石井遥の平凡な何気ない土曜日
「明日はどんな格好で行こうかな~!」
今日は、土曜日。もう9時だが、遥は未だにベッドの上で寝っ転がっていた。
明日は、凜と出かける。幼馴染の凛と、二人っきりで。
スキップでもしたい気分だ。あるいは、口笛でも吹きたい気分。まあ、吹けないけどね!
「でも、昨日の凛はひどかったなー、無視するし。こんなかわいい美少女に話しかけられているのにね!」
でも、そのおかげで明日一緒に出掛けられるようになったから、結果オーライかな!
私はベッドから降りてクローゼットの前に立った。
「どれにしようかな~!」
そして、クローゼットから掛けてある服を選んでみる。
「これ、はちょっと地味かな」
姿見の前で合わせてみる。
「うーん、これは……凛は嫌がるかも」
次の服。
「この服だと多分暑いよね、凜の前で汗かきたくないし」
他には……
そして、気がついたら1時間近く過ぎていた。
結局、
「決められない!」
はあ、疲れた。うーん、こんな時は……
「よし、ゆいちーに相談しよ~っと!!ゆいちーお悩み相談室!!」
ゆいちーの携帯に電話しよ!きっと相談に乗ってくれるはず!
「………」
あれ?つながらない。電源も切ってあるみたい。まあ、土曜日だからまだ寝てるのかもしれない。
いや、ゆいちーのことだからそれは無いか。だっていつもピンとしてるし、朝も早く起きているだろうし。ほんとに優等生って感じだよね!ゆいちーも、それに私も!!
私は部屋にかけてある時計を見て気がついた。
「って、もうこんな時間?そろそろバイト行かなきゃ」
私はバイトをしている。ゆいちーにも凛にも言ってないけど。だって、バイトしてるって言ったら、この超絶可愛い私のバイトの制服を見に来ちゃうじゃん!!特に凛が!……ってまあ、凜になら見られてもいいかも。小さいころは一緒にお風呂も入ったくらいだし。制服ぐらいなんでもない……いや、やっぱり恥ずかしいからやめとこ。
「ゆいちーには……また後でかけよっと」
この時の私は、この後バイト中に凛とゆいちーを見かけることになるとは思いもしなかった。
「厨房入りまーす!」
「あ、石井さん!こんにちは、洗い場1人足りてないから入って!よろしく!」
「わかりました!」
11時30分。お客さんが一番入ってくる忙しい時間。今日は厨房に入ることになっている。ちなみに私はフロアも料理も出来る優秀でハイブリッドな人材なので、フロアの日もあるよ!……あれ、ハイブリッドっていう言葉の意味、間違えてないよね?
ちなみに、ここは近くの駅にある食事もできるカフェ。制服が可愛い。とってもかわいいので、ここの店を選んだと言っても過言ではない!まあ、後は……家から近いこと?かな?
カウンターもあって、厨房と席が壁で仕切られていないのもいい。とっても開放感あるし、華麗に料理している私の姿も見てもらえるし!見とれないでね!
「洗い場入りまーす」
いろいろな担当があるが、洗い場が一番大変だ。食洗器を使うとはいえ、お客さんが使い終わった食器だけでなく、料理の際に出た調理器具や材料を保存していた食缶も洗わないといけないからだ。温度の高いお湯で洗うので、洗った直後の食缶は熱いし。手が荒れるからあまりやりたくないんだけどなー。
「まあ、昼食時間が終わるまでだし、頑張ろうっと!」
気合いを入れて、頑張りますか!
13時。やっとピークが過ぎ、お客さんの数も減ってきた。ちなみに、今は洗い場じゃなくて盛り付けに入っている。こういう繊細な作業も得意な私って、ほんとすごいよね!あ、ちょっとはみ出しちゃった。まあいっか。
そんな感じで作業をしていた私の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ちょっと、あまりうるさくしないで。店に迷惑だよ」
これは間違いない。凛の声だ。なんで?いつの間に?全く気がつかなかった!こんな店、凜は興味ないと思ってたのに……男子高校生が来るような店ではないはず。女子とかサラリーマンとか、後は……カップルとかが多い。もしかして、彼女と来てるとか?いやいや、無い……よね?
「って、振り返ったらばれちゃうじゃん」
この店に凛がいることはほぼ確実だ。どうしよう、このまま知らんぷりをする?それとも、制服姿を見せて……褒めてもらう?いや、褒めてくれるかな?凛って何考えてるんだかよくわかんないんだよね!こんなに可愛い幼馴染がくっついてきても、全然焦ったりしてくれないし。無視してくるし。
ふん、もういいや、無視してくるような凛なんて、明日のデートでハートを撃ち抜いちゃうんだから!物理的にね!!デートとハートで韻踏んでない?すごくない!?
……冗談はともかく、明日のお出かけで凛が私のことどう思っているのか、確かめちゃお。ほんとだよ?
……後、本当に彼女と来ていたら立ち直れなさそうだから、見たくないっていう気持ちも少しある。ほんの少しだけ、ね。
あれ、考え事してたらちょっとスパイス入れすぎた?まあいっか、食べられるよね!!最悪、腹痛程度でしょ、食べられないものは入れてないし!
「石井さん、こっちは大丈夫だからレジに入ってくれる?」
「はい、わかりました!」
盛り付けが一段落した後、今度はレジに入った。フロアの領分なはずなのにね!まあ、私はもうベテランですからレジも出来るんだけどね!
レジに3組くらい並んでいたので、素早く終わらせた。一息ついて、店内を何気なく見まわしてみた。そういえば、凜ってまだいるのかな。あ、あそこにいるのは……
「って、」
ゆいちー!?何でいるの!!!
危うく叫ぶところだった。なぜか凛がゆいちーの席の前に立っていて、何事か話してる。なんで?凛は友達ときたんじゃないの?もしかして、ゆいちーと来たの?なんかどっちも笑顔だし、も、もしかして……
そんなわけ、無いよね。だって凛は私の幼馴染だしゆいちーは親友だし。
でも、凜の魅力もゆいちーの魅力も、私が一番よく知ってる。
凛はいつも私に合わせてくれたり、少し茶目っ気があったり、一緒にいて楽しい。
ゆいちーは、いろんなことを知っていて、いつも笑顔を浮かべている優等生。とっても優しい。
私は、そんな二人だからこそ、大好き。
でも、凜とかゆいちーが私のことをどう思っているかなんて、私にはわからない。凛はいつも絡んでくる私のことを鬱陶しいと思っているかもしれない。ゆいちーは、バカな私にうんざりしているかもしれない。
私は、彼らにとって何なんだろう。
本当に友達なの?本当に親友なの?友情って、幼馴染の仲って何?二人は付き合っていて、それを私に隠していたの?私って、その程度の存在だったの?
私は……
明日は、凛とデートに行くから。ゆいちーにメール送ろ。
凛がどう思っているのか。私のことが嫌いなの?ゆいちーはどう思ってるのかな。私が凛と出かけること。
「先行ってて。……すいません、会計お願いします」
「あ、はい」
いつの間にか考え込んでしまっていた。まだ、仕事中だった。
「会計、1865円になりま……」
そこにいたのは、同じクラスの山下君だった。こんな、クラスメイトが一日に三人も来るなんて……すごい偶然。
「え?はい、……もしかして、石井?」
「……うん、よくわかったね」
「驚いたな。学校でのテンションとは大違いじゃん。仕事モードって感じ?2000円でお願いします」
まさか気づかれるとは思ってもいなかった。だって、今の私は、気分が斜め下を向いているから。
「はーい。いや、今ちょっと落ち込んでてね……そういえば、同じクラスの凛……平川さんとゆいちーじゃなくて西川さんも来ていたよ。今日はなんか運が良いね」
「そんなローテンションで運が良いって言ってるなんて、強烈な皮肉に聞こえるぞ。……ていうか、平川と怜児は俺たち、俺と結を付けていただけだ」
「ふーん、凜だけじゃなくて河野君も来ていたんだ。……って、え?結?ゆいちーのこと名前で呼んでるんだ。ていうか、二人でカフェに入るなんて、もしかして付き合ってるの?ねえ、どうなの?……あ、おつりは135円になります」
「……少しは元気出たみたいだな。安心した。じゃあな」
「ちょっと!!まだ聞いてないんだけど?付き合ってるの?どうなの?」
答えずに、行ってしまった。
それにしても、「結」だって。仲良かったんだね。片想い?もしかして、両想いなのかな??凛はゆいちーのこと……まあいっか。明日聞けばいいし!!
よし、夜にゆいちーに聞いてみよっと。明日着ていく服の相談もしないとね!!
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