第8話 初めての魔道具
魔道具の本を何冊か読み終わり、私は一つ道具を作ってみたくなった。自分に、どれぐらいのものが作れるのかの確認と、どんどん作ってレベルを上げるためでもある。
そして何よりも、もうすぐあちらの世界ではクリスマスの時期である、いつも私のために良くしてくれる家族に、感謝の気持ちを込めて何かプレゼントを贈りたいのだ。
先ずは材料集めである。アリナに刺繡糸や小さな魔石がどうしたら手に入るかを聞いてみる。
「刺繡糸でございますか?」
「はい、街へ買い物に行けば手に入りますでしょうか?」
「そうですね……ブルージェのアズレブの街では、あまり良い品が、手に入らないかも知れませんね……」
「そうですか……」
私が、しょんぼりしていると、アリナがポンっと手を打った。
「オルガに相談してみましょう、地下倉庫に何か、良い材料があるかもしれません」
「地下倉庫があるのですか?」
自宅に地下倉庫があるなんて、この年になるまで気づきもしなかった。いや、まだ3歳だった。当然である。
この広い、お城のようなお屋敷の全ての部屋を把握するなんて、3歳児には無理だろう。
現在の屋敷の部屋数も知らないのだから……
地下倉庫はオルガが管理しているとの事なので、私はオルガの元へ向かう。オルガはメイド長としてお母様の身の回りの事を全て取り仕切っているらしい。
オルガもエルフなのでとても美しく、髪の色はエルフにしては珍しい、灰桜のような薄いピンクの色をしている、瞳はアダルヘルムより薄めの緑色だ。
「刺繡糸ですか、地下倉庫に沢山の種類がございますよ」
そう言ってオルガは優しく微笑んだ。
(おお、これこそ本当の美魔女!)
「アリナももう少し裁縫に興味を持ってくれるといいのですけれども……」
オルガの顔には全く困りものですと書いてあった。どうやら、アリナは裁縫が苦手らしい……
オルガは裁縫がとても得意で、みんなの衣類の作成を全て担っている。勿論、私のドレスもだ。この前ノアになったばかりの時に、一日で何着もノアの洋服を作ったのにはビックリしてしまった。
私も蘭子時代の前世では、花嫁修業として洋裁教室に通ったり、自宅で小物を作ったりとしていたので、それがどんなにすごいことか分かる。たとえ魔法を使えたとしてもだ。
地下倉庫の入り口はキッチン近くに有った。食材なども沢山入っているために、近場でシェフであるマトヴィルは助かっているらしい。
オルガに抱っこされながら、階段を降りていく。部屋の明かりに灯がともると部屋全体が見えた。
とにかく、広い、広い、広いの一言だ!
「わぁー、凄い【東京ドーム】何個分だろう……」
只々、その広さに感動する。その上食料、生活雑貨、日用品、楽器や剥製?っぽいものまである。
「あっ、オルガ、あれは【オルガン】かしら? 【バイオリン】もあるのですね! まぁ、あれは【牛】? いえ、それにしては、大き過ぎるから魔獣かしら? 【剥製】ですよね? あっちは武器かしら? 凄いですわ、見たことのないものが沢山あります!」
「まぁまぁ、お嬢様、落ち着て下さいませ。さぁ、そろそろ生地などがある場所になりますよ」
そう言ってオルガが連れて来てくれた場所には、色とりどりの沢山の生地があった。見たことのない生地や、動物の毛皮などもある。
(魔獣のものだろうか?)
「刺繡糸はこのあたりですわ」
そう言って、オルガが目の前の箪笥のような引き出しを開けて見せてくれる。そこにも色とりどり糸があった。
「有難うございます。欲しかった物です」
私はそこからみんなの瞳の色と同じ糸を選ぶ、お母様はワインレッド、オルガはミントグリーン、マトヴィルはサファイヤ、アリナはローズクオーツ、アダルヘルムはグリーンガーネットだ。そして練習用に自分の色も選ぶ、アクアマリンかな。あとは、魔術式を入れるためにも糸を選べば完璧だ。
「オルガ、後は小さな魔石はあるでしょうか? あと、それに穴を開けたいので、【キリ】とか【千枚通し】があると助かるのですが……」
「【キリ】とかせ? せんまいどうし? でございますか?」
(おおっと、日本語だったよ……)
「えっと、魔石に小さな穴を開けたいので、尖っていてーーうーんと、刺せば穴が開く……」
「ああ、キリですね、ございますよ」
オルガから練習用分も含めて小さな魔石を7個もらい、キリも貸してもらう。勿論、扱いには十分に気を付ける約束込みだ。
「オルガ、楽しかったです。また地下倉庫に連れて来てくださいね」
「私もお嬢様とご一緒出来て楽しゅうございました。作品が出来ましたら見せて下さいませね」
そう約束事をしてオルガは私を部屋まで送ってから、仕事へ戻って行った。
さて、魔道具作りだ。3歳の手にはなかなか難しい。
先ずは、魔石に穴を開ける、キリの先まで自分の一部分だと思い魔力を注ぐ。これはアダルヘルムとの剣の練習でやっているので簡単だ。でも魔石を一番小さいものにしたため、慎重に行かないと失敗してしまう。
豆腐のように柔らかく感じる魔石に穴を開ける。何とか全部成功出来た。最初は練習をするので、まずは自分の分を作る。1つは実験する予定なので自分用は二つだ。
今日は1個目の練習用を半分作るだけで時間が終わってしまった。普段の勉強もあるので、7個作るのに2週間も掛かってしまった。クリスマスギリギリだ。
武術の稽古がある日に魔道具がちゃんと作動するか、マトヴィルに手伝って貰って実験しようと思ったので、準備運動が終わってからマトヴィルにお願いしてみた。
「攻撃を回避する魔道具ですか?」
マトヴィルは、私の作った魔道具をこねくり回しながら見る。
「随分と小さいものですね、付いてる魔石も小指の爪ぐらいだ」
「そうなのです……初めて作ったので、ちゃんと作動するのか調べたいのです」
「ハハハ、そりゃあ心配ですね。いいでしょう、実験してみましょう。これは、壊れちまっても大丈夫何ですか?」
「はい、それは実験用なので壊れても大丈夫です」
分かりました。とマトヴィルは頷いた後で、魔道具をポンッと空中へ投げると、自分の顔の位置まで落ちてきた魔道具に思いっ切りパンチを入れた。
その瞬間、明るい光が魔道具から発せられ、爆発音と共にマトヴィルが後ろへと吹き飛んだ。
裏庭の大きな木にマトヴィルは激突し、その大木はギギギ……と音を立てながら倒れていった。
「キャーーーー、マトヴィル!」
私はノアになっていることを忘れ、女の子らしい悲鳴をあげながらマトヴィルに駆け寄った。
「マトヴィル、マトヴィル、大丈夫ですか!」
倒れているマトヴィルをのぞき込むと、その顔は嬉しそうに笑っている。ただし、口の端からは少し血が垂れていた。
(ひぃぃぃ! マトヴィル笑ってる場合じゃないよ……!)
「子供の作ったもんだと思って油断しちまいました。しかし、いいパンチだった。俺の渾身の一撃は、なかなかのもんですね。ガハハハッ、つっ、いててて、、」
どうやら攻撃した威力のものが自分にも返ってきたらしい。私はマトヴィルにすぐに癒しを掛けた。
(回復)
マトヴィルに光が降り注ぐと、傷はすぐに消えていった。
「ほぉ、ララ様は回復魔法を使えるんですね。こりゃぁ、本当に将来が楽しみだ」
ガハハハッと、また笑いながらノアの姿の私の頭をマトヴィルは撫でてくれた。ぐしゃぐしゃっとされたので、結構痛かったのは仕返しじゃないよね……
「一度ならず二度までも……」
その恐ろしい声にマトヴィルと一緒に振り返ると、般若の笑顔のオルガが立っていた。
(ひぃぃぃ――!)
「ノア様、申し訳ございませんが、本日の練習はここまでにさせて頂きます」
どこかで聞いたセリフに私が無言でブンブンとうなずくと、オルガはマトヴィルの尖った耳をギュッとこの前よりも力強く引っ張り、ニッコリと笑った。
「さぁ、マトヴィルお話をいたしましょう!」
「いでっでっでっーー」
(ううう、マトヴィル、本当にごめん、ご愁傷様です)
その後、マトヴィルは前回以上に怒られたらしい……
結界を張る事を怠った事と、大事な裏庭の木を折ってしまった事をだ……勿論、私も悪いので、裏庭の折れた木は私が責任を持って魔道具作成などに使う事をオルガに約束をした。
ただ、マトヴィル……二度あることは三度あるって言うんだよね……
さて、無事、魔道具が機能することが分かったので、可愛くラッピングする事にした。オルガに地下倉庫に連れていってもらったが、可愛いラッピング用紙は、見当たらなかった。
その為、クリスマスカラーの赤と緑のパイル生地のようなふんわりとした生地と、金と銀のリボンを貰った。
これで巾着袋を作って中に魔道具を入れて、ラッピングの代わりにする予定だ。オルガに裁縫道具を用意してもらう。何故か涙を流さんばかりに喜んでいた。女の子らしいことをするのがうれしいらしい。
確かに、破壊神のようなことを立て続けに行っていたので、申し訳ない気持ちで一杯になった。
そのせいかオルガがから新品の裁縫セットを貰った。それもとても立派なものだ。有難い。
前世で裁縫は得意だったけれど、3歳のララの姿では針の扱いがとても難しかった。絶対にミシンを作ろうと、また心の中のやりたい事リストに書き込んだ。
巾着を自分の分も含め6個作った。女性用は赤、男性用は緑にした。リボンは赤には金、緑には銀にした。
ふと、本で読んだことを思い出す。巾着を魔法袋にしてみたらどうだろうかと。折角作った巾着がラッピングのみの一度きりでは悲しすぎる。本で読んだ空間魔法の扱い方を思い出す。そして、広げたい空間の大きさを想像する。
(うーん、あまり大きくなくていいかな。とりあえず、貸倉庫ぐらいかな……)
その後、巾着に魔力を注ぎ込み――
(空間)
と唱えてみた。
魔道具を巾着に入れ、中を覗くとそこには大きな空間が出来ていた。成功だ。
全部に同じことをする。入れたものを取り出すときは、取り出したいものを想像するだけで大丈夫だった。
「うふふ、クリスマスプレゼントが出来た!」
みんなが喜んでくれることを祈りながら、その日は就寝したのだった。
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