河野怜児の平凡な何気ない土曜日

「ただの友達っていうか姉と出かけるようなものだからね、デートじゃない」

「明日、翔太と出かけるんだ。楽しみ」

 明日、翔太が西川さんとデートに行くらしい。部活の時に西川にも確認してみたが、西川も楽しみにしているようだ。本当にイラつくやつらだぜ。今朝だって翔太は……まあいい。俺はあいつらのことが心配だから……じゃなくて、ムカつくから明日は陰から見守ることにしよう!楽しそうだしな!

 俺は、凜も巻き込んでデートの観察をすることにした。


「よう、凜!今日は観察日和だな!」

「……?おはよう怜児。観察?それに、何その恰好?やっぱりゲーセンじゃないんだね?」

 当日の朝9時30分。駅の北口で凛は待っていた。デートの観察をすることは凛には言ってなかったが、凛は何かあるとわかっていたようだ。帽子とマスクをしているから俺だとばれないだろうけどな!

「いや、偶然急用が出来てな、あるカップルを追うことになった」

「はい?それっていつもみたいな犯罪?」

「いや、物陰から観察していざとなったら突入するだけだ。犯罪じゃないぜ!」

「……グレーだね。ていうか、どうせ知り合いなんでしょ?」

「………」

 こいつ、勘が鋭すぎないか?なんで知り合いだとわかった?

「……まあいいよ、怜児のことだからどうせ友達が心配だから陰から見守ろう、だけど一人じゃ入りづらい場所もあるから適当に僕を誘った、ってとこじゃない?」

「………別に、あいつらが心配なわけじゃない、あいつらがムカつくだけだ!」

 おいおい、こいつ心でも読めるのか?まあでも、心配なんてしてないんだからな!


「あいつら、どこに行った……?」

 10時が集合時間だと言っていたから、10時に時計台のあたりを見てみたが、それらしき人影は見当たらない。

「まさか、来て早々喧嘩でもしたのか……?」

「見当たらないのか、それは残念、ゲーセンでも行かない?」

「いや、この後行く場所は聞いている。一応行こうぜ!」

「はいはい、友達がいるといいねー」

 あいつらが本気で喧嘩したのを見たのなんて2年近く前のあの日だけだけどな。

 それよりはどちらも早めに着いて早めに移動したっていう方がまだ有りうる。……喧嘩する可能性があるから見張っているのだが。

 というわけで、映画館に移動することにする。凛は面白くなさそうだが。


「なんか、今日カップル多くない?」

 映画館に移動したが、思ったより混んでいて良く見えない。あれか?いや、その奥にいるカップルか?後姿だけだとあまり良くわからない。

「まあな、今日はカップルデーだからな。だからお前を連れてきたっていうのもある」

 カップルがうじゃうじゃいる中で、男一人で寂しく席に座って映画を観ろっていうのか?冗談じゃない!

「……そ、そっか。え、えっと、ナンパでもするの?」

 なぜか嬉しそうにしている凛。

「するわけがない。ていうか、当初の目的を見失ってるだろ!」

 なぜかがっかりしている凛。こいつ、ナンパしてみたかったのか?

「そっか、じゃあゲーセンに行こう」

「なんでだよ!」

「だって、この人混みだよ?見つからないでしょ」

「……それもそうか。どの座席で観るかは聞いてないし、偶然席が隣だったら台無しだな。じゃあ、暇つぶしにゲーセン行くか」

 そう言って、引き返そうとして最後に一回見まわしたその時。

 見覚えのある後姿を見つけた。あれは間違いない、翔太だ。隣に西川もいる。とっても仲が良さそうだ。

「怜児、早く行こう!」

 あれなら喧嘩もしてい無さそうだし、映画館で喧嘩をするほどあいつらも馬鹿じゃないだろ、きっと。

「……よし、行こうぜ!」

 暇つぶしと気晴らしに、ゲーセンで俺の華麗なクレーン捌きを見せてやるぜ!


「……えっ」

「よし、またとれたよ、怜児!」

 ちなみに凛は、俺よりクレーンゲームがうまかった。


「……うっ」

「どうしたの、見つけた?ていうかどんなカップルなのかまだ教えられていないんだけど」

 確かに、見つけた。なぜか手を繋いで無言で歩いている。何があったんだ?……もしかして喧嘩でもしたのか?ていうかなんで手を繋いでるんだよ、翔太も西川もまんざらでもないというか余裕そうな顔をして……って、あいつらのことだから小さいころは手を繋いだこととか普通にあるのか。

「……ああ、見つけた。あそこにいる手を繋いでいるカップルだ」

「……ああ、あの二人ね。やっぱり昨日怜児が追いかけたり、あと授業中に叫んでいた……誰だっけ?田中さんとかだっけ?」

 誰だよ田中って。

「あいつは俺の親友、山下翔太だ」

「そっか。もう1人は……どこかで見たような……」

「まあいいだろ、追うぞ」

 西川は学校の時と印象違うからな、多分一致しないんだろう。


「く……リア充め……」

「いや、怖いよ怜児。あまり睨まないの。それよりここのカフェラテ美味しいね、また来ようかな」

「羨ましいぜ……あれで、まだ付き合ってないんだぜ?あいつら」

「へぇ、何か信じられないね。彼女の方なんてあんなに甘えてるのに」

……甘えてる、か。確かにそんな感じだな。ていうか西川に初めて会った中学生の頃より甘えてないか?

……う。昼めし食いすぎた、腹が痛い。

「あれが休日のあいつの平常運転だよ。俺トイレ行ってくるわ、何かあったら伝えに来てくれ」

「はーい了解」

早く戻って来よう。凛の様子を見てると、きっと報告よりもカフェラテ飲む方を優先するだろうから。


「ふう、結構時間経っちゃったか?」

 時計を持っていないが、多分5分も経っていないだろう。

 そして、トイレで手を洗った後。

 トイレのドアを開けたらちょうど入ってきた人と、ぶつかりそうになってしまった。

「うわ、びっくりし……」

「うお、すいませ……ってもしかして怜児?」

不運にもほどがある。……そこにいたのは、翔太だった。

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