第3話 身体強化
今朝の私はワクワクしていた、本をだいぶ読めるようになって身体強化を理解したのだ。
なので、今日は身体強化を実践しようと思っていた。いつものごとくアリナが来る前に起き、魔力を使う。初めての事なのでドキドキする。
「えっと、お腹に魔力を感じながら、体全体に魔力をまとう事をイメージして……」
心の中で呪文を唱える
(身体強化!)
ぞわわっと魔力が流れる感じがするーー
(これ、成功? 成功だよね?)
とりあえずひっそりとおもちゃ箱に隠し持っていた、去年の薪を持ってみる。
(わぁ、軽い、軽い、全然重さ感じないや)
薪は3歳の私には重いもので、隠す時も引きずって一苦労したものだ。それを軽々と持てるなんて――
魔法って素敵!
調子づいた私は、蘭子の子供時代に護身の為に習っていた空手に挑戦しようと思った。
そう、よくテレビで見る空手のパフォーマンスの板割りの薪バージョンだ。
薪を床に置き、深呼吸をする。手でやるには丁度良い高さにできなかったので、足で割ってみる。
「はっ!」
気合を入れて薪を蹴ると、薪は驚くほどに柔らかく、まるで豆腐のようだった。斜め半分にサクッと割れた薪は勢い余って、上半分はガラス窓に、下半分はすごい勢いで転がり部屋の扉へと飛んで行った。
(きゃー!)
心の中で叫んだ瞬間、ガシャーンと窓が割れる音と、ドッガと部屋の扉が割れる音がする、窓を出て外へ飛んで行った薪は森へと消え、扉を突き破った薪は廊下の壁にガンッ! とぶつかる音がした。
(やばい、やばい、これってお小言フルコース案件だよね、どうしよう……)
焦ると体をまとう魔力がどんどんとぬけていく、廊下からはアリナ達みんなの私を呼ぶ声が近づいてくる音がした。
(ヤバイ魔力がどんどんぬけていく、とりあえず、落ち着いて身体強化を解除しなきゃ)
そう思ってハッと、自分が解除の仕方を勉強していなかった事に気が付いたーー
(私アホすぎる!)
私の目に最後に映ったのは、アリナ達が部屋に飛び込んでくる姿だったーー
私はそこで気を失ってしまったのだーー
目を覚ますと夕方になっていた、ベットの横でアリナが心配そうに座っている
「……ア、アリナ……」
「お嬢様!お気づきになられたのですね!」
そう言うとアリナは泣き出してしまった、どうやら私は丸1日中寝込み、既に2日目の夕方らしい
「本当に、本当に、皆心配したのですよ」
「アリナ……心配を……お掛けしました……ごめんなさい」
体が重くて謝るのがやっとだった、水を飲ませてもらいまた眠りにつく、心の中で ごめんなさい と謝りながらーー
次の日にはすっかり元気になっていた。魔力も戻ったらしい。窓ガラスや扉などはすっかり元通りになっており、壊したものの直し方も絶対に覚えることが必要だよねと、また心のメモに書き込んでおいた。道具の直し方を勉強することっと心に刻むと、やりたいことがどんどん増えていくのを感じた。
どうやら今回倒れた原因は魔力切れをおこしたらしい、私は魔力がかなりあるようなのだが、体がまだ小さく、それを上手く使える容量がないようだ。これは私が元気になってお小言フルコースの時に、アダルヘルムから教わった。下手をしたら命が無かったと散々皆に注意されて、自分が100%悪い事はよくわかっているので、
「はい、ごめんなさい」と皆にひたすら謝ったのだった。
どうやら私はかなりこちらの年齢の精神に引きずられているようだ、前世なら考えてから行動していたものが、今は やってみたい事=すぐに挑戦 との思考回路になっている。
もしかしたら、これも神様のおかげかもしれない、前の人生の様に簡単にあきらめたりしてしまわないような思考回路にしてもらったのかもしれないーー
(神様、気を付けながら頑張りますね)
そう神様に感謝したのだ。ただ余りにも、いのししならぬ猪突猛進の思考回路なので十分に気を付けようとまた、心に誓ったのだったーー
あれから一週間以上たち、アリナに相談の上で今日は裏庭でお茶をする、素敵なおやつタイムだ。
(一度外で、おやつとか食べてみたかったんだよねー)
森に囲まれているので自然豊かな景色、お庭は綺麗にされているし、とても心地よい空間だ。
4人でこのお城を管理しているのに、お庭までこんなに美しくできるなんて、本当に能力のある人たちだと私は感動した。
(私も早く、魔法を覚えて、みんなのお手伝いがしたいな、いつになったら魔法を教えてもらえるだろうか……きっと普通は、3歳では無理なんだろうな……)
「お嬢様、お茶を入れ替えましょうね、少々席を離れますね」
アリナがお家へ戻るのを見送っていると、ふと、裏庭のとても背の高い木が目に付いた
(あれを登ったらもしかして、街が見えるかしら……)
思い立ったら実行である、身体強化は覚えたし、あれから解除もちゃんと勉強したのだ。今回は失敗しないはずだと意気込んだ。身体強化をかけ、ゆっくりと木に登り始める、思ったより簡単にするすると登って行ける、ドレスのスカートが少し邪魔だけど、特に問題はない、前世では木登りなんてしたこともなかったけれど、こんなに楽しいなんて……
もっと早くに挑戦してもよかったのかも、でも身体強化が出来なきゃ無理だよね……
木のほとんどてっぺんまで登り周りを見回す、あたり一面緑一色だ
「あっ、でも遠くに街が見えるかも、あの赤いのとかって屋根だよね?」
うーんと、目にも身体強化をかけてみる、するとハッキリ人が歩く姿が見えた、近いうちに絶対に行ってみたいと木の上で考えていると、下から悲鳴が聞こえた。
「きゃー、お、お、お嬢様!」
アリナが両手を祈るような形に組み、真っ青な顔をしてこっちを見ている
「アリナ、落ち着いて、大丈夫よ、今すぐおりますから」
アリナを落ち着かせるために、にっこりと笑ってから、スルスルと降りていく、登るよりも降りるときの方が大変だ、スカートがとても邪魔だからだ。
(今度登るときはドレスはやめなきゃねー)
そんなことを考えていると、途中でドレスが枝に引っ掛かった、あっと思った時には真っ逆さまになって、逆立ちしたテルテル坊主の様になっていた。枝に引っ掛かったドレスが私の重さでビリッと音を立てていく、最後にビリビリっと破けると頭から落ち始めたーー
「きゃーお嬢様!」
「アリナ、どいてどいてー!」
身体強化のままで、くるっと体を回転させる、最後に足に強力な強化をかけて、無事着地すると ドーン と大きな音がたち、地面に大きな穴が開いてしまった。
「……アリナごめんなさい。お庭に大きな穴をあけてしまいました」
私が穴の中からぺこりとアリナに謝ると、穴の上からは
「お嬢様、そう言うことではありませんわ……」
と、アリナの怒りに震える声が聞こえたのだった。
(ううう……これは完璧お小言フルコース決定だね……)
その後は、皆にたっぷりと怒られて、粛々と部屋に戻った……反省でタイムである。
夕飯も終わりベットに横になりながら、今日見た街のことを思う。
(今日見えた、あの街はなんて名前なんだろう……)
気になって絵本を準備するアリナに声を掛けて、聞いてみた。
「ねー、アリナ、今日木に登った時に街が見えました、あの街はなんて名前かしら?」
「そうですわねー、ここから一番近い街でしたら、レチェンテ国のブルージェでしょうか?
こちらでの買い物はほとんどその街でしております。ですが、お嬢様、1人で行ってみようとは思わないで下さいませね!」
今日の事があったばかりなので、釘を刺されてしまった。
私はキチンとアリナに、1人で街に行かないと、約束させられてから就寝したのだった。
翌朝、いつもの様に早い時間に目が覚めた、あの街が気になったからだ
「レチェンテ国のブルージェ……」
ふと呟いて地図を図書室から借りて来ようと思いついた、身体強化が出来る様になって、私は図書室にも歩いて行けるようになったのだ、アリナはまだ、起こしに来ないだろうし、図書室まで行ってすぐ戻れば、危険も無いし大丈夫だろうーー
私はそっと部屋を出て身体強化を掛ける、そうすれば一階にある図書室まではあっという間だ、ここまで誰にも会わなかった、流石に4人しか使用人がいないと、朝のこの時間は色んな準備で忙しいからだ、同じ様にそっと扉を開けて図書室に入る、いつも来るときはアリナが一緒だからだろうか、1人だと何だかドキドキした。
(地図はどこだろう……)
きょろきょろと辺りを見回して、探してみるが見つからない。三歳児のからだの大きさでは探すのにも限界がある、全体が見えないからだ。
ふと、テーブルが設置されている方へ眼をやると、壁に地図が貼ってあるのが見えた。近づいて覗いてみる。
(これは、この世界の世界地図かしら?)
「レチェンテ国、レチェンテ国ーー」
呟きながら地図を見上げると、大陸の真ん中の西の方にレチェンテ国を見つけた、自分はこの辺りに住んでいるんだと分かり何だか嬉しくなった、ふと、レチェンテの少し上を見ると、ディープウッズの森と記載されていた。
(ディープウッズって、私の家名だよね……この森から家名がついたのかしら?)
もしこの地図上の森全てが、ディープウッズ家のものだとしたらかなりの広さになる。アリナから前にこの森はディープウッズ家のものだと聞いていたけれど……想像以上に大きい、下手したら小さめの国と言えるだろう。
窓から見る景色は木々だけだ、そして近隣の人達も一度も見かけたことは無い……
今までは自分が幼いために誰とも会わないのだと思っていたが、違うのかもしれない、一番近い街でもかなり離れているのだ、ディープウッズの森に住んでいるのは自分たちだけだと考えるのが妥当だろう、だとしたらこの地図で描かれている森は、全てディープウッズ家のものだという事になる……
「もしかして、とんでもない家に生まれてきたのかも……」
神様が私のために用意してくれたものは、物凄いものかもしれないと少し怖くなった。
カチャリと音がして図書室の扉があいた、そこには、笑顔なのに恐ろしいという特技を身につけたアリナが立っていた、頭には角がある幻まで作り出してーー
「お嬢様……」
「アリナ、ごめんなさい、、ちょっと調べたいものがありまして……」
「だとしても、寝間着のままで屋敷内をうろつくなど、レディとして恥ずかしいことでございます!」
「は、はい」
「お一人で出歩くなど、昨日の事を反省していないのではありませんか?」
「で、でも、お屋敷内ですし……」
「お嬢様……」
ひぃぃぃ! なぜだろう……どんどんとアリナの笑顔が怖くなっていく、アリナにはその後、たとえ屋敷内でも1人で出歩かない事と、寝間着で部屋から出ないことを固く約束させられて、私は粛々と部屋へ戻ったのだった……
(ううう……約束事がどんどんふえていく……)
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