山下翔太の平凡な何気ない日常
「あれ、翔太じゃん。おはー」
朝。俺が学校に向かっていると、後ろから西川結に声を掛けられた。西川は、いわゆる腐れ縁と言うやつで親同士の仲がいい。小さい頃から一緒にいたから、俺はあいつのことを友達というより姉のように思っている。
「おはよう、西川。こんなところで会うなんて珍しいな」
「今日は珍しく早く起きちゃったからねー自転車漕ぎながら寝てるのー」
「気をつけろよ、事故とか起こさないようにしろよ?」
「だいじょーぶ、もうすぐ起きるから。まあ、事故ってもちょうど目が覚めそうだからいいけどねー」
「??……寝ぼけてるのか?気をつけろよ。」
「はーい、じゃあねーまたねー」
そう言って、ふらふらと自転車を漕ぎながら西川は去っていった。たまに見る光景だが、事故を起こしたことは無いそうなので、大丈夫だろう。
「恨みのこもったこの一撃、受けろやこの野郎ー!!」
うわ、危なっ!!歩いていたら、後ろから襲われた。静かに襲われていたらどうにもならなかったな。ていうか、
「朝から過激だね、何があったんだ?朝ごはん食べてないとか?」
「どうしたも何も無いだろ、ムカつくからだよ!!」
紹介しよう。この頭のネジが壊れているのは、俺の……友……人?の怜児だ。と言うか、よく分からないまま知り合った。衝撃的な出会いだった。向こうは出会う前から俺のことを知っていたみたいだけどな。
「で、何にムカついてるの?朝ごはんの味噌汁がしょっぱかったとか?」
「ちげーよ!!お前があの西…………えーと、その……」
「………」
「………い、いや、だいたいあってる!み、味噌汁のせいなんだよ!」
ふー、誤魔化せたみたいな顔してるけど、誤魔化せてないからな?だって、玲児の家では朝ごはんはパンじゃないか。それなのに味噌汁が出てくるなんておかしい。よって、味噌汁は飲んでない!ふっ、知らなかったら誤魔化されているところだった。まあ、結局どっちでもいいんだけどな。
「そっか―みそ汁の味が濃かったのかーそれは災難だったね。じゃあ、俺はもう行くね、じゃあねーまた後でー」
「ああ、じゃあな」
よし、戦略的撤退成功だ。そーっとそっと離れることにしよう。
「………って、まだ嬲ってないじゃんか!逃げるな!待ちやがれ!!」
やばっ、ばれた!ていうか、殴るを言い間違えただけだと信じたい。殴られるのも嫌だけどな。会話も通じないしこうなったら、
「学校まで逃げる!!」
「逃がすかよ!!」
……というわけで、今日は全力疾走で学校まで走らされた。
「く……授業中に殴るのはさすがに無理か……」
後ろからそんな声が聞こえてきた。って、おいおい怜児、何をしようとしてるんだ。授業をちゃんと聞けよ。
「ならば飛び道具で攻撃するのみだ!!!せいやっ!!!」
「うわっ怖っ!!!」
上から降ってきて俺の机に突き刺さったのは、鋭く尖った鉛筆である。なぜ、上から降ってくるのだろうか。まさか、ミサイルのように飛ばしているのか?
「ちっ外したか……じゃあもう少し低めに……」
「まずい、このままじゃ串刺しに……」
……はならないだろうけど、かなり痛いだろう。机に突き刺さるくらいだから。
「もっと鋭く……もっと鋭く……」
鉛筆をナイフで削っているようだ。まずいまずい、これは防がないとな!!!どう防ぐか……
「よし、削れたぞ。これであいつも終わりだな……」
今使えるものは……ノートもダメ、教科書も貫いてしまうだろうな。鉛筆もシャーペンも使えないし……あ、これがあったか!!!
「行くぜ!この一撃、受けてみろ!!」
「死んでたまるか!!!」
ひゅーーーーーー、カキン!!!
「うわ!」
「嘘だろ……」
「よし、防いだ!俺の勝ちだ!!よっしゃー!!」
思わず立ち上がって喜んでしまった。
……授業中に。
「山下さん?何をしているんですか?後で職員室に来てください」
さて、その後どうなったか。なぜか俺だけが先生にかなり叱られた。なんで俺だけが……
「……失礼しました」
結局先生に怒られるだけで昼休みが少し潰れてしまった。何で怜児だけが……今度会ったらこっちからも殴ってやる。
「山下くん!今日は災難だったね!」
そこにいたのは、同じクラスの石井遥だ。いつも元気なのだが……
「石井、大丈夫か?今日は少し元気無さそうだな」
いつも見ているから分かるが、今日はテンションが少し低い気がする。
「………そうかな?そんなことないと思うよ!優しいね、心配してくれてありがとう!」
「ま、まあな。……な、なんかあったら相談しろよ。誰かに」
「そうする。ありがとね!じゃあね!」
去って行ってしまった。何気なくその背中を目で追っていると、後ろから声をかけられた。
「翔太が色目使ってるーなんかむかつくー」
「なっ!ゆ、西川!?いつからそこに??」
「翔太ははるちーみたいな子が好きなの?」
なんで西川がここに?まあ学校の中だから会っても不思議ではないのだが……っていうか好きって……質問が直球すぎるだろ。好みのタイプなのとかそういう聞き方ではないんだな。……石井か。実は好きなんだとか言ったら、どんな反応をするのだろう。まあ、仮定の話だけど。
「まあ、優しいとは思うよ。いつも明るいしな」
「……ライバルはてごわいね」
「何のライバルなんだ?」
「別にーなんでもない」
そう言って、そっぽを向いてしまった。拗ねてしまったらしい。何か気に障ることを言ったのだろうか。
「えーと、そう言えばなんでこんな所に居たんだ?」
「翔太のことを待ってた。今日は昼ごはん一緒に食べよー土曜日のことも決めたいし」
「わかったよ、じゃあいつものように中庭に行こうな」
「そうだね。あそこは人少ないし、たまにカップルが使って……」
「……??」
「なんでもない、早く行こー!」
なぜそんなに赤くなっているのだろう?まあいいや、中庭に行こう。
「あれ、誰かいるね」
「あれは……怜児か」
中庭には先客がいた。因縁の相手、怜児と、その友達だ。正直かなり迷った。このままそっとこの場を立ち去り、別の場所に向かって西川と仲良くご飯を食べるか、中庭に突入し怜児と仲悪く殴り合いをするか。
「どうするー?別の場所に行くー?」
「……じゃあそうしよう。でもその前に……」
授業中に机に刺さった鉛筆を取り出します、狙いをつけます、発射!!違う場所から飛んできたように見せかけるのもお手の物!
「じゃあ行こうか」
「うん、さすがだねー」
きちんと当たらないように注意して投げたのでそこまで怒らないだろう。後ろで玲児が立ち上がって叫んでいたが、気にしないことにした。気分がいい。
「何してんだよ!元気出せよ!」
放課後、怜児から逃げるのも疲れたので、机に突っ伏していたら玲児が話しかけてきた。
「いでっ」
なんとなく気に入らなかったので、殴っておいた。
「ごめんごめん、朝と授業中のことは謝るからさ!」
「はぁ、わかったよ。理由もなく殴るのはこれからはやめてほしいけどな」
「オーケー約束する!理由があるときは遠慮も容赦もなく殴るけど!」
「……」
ばかばかしくなってきたので、帰ることにする。怜児は部活があるので、途中までは一緒だ。
「なあ、翔太。明日明後日ってなんか予定あるのか?」
「え?まあ土曜日は予定あるな。日曜日は空いてる」
「もしかして、デートでも行くのか!!!」
「…………いや、デートじゃない。ただ単にゆ、西川と出かけるだけ」
「そうか、お前らの仲ももう回復してきたんだな!ならよかった」
「とっくに戻ってるよ、ただの友達に」
「そうか………って、女子と二人きりで出かけるのにデートじゃないとかふざけてんのかよ!!」
「……ただの友達っていうか姉と出かけるようなものだからね。デートじゃない」
「そうか、わかった。俺も………まあいいや、じゃあ、明日楽しめよ!!」
「ありがとな、怜児。またな!」
怜児もたまにおかしくなること以外は普通なんだけどな。頭どうなってんだか。
明日はデート?なので、早めに寝ることにする。西川と出かけるのは、いつぶりだろうか??……楽しみだな。
これが、俺の平凡な何気ない日常である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます