第10話 小屋作り
アルデバラン歴1442年を迎えた。霞の月は雪がちらちらと降る季節となる。ディープウッズの森は、アルデバラン大陸の真ん中西寄りにあり、比較的穏やかな気候なので、雪がそれ程積もるほどではない、ただし、場所によっては家が埋まるほど積もるらしい。
今日は、この前倒してしまった木を綺麗に板にする日だ。その後はその木を使って裏庭に小さな小屋を作る許可をもらっている。
勿論、一人では無理なのでマトヴィルに手伝ってもらう。マトヴィルに手伝ってもらうことはオルガからの指示だ。私が作った魔道具が原因だとしても、マトヴィルが木を折ったことに変わりはないのだからとの事だ。
結界を張る事を怠った事が一番の理由だから責任を取りなさいと、オルガはマトヴィルに言ったそうだ。
この作業は太陽の日に行うことにした。そう何度も武術の稽古は休めない。私は、早急に強くならなければいけないらしい。それは特にアダルヘルムが一番真剣だった。剣術の稽古も、最近は本格的な打ち合いなどをする。アダルヘルムには全く歯が立たないが、身体強化をしての動きには随分と慣れた様に思う。
その上、アリナが投げナイフを教えてくれる事になった。アリナは遠投が得意らしい。初めて見せてもらった時、ほぼ100発100中の腕前にはとても感動したものだ。私のために的も作ってくれた。まだ実践はしていないのでこれから楽しみだ。
今日の私はノアではない、ララの姿でノアの服を着ている。今日はどれぐらい魔力を使うかわからないので、まだ体が小さい私が変身をする事で、魔力を使い過ぎてまた倒れてはいけないとのことで、ララの姿なのだ。
男の子の洋服を着ることには、オルガもアリナも最初反対だったが、ドレスでは動きづらいし、木から落ちた失敗があったので、渋々了解を得ることができた。
私からするとララでもノアでも自分なので、男の子の服を着ることを注意されるのは今更感がとてもあったのだが、そういう事ではないらし……
レディとして、男の子の服を着るなどあり得ないことらしい……ノアも私なのに……解せぬ
今度、女性用の騎乗服の様な動きやすい服をオルガが作ってくれるらしい。でも出来れば私的にはジャージがあれば嬉しいのだけれども……
私達は早速丸太を製材していく。マトヴィルには小さな小屋を作りたいことは伝えて有ったので、設計図を作ってくれていた。10畳ぐらいの本当に小さな小屋だ。マトヴィルに教わりながら木材を設計図を参考に、魔法でスッと切っていく。
最初はおっかなびっくりだったが、なれると素早く切る方が綺麗に切れることが分かった。マトヴィルは慣れたもので、サクサク切っていく、切れ目も私とは雲泥の差だ。
「うん、ララ様はなかなか素質があるなぁ。3歳でここまで出来る奴はなかなかいませんよ」
「マトヴィル……お世辞はいりませんよ……マトヴィルが作ったものとは全然出来が違います…… ……」
「アハハッ! ララ様、俺と比べるなんてまだまだ早いですよ、俺はこう見えて155歳なんですよ。年季が違いやす。それに俺は、小さい頃から色々物を壊してきたんでね。こういう作業は得意なんですぜっ」
マトヴィルはそう言って、ウィンクをした。イケメンである。
黙々と作業を続けかなりの量の板が出来た。これだけあれば小屋づくりには十分である。
先ずは土台づくりだ。ここが一番大事だと、マトヴィルは言う。土台はほとんどマトヴィルが作ってくれた。私はお手伝い程度だ。一つ一つの作業を注意してしっかりと見る。いずれ自分一人で小屋を作れる様にするためだ。
お昼になったので、一旦ここで休憩だ。外は寒いので暖炉で温めてある自室でアリナとマトヴィルと3人で食べる。アリナがお昼ご飯をテーブルに準備してくれる。今日はオルガが作ってくれたらしい。
「オルガも料理が上手なのですね」
今日のお昼は、野菜スープとサンドイッチだ。
日本の薄い食パンで作るサンドイッチとは違い、こちらの世界のパンはかたい、そのサンドイッチなので、食べ辛くもある、私は日本食が食べたいなと、思ってしまう時がある…… ……
なによりも、米が食べたいのだ!
「私も早く料理がしたいです」
「ララ様は料理に興味があるのかい?」
「はい、マトヴィルと一緒に料理がしてみたいです」
「マトヴィル良かったですね。可愛らしい助手さんが出来ましたね、うふふ…… ……」
「師匠色々と教えて下さいね」
マトヴィルはなぜか、耳の先まで真っ赤になった。
お昼の後は、また作業に戻る。基礎工事から進める。小さい小屋なので魔法を使えばあっという間だ。床や壁や屋根を作り、窓を一つ作って完成だ。
作業後に残った木材は、魔法袋の中にしまっておく。
さて、この後が私の本領発揮だ。小屋の中に手を差し入れ、魔力を注ぎ込む。東京ドームを思い浮かべて。空間魔法を使う。
(空間)
魔力がどわっと抜けた。膝がガクッとして、その場にしゃがみ込む。マトヴィルが慌てて駆け寄ってくる。
「ララ様大丈夫かっ!」
「はい…… ……大丈夫です…… ……ちょっと、疲れただけです…… ……マトヴィル、小屋の中を見てもらえますか」
マトヴィルは頷き、そっと小屋の中を覗く。
「これは…… ……凄い…… ……ララ様メチャクチャ広くなってますぜっ!」
「良かったです、成功ですね…… ……」
私が力なく笑ったのを見て、マトヴィルはすぐさまお姫様抱っこをしてくれた。
「ララ様、今日はもうゆっくり休まなきゃダメだ。さあ、部屋へ戻るぞ」
「はい、マトヴィル有難う…… ……」
マトヴィルにお礼を言うと、私はそのまま気を失った。
次の日、体調はすっかり良くなっていた。午前中のお母様とのお勉強も順調に終わり。午後の自由時間に小屋の中に入ってみる。かなりの広さになっている。想像の東京ドームの広さなので、実際とは大きさは違うだろうが、かなりの広さだ。
そこで私は個室作りをしようと思って、昨日余った木材を使い、少しづつ個室作りを始める。魔法でやればサクサク進む。昨日かなり頑張ったので、能力が上がったようだ。
今度は木材が足りなくなってしまったので、今日の作業はここまでとする。後で、マトヴィルに木材がどこかに無いか聞いてみよう。
夕飯の後、部屋に戻る前にマトヴィルのいるキッチンによって、木材があるか確認する。マトヴィルが言うには、地下倉庫に沢山有るらしい。運びやすいように少しずつ小さめの魔法袋に入っているそうだ。明日の武術の稽古の後に、場所を教えてくれることになった。これで一安心である。
最近の武術の稽古は、マトヴィルと組み手をしたりもする。勿論、キチンと結界魔道具を使っている。これは、忘れてはならない重要案件だ。
今日は、マトヴィルがミットのような物を準備してくれて、そこへキックやパンチを入れる。身体強化しながらの力配分や、自分の攻撃の際にできる隙対策などを学ぶ。
「よし、じゃ、最後にここに思いっ切りキックを入れてみましょう。疲れのある時にどれくらい威力がある攻撃が出来るのかわかるぞ。勿論、意識を失ってはダメだ、いついかなる時も逃げる力は残しておかなきゃならねぇ、さあ、ノア様、こい!」
マトヴィルはミット全体に魔力をこめて構えた。私は、ハイ と気合を入れて身体強化を強くする。キックをするので足に多めに魔力を流す。気合いを入れると風圧で結界魔道具が浮かび上がった。思いっ切りミットにキックを入れた時には魔道具がまきこまれてしまった。
魔道具はジジジッと煙と雷の様な光を出しながら、屋敷の方へ凄いスピードで飛んで行った。ドガーン! 大きな音とともに裏庭側の屋敷の壁が壊れて。その上部屋の中もグチャグチャになってしまった。
「ガハハハッ、ノア様、随分とスタミナが付いたなぁ。最後にあんな力強く蹴れるなんてなぁ、今ので力配分はどの位なんだ?」
マトヴィルは屋敷が壊れたのも気にせず嬉しそうだ。
「マトヴィル……そんなことより…… ……これって…… やばいですよね…… ……」
私は固まって冷や汗たらたらなのに、呑気なマトヴィルが理解できないーー
(マトヴィル、これってお小言案件だよー!)
「毎回毎回同じ事を…… ……学習能力が足りないようですね…… ……」
とても冷ややかな声の方へ顔を向けると、般若オルガが立っていた。
「おう、オルガ、今日はちゃんと結界かけてたんだけどよー、ちょっと威力が有りすぎちまったみたいだ」
マトヴィルはガハハハッと嬉しそうに笑う。オルガを見ると額の青筋がぴきっと増えているのが分かる。
(マトヴィルなんて呑気なの…… ……)
「結界魔道具は地面に固定していたのですか?」
「へっ?」
マトヴィルは間の抜けた顔をしてオルガを見た。固定を忘れていたらしい…… ……
「ノア様、本日の練習はここまでにさせて頂きます。」
「は、はい…… ……」
「さあ、マトヴィル、こちらでゆっくりとお話をいたしましょうか!」
そう言ってオルガは、マトヴィルのエルフ特有に尖った耳をギュッと身体強化をして引っ張り、裏へと連れて行った。
「いでぇでぇで…… ……オルガ! 耳が取れる取れる!」
マトヴィルご愁傷様ですーー
その後マトヴィルに聞いた話だと、オルガの怒りはすさまじく、久しぶりに縛られてしまったと言っていた。縛られるとは? どういう事なのだと、マトヴィルに聞いてみると。オルガは糸を使うのが得意らしく。細い糸で全身をギュッと縛られてしまったそうだ。
なぜかマトヴィルは嬉しそうに、俺もまだまだ修行が足りねーなと笑っていた。私は、絶対にオルガを怒らせないことを、心に誓ったのだった…… ……
昨日はあの事件のせいで、小屋作成の続きができなかったので。今日の金の日の自由日を作業に当てさせてもらった。近くではマトヴィルが屋敷の修復作業の続きを行っていた。オルガからのお説教タイムが長すぎて、昨日一日では終わらなかったそうだ。
私も慣れた物でサクサク作業を進め、午前中には無事に終わることが出来た。
小屋の中は、大部屋1、中部屋5、小部屋10となっている。
大部屋は小屋の半分を使った。中部屋は小さめの体育館ぐらいだろうか。小部屋は15畳ぐらいだ。
ここで今後、色んな実験などをしていきたいなと思っている。鍛冶部屋や、ミシン部屋、薬の実験室なども、今後この小屋内の個室に用意する予定だ。
私はまだ何もない小屋の中を見てとてもワクワクした。また明日からが楽しみだ。
こうして私の小屋づくりは無事に終わったのだった。
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