推しは尊いから推しなのだ。

光星

なんだかんだで推しが尊い。


 私は織澤おたく 純恋すみれ


 花の女子高生デビューをした途端に異世界へなんちゃって召喚された、残念美少女と人は呼ぶ。



 そんな私はバリバリのアイドルオタク!!

 地雷無しの、一見完璧オタク美少女!!


 だがしかし、そんな私にも最近は悩みがあった。


 そして今日も、この異世界のアイドルグループのファンクラブ相談所へと来ていた。



「ねぇ聞いてよユリ〜!!」


「oh…またデェスかスミィレ!

 今度は何ヨ?このユリ様にお話なさァイ。」



 この部屋の室長は、男性だけれどめちゃくちゃ女子力の高い、そして自分からそれを言いふらすような、めちゃくちゃ性格イケメンのオカマであった。


 優しいし、女子力高いし、もはや女子だろう。


 私がこちらに来て初めて披露したオタ芸を、一目見ただけで分かりあってくれた大天使様である。



「あのさあのさ、グループメンバーのラバーくんいるじゃない?

 あの子最近休み気味じゃん?

 ユリも会えないって嘆いてたじゃん?」



 今私が推しているアイドルグループは、5人のメンバーからなっている。


 ところが最近、そのメンバーの内の1人であるラバーくんが欠席気味なのだ。

 アイドルファンクラブ仲間内では、ラバーくんに何かあったのではないかという噂も上がっている。



「ソウナの…嫌わレテェルのかなぁ。」



 驚くぐらい、タイミング合わせているんじゃないかと言うレベルで、ラバーくんとユリは合わない。


 確か、ラバーくんはユリの最推しだったはずだ。



「それでさ、ラバーくんのことをよく気にかけてる、メンバーのソウくんいるじゃん。

 あのお方が、最近ちょくちょく休むようになってさぁ…!!

 私の最推しなのに!悲しいじゃん!!

 どうしよう、そろそろ心の準備しといた方がいいのかな!!?」



 あれ、想像しただけで涙出てきた。


 ぎゅっとユリに抱きつけば、抱き締め返してくれる。


 こうやって抱きつくと、ユリが男の人なんだと改めて感じた。



 そんな時、コンコンと扉がノックされる。



「ラバー、入るぞー…っあ。」


「あ、あなたは…ッッ!?!!?!!?」



 扉を開けて入ってきたのは、私の最推しであるソウくんだった。


 しかも、彼は私の後ろへと視線を向けていた。



「¥*☆〒♪^♂$♥▲◎!!?バカっ!!」


「え、俺が悪いの…?」



 慌てたように私から身を引き剥がしたユリは、男声で奇声を発すると、ソウくんを引っ張って出ていった。


 ちょっと待て、落ち着こう私。


 今見たのは、幻覚か…?

 ユリが、ソウくんを引っ張ってった…。


 うん、夢だな!!

 きっとショックが大き過ぎて夢を見たんだな私!!


 独り悶々としながら部屋を出ると、部屋の外の壁で現場を目撃した。


 ユリが、ソウくんに壁ドンしていたのだ。



「……ッ!!?!?!」



 あ、ありがとうございます!!?!?!?


 これはもう、そういうことを妄想しても仕方ないと思う。


 傍から見れば美男美女。


 少し背の高い美女が、イケメンに壁ドンしているだけだ。



 うん。



「あ、ちちち、違ウヨ、スミィレ!!

 ユリ様この人知らナァイ!!」


「それは酷いんじゃないかラバむぐっ!」



 ソウくんの口を、ユリが両手で塞いだ。


 ちょ、ソウくん苦しそう…!!



「わかった!とりあえず落ち着こう!?

 そ、ソウくんが泡吹いてる!!

 ギャァァアア!!生きてソウくんッ!!」



 ひとまず私とユリは、目撃者が出る前に相談室へとソウくんを運び入れ、扉を閉めて鍵をかけた。



 その後にユリから聞いた話によれば、ユリとソウくんは幼なじみらしく、共にアイドルグループの試験に合格。


 その後乙女心が芽生えたユリは、最近ライブに出ていなかったらしい。


 それが、心配でたまにソウくんがここに来ることになったとか。



「なるほど。で、ユリはどうすると?」


「ユリ様とシてェは、今すぐにデもグループ抜けるつモォリナんだけド。」


「やだ。」


「あらやだ、ソウくんがワガママ。」



 ユリの答えに、ソウくんは短くそう言うと、部屋の中をごろごろし始めた。


 …無表情で。



 もうめっちゃかわいい。何この生物。

 なでなでしたい。



「ソウがコの調子だと、抜けられなァインだよ。」


「どうしようユリ、推しが猫みたいになった。」



 猫でもここまでごろごろはしないだろう。

 とてつもなく可愛い。


 次のライブも絶対最前列とってやる。



「ソウくんは、ユリが好きなんですよね。

 だから、ユリとアイドルをやりたい。

 ユリはアイドルやめて、このファンクラブに残りたいの?」



 ユリの最推しはラバーくんだが、本人だから除外するとして、きっとソウくんの事も好きなはずだ。


 なら、アイドルグループのメンバーをやめてファンクラブ相談所のユリとして残るのだろうか。



「ユリ様としテェハ、別にそこまでジャナいって言うか…ユリ様が惚れたのは純恋のオタ芸ダァシ…。」


「オタ芸…?いつもライブの時に踊っている奇妙なダンスの事か…?」



 あっはどうしよう!!?


 推しに見て貰えてたとかどうしよう!!?


 そしてそんな風に思われてたの知らなかったわ!!?!?



「奇妙なダンスはねェだろ。

 そもそも、ソウにあの良さが分かるわけねェんだよ。」



 どうしようラバーくんが降臨なされた!?


 普段のユリからは全く感じないオーラが彼を包み、ひとりでニヤける私。



「決めたわ。俺、純恋との恋愛スキャンダルでアイドル辞める。」


「「は?」」



 ユリの唐突な告白に、私はソウくんと声が重なった。


 推しと声が重なった!!

 どうしよう幸せ!!


 いや、だがしかし!!


 ユリがなんちゃって召喚者の私と恋愛スキャンダルだって!!?


 そんなのよろしくない!!


 一躍オタ芸で有名になった私となんて大変宜しくない!!



「なら、俺もそうする。

 俺も純恋との恋愛スキャンダルでアイドル辞める。」


「ソウくん!!!?!!??!」


「なっ!?」



 え、何これ何これ。


 なんかのドラマの撮影?


 私を争って喧嘩しないでぇーなんて夢のようなセリフを言った方がいいパターン?



「お、お前は純恋に興味無いだろ!!」


「…ラバーに関係あるなら、興味ある。」


「テメェ…!!純恋は本気でお前が好きなんだぞ!!?

 そんなこと言われたって、純恋は嬉しくなっ…スミィレ…?」


「え…!?」



 いけない、どうしよう、二人の会話に口元が緩んでた。


 え、なに、私、何の話を振られたの?



「…とにかく!!もう俺に関わんなよ。

 お前の人気も落ちんだから。」


「別にいい。俺は、ラバーといたい。」



 え、え、何この展開。


 私どうすればいいの?



 しかも、なんかユリの視線が泳いでるんだけど。



「はぁ…じゃあ、一緒に引退するか。」


「…うん。」



 どうやら、二人の中で答えが決まったらしい。


 さて、ではいい雰囲気なので、私はお暇するとしますかね。



「「純恋…俺たちと結婚しよう。」」


「うん、ちょっとはそんな流れなの察してたけど何故寄りによって結婚?

 そこはお付き合いからじゃないの?

 いくら一妻多夫制だからってペース早いよ?」



 はっ…いかんいかん、思わず突っ込んでしまった。


 そもそも、大人気アイドルの二人と結婚だなんて、他のファンに申し訳ない。


 共に推しについて語り合ったファンクラブ会員の皆の顔が思い浮かんだ。



「よシ、ユリ様終ワリ。」


「…ん、俺も。」


「え?何の話…?」



 二人は異世界版スマホを取りだし、何やら打ち込んでいた。


 どうしよう、嫌な予感しかしない。


 慌ててスマホを開けば、アプリのトリサンから通知が来ていた。


 その内容は、目の前の二人のものである。


 ─────────────────

 │ラバー(ソウ)、結婚のため引退します │

 │─────────────────│



 大体、こんなことが書かれていた。


 そして、大量のファンが困惑の色をリプしている。



「待って…待ってください。

 これ…なにもネットに書き込まなくても…!

 あぐっ…!!?」


「スミィレ!!?」


「どうした…!!?」



 私はその日、異世界にて生を散らした。


 異世界ネットは恐ろしいことを、二人は知らなかったらしい。


 そりゃあそうか。

 ソウくんと友里ユリくんは、私と共にこの世界へ召喚された異世界人だ。


 いくら芸能活動をしていると言っても、ただでさえ召喚者と言うだけで贔屓される世界。


 知らなかったとしても不思議はない。



 異世界ネットは、発信源を経由して目的に魔法を発動できる事なんて、アイドルとしてちやほやされていた二人は知らないのだ…。

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推しは尊いから推しなのだ。 光星 @dokokanowaresi

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