本編
「このν、人間だった頃の身分証を持っているな、『大杉剛』か。」
これまでの研究からνは人間が感染することによって発生していることがわかっている。しかし、その感染源は何によってもたらされたものなのか、そもそも自然に発生したものなのか、それとも人為的に発生させられたものなのかなどは判明していない。それでもνとなった人たちの共通点としてνになる前の一週間の間に「葛城水族館」に行ったことが判明している。しかし葛城水族館の職員に感染者はいないこともあって、水族館に来た者が感染していることは単なる偶然である可能性を否定できないでいる。そのため、葛城水族館に休館を要請することはできていない。もっとも、水族館そのものに原因があったとして、νのことを伝え、休館を要請することはできないだろう。
「大介はこの男性、大杉の過去一週間の行動を洗っておいてくれ。俺は本社にνについての研究の進捗を報告しに行ってくる。もし何か新しいことがわかったら連絡してくれ。」
「失礼します。これがνに関する研究の報告書です。」
そう言いながら始は野上製薬の研究部の奥に偉そうに座っっている部長、岩井に紙束を差し出した。
「ありがとう後藤君。ところで、そろそろνとの戦闘にはなれてきたかな?」
「はい。しかし、ミユとは上手く連携がとれていないような気がします。なので、ミユについての研究資料をいただけないでしょうか。」
岩井は「ミユについての研究資料」という言葉を聞いた途端に渋い顔をした。
「申し訳ないがミユのデータを渡すのは少し待ってくれないかな?νに関するデータを開示するには申請をしなければいけなかったり、色々と面倒な手順を踏む必要があるのでね。」
岩井は本気で申し訳なさそうに言ってこそいるが、その眼からは始のことを謀らんとする意思が宿っているように思えた。
「その申請にはどれほどの時間がかかるのでしょうか?」
「一週間もあれば済むだろうから焦らずに待っていてくれ。」
「わかりました。」
「申請が済んだら連絡するよ。」
「はい。では私は戻らせていただきます。」
岩井はなにか隠そうとしている。何故かはわからないが、始はそう確信していた。しかし不信感を抱いていたことを悟られるとまずいと彼の勘が告げていたため、尋ねることはせず、おとなしく帰ることにした。
始はν対策本部に戻ってすぐ、ミユについての資料が手に入りそうなこと、しかし本社はミユについて何かを隠そうとしているように感じたことをNEOのメンバーに告げた。
「本社がミユについての情報を俺らに隠してなんのメリットがあるっていうんだよ。考え過ぎなんじゃないか?隊長さん?」
「確かにそうね。本社には前線で動いている私達に資料を渡さない理由なんてないわよね。その場にいた訳ではないけれど、本社に何か秘密があると考えるのは自然ではないと私は思うわ。」
始の言葉を聞き大介と陽子はそう告げた。
「二人が言いたいことはよくわかる。ただの心配性な隊長の戯言だと思ってくれていい。だが、できればでいいんだが、本社に怪しい動きがないか、少しだけでも注意を払ってくれ。」
「まあ、注意を払うだけならいいですけどね。本社が何か企んでいるとも思えないですけどね。さて、俺からも報告することがある。」
大介は話を切り上げ、νとなった男、大杉剛もまた他の感染者同様、最近葛城水族館に訪れていたことを伝えた。その直後、ν対策本部の警報がけたたましく鳴り響いた。どこかにνが現れたらしい。対策本部にあるモニターに周辺の地図が表示され、その地図に光点が打たれている。
「ついこの間湧いたばかりなのにまた出たのか。場所はこの間の所からそう遠くない。すぐに出動しよう。」
NEOが発生現場に到着すると、複数の影が逃げるかのように建物の脇から現れたかと思うと、それらよりも幾分か小柄な影が追うように出てきた。その小柄な影はNEOの車両を見ると、こちらに近づいてきた。
「やっと来たんだ。遅かったね。現れたのは合わせて4体、そのうち1体はすでに倒したよ。」
「ミユ!もう居たのか。残りの3体は挟み撃ちにしよう。俺たちはこのまま正面から攻める。ミユは建物の裏に回ってくれ。」
「分かったよ。」
ミユはそう言った直後、風のように走り去っていった。そして、NEOは始を先頭に、逃げるνを追うため走り出した。
NEOが逃げるνを追うと、そのうちの一体が逃げることに飽きたかのように後ろを走る始に飛びかかるような素振りを見せた。その刹那、後ろを走る匠がそのνを撃ち抜き、動きが止まった間隙を突き、始のナイフがそのνの頭部を切り裂いた。その後、残りのνは路地へ逃げ込んだかと思うと、その先に待ち構えていたミユによって切伏せられた。
「ありがとう。ミユ。」
ミユはそれに対して何も言わずに頷いた。
夜の町は、先程まで異形との争いがあったことを感じさせないほどに静まり返っていた。そんな中、ミユは数え切れないほどの輝きを携えている空を一人寂しそうに見上げながら、その様子を眺めていた俺に話しかけた。
「匠、私はνがいなくなったらどうなるんだろう?νと同じように殺されちゃうのかな?」
「きっとそんなことはない。なぜならミユには人間と同じ心があるからな。」
「心があったら殺されないの?でも、νは元々は人間なんだから人の心が無いとは限らないんじゃない?ならνを殺すことはできないよね。しかも人間は同族を殺すことさえあるじゃない。」
ミユは問いかけるように言った。それに対してどう言おうかしばらく考えた後に答えるように返した。
「これから話すのは全て俺の持論な上、少し長くなるがいいか?」
その問いかけに対してミユが無言で頷いたのを見て、話し始めた。
「俺は人間、いや全ての種には自分たちの種にとって邪魔だと思われる存在を排斥し、自分たちの種を守ろうとするようにプログラムされていると思っているんだ。例えばνは突如現れ、人間の個だけでなく種全体を脅かしている。だからνを排除し、自分たちを守るためにミユは生み出されたんだ。でも、ミユは人間と同じ心を持って生まれた。だから、νを倒すっていう仕事がなくなった後も人間に馴染み、ともに生きていける。つまり種にとって邪魔な存在にはならないだろうと俺は思う。そして殺人が起きるのも同じプログラムが作用した結果だとも思ってる。個への脅威を種への脅威と間違って判断した結果、周囲の人間を攻撃し、最悪殺してしまうんだろう。そして、その殺人犯は人間の種への脅威と言って差し支えないだろう。だから、人間は法を整備して、種を守ろうとしているんだと思ってる。加えて言うと、俺は今まで倒してきたνは全て元々俺と同じただの人間であることを忘れず、それに手をかけてしまったのだと後悔しない日はない。でも、νになってしまった以上、人という種の存在を脅かすもので、それは倒さなければいけないものだと納得して今を生きている。」
ミユは話し終えた後、無言で俯いた。
「すまない。分かり難かったか?」
「ううん。そんなことないよ。」
ミユはそのまま、一瞥もせずに、夜の町に走り去ってしまった。
計4体のνを倒した3日後、陽子は大介とνとなった人物の一週間以内の行動を調査しているため、始がミユの世話に行くことになった。
ミユが普段生活している山中にある小屋に入ると、部屋の中央にある近くに人形の人形が転がっている積み木で作られた高めの塔の周囲で、ミユは大きな怪物のような人形と複数の人型の人形を闘わせるように遊んでいる。
ミユが人形で遊ぶ様子はさながら人形劇の様で、意識せずとも思わず眺めてしまう不思議な魅力があった。
「ミユ。その人形たちは何のために闘っているんだ?」
始は思わず呟いた。
「彼らは自分たちの身、そして種を守るために闘っているの。この怪物は人間という種にとっての脅威だから。私達にとってのνなのよ。」
ミユは数日前、匠に言われた言葉を踏まえ、笑いながら返した。しかし、始にはミユのその表情が少し寂しそうに思えた。
「そうか。自分達の身を守るために…。そういえば、食事を持ってきたんだが、一緒に食べないか?」
「うん。ありがとう。」
始はミユの寂しさ少しでも紛らわすために共に食事をした。その甲斐あってか始と話しながら食事をするミユはいつもよりも楽しそうに見えた。
先日νとして現れた人物もまた、νとなる直近一週間の間に葛城水族館を訪れたことがあるようだ。やはり葛城水族館にはνになる原因があるのではないかとNEOが話していると、始に本社から一通のメールが届く。そのメールはミユについての資料を渡す準備が整ったため、できるだけ早く本社に来いという旨のものであった。
「ミユに関する資料を受け取ることができるらしい。俺は本社へ向かうが、何か起きたら連絡してくれ。」
「わかりました。」
「俺も本社に用事があるからついて行こう。」
「匠が本社に用事?何をするんだ?」
「これまでに分かったことを報告するように言われてたんだ。」
始は匠の用事を把握していなかったことに驚いた様子だったが、何も言わずに二人は本社へと出発した。
俺達二人は本社に着くとすぐにミユの資料を受け取るため研究部へと向かった。そこには部長である岩井だけではなく、社長である野上誠一も待ち構えていた。始がそのことに驚いていると、社長は口を開きこう言った。
「よく来たね、後藤君、そして北条君。ここに呼んだのに申し訳ないが、後藤君は社長室まで来てくれないか?要件はそこで。」
「社長室に?わかりました。」
そう言いながら、俺は社長についていった。
社長室は普通の社員では近づくこともないような部屋なだけに始は酷く困惑した。社長室は機密が決して漏れることのないように厳重に警備及び隔離されている部屋である。そうであるだけに、他には決して漏らすことのできないような情報が渡されることは十中八九確実だろうと始は考えた。
「君をこの部屋に呼んだのは他でもない、ミユに関しての資料を譲渡するためだ。今から渡す資料は社の中でも極僅かな人物しかしらない極秘資料だ。決してNEOの外には漏らさないでくれよ?」
「わかりました。」
この言葉を言ったことを確認すると、社長は俺にミユに関する資料を手渡した。
「さて、社長と後藤君は見送ったことだし、北条君、君にはこれまでにνについて分かっていることの報告をしてもらおう。何か進展はあるかな?」
「いえ、以前始が提出したときからほとんど進展していません。強いて挙げるなら先日現れたνを含んだ全てのνが葛城水族館へ来館しているため、葛城水族館にはほぼ確実に何かがあること程度です。しかし、毎度始を呼んでいたのにも拘らず、今日は何故私を?」
俺は岩井に頼まれていた資料を渡しながら、彼に尋ねた。
「進展はしていないか。」
岩井は少し安堵しているかのような表情を浮かべながら呟き、続けて、
「君を呼んだのに特筆すべき理由はないよ。ただ、NEOの様子を知る上でリーダーの後藤君以外の視点から見た内情も重要かもしれないと、思っただけだよ。」
と、俺の質問に答えた。
「NEOの内情ですか。特に伝えるべきことはありませんが、早くνの発生を食い止めようと、皆の気持ちが逸っているのを感じます。後、先日ミユと話をしたのですが、少しつまらないことを話してしまったため、嫌われていないか心配です。」
俺はNEOについて感じていることを率直に述べた。その言葉を聞いた岩井は再び安堵したかのような表情を浮かべた。以前始が言っていたように本社は俺たちに知られるとまずいことを隠しているのかもしれない。
「今、ここで読んでもよろしいですか?」
「構わないよ。」
俺は今まで知ることのできなかったミユについての情報を得られることが嬉しく、社長の前であることを忘れたように分厚い資料を読み漁った。
資料を読み進めると、様々なことがわかった。ミユの体の構造がνと酷似しているのである。そう、ミユは野上製薬がかつて捕獲したνを元に創られたのだ。しかし、人工的に生み出した弊害か、νに比べて運動能力こそ高いが、その分ガス欠も早くなってしまっているらしい。普段の戦闘で疲れている様子を見せることがないのは、基本七割程度の力しか使用していないためらしい。さらに、ミユもνもどちらも熱に弱く、高熱に晒されると、徐々に細胞が崩壊していき、最終的に死亡するようだ。
俺は大方資料を読み終えると、NEOの皆に伝えるために社長に礼を告げ、研究部へと戻ることにした。
岩井に報告を終えると、始はいずれこの部屋に戻ってくるようなので、久々に自分の席に座っていることにした。普段から整頓してはいるが、長い間空けていたため埃が積もっているかと思って自分の席を見ると、予想に反して埃も少なかった。誰かが掃除してくれていたのだろうか。
自分の席にある物を確認していくと、見慣れないファイルが一冊置いてある。自分で置いた訳ではないそのファイルを手に取り、中に入っている報告書の表紙を眺める。どうやらこの資料は岩井が書いたものらしく、NEOやνについての資料を提出した後、社長自ら捺印する極秘の印が入っている。この印は社長以外には押せないはずで、簡単に偽装できるような代物でもないため、この報告書を書いた人物は岩井でほぼ間違いないだろう。
中に目を通すと、目を疑うような記述があった。本社にとって俺たちに気が付かれたくない不安事項があるのだとすれば、確実にこの資料の内容だろう。この報告書の真偽を直接社長に問いただすため、俺は弾かれたように社長室へと駆け出した。
俺が社長室を出ようとすると、社長室の扉が突如強引に開かれ、匠が切羽詰まった表情で入ってきた。しかし、こちらを気にする余裕がないのか、匠はまっすぐ社長に近づき、資料を机に叩きつけるように置いて、少し開いて見せた。
「北条君!どこでその資料を手に入れた。」
「どこで手に入れたかなんてどうでもいい!この資料に書かれていることは事実なんですか!νを生み出したのはこの会社だというのは!」
「νを野上製薬が創った?社長、どういうことですか。」
「それについては私が説明しましょう。」
匠の跡をつけてきたのだろうか、気がつくと扉の側に気味の悪いほどに落ち着き払った様子の岩井が立っていた。
「どうしてそれを持っているかは知らないが、その資料に書かれていることは全て事実だ。」
「ならどうして町にνが現れる?外に漏らさずに処分しなかったのは何故だ!」
「νは私が創った新たな生命体だ。人間に近い生物を生もうと研究していたが、生まれた生物は予定よりも幾分か獰猛な物になってしまった。その時、すぐに処分しようかとも考えたが、一つ良い案が浮かんだ。νを生んだのが私であることは私と社長の間だけで留めておき、νを町へと放った。それも、人をνへと周囲に人がいないときに変異させ、暴れるよう細工をして。そして、謎の怪物が発生して暴れていることを国に報告し、その対策をこの会社で行う代わりに、多額の助成金を毎月国に支払ってもらった。しかし、νを生んだのは私だ。対策を講じるのは容易だった。当然対策費用は助成金のそれを遥かに下回る値段だ。しかも、君たちNEOがνを倒すとその度危険なことをしていることへの手当として更に金がはいってくる。こうすることで、この会社はより多くの資産を得ることができたのだよ!」
「やっぱり、私は金儲けのために利用されてたんだね。」
岩井が大方話し終えると、少女が社長室に入り、呟いた。岩井はミユの言葉を聞き、返す。
「だからどうした?私が生んだνの一体であるお前に、私は人間の、知性体の真似事させてやったんだ。感謝してほしいくらいだな。だが、この計画のことを貴様らは知ってしまった。非常に残念だが、もう君達を生かしておくことはできない。」
そういうと、岩井はおもむろに黒い液体の入れられた注射器を取り出し、自分の腕に針を突き立て、中の液体を注入しはじめた。すると、岩井の体は腕から全身にかけて、まるで細胞周期が非常に短くなり、爆発的に細胞が増えていくように、皮膚が破裂し、四肢がブクブクと肥大化していき、最終的には全身が異形の怪物へと変貌した。
「私はνの細胞を改良し、人間を遥かに上回る完全な存在となる薬を開発した!最早私は人間だけではない。神すらも凌駕した存在となったのだ。名乗るとすれば、そうΩ。νの最終型にして、終焉を告げるものだ。社長、この小虫共は私が殺しておきます。下がっていてください。」
異形と化した岩井、Ωを前に怯んでいた俺たちにミユは武器を投げ渡した。戦えというのだろうか。
「二人とも、あいつは自己を失うことを恐れて、脳は大きく変異していないだろうし、最大まで力を出すこともできないはず。きっと勝機はある。それに、ここであいつを倒さないと、人間が滅んでしまうかもしれないでしょ?」
その通りだ。ここで諦めたところで、関係ない人にも被害が及ぶだけだ。なら、たとえ勝てないとしても、抗った方がずっとましだろう。俺はナイフを構え、Ωを睨んだ。匠も同じように考えたのか、銃を構える。
「勇んでいるところ申し訳ないが、私最大まで力を発揮しようがしまいが、私に力が及ぶことなど決してない。ここが貴様らの墓場になることはすでに決まったことなのだ。」
そう言いながら、Ωはその巨躯からは想像もつかないような速度で、腕を振りおろした。腕が床にぶつかると同時に、地響きが起き、社長室が崩壊し、階下から明かりも天井に取り付けられた蛍光灯に照らされた、闘技場のような巨大な空間が現れた。駐車場に降りてきたようだ。
「さあ、ここでお前たちのことを甚振ってやろう。ちっぽけな力でせいぜい楽しませてくれ。」
匠はその挑発に乗るようにΩから少し離れ、頭部目掛けて銃弾を放った。頭に銃弾を受けたΩはやや怯んだようにも見えたが、すぐに体勢を立て直し、匠の方へまっすぐと駆け出した。
俺は匠を守るように走り出したΩの正面に飛び出て、ナイフで膝に切りかかった。しかし、鋼鉄のように変質した皮膚には傷一つつけることすら叶わなかった。
「そんな玩具で何ができるというんだ。抵抗せずにじっくりと嬲り殺しにされればいいものを。」
俺はΩの僅かな動きで後方まで吹き飛ばされる。その少しの動作のうちにも匠は頭部を狙い撃ち続けている。少しずつ生まれる隙をついて、今度はミユが飛び上がり、Ωの後頭部を切りつけた。
さすがにミユによる一撃は堪えたのか、Ωは少しよろめいたが、それも決定打にはならず、ミユを振り払い、匠に向けて突進していく。
このままでは何もできずに全員死んでしまうだろう。何かΩの弱点はないだろうか。
Ωはνの究極型だ。もしかしたらνの弱点がΩの弱点ではないだろうか。何かνの弱点になるものは。
「そうだ、ミユ!車をΩに投げつけることはできないか?」
「車を?できると思うけど。」
そう、ここは駐車場。火を発生させるならば自動車を爆発させてしまえばいい。持ち主には気の毒だが仕方がない。
俺はミユが自動車を投げる隙を作るためにΩに近づき、匠に加勢した。
「匠!少し時間を稼ごう。奴の頭を狙いつつ、攻撃を避けてくれ。」
「簡単に言わないでほしいけど、わかった。やってやろう!」
俺と匠はΩに攻撃しつつ、避けることで時間を稼いだ。
「時間を稼いだところで何ができる。できることなんぞ、たかが知れているだろう。そろそろ死を受け入れたらどうだ?」
「確かに俺たち二人には何もできないね。でも、お前は俺たちが、人間が幸せに暮らしていくためには邪魔な存在なんだ。ここで何としても倒さないといけない敵なんだ。」
匠はΩの注意が自分に向くように動く。すると、
「二人とも!準備ができたから避けて!」
と、ミユの声が響いた。直後、Ω目掛けて凄まじい速さで自動車が飛んでき、ガソリンの匂いがしたかと思うと、爆発が起きた。
その爆風に吹き飛ばされた俺たちは、地に伏した。
少ししてから起き上がり、背後を見ると、全身が赤く燃え、悶ているΩの姿があった。
「なぜだ!Ωは完璧だったはず!こんなところで!こんなところでー!」
そう叫ぶと、Ωは仰向けに倒れ込み、体が徐々に崩壊して消え去った。
「倒したのか、良かったー。」
安心したのか、匠は倒れ込んだ。
「そうだ、ミユは?」
岩井の言葉が本当ならミユもまたν、熱には弱いはずだ。Ωを倒した爆発に巻き込まれていたら一溜りもないだろう。周囲にミユがいないか探すと、遠くに倒れた小さな人影があった。
「ミユ!大丈夫か。」
ミユに急いで近づき、体を揺すると少女は目を醒ました。体はΩのように崩壊しておらず、無事なようだ。
「始、うん。ありがとう。あいつは倒せたんだよね。良かった。これで、νが発生しないようにすれば全部解決だよね。」
「ああ、そうだな!」
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