魔法使いの子育て奮闘記 ~世界一の魔法使いになって子づくり頑張ろう~

白猫なお

第一章 太陽の子誕生

第1話 始まり

 窓を開けるとそこは濃い緑色の森に囲まれた美しい世界。

 空は清々しいほどに青く晴れ、心地よい夏色の風が頬を撫でるように通り、空には熱々の太陽が輝いている 


「ハァー、この世界にきてもう3年かー。早いなぁ……うーん…… 今日も空気がおいしいなぁー」 


 そんなことを言いながら両手を上げて、指を交差しながらうーん と背伸びをして、少女は深呼吸をする。


 寝間着とはいえ、彼女の姿貌には白いワンピースのような服が良く映えている

 彼女の名前はララ・ディープウッズ。

 今、瞳に映る空と同じ色の目をした3歳の女の子、太陽のように輝く金色の髪は吹き抜ける風にのってサラサラとなびく


「ふふふ、アリナが来る前に本読んじゃおっ」 


 いたずらっ子が顔を出したようにララは微笑み、ベッドの上に図書室から持ってきた基礎魔法の本を広げる。まだ3歳の子が起きるには早い時間、毎日メイドのアリナが起こしに来る前に魔法の本を読むのが彼女の日課だ、そう、ララは辞書の様に分厚い本を読んでしまえるのだ。


 普通の3歳では考えられないことが出来るのは、ララには前世の記憶があるからだった。



 ララの前世の名前は相森 蘭子(あいもり らんこ)、死んだときは40歳。立派なアラフォーだ。

 蘭子は裕福な家の子だった、小さな頃に母親が亡くなり、父親には一人娘として大事に大事に育てられた。

 それにはとても感謝しているが、ずっと父親が引いたレールの上を歩いてきた人生だった。

 習い事も父親に決められ、毎日のように違う教室に家政婦と通い、それは学校に行くようになってからも続いた、今考えると親友と呼べる人物がいただろうか?


 友達と出かけた記憶もほとんどない、男性と知り合うことなどもちろんなかった。 


 父親が気に入った男性と、大学を出てすぐに見合い結婚し、それが当たり前で、疑問に思ったこともなかった、今思えば、自分でやりたいと思った事柄などなかったかもしれない、母親が亡くなったことが父親の束縛を生み、自分のやる気や夢や希望をもつ力を奪ったのかもしれない。40歳になってやっと最近そんな風に思うようになってきた。


 そう思うきっかけは、夫の愛人に子供が出来たことにも原因があるかもしれないと思う、もっとはっちゃけてしまえば良かったなと今頃になって、後悔している。


「もう、40歳 子供はもう無理かな…」 


 そんなことを呟きながら、今日も主婦の習い事の帰り道だ。習慣はなかなか変えられないようで、結局今も、何かしらの習いごとを趣味でしているのだ。



 そんな帰り道、いつもの様に、夕飯の買い物をして散歩がてら歩いて帰る、それが蘭子の毎日の日課になっていた。

 子供もおらず、週の半分も帰ってこない旦那、父親は一昨年前に亡くなり、家族は自分一人、旦那はもう家族とは呼べない存在となっていた。


 急に、夕暮れ時の秋風が体に染み渡る、今度生まれ変わったら、沢山の子供のお母さんになりたいな、出来ればキチンと恋愛も経験してみたい、やりたいことや好きなことを見つけて挑戦もして見たい。 


 そう、私は…… 誰かを心から愛してみたいのだ。


 今からでも間に合うかしら……


 ふと、前を見ると、手をつなぎ仲良く歩く、母と子が目に入った、3歳ぐらいの男の子が嬉しそうに風船を持ち母に甘えている。そんな姿が羨ましく感じる、無いものねだりだとはよくわかっているのだけど。


 歩道橋を登る2人の様子を見ながら蘭子も後に続く、子供が持っていた風船が青い空に飛んでいく


 あっ、危ない!


 そう思った時には、蘭子は買い物袋を放り投げ、歩道橋から足を踏み外した子と、それを助けようと、手を伸ばす母親の2人のもとに駆けていた……





 眩い光の中にいることに、気が付いたのはそれからどれくらいたった時だろう、暖かく、体全体を包む光、体は痛くも痒くもなく、不思議ととても心地よい

 自然と自分は死んだのかもしれないと、思った

 最後に、自分の思った通りはっちゃけた行動が出来たのかもしれない、他の人から見れば、少し物足りない人生だったかもしれないが、飢えることもなく、両親には愛されて育ったのだから、それで十分ではないだろうか……

 そんなことを考えていると、ふと面白くなって、笑みが溢れた。 


 死んでも思考能力ってあるのね。


 ふふふ、その上、笑うこともできるなんて、本当に面白い


『まぁ、この世界にきて笑っている方なんて初めてだわ』


 蘭子がその声に驚いて振り返ると、光り輝く1人の女性の姿があった。蘭子は驚きながらも、その美しさに誘惑されるように話しかけてみようと試みることにした。


『あの、初めまして、もしかして、女神様ですか? それとも神様でしょうか?』


 その美しい女性は、蘭子に向かって微笑むと、ゆっくり話し出した


『ふふふ、理解力があって助かります。ええ、私はあなたたちの世界で言う神様ですね。それにしても、よくわかりましたね。』 


 女性が微笑む姿は、同じ女性の身からしても破壊力満点だ、普通の人間にはとても思えない。


『はい、こんなに美しい方には会ったことがありませんから』


 これは蘭子の本心で、嘘偽りの一切ない言葉だった。

 テレビに出ているタレントや俳優でもこんなに美しい人はいないだろう、ましてや光り輝いているのだ、そんな人間見たことがない。

 そんな蘭子の気持ちをさっしてか彼女は微笑んだ。


『ふふふ、ありがとう。同じ女性からそう言って頂けてとても嬉しいわ』


 美しく微笑む女性に、蘭子は続けて質問する


『あの、私はやっぱり死んだのでしょうか?』

『そうね、まずはその話をいたしましょう。』


 蘭子が、先ず気になったのはあの親子のことだった。

 まだ、3歳ぐらいの子が、目の前で亡くなるなんて、蘭子には耐えられない。 子供を助けようとしていた母親のことも気になった、母親だけ生き残っても、子供だけ生き残ったとしても、どちらも辛い思いをするだろう、母親を早くに亡くしている蘭子にはそれが、よくわかっていた。


『結論から申し上げますと、貴女は死んでいます。そして助けた方は3人とも傷一つなく無事でおりますわ』


 助かったと聞いてホッと胸をなでおろした。

 けれど……蘭子はふと神様の言葉が気になった。


(あれ? 3人? 私は死んでいるから数には入らない…… 他にもあの場に誰かいたのだろうか?)


 私の疑問が分かったのだろう、神様は笑顔で答えてくれた。


『あの母親のお腹の中には新しい命が宿っていたのです。あなたは、その命も助けたのですよ』


 そう言って、神様は今日一番の笑顔を見せて微笑んだ。


(う、眩しい……神様本当にその笑顔は危険です。キュン死する! て、死んでるから大丈夫か?)


そんな馬鹿な事を考えていたら、神様がかわいい顔で笑い出した。


『あなたは、本当に面白い方ね。ふふふ』


 その笑顔に、私は益々ドキドキしながら、疑問をぶつけてみた


『神様はもしかして、私の考えていることがわかるのですか?』

『ええ、一応神様ですからね』


 神様は可愛くウインクした。


(うう、可愛い、神様可愛すぎる、もう死んでもいい、いや、死んでるんだけどね)


 普通に考えれば、神に祈るときは心の中で祈るものだ、神様に頭の中の考えが筒抜けなのは当たり前の事だろう。


 神様の話では、3人は特にケガもすることなく、無事だったそうだ。

 勿論、わたしというクッションのおかげらしい、私の命一つで3人も救えたのだ、最後に痛い思いで亡くなったのかも知れないが、記憶も無いのでそこはよかったとしよう。


『あの、神様。図々しいかもしれないのですが、お願いを聞いていただくことは可能でしょうか?』

『どんなお願いかしら、聞いてみないとわかりませんね……』


 そう言った神様の顔は優しい顔をしていたので、それが答えだろう。

 そう思って私は話しを続けた--


『私の死で助けた方が傷つく事のないようにお願いしたいのです』


 私は自分の意志で助けに行ったのだ、なのに助けた3人が今後そのことで傷ついたり、攻められたりして、生きづらくなることだけは絶対に阻止したい。

 ましてや、私の父親が亡くなったのをいいことに愛人を作って、その上、子供までもうけた旦那にあの親子を責める権利などないのだから!


『私には残してきたことで悲しむ家族はおりません、書類上、夫という立場のものはおりますが、彼にはもう別の家族がありますし、その様な関係の人にあの親子を傷つけてほしくは無いのです。

 それに、折角助けたのですから私の分まで幸せになって欲しいのです。

 神様、この願いを聞いていただけますでしょうか?』


 私は期待を込めて神様を見つめてみた、神様は豊かな睫毛で、ゆっくりと美しい瞳をかくし、一つ深い息を吐くと、やさしい笑顔を私に向けた


『その願い叶えましょう』


あの親子には私の死が優しく届くように神力を発揮して下さるそうだ。その上、夢枕に立って私が願っている事を伝えてくれるらしい。 


 幸せにになってくれるといいな、私の分も……


 ただし私の夫には、もしあの親子を訴えるなどした場合、スプラッタ現象を起こすなどして見せると鼻息も荒く、手を腰にあてながら、神様らしくない様子で思いがけない約束までしてくれたのだった。

 私はその姿には、かわいらしくて思わず笑ってしまった。


『ふふ…… 神様、本当にありがとうございました。人生最後に神様に会えるだなんて思ってもみませんでした。私の人生で一番の思い出になりました。ありがとうございました』


 私は笑顔で神様にお礼を言った。


『それで、この後は、どうすればよろしいのでしょうか? 私は天国に行けるのでしょうか?』


 もしかして、最後にお願いもしてしまったし、地獄落ちだろか?

 それとも三途の川や天国と地獄などは、人間の世界だけの考えなのだろうか?

 出来れば天国のような世界に行きたいけれども、そこまでは図々しくお願いは出来ない、あの親子を救って頂いたのだ、あとは神様にお任せしよう。


『貴女を天国へいかせる事は出来ません』


 神様の言葉が胸を指す、覚悟はしていたが、やはり地獄行きのようだそれでも良い、生きているあの親子が幸せなのだから……

 そうだ、地獄では思いっきりはっちゃけてみようかな、そんな事出来るかわからないけれど、やりたい事を我慢せずにとことんやってみるのも面白いかもしれない。

 ただし、地獄でそんな自由が効くかは分からないけれど……


『勘違いをしているようなのだけれど、貴女を地獄になんて送ったりしませんよ』

『へっ?!』


 思わず間の抜けた声が飛び出した。


『3人もの命を救った方を地獄落ちさせるなどと……私は、悪魔ではないのですよ』


 フー と息を吐きながら、頬に手をあて神様は困った顔をした、その表情さえも美しい


『天国でも地獄でも無いと言うと……私はどこに行くのでしょう?』


 まさかこのままこの世界に放置? いやいや、それとも神の使いになるとか? でもそれって天使だよね?40歳のおばさんの、天使のコスプレなんて、見てられない、痛すぎるわ……


 私が、あれこれ考えていると、神様のこの先も忘れられない一言が聞こえた


『あなたには別の世界へ転生していただきます! それがわたくしからのあなたへのご褒美です!』


 神様は胸を張り腰に手をあてて確かに言ったのだ 転生と……

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