4人は難関へ挑む

 彼らの腰ほどはあるか、最終関門と言わんばかりに棘を湛えたいばらの海がそこにあった。その奥、50メートルほど先には長老の木がある。


「こんないばらっ!こうしてやるっ!!」


 これまで同様、あっくんはいばらにも愛刀を振るう。眼前の長老の木など、もはや眼中にない。

 しかしいばらは、簡単に斬れてくれていた蜘蛛の巣や雑草の様には斬れてくれなかった。

「あれ、このっ!このっ!!」


 いばらは背は低く蔓を伸ばす植物であるが、草ではなく木である。その幹は細いながらしっかりとした密度があり、引きちぎるのはおろか、ちゃんとした刃物でもなければ切れはしない。あっくんの持つなまくらでは薙ぎ払えるわけもなく、愛刀は棒切れへと形を変えた。


「いらああああん!こんなものっ!!」


 ここまで一緒に冒険してきた棒切れを投げ捨て、いばらを踏みながら無理やりに進み始めた。


「みんなっ!何をしているっ!!付いてくるんだっ!!!」


 あっくんの剣幕に少し驚きながらも、3人は付いていく。


「あ……う、ごめ、ごめ、むり」


 いばらを歩き始めてすぐ、1、2メートル進んでボブが歩みを止めた。あっくんら3人より頭一つ背の小さいボブにこのいばらは背が高すぎたのだ。


「あっくんー。ボブ君が歩くの無理みたいですよー」


「何よわねを言っているんだっ!付いてこれなきゃ置いていくぞっ!!」


「あ、まって。むり…………マアァァァマアァァァ!!!」


 置いて行かれるという恐怖心や、先に進めないという状況からかボブが泣き出した。すかさず、ナツがフォローに入る。


「あっくん!酷いこと言わないの!ボブ君も泣いてますし、他の道を通りましょうよー」


「だめだっ!このまま進むっ!!隊長命令だっ!!!」


 棒切れを手放してなお、気が大きいままのあっくんは、思うままに言葉を振るう。傍若無人の破壊神、今の彼にはそんな言葉が似つかわしいか。


「何よ!隊員も大事にできなくて、自分勝手に当たり散らしてっ!そんなの隊長じゃありません!!!……さ、ボブ君ー、お姉ちゃんと一緒に帰りましょうねー」


「お、おいっ!ちょ、どこへ行くっ!!」


 来た道を戻ろうとする2人を呼び止める。しかし、怒ったナツの決意は固い。


「あっくんなんてもう知りません!ナツはボブ君と一緒に帰ります。ごめんなさいをするまで、ぜぇーったいに許してあげませんからね」


 振り向きもせず、あっくんにそう言って帰路へと歩き出したのだった。圧倒的な”終わる雰囲気”が、森林を埋め尽くす。


「2人になっちゃいましたね……」


 よっしーが気まずい雰囲気の中ぽつりとつぶやいた。あっくんの方も、さっきまでの血の気がすっかり去り、冷静さを取り戻した。自分のしたこと、言ったことを振り返っているのか、焦点の合っていない目をキョロキョロと泳がせている。


「タイチョーっ!しっかりっ!どこ見てんですかっ!」


「うぉっ、ごめん。今日はもう帰るか。なんかもう終わりみたいだしな」


「アヤマる相手がチガいますよっ!それにかえるって、それでいいんですかっ!キチ作るんじゃなかったんですかっ!タイチョーっ!」


 よっしーっからの強く優しい言葉に、あっくんは少し驚いた表情をする。これまでの2人の付き合いの中では初めてだったのだろう。いつも自分を信じ、付いてきてくれた友達からの言葉に、あっくんは気持ちを固めた。


「よっしーっ!これより君をふく隊長にするっ!!ついてくるんだっ!!!」


「はっ!」


(……それでこそタイチョーですよ)


 あっくんには聞こえないように、しかし噛みしめるようにつぶやいた。


 あっくんの表情にもう影はない。どこへ行くかなんて確認も必要ない。迷いのない足取りで一点を目指す。


「ナツっ!ボブっ!!さっきはすまなかったっ!!!また一緒にきちを作ってくれないかっ!!!!」


 あっくんは迷いのない、純粋な気持ちの込もった言葉を2人へ向けた。


「さ、ボブ君ー。休憩おしまいですー。おじゃま虫は早く帰りましょうねー」


「お、おいっ!ナツっ!!」


 思わずナツの事を呼び止めるあっくん。冷静さを取り戻し、2人に謝ってなおナツは動かなかった。


「違うでしょう?」


 そう短く言って、あっくんをひと睨みするとボブと歩き出した。


 同時にあっくんは走り出しナツの前へと飛び出した。


「ごめんなさいっ!」


 言葉と一緒に大きく頭を振り下ろした。耳まで赤く染めたあっくんはそのままの状態で静止している。


「よろしい!」


 少し得意そうに、最年長らしく腰に手を当てて胸を張る。ナツは隊長としてではなく、飾らない素のままのあっくんの言葉が欲しかった。


「ボブ君ー、謝ってもらえたことですし、ナツはあっくんの事を許すことにしましたー。ボブ君は、どうしますかー?」


「ン、あのね、ボブもね、ゆるす」


「と、言うことでー長老の木へいきましょー。おー」


 頭を下げたままのあっくんに代わりナツが音頭を取った。ボブとよっしーを連れ山道へと歩き出す。あっくんはまだ頭を下げている。


「でもー、後であっくんのママには言いつけますねー」


 少し意地の悪い顔をしながら、あっくんを呼ぶように、ナツが大きめの声で言う。2人の間では何度も交わされてきたお決まりの言葉だ。


「お、おいっ!ちょっと待つんだっ!!」


 あっくんはやっと顔を上げ、3人を追いかける。そして先頭へ行き山道へと一緒に進んだ。


「くもの巣からっ!みんなを守るっ!!」


 新しい棒切れを優しく振りながら、隊長の役目を果たすのだった。


 山道に戻ってからはスムーズに長老の木まで進んだ。

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