小学生4人、休みの日に山へ行く

hiroshi

4人は公園に集まる

「みんな、よく来てくれたっ!今日のわれわれのにんむは、あの山の中に敵のこうげきを防ぐ基地を作ることだっ!!山の中は危険が沢山あるっ!!!気をゆるめずにやるぞっ!!!!いいなっ!!!!!」


 一段高くなっている場所から、一生懸命に彼は凄んでいる。

 しかし、迫力に欠けさらに微笑ましささえ感じるのは、彼が若いと言うよりも幼いという言葉が似合う外見、年齢だからだろう。

 彼が話をしている場所も普通の公園だ。カラフルな遊具に砂場、公衆トイレに水飲み場、そして邪魔だとばかりに隅に並べられた大小の土管とタイヤの数々。その土管の上で彼は凄んでいるのだ。


「各班!持ち物のじゅんびは大丈夫か!!」


腰に手を当て彼は他の3人に目配せをする。


「あっくんは、今日は隊長さんなんですねー。ナツはちゃあんとお弁当もってきましたよー。そうそう、山に入る前にはスプレーしましょうねー。あっくんいつも血が出るまでかいちゃうからー。皆もスプレーしないとダメですよー」


 間延びした声に、あっくんと呼ばれる彼が一生懸命作ろうとしている緊張感が、打ち消される。


「お、おいナツ、やめろよーー。こんなとこで子供あつかいすんな。あと、あっくんじゃなくて隊長と呼ぶこと。次!ボブ!!」


ナツにスプレーをかけられながら話を戻す。このままでは止まりそうにないナツの世話焼きに流されないようにするためか、あっくんはボブという色黒少年に話を戻す。


「えとね、これがコンパスでね、こっちがそうがんきょでね、かいちゅっでんとにね……」


 ボブはなにやら色々出し始めた。それを見てあっくんは大きく頷く。


「うんうんっ!よしいいぞボブっ!!つぎっ!!!よっしーはどうだっ!!!!」


 最後の少年、よっしーは声高々に答える。


「はいっ、タイチョー!問題ありません。これがキチを作る予定の山の地図です!」

彼はあっくんに地図を手渡し、さらに続ける。


「キチには長老の木の穴を使うのがいいと思いますっ!」


 よっしーは両手を高く上げ、全身を使ってその木の大きさを表現する。


「ふむっ!あの長老の木をつかうのかっ!!でかしたぞよっしーっ!!!だが地図は、遠回りのルートを通るようだが、なんでなんだっ!!!!」


 あっくんが皆に見えるように指し示す地図のルートは、確かに目的地に向かう途中、大きく迂回するように線が引いてある。


「はいっ!昨日チョウサに行ってきたんですが、そのあたりからイバラが沢山生えていて、通ることはできないと思いますっ!」


 よっしーの返答に対してあっくんは強く返す。


「甘いっ!いばらがなんだというのだっ!!ここは直進するつ!!!」


 そのまま土管から降り、皆を見回して一呼吸置き、さらに続ける。


「よしっ!皆準備は良いようだなっ!!ではこれから、長老の木へと向かうっ!!!行くぞっ!!!」


 自分が先頭を行くと言わんばかりに、あっくんは進行方向を指差し歩き始めた。指を差している方向には、標高300メートルぐらいだろうか、小高い山がぽつんとある。


「あっくん!ちょっとまってくださいー。出掛ける前には、ちゃんとトイレに行かないとだめですよー。山にはトイレはありませんよー。」


 ナツの世話焼きが始まった。先頭を行くあっくんの手を掴み歩行を止める。


「……ナツっ!時間が無いんだぞっ!!こうしている間にも、敵が基地まで来ているかもしれないんだっ!!!トイレになんて行ってられるかっ!!!!」


 少し間を置いてあっくんが矢継ぎ早に捲し立てた。ナツにペースを握らせまいという、隊長を演じきってみせるという気迫が感じられる。


「ダーメーでーすーっ!あっくんのママに言い付けちゃいますよー。それに、ナツはあっくんよりも2才、おねえちゃんなんですからねー。おねえちゃんの言うことは聞くものなのですー。さぁ、ボブくんもよっしーくんもトイレに行きましょうねー。」


 そう言うと、ナツはあっくんを無視してボブとよっしーの手を引いた。そして3人で公園の隅に建っている講習トイレへと歩き始める。


「もーっ!」


 あっくんが後ろの方でうなりながら渋々ついてきていた。

 トイレへ歩いている途中、ボブが口を開く。


「あのね、ボブね、トイレの時はね、いつもあの木にえいようをね、あげてるの。」


 頭上に?マークが3つは見えそうなほどナツは、へ?という表情をしている。

 ボブの発言に付いてけないナツを置き去りに、男子2人はそれぞれ行動を開始した。


「よぉーし、ボブっ!トイレに行くぞっ!!ついてこいっ!!!」


 後ろの方を歩いていたあっくんが、いつの間にかボブの所まで来ていた。そしてボブの空いている手を掴むと一目散にトイレへと連れていく。


「えっ?ボブくんー栄養って何のことですかー?あっくんも待ちなさいー!」

「ま、まぁまぁまぁ、どうせトイレでは男女で別れますしね?ボブだっていつもあんな感じじゃないですか」


 あっくんを追いかけようとするナツをすんでのところで引き止めフォローを入れる。ナツは理解したというより受け入れた、といった感じでよっしーの言葉を飲みこんだ。


「ボブくんトイレ大丈夫かなー……」


 ぽつりと小さな声でナツがそんなことを言う。何もしなければナツはトイレまでついていくつもりだったらしい。ボブは最年少というだけあって、ナツの世話焼きも際限がない。


 よっしーは苦笑いを浮かべながら自分もトイレ行ってきますと声をかけ、あっくん達の後を追った。


「ボブっ!ナツの前では俺たちがあの木に栄養をあげている話をしちゃダメだっ!!これは男同士の秘密なんだぞっ!!!」


 3人で用を足しながらあっくんがボブに言い聞かせる。普段彼らは汚いトイレを避け手頃な木を見繕い、栄養をあげるという名目で用を足していたのだ。


「あのね、じゃあね、今日はえいよういらないの?」

「「”いらないっ!”」」


2人は声を合わせてボブに栄養をあげさせまいとする。ボブは2人より先に用を終えて、1人トイレを出ていった。それと同時に2人はふぅーっと胸を撫で下ろす。

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