第2話 魔法の世界

たぶん私はかなり間抜けな顔をしていただろう……


『へっ?!』


 神様の 転生 と言う一言に驚き、そんな間抜けな言葉しか出てこないのだから……


 転生って? 別の世界で別の姿で生き返るってことだよね? ご褒美? ってことは? 今のままの姿ってこと?

 こんな40歳のおばさんが、別の世界で生きていける? いやいや、魔獣とかいたらすぐに死ぬでしょっ!


 神様に思考が筒抜けなのも忘れ、間抜けな事を考える


 もしかして、遊ばれてる? いやいや、神様に限ってそんなことはないよね。

 でも旦那をスプラッタ現象で脅すって言ってたし、意外といたずら好きな神様なのかも知れないし……

 いやいや、でも旦那脅すって言ったのは、私の願いの為だし……


『ふふふ、少し落ち着いて、貴女は死んでいるのだからその体で転生はあり得ませんよ、それにそれでは転生ではなく、転移になってしまいますわ。』


 神様のその言葉に私は少しホッとした


『貴女の転生先は大きな魔法大戦争があって、今魔素が大きくみだれています。この世界から貴女を送り込むことによって、魔素を一旦落ち着かせたいと言うこちらの思惑もあるのですから、出来るだけ貴女の要望に応えて差し上げましょう。さあ、どんな願いがあるかしら』


 突然そんなことを言われても、今までの人生で転生後の世界があるだろうとは思っていなかったのだ、急に願いなど出てこない…… だったら…… 今の自分の願いは……


『神様、出来ればその……子供が出来る様にして頂けないでしょうか? あと、魔素があると仰っていたので、こちらは、本当に出来ればでいいのですが……私も魔法が使えるようにして頂けないでしょうか?』


 神様の顔を見ると、その美しい顔をビックリさせていた、私は慌てて両手を振りながら神様に弁明した――


『うわわ、すみません! 2つもお願いなんて図々しいですよね!』


 さっきも神様には、お願いを聞いてもらったばかりなのに、ちょっと甘えすぎてしまったかもしれない、ついつい優しい神様に甘えてしまったと深く反省をしなきゃと、思っていたところに、神様から思わぬ返事がきた


『まぁ、なんて欲がないのかしら、本当に皆貴女のようでしたら私たちの仕事はもっと楽でしょうね。

 いいですか、今貴女がわたくしにお願いしたことは、当然のことですよ! さあ、もっと違うお願いはないのかしら? どんな事でも良いから言ってごらんなさい!』


 神様の言葉に開いた口が塞がらない、神様が私に子供を下さると約束して下さったのだ、その上、魔法も使えるらしい、私にとってこんなうれしいことは無い!

 自分のやりたいことが出来る! その上、愛する子供までできるのだから!

 私の頬に雫が流れる、ああ、死んでからも涙って出るんだね……嬉しくて泣くのが死んでからなんて、死んでよかったなんて言いたくないけど


 本当に今幸せ……


『さあさあ、時間が無くなりますよ』


 どこから出してきたのか、神様は白く美しいハンカチで私の涙をぬぐってくれた

 私は落ち着くために深呼吸をして、次の願いを言った


『では神様、出来ればお母さんが欲しいです。あの……その……わたしは、この人生では母が早くに亡くなってしまったので、母と娘の交流がほとんどなかったのです、ですから素敵なお母さんが欲しいです、だめでしょうか?』


 その言葉を聞くと神様は顔を手で覆ってしまった、私は何かまずいことを言ってしまったのかしら? と少し不安になった


『もう、またそんな欲のないことを…… 分かりました! もう時間も無くなりますし、全て私にまかせなさい! あなたには最高に幸せな人生を送りましょう!』

『へっ!』


 また間抜けな声をだしてしまった私を優しい笑顔で包みながら、神様は言った


『自分で選んで、自分の力で、最高の人生にするのですよ!』


 たぶん 相森 蘭子 の人生の中で最高の笑顔が出来た事だろう


『はいっ!』


 と、私は大きく返事をしたのだから……



 前世の最後の記憶を思い出しながら過ごしていると、ノックの音が聞こえた。基礎魔法の本を慌てて布団にかくし自分も布団に潜り込む。寝たふりをするためだ。メイド曰く、3歳の子が朝の五時から起きて本を読むなど、体を壊してしまうらしい……

 一度メイドのアリナに字を教わったばかりのころ、嬉しくて図書室から持って来ていた本を朝早くから読んでいたら、怒られてしまったのだ。 まぁ、前日の夜も遅くまで読んでいた事も怒られた原因なんだけど……


「お嬢様、朝の時間でございます」

「はーい、アリナおはようございます」


 待ってました と、ばかりに、私は勢い良く起き上がる


「まあまあ、お嬢様、元気が良いのはよろしいですが、優雅なお姿を心がけてくださいね」


 これは、ゆっくりと起き上がりなさい、との意味だ


「はい」と私はおしとやかにお返事をする、けれどアリナからは……


「まぁ、また早くから起きてらっしゃたのですね?」と言われてしまった。びっくりしてどうして分かったのかと尋ねると「窓が開いております」と一言かえってきた


「あっ!」


 そう言えば朝起きて、一番に窓を開けたことを忘れていた


「その上また本を読んでらしたのですね」


 「えっ?」とアリナの視線の先を見ると勢い良く起き上がった拍子に隠した本が丸見えになっていた


「本当に、お勉強がお好きなのも良いのですが、お嬢様はまだ3歳で、お体も小さいのですから、キチンと睡眠は取らないとなりませんよ。でなければ、元気に大きくなれません、体を壊してしまわれます。」

「はい、ごめんなさい、分かりました。今日はお昼寝もいたします。」


 分かればよろしいと、アリナは頷き朝の準備に取り掛かる。


 私付きのメイドのアリナは、エルフの可愛い女の子だ。年齢は75歳なので、女の子と言うと語弊があるかもしれないが、さすがは長命のエルフだ、見た目は16歳ぐらいの高校生の女の子にしか見えない、その上で、可愛いのだ。お小言さえなければ最高だ!


 まぁ、お小言は、まだまだ前世の大人の感覚が抜けきれない私が悪いのだけれど……


「お嬢様、私の顔に何かついておりますか?」


 私の髪を梳かす姿が可愛いので、鏡越しについつい見つめてしまう自分がいる


「アリナがかわ… (3歳児に言われたくないよね)

美人なのでつい見てしまいました。今日もアリナはとっても美しいです!」 


 そう言ってにっこりと私が微笑むと、アリナは「まぁあ」と言って、ピンクの瞳をキラキラと輝かせながら、頬を染め、私をギュッと抱きしめてくれた。

 本当のことを言って抱きしめられるなんて役得役得。


 朝の身支度を終えると、食堂まで抱っこで移動だ。私は3歳の為、この広いお家を移動するだけでも大変なのだ。 最初のころは頑張って歩こうと思ったのだが、まだ魔法が使えず身体強化の出来ない私には、広すぎる家の移動は無理だったのだ。


(本当に広すぎる、家というよりお屋敷、ううん、お城だよね)


 本当に自我が芽生えて初めて自分の家を庭から見たときには、只々ビックリした。

 目の前にドイツのノイシュヴァンシュタイン城の様に立派な城があったのだから、その上窓からの景色は緑、緑、緑! である、広大なこの森もぜーんぶディープウッズ家のものだというのだから…… 驚きである。 


 神様もりすぎです……森だけに……


 すっかりこの城での生活にも慣れたので、勉強したいのだけれど、今はまだ字を覚えただけで、暦やお金、時間のことなどは勉強出来ていない、今はコッソリと本を読むのが精一杯なのだ。

 それも、基本文字しかまだ習っていないので、難しい字が出るとアリナに意味を聞く形になってしまうので、自主勉強もなかなかはかどらないのだ。


 早く魔法が使える様になりたい、そしてやりたい事を沢山見つけるのだ!


 毎日そんな事を考えている私であった……


「お嬢様、今日の朝食は奥様がご一緒ですよ」

「まぁ、アリナ、本当ですか? お母様の体調は今日はよろしいのですね」

「はい、今日は顔色もよく食欲もおありだそうで、メイド長のオルガもとても喜んでおりました」


 神様にお願いした母親は本当に本当に素敵な方で、名前はエレノア・ディープウッズという。

 前世でお会いした神様によく似ていて。容姿端麗とはお母様の為の言葉なのかもと、芽生え後の対面の時は感動したものだ。

 その上とーってもお優しく、私を愛してくださっている。体が丈夫ではないのだけれど、体調が許す限り私との時間を取ってくださるのだ。


 お母様には、4分の1エルフの血が入っているらしい、これは、アリナから教えて貰った。お母様のおばあ様、つまり私の曾祖母にあたる方がエルフだったらしい。だからお母様はとっても美しいのだと私は悟った-ー

ちなみに父親はもう亡くなっているらしく、私は肖像画でしかその姿を見たことは無い。

まぁ、神様には、母親の事しかお願いしなかったからね……


 食堂に着くと、お母様は既に待っていらっしゃった。

 抱っこから降りておそばまで行き、レディの挨拶をする。ドレスを軽くつまみ、美しく優雅に浅くひざを折る


「お母様、おはようございます。お待たせして申し訳ありません」


 3歳児なのに完璧な挨拶をした、大好きなお母様には良いところを見せたいのだ。


「ララ、おはよう。私も今来たのですよ。さあ、一緒に朝食を取りましょう」

「はい!」


 嬉しくてレディの殻が破れてしまい、思わず元気いっぱいに返事してしまう、お母様はそんな私に素敵な笑顔をみせる


 はぁ~、今日もお母様は美しいです。私の女神様!


「さあ、お嬢様、こちらへどうぞ」


 そう言って、メイド長のオルガが、私の指定席を進めてくれる、椅子を引くのは家令のアダルヘルムだ。

 実は二人共エルフで、あと、料理長のマトヴィルもエルフなのだ。この広い家をアリナを含め、4人で管理できているらしい。


魔法が使えるからだよね。元の世界だったら無理な話だよ。本当……


 アダルヘルムとマトヴィルは30代ぐらいだが、本当は100歳をゆうに超えているらしい、メイド長のオルガに至っては200歳越えらしい、50代にしか見えないのに、エルフの凄さを感じる。お母様もエルフの血を受け継いでいるので、20代にしか見えないのだけど、実際はアリナよりは年上らしい。

 全部アリナ情報だけど、女性に年齢は聞けないので知らないフリをしている、お父様が普通の人間だとしたら、寿命で亡くなっててもおかしくはないだろう、その場合私はどうやって生まれたの? って疑問も出るけれど、そこは魔法の世界、前の世界の常識は使えないので、あまり深くは考えていない


 お母様との朝食が終わると、アリナとお勉強の時間だ、基本文字や数字を教えてもらう


「まぁ、お嬢様はもう完璧ですね。明日からは少し先に進みましょう」


 3歳になってから勉強を始めたけれど、元40歳のおばさんには基本文字など簡単すぎる、いくら初めて見る文字にしたって、簡単すぎるのだ。


 良かったこれでまた読める文字が増える!どんどん勉強するからね!


 その後はお昼ご飯、これは部屋でアリナと取る、本当はメイドと一緒などはダメなのだけど、1人で取る食事があまりにも味気なくて、瞳を潤ませながら可愛く上目遣で、

 “一人じゃ寂しいの” と皆にお願いしたら.あっさり許可がおりた。こういう時は、子供姿って得なのだとズルイ事を考えてしまう。

 そう、私は、この世界では我慢しないと決めたのだ、悪いことはしないけれど、やりたいことはとことんやる!

折角違う世界に来たのに、1人でご飯を食べるなんて絶対に嫌なのだ! だから、使える物は何でも使ってしまおうと、私は思っているので、あった。

 昼食後はお昼寝の時間、アリナに絵本を読んでもらいながら昼寝に着く、時間にして1時間から1時間半ぐらいかな?  今日は早起きのせいで2時間も眠らされてしまった。はぁ、目覚まし時計が欲しい、魔術具作れるようになったら、絶対に目覚まし時計作るんだからと、心のやりたいリストに書き込んでおくーー


勿論、一番は子作りだけどね。まだ3歳、先は長そうだ――


 夕飯もお母様と一緒に取り、お風呂に入って就寝となる。ここで気になるのがお風呂だ。元日本人としてはやっぱりもっとゆっくりとお風呂に入りたい。こんなにお家は広いのに、お風呂は小さくて一人用、シャワーも無いし、浴槽に貯めたお湯はおへそのあたりまでで、髪や体はアリナが洗ってくれるけれど、やっぱり物足りないと感じてしまう、これも心のやりたい事リストには刻んであるので、

後は、魔法を覚えるだけなのだ! 明日も頑張るぞ! そう思いながら私は眠りに誘われていったーー


「お嬢様おやすみなさいませ。良い夢を……」

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