4人は山へ入る
「よしっ!みんなトイレは済んだなっ!!。では山へと向かうっ!!!隊列を乱すなよっ!!!!」
トイレを終えた4人は長老の木がある山へと向かう。並び順はあっくんを先頭に、ボブ、ナツ、よっしーと続く。最年少のボブを心配してか、ナツは保護者のようにボブと手を繋ぎ歩いた。
公園から山まではそれほど遠くなく、あっくんらの住んでいる住宅街を抜け、山肌を沿うように敷かれた道路を超えるとすぐに山の入り口に入る。というのも、この住宅街は山肌を平らにしたり、あるいは斜面に沿ったりして家が建てられているのだ。公園等に生えている樹木などは、山の一部を形成していた樹木をそのまま残していたりする。
「あ、見て!長老の木が白くなってますよー。今年は花を咲かせるんですねー」
ナツの指差す方向、山の頂上よりも少し下に一目で何かしらの木の花だとわかるほど大きな白い塊がある。
「ふんっ!花なんて俺が1年生の時だって咲いたさっ!!一々そんなうれしそうにできるかっ!!!」
「でもー、ボブくんとかはまだ小さかったし覚えてないんじゃないかなー?ボブくんどうですかー?」
「あのね、僕ね、知らない」
「ほらー」
長老の木は他の木々よりも圧倒的に大きく、自分たちの学校に植えてある桜など小さく感じるほど存在感が、遠目からでも伝わってくる。
「ボブくん、あの木が長老の木なんですよー。3、4年に一度、一杯に白い花を咲かせて、花の咲いた年は豊作になるって言い伝えもありますー」
「あのね、ほうさくってなに?」
「美味しいものが沢山採れる事ですよー。おじいちゃんな長老の木が花を咲かせるということは、山全体に栄養が行き渡っていて、花を咲かせるのにも十分なほど土地が豊かな証拠って、お母さんが言ってましたー。」
そうこう話をしているうちに、長老の木がある山の入り口に到着した。
「よっしーっ!ここから先の案内を頼むっ!!」
「はっ!了解ですっ!っ!」
そしてよっしーは地図を取り出し広げた。
「ここが今居る山の入り口です!まずサンドーを道なりに進んで、赤い橋をワタります!赤い橋からはサンドーじゃなく、長老の木までまっすぐに進むサクセンです!イバラなんかへっちゃらです!」
「そのいきだっ!よっしー!よしっ!!!みんな行くぞっ!!!!」
あっくんを先頭に山道を進む。山道は獣道を少し広げたような、舗装されていない土と石の道になっている。時々ある急斜面などには階段状に足場が作られ、管理はされているのをうかがわせる。木々は青々と茂っては居るが鬱蒼とはしておらず、心地よい日差しが風に乗って吹き込んでくる。
「あ、赤い橋が見えてきましたよー。渡ったところで、一度休憩しましょー」
「ナツっ!そういうのは隊長である俺がシジするんだっ!!勝手にシジをするなっ!!!みんな、あの橋を渡ったら一度休憩するぞっ!!!!」
「結局するんじゃないですかー。もー!」
橋を越え、手ごろな段差や岩をイスがわりに、4人は休憩を取る。
「はーい、みんなー。お水はこちらですよー」
やはり、ナツの世話焼きが始まる。
「ボブくんーお水どうぞー。大丈夫ですかー?あと半分で長老の木ですよー」
「あのね、だいじょぶ」
「ボブくん、えらいですねー。ここから先もがんばりましょー。おー!。はい、2人もお水どうぞー」
2人はコップを受け取ると腰に手を当て一気に飲み干す。飲み干してすぐ、あっくんは手近な岩の上に立ち、3人を集めた。
「みんな、ここから先はヤブの中を進むことになるっ!どこから何が出てくるかわからないから、気を付けるようにっ!!」
そう言って岩から飛び降りると、手ごろな長さの木の棒を拾い上げ、進行方向へ突き立て歩き出した。
山道から外れ森の中へと踏み込む。陽当たりの良い山道や山の入り口付近は様々な草が茂り、入る者を拒むようになっているが、一度森の中へ入ると存外歩きやすくなっている。あれほど茂っていた草は消え失せ、彼らの腰程度の笹や陽当たりをさほど必要としない草木がまばらに生えているのみだ。
「ええいっ!くもの巣めっ!!」
道なき道を進んでいる最中、突然ヒュンヒュンとあっくんが棒切れを振り回しだした。
「さっきから顔に腕にとっ!みんなはなんで平気なんだっ!!」
「そんなのー、あっくんが一番前だからじゃないですかー」
隊長だからと、常に先頭を歩いていたのが裏目に出た。あっくんは歩いてきた道全ての蜘蛛の巣を引き受けていた。よくよく見てみるとTシャツのや短パンにいくつもの蜘蛛の糸が引っかかっている。
「なっ……こ、これはきっとてきのわなだっ!われわれを進ませないようにしているんだっ!!ここにもっ!!!ここにもっ!!!!」
あっくんは目についた蜘蛛の巣を棒切れで払い始めた。敵の攻撃を阻む基地を作る設定はどこへ行ったのか。もう山には敵がいるらしい。
そのうち、蜘蛛の巣を相手に棒切れを振り回すだけでは飽き足らず、歩くとき邪魔になる、少し背の高い草や笹にまで棒切れを振り出した。
「この草もわなだっ!みんな、道は俺が切りひらくっ!!いくぞっ!!!」
蜘蛛の巣にはない、草の繊維を断ち切ったという適度な手応えに、一刀両断できた時の快感、達成感にあっくんはどんどん夢中になっていく。
「タイチョー……それはまずいですよ……」
「もー、あんまり振り回すと危ないですよー。ぶつけてケガをしたらどうするんですかー!」
小さな破壊神と化した今のあっくんには、誰の声も、ナツの声すら届かない。かと言って、棒切れを振り回す危ないあっくんをナツはどうすることもできない。ボブと手を繋ぎ、せめて危険から遠ざけるよう配慮するのが精一杯だ。
「はははははははっ!どうだっ!!わななんて効かないぞっ!!!」
そんな調子で問題のいばらの生えている場所へと到着した。
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