西川結の平凡な何気ない土曜日
午前6時。楽しみだったので、学校がない土曜日なのにばっちり早く起きてしまいました。昨日の朝とは大違いです。
今日は幼なじみの翔太と出かける日です。翔太は私の……兄みたいな存在でしょうか。親同士の仲が良く、家が近所なのでしょっちゅう一緒に遊んでいました。いや、遊んでもらっていた、でしょうか。いつも私に付き合って遊んでくれた、面倒見のいいお兄ちゃんです。
で、今日は翔太と出かける約束をしている日です。一緒に出掛けるのなんて、中学3年生の時に一緒に夏祭りに行ったとき以来でしょうか。およそ2年ぶりです。その間はいろいろあってお互いに避けていましたから。翔太が私のことを西川と呼ぶようになったのもその頃からです。
午前9時10分。待ち合わせをしている駅の時計台の前に着きました。待ち合わせの時間は10時なので、まだ50分あります。早く着きすぎてしまったでしょうか。もっと身だしなみを整えるのに時間をかければよかったです。また、朝早く起きてしまったので、少し眠いです。私が朝早く起きていることがそんなに珍しかったのか、母親は私のご飯をまだ用意していませんでした。今日出かけることは言っておいたはずですが。というより、翔太は本当に来てくれるのでしょうか。私と出かけることが嫌でないといいですけど。
今日はこの駅に入っている映画館で映画を見に行き、その後カフェでお茶をする予定です。私も翔太も見たい映画があり、今日はカップルデーなので男女二人で行くと安く見られるというだけで、別にデートではありません。ほんとに違います。どちらかというと、兄妹で出かけるといったところでしょうか。
「あれ!?ゆ……西川!もう着いていたのか、早いな。待たせたか?」
結局翔太が来た9時50分までずっと待っていました。
「おはよー全然待ってないよ、だいじょうぶ」
私のこの間の伸びたような話し方はもともとです。学校ではきちんと話すようにしているのですが、家族と一緒の時はいつもこんな感じです。
「おはよう。えっと、………その服、似合ってるな」
自然に褒めてくれました。昨日帰ってから2時間悩んだだけのことはあります。とっても嬉しいです。お兄ちゃんはとっても優しいです。
「あ、ありがとう、それより映画館に、早く行こう!」
「ああ、そうしような」
うう……動揺して早口でまくしたてるように話してしまいました……そんな私の前を自然に歩いてくれる翔太は、とても頼りになります。やっぱりお兄ちゃんです。そして私はブラコンかもしれません。
映画を見終わった後。
「………うう……ぐすっ……」
感動して、泣いてしまいました。
「おもしろかったねー!ていうか翔太、だいじょうぶ?」
……翔太が。昔から翔太は映画だけでなく劇やアニメでも、感動する場面を見るたびに泣いてしまうのです。なので、驚きません。
「いや、感動じて泣いでいるだけだから……ぐすっ」
「そうだね、たしかにハッピーエンドでほんとに良かったよねー」
私も少し涙ぐんでしまったのは秘密です。
「…………うん、もう大丈夫。じゃあ、映画館を出ようか」
「わかったー」
私と翔太は連れ添って座席を立ちました。出口が狭くて、座席数が多いからか、まだ人がたくさんいます。
はぐれたら大変です。なので、翔太と手を繋いでおきました。翔太は一度驚いてこちらを見ましたが、その後微笑んで握り返してきました。私も微笑みを返しました。頼りにしてるよ、お兄ちゃん。
「………」
「………」
「繋いだままずいぶん来ちゃったじゃん……ま、まあ結と手を繋ぐことが別に嫌なわけじゃないけどな。昔に戻ったみたいで」
「え?あ………」
手を繋いだまま、結局映画館を出てカフェの近くまで来てしまったことに気づき、慌てて離しました。昔は翔太と手を繋ぐことも出かけることも珍しいことではなかったので、癖になっていたのかもしれません。……結?
「ゆ……じゃなくて西川、行こう、ちょうどお昼時過ぎたぐらいだから、少し空いてるかもな」
名前を呼んでいたのは気のせいだったのでしょうか。というより、手を繋いでいて翔太は恥ずかしくなかったのでしょうか。私から繋いだけれど、やっぱり少し恥ずかしかったです。
「………」
「………おい、西川?」
「………はい?どーしたの?」
「それはこっちのセリフだけどな。まあいいや、おなかも空いたし、入ろうな」
「うん」
一緒に映画を観て、手を繋いで歩いて、カフェに入る。傍から見たらデートに見えるのかもしれないけれど、結局は兄妹で遊びに行っているだけです。
「ごめん、ちょっと御手洗い行ってくる」
「?…はーい」
とっても楽しい食事が終わって、今日の映画について話していたところでした。急にそう言うと、翔太は向こうに歩いて行きました。
今日は楽しかったです。翔太とは毎日学校で話していますが、土日に遊びに行くのはやはり楽しいです。お兄ちゃんなんて読んだことは無いですけど。翔太も私のことは家族のように思っているらしいので、今度呼んでみようと思います。次に遊びに行く時に。
そんなときでした、私に声がかかったのは。
「……えっと、西川さん?」
「…………あれー、ひらかわくんー?」
同じクラスの平川君でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます