第5話 双子の誕生
お母様との勉強も順調に進み、季節はすっかり秋になっていた。
この国には四季があり、森の木々も秋色に染まっている。
基礎魔法は完璧に出来るようになっていて、授業の始めはまずは復習から入る、この基礎魔法の復習をする事によって、繊細な魔法が覚えられるようだ。
空っぽのガラスの入れ物に魔法で土をおこす、そして上から水魔法を使いシャワーの様な水をかけ、つぎに風魔法で土を乾かし、土を火魔法で焼く。
最初のころは何度もガラスを割ったり、何故か自分がずぶぬれになったりもした。
最近ではまったく失敗をしなくなったので、今日から新しい授業へと移る事が出来る様になった。
まずは雷をおこす練習だ。本当に雷を呼ぶのではなく静電気をおこす練習をする。
お母様曰く、私には雷をおこすよりも静電気を起こす方が難しいらしい、何故なら繊細さが必要になるからだ、お母様の言葉を聞いたアダルヘルムが、後ろの方でクスッと笑っていたのが、とても気になったーー
私は心の中で呪文を唱える――
(静電気)
小さな静電気をおこそうとしたらボンっと音が鳴って、昔TVで見たコントそのものの様に、髪の毛がモアモアになった。まるでアフロの様だ。
すぐさまお母様が癒しを与えて直してくれる、アダルヘルムは目をそらし、笑いをこらえているようだった。何故なら目が少し涙目になっているからだ。
(アダルヘルムめー!)
「ララ、雷魔法の扱いは基礎魔法と一緒で細心の注意を払わなければなりませんよ。
繊細に魔力を使う事を意識して、少し……ほんの少しですよ」
私は頷いて、再度挑戦をする
(ほんの少し、ほんの少しーー静電気)
指の先からチリッと光がでた、成功だ。
「だいぶ上達しましたね、魔力の扱いが安定してきましたよ」
お母様にそう言われて、ホッとする。二回目で成功する事が出来た。その後も、静電気の練習を何度か続けたが、失敗する事はなかった。どうやら要領を得たようだ。
「では、次に音を遮断してみましょう」
目の前にカチカチと鳴る、メトロノームの様な物を置かれた。
「さあ、これを貴女の魔力で包みましょう」
私は心の中で呪文を唱える
(遮断)
どうやら遮断されたのは私自身だ、周りの音が一切聞こえなくなった。
解除してもう一度挑戦するがまた私が包まれてしまった。
「ララ、音を遮断する事に集中しすぎてはいけませんよ。何を魔力で包むのか、その上で音だけを止めるのです」
お母様からの助言に頷き、再度挑戦する。
(遮断)
カチカチする音が聞こえなくなった。成功だ!
「お母様出来ました!」
嬉しくて思わず声を出し、お母様に笑顔を向ける。
「本当にララ貴女はとても優秀ですよ」
お母様に女神の笑顔をもらえて、とても嬉しい!
「では、今日はここまでにいたしましょうね。毎日の自主練習を怠らないようにね」
「はい、ありがとうございます、お母様」
部屋に戻る準備をしながら、お母様に質問をする。
「お母様、私、男の子になりたいのですが、そういう魔法はありますか?」
「男の子に?」
お母様がビックリした顔をしている、アダルヘルムも笑顔がひきっつている。2人の顔を見て私は言い方が悪かった事にハッとした。
(ヤバイ言い方がまずかった。訂正しなきゃ)
「以前木登りをしたときに、ドレスがとても邪魔だったのです。
その時から、男の子の格好が出来たらどんなに良いだろうと思っていたのです。
魔法で男の子に変装出来たりしないでしょうか?」
私は手を顔の前で組み、上目遣いで、お母様とアダルヘルムを交互に見つめる。お願いの時の可愛くみせる為のポーズだ。
「ララ、貴女は本当に……面白い子ね……ええ、そうね、変装ね……」
お母様は顎に手を添え考え出す。アダルヘルムはそれをジッと見つめていた。
(ちょっと動きやすくなりたかっただけなんだけどーー)
私がそう考えていると、お母様が立ち上がった。
「ララ、貴女には変装が必要だと思われます。少し時間を頂戴、必ず何とかして見せますからね」
そう言うお母様の目はキラキラと輝いていた。
アダルヘルムに送られながらの部屋への帰り道、アダルヘルムの得意な魔法を聞いてみた。
「アダルヘルムは何の魔法が得意なのですか?」
「私はエルフですので、ほとんどの魔法が使えますが、本当に得意なものは剣になります」
「剣ですか?」
(エルフでイケメンのアダルヘルムに剣! メチャクチャカッコイイではないですか!)
「ララ様のお父様であるアラスター様から教わったのですよ。アラスター様はとても有名な剣士でいらっしゃったのです」
(うわぁ、お父様、顔だけじゃなくて、本当にかっこよかったんだ!)
「お父様もアダルヘルムもすごいのですね! では、今度アダルヘルムが私に剣を教えて下さいませ!」
「ララ様が剣を覚えるのですか?」
「はい! 私はお父様の孫弟子になりたいのです。そしてお母様を守るのです! ですから剣を私に教えて下さいませ!」
(勿論これから出来る子供も、アリナ達もみんな私が守るよ)
私が胸を張りポンッと ”まかせなさい” という様にグーで胸を軽く叩くと、アダルヘルムが微笑んだ、そしてサッと片膝をつくと、私の手を取った。
「ララ様その願い、アダルヘルム、確かに承りました」
そう言って私の手のひらにアダルヘルムは額をのせた。
(おー、アダルヘルムカッコイイ!)
次の授業の日、お母様から腕輪を頂いた。銀色の腕輪には青と赤の宝石のような石が付いている。どちらも、魔石のようだ。
「これは先日あなたからお願いされた男の子になる魔道具です。赤い石にさわり、魔力を注ぎながら”変身”と唱えれば男の子になれます。青い石にさわり、魔力を注ぎながら”解除”と唱えれば元のララの姿に戻れます。かなりの魔力を使うのであなた以外には使えない代物でしょう。
今の体では一日に一度姿をかえるのが限度だと思います。
今日は変身したらその姿のままで一日過ごし、元に戻るのは明日にしましょうね」
そう言ってお母様は私の腕に腕輪をつけてくれた、ぶかぶかの腕輪はスッと丁度良いサイズに変化した。
私はお母様にお礼を言ってから、赤い石に触り魔力を送ってみた。
(変身)
久しぶりに魔力がぶわっと溢れ出す、銀色の光に体が包まれ、体全体が熱くなる感じがした、その一瞬の感覚が収まると、体を包んでいた光が消えていった。
(男の子になった?)
手や顔を触っても三歳児の為男の子か女の子かは分からない、でも今までと髪の色が違う、長さは変わらないがお母様と同じ銀色の美しい髪だ。下半身には女性にないものがある感じがする。
お母様の部屋にある鏡を覗くと、瞳の色はお母様と同じ美しい深紅の瞳だった。姿は女の子に間違えられそうなほど美しいが、ちゃんと男の子のようだ。
「お母様、成功いたしました、男の子になれました! お母様にそっくりな男の子です!」
喜んでお母様に顔を向けると、そこには大粒の涙を流すお母様が立っていた。お母様は私にはそっと近づき、顔がよく見えるようにひざを折ると、優しく頬を撫でてきた。お母様のその頬を伝う涙はとても美しかった。
「ララ、貴女には兄がいたのですよ……貴女の今の姿は……本当にあの子によく似ています……まさか、ノアそっくりの姿になるなんて……」
お母様は私を引き寄せギュッと抱きしめると ”ノア” と何度も呟いた。アダルヘルムに視線を送るとグリーンガーネット色の瞳が潤んでいるのが分かった。私はお母様の背中に手をまわしギュッと抱き返す。
「お母様、私この姿の時はお兄様になりますね。ノアと呼んでくださいませ」
そう言って微笑むと、私とお母様はしばらく抱きしめ合ったのだった。
自室に戻る前にオルガとマトヴィルにもノアの姿で顔を合わせた。二人共兄を思い出し泣き出してしまった。オルガは私を抱きしめると、すぐに合う服を作ってくれると約束してくれた。
マトヴィルはすごい勢いで高い高いをしはじめたので、危なく天井に激突しそうになってしまってオルガとアダルヘルムに注意されていた。
アリナだけはお兄様に会ったことが無いらしかったが、お母様が辛い思いをされたことに心を痛めたらしく、ずっと泣いていた。
夕方にはオルガが新しい服を何着か作って持ってきてくれた。流石オルガである、仕事が早い。
魔法が使えるからこんなに早く洋服が出来るのかと思っていたら、アリナに自分には無理だと言われた。
オルガの技術と裁縫魔法の才能と、どうやらノアへの愛情から、らしいーー
お母様には次の日にはララの姿に戻るように言われたが、ノアの姿を見ると皆、目がウルウルと潤むので、暫くはこのままの姿でいることにした。みんながノアの姿に慣れるまでに、なんと、一週間も掛かった。
特にオルガは三日間はハンカチが必要なほどだった。そして凄い事に一週間後には、ノアの為にかなりの数の洋服が準備されていたので、私は笑ってしまった。
それとお兄様が天国で喜んでくれているといいなと、密かに思ったりもした。
(神様、お父様とお兄様をよろしくお願いいたしますね)
ノアの姿でいるととても楽だった、木登りをしても、走っても、転んでも、誰にも注意されないからだ。男の子はそれぐらいでないと、という感じだ。そのことに警報を出したのはアリナだった。お嬢様がこのままではダメになってしまうとの事なのだ。皆、確かにそうだと誰も反対しなかったので、ノアの姿になるのはアダルヘルムに教えてもらう剣術の稽古の時と、マトヴィルに教えてもらう武術の稽古の時、それと今後屋敷の外に遊びに出かけるときだけと決まった。
お転婆すぎてお嫁に行けなくなっては困る、とのことなので、将来子供の欲しい私は大人しくその意見に従ったのだったーー
今後ノアのことは双子の兄として扱うことになり、魔術具の存在も秘密となった。勿論、盗まれたとしても魔力量が多くなければ扱えないので、あまり問題はないとの事なのだけれど、気を付けておく事は大切だそうだ。特に私の場合、何をするか分からないから重々気を付けて欲しいと注意されてしまった。納得いかないながらも、お転婆な事は自分でも分かっているので素直に従う私であった。
夕食の席でお母様に魔力量のことで気になる事を聞いてみた。
「お母様、私と同じくらい魔力量の多い方は今までもいたことがあるのでしょうか?」
お母様はカトラリーをそっと置き、ふっと目を伏せながら考え、答えた。
「私の知る限りでは大昔から何人かはおりました。皆良くも悪くも伝説として残っています。ただしその数は多くはありません。
一番最近ではレジーナ・アグアニエベ王妃……アグアニエベ国の昔の王妃が、全ての刻印の持ち主でした……」
「王妃様ですか……」
「そうです。彼女は伝説の悪妃として有名です。ですから、ララには、魔力の使い方に十分と気を付けて欲しいと思っているのですよ」
お母様の ”絶対にアグアニエベ王妃のようにはなるな” との副音声が聞こえて、私は力強く頷いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます