第11話 ミシンの作成

 雪の月になった。寒い日が続き、お母様も体調の悪い日が続くようになった。お母様とのお勉強ができない日は自習となる。その時はアダルヘルムやオルガが見てくれる。ふとオルガの顔を見て、ずっと疑問だったドレスの製作の早さの事を聞いてみる事にした。


「私、オルガがドレスを作っているところを見てみたいのです。ドレスをいつも作ってくださるオルガの作業が見てみたいのです。なぜあんなに早くて綺麗に仕上がるのか、ずーっと気になっていたのです。私もオルガみたいにドレスが作ってみたいのです」

「まぁぁ、お嬢様は本当にお裁縫がお好きですね。嬉しゅうございますわ。そうですね……お嬢様にはドレスづくりはまだお早いと思いますが、魔法の勉強として少しお教えいたしましょうね」


 オルガは席を外して、今製作途中の春物のドレスを持ってきた。薄ピンク色の可愛らしい色だ。


「手作業で何度も行っていると、頭の中で作業順が分かります。ですから私はこのように、自動化で作業をいたします」


 オルガが手を振るとドレスが空中に浮き、勝手に針が動いていき、スイスイ縫い上げていく。


「勿論、あまりにも複雑な部分などは自分で縫いますが、仮縫いをすればほぼ自動化で大丈夫でしょう」


 因みに、オルガは仮縫いも、裁断も、自動化出来るそうだ。素晴らしい。アリナは裁縫自体があまり得意ではないので、自動化もできないらしい。練習嫌いで困ったものだと……オルガは呟いた。


「オルガはすごいのですね! 私も練習を沢山して、オルガの様に自動化出来る様になりたいです、オルガお裁縫の先生になってくださいね」


 オルガはまたまぁぁと頬を染めとても喜んでくれた。


 蘭子時代、裁縫は趣味でも有ったのでかなり得意な方だと思う。洋裁教室にも通っていた。作業の知識はあるがそれはミシンを使ってだ……

 知識はあるので仮縫いなどは自動化出来るかもしれない……裁断も……


「やっぱり【ミシン】が必要だよね……」

「み、、しん? でございますか?」


 オルガに返答されて声に出していたことに気付く、この世界にミシンなどないだろう。何故なら自動化でドレスが縫えるならミシンは必要ないからだ。


「オルガ、作りたいものがあるのですが地下倉庫へ行ってもいいですか?」


 最近は、地下倉庫へ行くと伝えれば、1人で行ってもいいことになっていた。身体強化でかなり長い時間過ごせるようになってきたからだ。地下倉庫で力尽きる心配もないだろうと思われたからだ。


「ええ、勿論よろしいですが。何をお作りになられるのでしょう?」

「裁縫時間短縮の為に閃いた物を作ります。出来ましたらオルガにも使って頂きたいですわ」

「まぁ、それは楽しみにしておりますね」


 地下倉庫へ行く。いつ見ても広い。身体強化しなければとてもじゃないが見て回れない。

 てくてく歩いていると、アダルヘルムが居た。どうやら武器を見ていたらしい、こちらを見て微笑んでいる。私はアダルヘルムに手を振った。


「アダルヘルムお母様の体調はいかがですか?」

「ララ様、大丈夫ですよ。随分と良くなって、明日は一緒に食事も出来るでしょう」

「そうですか。良かったです。安心いたしました」

「ララ様はどうしてこちらに?」

「作りたいものが出来たので、小屋に鍛冶部屋を先ずは作ろうと思いまして、材料を探しに来ました。

 そうだ、火も使いますし、防火対策もしなければですよね……煙突も必要かな……結界は自分で張れば大丈夫かしら……」

「ララ様……その知識はどちらで?」

「ゲオルク・グラスミスの ”楽しい鍛冶生活” という本を読みました。とっても面白かったのですよ」

「ほぉ……」

「アダルヘルムは武器を見ていたのですか?」

「ええ、ここには永久保存の魔法が掛かってはおりますが、アラスター様の武器などはやはりこの手で手入れしたいので……」

「お父様の武器ですか?!」

「ええ、いくつか有りますが、一番はこの……【一騎当千】と名付けられた剣ですね……」


 アダルヘルムが大事そうにショーケースの中から取り出した物を見て、私は驚いたーー


「【刀】だ……」

「ララ様は【刀】をご存知でしたか……」


 アダルヘルムがこれはお父様が作られた刀だと教えてくれた。そして、一騎当千と名付けて大事にしていたらしいことも。


「アラスター様は鍛冶もお得意でございました。ですので、ララ様の知識はもしやアラスター様からかと思ったのですが……」

「そうなのですね……お父様は何でもできる方だったのですね……」


 寂しそうに笑うアダルヘルムの顔を見て、アダルヘルムがここへ来る本当の理由は剣の手入れではないのだろうと思った。


「お父様には先日夢の中でお会いしました。その時に、『ララこの美しい世界を守って欲しい。そして、エレノアの事を頼むよ』とお願いされたのです。ですから、私は色々な事を学んで強くなりたいと思っています」


 アダルヘルムにしか話していないので、内緒でお願いしますね。と口に人差し指をあてた。内緒のポーズだ。アダルヘルムがお父様との思い出を、とても大事にしていることが分かって嬉しかった。


 地下倉庫を後にして、裏庭にある小屋に行く。そこの小部屋一つを鍛冶部屋にする事にした。煙突を作り、結界も張る、小さめの窓も作ってみた。

 暫く作業をしていると、マトヴィルが覗きに来た。温かいお茶とお菓子付きだ。私は作ったばかりのテーブルと椅子を勧める。マトヴィルはいい出来だと褒めてくれた。


「この椅子は随分と座り心地がいいですねー」

「はい、クッション性を気にして作りました。作業をする部屋の椅子なので、長時間座る可能性を考えました。」

「鍛冶部屋もかなりいい出来だ。ララ様はどんどん成長するなぁー」

「有難うございます。マトヴィルに褒められると嬉しいです」


 ふふふと笑いながら、仲良くお茶を飲む。とっても美味しい。


(はっ、そうか、給湯室も必要かも)


 そのままマトヴィルと屋敷に戻り、続きは次の太陽の日のお休みの日に行うことにする。一日集中して作業を行うのだ。


 太陽の日、朝から小屋にこもった。ミシンはなるべく前世に近づけたい。色々な縫い方が出来る様に設定する。電気がないので足踏みミシンも考えたが、魔石を使えば大丈夫だった。一番大変なのは針穴を開ける作業だった。細いものに穴を開けるので、何度か失敗して折角作った針を折ってしまった。

 何とか午前中にはミシンが出来上がった。なかなかに満足のいくものが出来た。ついでに近くの小部屋に給湯室も作っておく。食器棚も添えて作る。

 そしてお昼を食べた後は、早速ミシンを使ってみた。順調に縫えて一安心した。


 先ずはオルガに、お礼の品を作ってみることにする。生地の裁断も、魔法を使えばサクサクだ。なかなかのいい品が出来たと自画自賛して、早速オルガのもとに向かった。


「オルガ、魔道具が完成しました。これから、見て頂けますか?」

「まぁ、もう完成したのですか?」

「はい、それで……一番お世話になったので、オルガにこれを作りました。」


 私は、オルガにそっとプレゼントを渡す。


「まぁ、エプロンですね!」


 メイドといえばエプロンかなと思ってフリフリの可愛いエプロンを作ってみた。色は勿論白で。


「これは、縫い目が均一で全く乱れもないですね……」


 オルガはすっかり夢中になってエプロンに見入っている。暫くすると、ハッと我に返ったのか、お礼を言ってくれた。もったいなくて使えないと言うので、これから沢山作るからどんどん使って欲しいとお願いした。


 その後は、小屋にオルガと行った。初めて入る小屋の中にオルガは感動してくれた。鍛冶部屋にまだミシンは置いてあったので、そこの椅子を勧めると、マトヴィル同様に椅子の柔らかさに感動してくれた。


「これが私が作ったミシンです」

「まぁ、少しの魔力で針が勝手に動くのですね……それに縫い目も、真っ直ぐで綺麗ですね……」

「これを自動化で使えばかなり早く作業出来ると思いませんか?」

「確かにこれは画期的ですわね……アリナもこれなら使えるかもしれませんね……」

「次の自由時間の時にオルガ用の物を1台作りますね」

「まぁ、私にも作って下さるのですか?」

「勿論です」


 オルガはとても喜んでくれた。嬉しそうな顔を見ると、私も作り甲斐がある。その後は、お裁縫室をこの小屋に作るつもりだとか、作った炊事場などをオルガに見せて屋敷に戻った。


 月の日の午後の自由時間にオルガのミシンを作った。ついでなので、今後のことを考えて何台か作る。慣れるとあっという間に出来上がったので、ついでに裁縫室を作ることにした。

 裁縫室には、地下倉庫から生地などを運び入れる。これだけ持ってきても倉庫にはまだ沢山の材料がある。

 ただし、シルクやサテンなどがないので今後生地作りもしてみたいなと思った。


 作ったミシンを持って、オルガの元へ行った。オルガは早速私にドレスを作ると約束してくれた。楽しみだ。お嬢様には頂いてばかりと言われたので、オルガに作って貰ったドレスの数にはおよばないので気にしないで欲しいと伝えた。私の方が貰ってばかりなのだから。

 そう答えると、オルガは泣き出してしまい、慰めるのが大変だった。


 部屋までの帰り道、マトヴィルの所による。


「マトヴィル、これ、この前のお菓子のお礼です」


 そう言って、今日作ったばかりのミトンを渡す。マトヴィル用に大きめだ。


「これは? 何ですかい?」

「ミトンといいます。鍋とか熱いものを掴むときに使ってくださいね」

「有難うございます。大事に使わせていただきます。なんだか、ララ様には貰ってばっかりだなー」


 マトヴィルが、オルガと同じことを言うので、笑ってしまった。同じように感謝を伝えると、マトヴィルはうぉんうぉんと泣き出してしまった。こちらも慰めるのに時間がかかったのだった。


 夜、寝る前にアリナに何か欲しいものが無いか聞いた。ミシンが出来たばかりで、私は作りたい病なのだ。

 アリナはオルガのエプロンが可愛かったので同じ物が欲しいです。と答えた。一緒に作って上げれば良かったと気の利かない自分に反省した。

 アダルヘルムは何が欲しいだろう……


 お母様には絶対にドレスを作る! とか家族がいるって幸せだなーーとか色々な事を考えながら、その日は眠りに落ちたのだった。

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