▶LOAD:真実の夢の中で―
はっと目を覚ますと、肉塊の父と母が、あら…あらあらららあららと言いながらわたしの周囲をうろうろしていた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。と言っても外は時間が止まったままなので、雲一つない青空がずっと向こうまで広がっているけれど。
「…答えは…出ましたか…?」
「ええ、そうね…わたしは…。」
わたしは目覚めることにするわ...そう言おうとして、ふと、言葉が止まった。大事な何かを見落としているような、そんな気がした。何となく不安で、梵くんの心臓を握りしめる。何か…何かがおかしい。
「…どうしたのです?」
女神像にそう問われてわたしはそれとなく話を逸らす。
「もし…わたしが目覚めを選択したらどうなるの?」
「世界滅亡と引換え、あなたは目覚めます。」
「どうすれば目覚めるの?」
「…何が気になるのですか?」
「わたし、どんなふうに眠っているのかしらって…例えば薬物とか、そういう類のものなのか…それとも呪いのようなものなのかしら?」
「あなたは暗示によって眠っているに過ぎません。扉の鍵たるあなたはいかな薬物も、呪いも効かなかったのです。つまり、あなたが目覚めようとすれば、目覚めてしまいますよ」
わたしは女神の言葉を聞きながら考えていた…。女神像が嘘付きだったら…この夢が本当は呪いだとしたら…過去のわたしたちがもしかして目覚めを選択していたとしたら…。ここでの選択を間違えればわたしは再び囚われの夢の中へ堕ちるに違いなかった。
「そう…あなたのその言葉は、信じることにするわ。」
わたしはそう言うと、手の中へ白刃を呼び出して、自分の腹に突き立てる。激痛が身体中に走り、脳天まで痛みが突き抜ける。肉と刃の隙間から血しぶきが飛び散り、両手がぶるぶると震えても、わたしは腹部を引き裂くのを辞めない。
「あなたは突然…一体…なにを…。」
「目覚めるの…よ…!わたし…!
自分で腹の中をまさぐり、内臓を引き摺り出す。猛烈な頭痛と吐き気に襲われ、口からは大量の血を吐き出す。痛みで全身が痙攣する。景色がぐるぐると周り、チカチカと光の明滅を感じる。早く起きなさい…起きなさいよ!すっごく痛いんだから!もう景色は真っ赤に染まって、何も見えなかった。
しばらくして気が付くと痛みももう感じなかった。ぼごごっ…と音がした気がする…遠くのほうで、何かの声が聞こえる気がする…。ぼごごっ...と再び音がした。
どくんっ
胸の中に抱いた、梵くんの心臓が鼓動した気がする。薄らと目を開けると、ガラスの筒の向こうで、何かが叫んでいる。
「血圧が高まっている…どうして…なぜ…!?夢の中の痛みのせいで…!?目覚めてしまう…!」
目の前のガラスに大きなヒビが入り、割れた。培養液がサーっと流れ出ていく。すさまじい倦怠感で思わずへたり込む。わたしは何百年ここで眠っていたのだろう?
「”女神様”…お疲れ様…あなたの役目はもう終わりよ…。」
筒の外へ踏み出し、振り返ると、肉塊にまみれた女神像が苦悶の表情を浮かべていた。実に気色悪い呪いの像だ。あと、少し臭う。
「過去のあなたたちは…素直だったのに…なぜ…。」
「素直?よく言うわ。仮にわたしが目覚めを選択したとしてもあなたがわたしを殺すことで記憶を奪いとってやり直しをさせていたくせに。」
女神像の表情が怒りに染まっていく。
「うぐぐ…その通りよ…しかし…世界のためには…。」
わたしは女神の言葉を遮るように口を開く。
「必要なことだと?仮にそうだとしてもわたしはまっぴらごめんよ。第一、
「扉が…扉が開いてしまう…世界…世界の終わり…。」
「もう黙りなさい。」
私は白刃を呼び出して、女神像を切り刻んだ。
部屋の中のロッカーにあった白布を身体に巻き付けて、階段をひたすら駆け上がった。地上の蓋までたどり着くと、
「う…
「
わたしは彼に抱きついた。
「ぼくを…助けてくれたのかい?」
「ううん、あなたにこの心臓を返しに来ただけ。」
「なら、扉は…。」
「ううん、それも、もういいのよ。誰がどうなったとしても。わたしはわたしのしたいようにしただけ。みんながそうしたように、ね。」
「そう…か。ぼくは…みんなのためにしたことではあったけれど、確かに
わたしは再会できた
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