていたカエルと、友達になり小屋で仲良く暮らすお話だった。どちらもとても可愛いお話だ。


 両方ともエマ・コリンズと言う作家の有名な本らしい。

 アリナお勧めの本のおかげで、その日は可愛い夢を見ることが出来たのだった。



 祭の月になった。この月から週1、2回、アダルヘルムかマトヴィルと森へ行けることになった。勿論奥までは行かない。本当に屋敷から森の入口まで軽く歩く程度だ。

 ただし屋敷はお城と言って語弊が無いので。かなり広い。そこから森の入口まで行くと、へとへとになる。ノア様のいい訓練になるなぁとマトヴィルは笑っていた。


 初回はアダルヘルムとだ。マトヴィルと私が起こした事件? があまりにも多いので、暫く森に慣れるまでは、アダルヘルムと森へ行くことになりそうだ。

 屋敷の門へ歩いて行くのもかなりの距離があった。


 普通は馬車を使って外へ出るので、アダルヘルムでさえも歩いて門を出たことは殆ど無いそうだ。

 門はとても高く、簡単には入ってこれないようになっている。外へ出るが、すぐに森なわけではない、暫く歩いてやっと森の入口だ。初日はここまでで、へとへとになってしまった。

 勿論、身体強化はしていない。訓練も兼ねているのだ。帰り道、何とか頑張って自力でお屋敷まで戻ることができた。


 夕飯の席で元気のない私を心配してくれたお母様が癒しをかけてくれた。とても気持ちのいい魔法だった。



 何度か森の入口まで行っては戻るを繰り返し、風の月を終えるころには、森にも入っていけるようになった。

 アダルヘルムからも、もう大丈夫ですね。と合格をもらえた。それからは、マトヴィルとも森へ行くようになった。


 マトヴィルは、森の中には食材が豊富なんだと言って、私に食べられるものなどを教えてくれる。動物の裁き方もマトヴィルから教わった。

 最初は、匂いや皮を剥ぐ所を見るのがとてもきつかった。でも、命を頂いたからには無駄にはできない。

 何度かの狩りの後、自分でも捌くことが出来るようになった。

 アダルヘルムからは、薬草関係を教わった。本の絵で覚えたことと、実際に生で見る物とではかなり違いを感じた。匂いや手触りなど目に頼るだけでなく、体の様々な感覚を使って覚えると良いと、アダルヘルムに教わった。


 森からの帰りには必ずお母様にお花を摘んで帰った。森の力強く咲いていた花を、お母様はとても喜んで下さり、押し花にしたり、永久保存して額に入れて飾ったりと、楽しんでくれた。


 何だかんだで森に行くことに慣れてきて、4歳になったら一人でも近場なら森に入って良いことになった。その代わり色々と防犯グッズは持たされることにはなったけれど… …オルガとアリナは心配そうだったが、お母様に子供の成長には多少の危険は必要ですよ。と諭されていた。

 でも、お母様もポーションや危険信号弾など、かなりの数を魔法袋に入れて渡してきたのだった。


 お屋敷からコンソラトゥール街道の手前までが、私の行っても良い範囲になった。コンソラトゥール街道は、レチェンテ国とアグアニエベ国を結ぶ街道だ。

 森の中を通る街道なので、それ程人は通らないらしい。たまに荷運びの馬車が通るそうだ。

 くれぐれも街道には出ないようにと、アダルヘルムから念押しされたのだった。


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